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アルツハイマー病リスク因子TREM2/DAP12と相互作用するタンパク質の解明

木村, 新伍 東京大学 DOI:10.15083/0002005190

2022.06.22

概要

【序論】
 アルツハイマー病(AD)の発症機序においては、アミロイドβペプチド(Aβ)が脳内に蓄積・凝集し、神経障害性を発揮することが重要と考えられている。近年、非神経細胞であるミクログリアに発現する受容体をコードするTREM2遺伝子の一塩基多型がADの発症リスクを高めることが示され、Aβとミクログリアの相互作用がADの発症機序に積極的な役割をもつことが想定されている。AD患者脳において、ミクログリアはAβ斑を包み隠すようにその周囲に集簇することが知られており、その過程にはTREM2が必須の役割を果たしている。TREM2遺伝子のリスク多型の保因者やTrem2遺伝子欠損マウスではAβ斑周囲のミクログリアの生存性が著明に減弱する一方、Aβ斑周囲の神経障害性が増悪することから、ミクログリアの増生と集簇は神経保護的な働きがあると考えられる。TREM2自体は細胞質側に機能的ドメインを有さないが、アダプター分子であるDAP12と複合体を形成している(図1)。このDAP12の細胞質内領域に存在するImmunoreceptor tyrosine-based activation motif(ITAM)がSrcによるリン酸化を受け、Sykなどのタンパク質を膜動員し、生存性維持などに関わる下流シグナルを伝達することがマクロファージなどにおいて示されている。しかし、ミクログリアにおけるSyk以外のITAM結合分子やSykの基質・下流因子についての知見は乏しい。そこで本研究では、ミクログリアにおけるTREM2/DAP12の下流経路に関わるタンパク質の網羅的探索を目指した。

【方法と結果】
1. 改変型アスコルビン酸ペルオキシダーゼによるDAP12近接タンパク質の同定
 免疫共沈降法などにより相互作用分子を解析する場合、安定かつ直接的な結合のないタンパク質を同定することは困難である。そこで本研究では、改変型アスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APEX2)に着目した。APEX2は、基質であるビオチンフェノールと過酸化水素から高反応性のラジカルを産生し、これが近傍のチロシン残基などと反応することで近接タンパク質をビオチン標識する(Lam et al., Nat Meth, 2015;図2)。本研究ではDAP12の細胞質側末端にV5タグとAPEX2タグを融合させたDAP12-APEX2を用いて、TREM2/DAP12の近傍で働くタンパク質の網羅的な同定を試みた。

2. DAP12-APEX2の過剰発現によるレスキュー
 Trem2またはDap12をコードするTyrobpの発現抑制により、初代培養ミクログリアの細胞生存性が低下することが知られている(Zheng et al., J Neurosci 2017)。この表現型は、マウスミクログリア由来培養細胞株MG6でも同様に観察され、またDAP12-APEX2の共発現によりレスキューされた(図3A)。このことは、DAP12-APEX2が内因性DAP12の機能を代替できることを示唆する。さらに、DAP12-APEX2とSykの相互作用について検討した。脱リン酸化阻害剤の存在下では、DAP12-APEX2とSykは免疫共沈降されたが、ITAM中のチロシンをフェニルアラニンに置換したDAP12変異体(Y92F,Y103F)では、Sykとの相互作用は認められなかった(図3B)。これらのことから、DAP12-APEX2はSykと結合し、細胞生存性の維持に必要な下流経路の活性化を引き起こすことが示唆された。

3. DAP12-APEX2によるビオチン化反応
 DAP12-APEX2を安定発現するMG6細胞において、ビオチン化反応が誘導できるか検討した。安定発現細胞にビオチンフェノールと過酸化水素を1分間処理した場合、総ビオチン化タンパク質量が増加することが、抗ビオチン抗体を用いたウェスタンブロット法により明らかになった(図4A)。一方、DAP12のITAM変異体(Y92F,Y103F)を用いた場合には、ビオチン化のバンドパターンが異なっており、DAP12がチロシンリン酸化を介して特定の分子と相互作用することが示唆された。次に、免疫細胞化学により、DAP12-APEX2が細胞膜に局在していることを見出した(図4B)。さらに、細胞をビオチンフェノールと過酸化水素で処理した場合には、DAP12-APEX2と同様に、細胞膜に限局したビオチン化タンパク質の蓄積を認めた。これらの結果は、APEX2によるビオチン化反応がDAP12の近傍でのみ生じることを示唆するものと考えられた。

