リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「アルツハイマー病リスク因子TREM2が関与するアミロイドβ貪食機構の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

アルツハイマー病リスク因子TREM2が関与するアミロイドβ貪食機構の解明

王, 文博 東京大学 DOI:10.15083/0002007106

2023.03.24

概要























文博

【序論】
アルツハイマー病(AD)は進行性の神経変性疾患であり、病理学的にはアミロイド β(Aβ)
の凝集・蓄積を特徴とする。家族性 AD の研究を通じて、Aβ の凝集・蓄積が AD 発症を引き起
こすというアミロイド仮説が提唱され現在まで広く支持されている。一方、AD の 99%を占める
孤発性 AD の患者においては Aβ の脳内クリアランスの低下が示されており(Mawuenyega et al.,
Science, 2010)、Aβ 代謝の破綻が AD 発症に繋がることが考えられているが、その具体的な機序
は不明である。近年、大規模なゲノムワイド解析により、AD の発症に関連する遺伝子の多くは
ミクログリアに高発現していることが明らかとなり、AD 発症におけるミクログリアの重要性が
示唆された。ミクログリアは Aβ を貪食し代謝することが知られていることから、その分子機序
を明らかにすることにより、AD 発症と Aβ 代謝の関連性の解明につながると考えた。
【方法と結果】
1.

Aβ 線維の貪食は TREM2/DAP12 により制御される

Aβ は脳内ではモノマー以外にオリゴマーや線維として存在する。私はこれまでに、凝集状態
の異なる Aβ 分子種をそれぞれ蛍光誘導体化したものを基質として、ミクログリア培養細胞株
MG6 による内在化をフローサイトメトリーで定量化する実験系を確立し、①モノマーおよびオ
リゴマーAβ の内在化にはクラスリン依存性エンドサイトーシスとマクロピノサイトーシスが関
与し、スカベンジャー受容体(MSR1、CD36)が重要であること、②Aβ 線維の内在化はファゴ
サイトーシスによること、を明らかにしていた。そこでさらにこの実験系を用いて、AD の遺伝
学的リスク因子(Abca7、Abi3、Cd2ap、Inpp5d、Plcg2、Trem2)の発現抑制による各種 Aβ 分子
種の内在化への影響を解析した。その結果、TREM2 のノックダウンにより Aβ 線維の内在化が
特異的に減少することを見出した。Trem2 をノックダウンした初代培養ミクログリアにおいて
も、顕著に Aβ 線維の内在化が減少した。また CRISPR/Cas9 により作製した Trem2 欠損 MG6 で
はほぼ完全に消失した。そこで以後は TREM2 が Aβ 線維の貪食をどのように制御しているかに
ついて詳細に解析を行った。
TREM2 は様々な細胞外リガンドを認識する受容体分子であり、Aβ オリゴマーや線維と結合
することや、リガンド結合により種々の遺伝子発現を制御することが知られている。TREM2 に
よる Aβ 内在化の制御が、Aβ との直接結合によるものか、または遺伝子発現制御によるものか
を区別するため、TREM2 の細胞外領域に対する抗体について Aβ 内在化への影響を検討したと
ころ、2種の抗 TREM2 抗体がコントロール IgG 処理群に比べて内在化を阻害した。このこと
は、TREM2 細胞外領域が Aβ 線維の認識に重要である可能性を示唆した。TREM2 はまた、免疫
受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)をもつアダプタータンパク質 DAP12 と複合体を形成す
ることが知られる。DAP12 をノックダウンまたはノックアウトした初代培養ミクログリアにお
いても Aβ 線維の貪食が有意に減少したことから、ミクログリアによる Aβ 線維の内在化は

TREM2/DAP12 シグナル経路によって制御されていることが示唆された。
2.

Aβ 線維の貪食に関与する TREM2 下流シグナルの探索

TREM2 がリガンドに結合すると、DAP12 の ITAM のリン酸化依存的に Syk が膜動員され、PI3 キナーゼ(PI3K)などの下流分子が活性化することが知られている。実際に、Aβ 線維で処理
した初代培養ミクログリアでは Syk や、PI3K により活性化される Akt のリン酸化が亢進した一
方で、Trem2 欠損 MG6 では Aβ 線維による Akt のリン酸化亢進は認められなかった。そこで、
Aβ 貪食におけるこれら分子の関与を調べるために阻害剤・ノックダウンによる解析を行った。
初代培養ミクログリアによる Aβ 線維の貪食は、Syk 特異的阻害剤(R406)の処理または Syk 発
現抑制により有意に減少した。さらに、PI3K 阻害剤(LY-294002、Pictilisib、Omipalisib)の処理
もまた Aβ 線維の貪食を有意に阻害した。これらのデータから TREM2/DAP12 下流における Syk、
PI3K の活性化が Aβ 線維の貪食において重要な役割を果たしていることが示唆された。
3.

Aβ 線維の貪食における PIP3 ホスファターゼ INPP5D の関与

PI3K はホスホイノシチド PI(4,5)P2 をリン酸化し PI(3,4,5)P3 を産生することで下流シグナル
を制御する。PI(3,4,5)P3 はホスファターゼである INPP5D(SHIP1)、INPPL1(SHIP2)、PTEN に
より代謝されることから、これら分子の Aβ 線維貪食における関与について検討した。すると、
初代培養ミクログリアにおいては INPP5D を発現抑制した場合においてのみ、Aβ 線維の貪食亢
進が認められた。また、Aβ 線維による Akt のリン酸化は、INPP5D を発現抑制した場合に亢進
した。これらのことから INPP5D は PI3K 経路を介して Aβ の貪食を負に制御していることが示
唆された。
【総括】
本研究により、ミクログリアにおいて TREM2/DAP12 が Syk、PI3K を介して Aβ 線維の貪食を
正に制御している一方で、PI(3,4,5)P3 の代謝酵素である INPP5D がこれを負に制御にしているこ
とが示唆された。INPP5D は TREM2 と同様に AD の遺伝学的リスク因子であることが報告され
ており、この経路の異常が AD 発症に関与している可能性が考えられる。TREM2 は現在、AD の
創薬標的として注目されており、実際に TREM2 の活性化抗体が臨床治験中であるが、中枢神経
疾患に対する抗体医薬の実現には困難が予想される。一方で本研究の結果は、INPP5D の活性阻
害により、ミクログリアによる Aβ 線維の貪食活性を高めることができることを示唆している。
今後、INPP5D の役割をより詳細に解明することにより、AD 治療への応用が期待される。
よって本論文は博士(薬科学)の学位請求論文として合格と認められる。

この論文で使われている画像

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る