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大学・研究所にある論文を検索できる 「思春期における唾液中テストステロン濃度とsocial withdrawalの関連」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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思春期における唾液中テストステロン濃度とsocial withdrawalの関連

林, 宜亨 東京大学 DOI:10.15083/0002002367

2021.10.13

概要

【序】
 Social withdrawalは「仲間から自分自身を孤立させている状態」と定義される。これは、思春期によくみられる情緒・行動上の問題と捉えられており、後に多様な精神医学的問題をもたらしうるため、早期の支援が期待される。その生物学的基盤に関する研究がなされて来てはいるが、十分な理解には至っておらず、この分野の研究は取り組むべきものである。
 先行研究において、思春期男児で、social withdrawalと中程度の負の相関を持つsocial dominanceとテストステロン値の間に正の関連が示されている。また、social withdrawalと思春期の性成熟の程度との間に負の関連が示唆され、かつ、思春期男児の性成熟の程度とテストステロン値は、中程度以上に正に相関する。これらの先行研究から、男児ではsocial withdrawalとテストステロン値が負に関連すると推察できる。
 一方女性では、social withdrawalの程度と思春期の性成熟の程度が正に関連することが示唆されており、また、思春期の性成熟の程度とテストステロン値は弱く正に相関を示すと報告されている。このため思春期女児では、social withdrawalとテストステロン値の間に正の関係がありうる。
 テストステロンは血液脳関門を通過でき、脳脊髄液中フリーテストステロン値と血清中フリーテストステロン値は正に相関する。唾液中テストステロン値は、血清中フリーテストステロン値とよく相関し、後者と同等のマーカーとして機能するとされている。
先行研究から、テストステロンは、遺伝的作用を通した器質的効果と、より迅速な効果によって、思春期の脳や情動・行動に対して男女差を伴いながら影響を及ぼしていることが示唆されている。Social withdrawalに対しても、テストステロンの効果は男女差を呈す可能性のあることが上記の通りに推察された。
 しかし男女共に、social withdrawalとテストステロンの関連についてはこれまで検証されていない。
 本研究の目的は思春期前期の男女において、social withdrawalと唾液中テストステロン濃度の関連を解析することである。本研究では、比較対照として唾液中コルチゾール濃度についても同時に解析を行う。
 本研究の仮説は二つである。
1. 思春期前期の男性ではテストステロン値がsocial withdrawal傾向と有意な負の関連を示す。
2. 思春期前期の女性ではテストステロン値がsocial withdrawal傾向と有意な正の関連を有する可能性がある。

【方法】
研究デザインと参加者
 本研究は横断的研究であり、研究データは、10歳時の横断調査Tokyo Early Adolescence Survey(T-EAS)および、現在も進行中の縦断調査Tokyo Teen Cohort(TTC)とそのサブサンプル調査であるpopulation-neuroscience study of the Tokyo Teen Cohort(pn-TTC)に基づいている。Pn-TTCの目標参加者は約300組(児と主養育者の組)とされ、参加者は、T-EASの参加者4478組のうち、TTCに参加した3171組から選出した。Pn-TTC参加者選出においては下の5つの除外基準をもうけた。
a) メンタルヘルスや行動の問題を有する者
b) 視覚/聴覚障害を有する者
c) 5分以上の意識消失を伴う頭部外傷歴を有する者
d) 慢性内分泌代謝性疾患に罹患した者
e) 中枢神経系に影響を与えうる薬剤の使用のある者
 TTC参加者の中でpn-TTCへの参加に関心を示した2049組のうち980組に対し、10歳時調査の約1年後にpn-TTCへの参加案内を郵送した。この際、10歳時調査で思春期の性成熟が比較的進んでいた176名については、全員に参加案内を郵送してオーバーサンプリングし、残りの児はランダムにサンプリングした。研究への参加同意が得られた思春期前期児と主養育者合計301組をpn-TTCの参加者として選出した。
 本研究における解析対象者は、唾液サンプルを適切に採取できた思春期前期の健常男児159人(平均月齢138.0か月[S.D.8.7])と健常女児137人(137.0か月[S.D.7.9])合計296名である(月齢は唾液採取時のもの)。

倫理的配慮
 本研究の共同研究各機関における倫理委員会の承認を得た。承認番号は、東京大学大学院医学系研究科(10057,10067)、東京都医学総合研究所(12-35)、総合研究大学院大学(2012002)である。児童・主養育者に対して口頭にて研究内容を説明するとともに、文書により主養育者から代諾同意書を取得した。

