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大学・研究所にある論文を検索できる 「転写因子Hhexはミクログリアにおいて炎症関連遺伝子を制御する」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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転写因子Hhexはミクログリアにおいて炎症関連遺伝子を制御する

坂手, 里彩 神戸大学

2022.09.25

概要

ミクログリアは脳内において免疫を担う細胞である。脳損傷や神経疾患の病態において、ミクログリアは細胞のデブリによって活性化し、活性化したミクログリアは炎症性物質を分泌すること、ニューロンのダメージを増悪させることなどが知られている。さらに昨今では疼痛におけるミクログリアの機能や静止状態でのダイナミックなミクログリアの形態が報告されている。近年では、ミクログリアがシナプスやニューロンの活性化を負あるいは正に制御していることが報告され、ミクログリアの生理的役割の解明が進んでいる。

このようにミクログリアの生理的および病理学的な機能は多様であり、この多様性を解明するためミクログリアのトランスクリプトーム解析が行われた。その結果、神経障害性疼痛と神経疾患のおけるミクログリアの遺伝子発現プロファイルは異なることが示された。これらの研究の中にはそれぞれの疾患における必須転写因子を同定した報告もあるが、現在のところ、特に生理的条件下におけるミクログリアの機能の多様性を説明するには至っていない。

一方で、我々は以前、うつ病の行動モデルである反復社会挫折ストレス(R-SDS)において、内側前頭前皮質(mPFC)ではミクログリア活性化の組織学的マーカーの発現が増加するが側坐核(NAc)では増加しないことを報告した。このミクログリアの活性化には自然免疫受容体であるToll-likereceptor(TLR)2とTLR4が関与しており、これらはうつ病に関連する行動の発現に必須であることが知られている。そこで我々は反復社会挫折ストレスに供したマウスのミクログリアのトランスクリプトームから、ミクログリアの機能に関連する新規転写因子を探索し、さらに初代ミクログリアにおける役割を評価した。

最初に、R-SDSに供した、あるいは供していない野生型およびTLR2/4欠損マウスのmPFCとNAcから単離したミクログリアを用いたDNAマイクロアレイのデータを再解析した。続いてR-SDSに供すことによって発現量が2倍以上増減した差次的発現遺伝子(DEGs)を抽出した。さらに遺伝子オントロジーを行い、このDEGsに含まれる17個の転写因子を見出した。これら17個のうち、mPFCおよび/またはNAcにおいて、野生型マウスとTLR2/4欠損マウスで発現量の異なる遺伝子に注目したところ、Tfdp2、Klf4、Tsc22d3、Cebpb、Zkscan17、Hhex、Batf3を含む11個の転写因子が抽出された。

この11個の転写因子について更なる解析を行ったところ、ストレスによるミクログリア活性化におけるmPFCの特異性と一致するように、いくつかの転写因子はmPFCで優先的に増加(例えば、Tfbp2、Klf4、Cebpb)または減少(例えば、Zkscan17、Batf3)していることが分かった。一方、NAcのミクログリアとmPFCのミクログリアでは、Tsc22d3などの増加やHhexなどの減少がみられた。これらのことからTLR2/4シグナルがmPFCとNAcの両方のミクログリアに関与が示唆された。

TLR2/4シグナルは、これらの転写因子の遺伝子発現変化をミクログリア内であるいは他の細胞を介して誘導する。このことから、TLR4のリガンドであるリポポリサッカライド(LPS)あるいはTLR2のリガンドであるリポテイコ酸(LTA)で初代ミクログリアを刺激し、ミクログリア内つまり細胞自律的に発現が調節される転写因子を探索した。初代ミクログリアは8~10週齢のC57BL/6N雌成体マウスから単離した。単離したミクログリアは、M-CSF、TGF-βおよびFBSを含むDMEM/F12で培養し、培養開始から4日目にLPSまたLTAを培地に添加し,6時間後にミクログリアを回収した。回収したミクログリアからトータルRNAを精製し、cDNAを合成後、リアルタイムPCRに供し解析を行った。その結果、前述の11の転写因子のうち、LPSの添加により発現量が有意に増加したのはRel、Atf3、Cebpbであり、有意に減少したのはHhexであった。LTAの添加時でも同様の発現変化が見られた。これらの結果はR-SDSによって引き起こされる発現変化と同じであった。

これら4つの転写因子について、Rel、Atf3およびCebpbはミクログリアの反応において重要であること、またHhexはHomeobox転写因子であり造血や血管新生を制御していることが報告されている。しかし、我々の結果は成体マウスの脳のmPFCとNAcにおけるミクログリアにおいて、Aif1などの従来のミクログリア遺伝子と比較してHhexのmRNAが富んでいること、Hhexの発現はミクログリアと内皮細胞に高度にエンリッチされていることを示した。そこでミクログリアにおけるHhexの役割を調べるため、レンチウイルスベクターを用いて初代ミクログリアにHhexを過剰発現させ、LTA/LPSによるHhexの発現量の減少を相殺させた際の変化を調査した。HAタグをHhexのN末端あるいはC末端を付加したHhex過剰レンチウイルスベクターを作製し、これら過剰発現系を1日間初代ミクログリアに曝露することで感染させ、除去後3日間培養したのち、LPSあるいはLTAを添加した。これにより初代ミクログリアでのHhexの発現量が増加することを確認した。

我々は以前、R-SDSがmPFCミクログリアにおいて多くの炎症性遺伝子を増加させることを報告した。そこでこれらの遺伝子の発現に対するLTAとLPSの影響を調べた。LTAとLPSはTNFα、IL-1α、IL-1β、IL-6、Ccl3、Ccl4、Cxcl10、そして誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現量を増加させることが示された。また、Hhex過剰発現は、HAタグの位置に関係なく、前述の炎症関連遺伝子およびiNOSなどの遺伝子のLPSによる発現量の増加を抑制することを示した。さらに注目すべきことに、Hhexの過剰発現はLTAの刺激に対してLPSとは異なる効果、つまりN末端にHAタグを付加したHhexの過剰発現ではCxcl10とIL1αの発現が抑制されたが、C末端の場合はその抑制が解除されるという結果を得た。これらの結果はHhexがミクログリアにおける炎症関連遺伝子を負に制御していること、さらにはTLR2/4活性化によってTLR2/4の活性化がHhexの発現を低下させ、TLR4を介した神経炎を促進することが示唆するものである。

以上の結果から、Hhexはミクログリアにおいて構成的に発現し、TLR2/4刺激により減少して炎症反応を促進することが明らかになった。このことから、Hhexは恒常的な炎症制御因子として特異的な役割を担っている可能性が示唆される。一方でHhexの機能はミクログリア特異的なノックアウトマウスでの検証のみであり、作用機序は不明のままである。また、複数の転写因子が高分子複合体を形成し転写の活性化や抑制を行っていることを踏まえると、Hhexは、おそらく直接的な相互作用を介して、Rel、Atf3、Cebpbの作用を抑制する可能性が考えられる。さらにHhexの過剰発現では、TLR4刺激でのみ減少することから、HhexはTLR4特異的、TRIF依存的なシグナル伝達経路に作用している可能性も考えられる。したがってHhexの役割と作用を解明するためには、慢性ストレスを含む様々な神経炎症状態におけるクロマチン-免疫沈降法を用いたゲノムワイドな解析が必要である。

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