4. 質量分析計によるDAP12近接タンパク質の同定
 DAP12-APEX2発現細胞にビオチン化反応を誘導したのち、ストレプトアビジンビーズによりビオチン化タンパク質を精製し、質量分析法によるタンパク質同定を行った。ビオチン化反応を行わないネガティブコントロール、APEX2のみ発現している細胞、DAP12のITAM変異体発現細胞の結果と比較して、DAP12-APEX2発現細胞でのみ同定された、あるいは他よりも2倍以上多く同定されたタンパク質に注目し、118の候補分子を得た。このなかには、DAP12と相互作用するSykが含まれており、実験系の妥当性が支持された。さらに、独立な3サンプルで共通して同定され、ネガティブコントロール群では検出されなかったタンパク質として唯一、BASP1(CAP23)を見出した。

5. BASP1ノックダウンによる細胞生存性への影響
 ミクログリアは、類似した性質を示す末梢組織のマクロファージと比較して特異的な遺伝子サブセットを発現していることが示されている。これら遺伝子はmicroglia signatureと呼ばれ,BASP1はそのひとつである(Butovsky et al., Nat Neurosci 2014)。同様にミクログリアを特徴づける遺伝子にはTREM2が知られており、両者の機能的関連が想定される。そこでTREM2/DAP12と同様にBASP1が細胞の生存性に関与するか検討した。この目的のため、MG6細胞に対してsiRNAによるBasp1のノックダウンを行ったところ、生存細胞数の有意な減少を認めた(図5)。従ってBASP1はTREM2/DAP12と同様に生存性シグナルに何らかの影響を与えている可能性が示唆された。

6. DAP12の脂質ラフト局在
 BASP1はミリストイル基をもつ膜表在性タンパク質であり、脂質ラフトに局在することが知られている。上記の同定タンパク質には、脂質ラフト関連分子Raftlinも含まれていたことから、DAP12が脂質ラフトで働く可能性が示唆された。そこで、ショ糖密度勾配遠心分離法によりMG6からdetergent-resistant membrane(DRM)画分を調製しウェスタンブロットにより解析した。その結果、DAP12、TREM2、BASP1がDRM画分に存在することを見出した(図6)。次にBASP1が脂質ラフトのDAP12の局在に与える影響を解析した。Basp1のノックダウンによってDRM画分におけるDAP12、TREM2の量が減少する傾向があった。従ってBASP1はDAP12の脂質ラフト局在化に重要であることが示唆された。

【まとめと考察】
 本研究において、TREM2およびDAP12が脂質ラフトに局在することを見出した。また、DAP12と近接相互作用する分子としてBASP1を同定し、BASP1がDAP12の脂質ラフト局在化を制御する可能性を示唆した。さらに、BASP1は、DAP12と同様にミクログリアの細胞生存性の維持に関与していた。先行研究において、コレステロールはミクログリアの生存性の維持に重要であることが示されており(Bohlen et al., Neuron 2017)、DAP12が脂質ラフトに局在化することが細胞生存性シグナルの伝達に重要である可能性がある。
 DAP12は機能的なITAM配列に依存してBASP1と相互作用することが明らかになった。このことから、DAP12は脂質ラフトの内外を移動しており、恐らくリン酸化と関連してBASP1と相互作用しラフト内に安定化されると考えられる(図7)。
 先行研究ではADモデルマウスやAD脳においてBASP1の過剰なリン酸化が起こることが知られている(Tagawa et al., Hum Mol Genet 2015)。BASP1はリン酸化を受けることで脂質ラフトへの移行が制御されているという報告もあるため、BASP1のリン酸化レベルの変化はTREM2/DAP12のシグナルに何らかの影響を与えている可能性がある。今後は、BASP1ノックアウトマウスを用いてミクログリアの表現型を追究するとともに、AD脳を用いてミクログリアにおけるBASP1の生化学的変化をについて詳しく解析することが重要と考えられる。

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