測定
 11歳時調査において参加者が自宅で早朝起床後に採取した唾液サンプル中の、テストステロン濃度およびコルチゾール濃度をLC-MS/MS(高速液体クロマトグラフィータンデム質量分析)法で測定した。
 児のsocial withdrawal(child behavior checklist [CBCL]で10歳時に評価)および、唾液採取時の月齢、第二次性徴(11歳時調査においてタナーステージで評価)、不安/抑うつ(CBCLで10歳時に評価)の交絡要因を、主養育者が回答した自記式質問紙で評価した。交絡要因body mass index(BMI)は11歳時調査における身体測定データから算出した。

統計学的解析
 Social withdrawalと唾液中テストステロン濃度の関係を、ロジスティック回帰分析を用いて検討した。従属変数には、social withdrawal尺度のTscore67をカットオフ値とし、それ以上の境界域・臨床域を1、Tscore67未満の正常域を0とした二値変数を用いた。独立変数には各交絡因子候補を強制投入法で回帰式に投入した。

【結果】
 男児では、唾液中テストステロン値は、唾液採取時の月齢で調整後、境界域以上のsocial withdrawalのオッズ低下と有意に関係していた(オッズ比0.55、95%C.I.0.33-0.94)。交絡要因であるBMI、不安/抑うつ、タナーステージで調整後も、テストステロン値はsocial withdrawalのオッズ低下と有意な関係を維持した。
 女児では、唾液中テストステロン値はsocial withdrawalと有意な関係を示さなかった。男女共に、唾液中コルチゾール濃度はsocial withdrawalと有意な関係を示さなかった。

【考察】
 思春期前期の男児では、テストステロン値がsocial withdrawalと負の関連を示すとした本研究仮説が立証された。本研究はテストステロン値とsocial withdrawalとの関連を検証し、有意な関連を見出した初の研究である。タナーステージについて同時に検討することで、男児ではsocial withdrawalと関連するのは生殖器や陰毛等の身体変化ではなく、テストステロン値であることも示唆された。女児のテストステロン値とsocial withdrawal間の正の関連を推察していたが、これはロジスティック解析の結果から否定的であった。
 男児のテストステロン値とsocial withdrawalの負の関係の生物学的基盤として幾つか候補が挙げられる。第一に、先行研究から、テストステロン値が低い思春期児では、扁桃体の高活動が示され、これが回避行動につながっている可能性がある。また、テストステロン低値の思春期児では2年後の扁桃体体積増加がみられたとの報告や、若年成人の扁桃体体積と行動抑制(social withdrawalの構成概念の一つ)の程度の間に正の関連がみられたとの報告もある。これらから、テストステロン低値は、思春期の扁桃体体積変化や活動増加を介して、social withdrawal傾向と関係するのかもしれない。第二に、social withdrawal自体がストレスとなり、これがテストステロン値を低くしているのかもしれない。
 本研究結果は、患者が対象の臨床研究とも矛盾しない。臨床症状としてのsocial withdrawalは統合失調症の陰性症状の一つにも分類される。陰性症状が優勢な成人男性統合失調症患者では、テストステロン値が健常男性と比較して低値を示すことや、陰性症状の程度がテストステロン値と負に関連することが報告されている。これらは本研究結果と方向を一にしており、今回得られた所見はこうした精神疾患の症状メカニズム解明に道を開きうるかもしれない。
 本研究の限界として以下などが挙げられる。第一は、10歳時のCBCLスコア取得の時期と11歳時調査において唾液サンプル採取・身体測定・タナーステージ調査を行った時期の間隔が参加者ごとに異なることである。しかし、ロジスティック回帰分析において、CBCLスコア取得時点の月齢についての調整をさらに追加したが、テストステロン値の、social withdrawalに対する影響に関する有意性に影響は及ぼさなかった。第二に、本研究の参加児童はタナーステージがステージ1から3に偏在していることが挙げられる。第三に、本研究は横断研究のため、男児のテストステロンとsocial withdrawalの間の因果関係に関しては言及できない。

【結論】
 本研究は、思春期前期男児におけるsocial withdrawalとテストステロン値との間に有意な負の関連が存することを初めて示したものである。女児のsocial withdrawalとテストステロン値の間には関連を見いだせなかった。
 本研究の結果が、social withdrawalの生物学的基盤の理解の進展につながっていくことが期待される。

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