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大学・研究所にある論文を検索できる 「PN(H)N型配位子をもつRu錯体のfacial選択的合成および官能基化/非官能基化ケトン類の不斉水素化反応機構」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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PN(H)N型配位子をもつRu錯体のfacial選択的合成および官能基化/非官能基化ケトン類の不斉水素化反応機構

中根, 智志 名古屋大学

2020.04.02

概要

金属触媒における不斉配位子は、その触媒の反応性・選択性を決定づける重要な要素である。目的とする反応に応じて、適切な配位数・配位原子とその混成状態を持つ配位子を選択する必要がある。反応点の複雑化を抑制できる側面やキレート安定化の観点から、多座配位子が注目されるが、単純な配位数の増加は、幾何異性体の形成という新たな問題を生じる。6配位オクタヘドラル錯体において、配位数が2の場合は単一な立体異性体しか生じないのに対し、配位数が3の場合ではfacial (fac) / meridional (mer) 異性体が、配位数が 4 の場合では trans / cis-α/cis-β 異性体が生じることとなる。配位子が非対称である場合や、残りの配位場に異なる配位子が配位する場合、これらの立体異性体の数はさらに増加する。生じた立体異性体は、反応において異なる反応性・選択性を有するため、その制御は非常に重要である。しかし、触媒前駆体・配位子混合系による触媒探索が全盛である現状において、これらを十分に考慮した触媒設計がなされているとは言い難い。3座配位子系に注目した場合、全ての配位原子がbasal面上に位置するmer型錯体は、配位子に剛直な平面骨格を導入することで選択的に合成でき、既に数多くの優れた触媒反応への展開が報告されている。一方、fac構造は3つの配位原子を互いにcisに位置するためひずみが大きく、柔軟性をもつ配位子であっても優先的に形成させるのは困難である。冠状や分岐型配位子の利用が1つの解決法であるが、既存配位子ではいずれも対称性が高く、不斉反応への展開の障害の1つとなっている。本研究では、直線性・非対称・三元系配位子を取り上げて、fac構造への制御による新しい触媒機能の獲得を目指した。

標的配位子として、Ar3 P・sp3 NH・pyridine–sp2 N を配位原子とし、キラルなビナフチル骨格をもつ直線性 3 座配位子 PN(H)N を取り上げた。オクタヘドラル錯体として Ru(II)を取り上げて、fac/mer 構造安定性をモデル計算で比較すると、mer 型錯体が 5.7 kcal/mol 程度有利となる。これを fac 構造へと規定化すべく、(i) 配位子の構造修飾による立体反発の利用、および(ii) fac 特異的補助配位子の併用による立体制御、の 2 つの指針を立案した。(i)に関して、具体的には、PN(H)N のビナフチル 3 位に Ph 基を導入することで、mer 型錯体を pyridine/Ph 間の反発により不安定化できると考えた。3 位 Ph–PN(H)N (Ph-PN(H)N)を合成し、RuCl2 (dmso)4 との錯体形成を試みた結果、目的とする fac-RuCl2 (Ph-PN(H)N)(dmso) (Ru–Ph-PN(H)N)を選択的に定量的収率で得た。(ii)について、 fac 特異的配位子であるベンゼンをもつジカチオン性 Ru 錯体を前駆体として PN(H)N と反応させて fac-[Ru(PN(H)N)(C6 H6 )](BF4 )2 を得た。この錯体のベンザン配位子をπアクセプター性の高い補助配位子 dmso と交換させることで、fac-[Ru(PN(H)N)(dmso)3 ](BF4 )2 (Ru–PN(H)N)を定量的収率で得た。これらの構造は、X 線結晶構造解析、nOe 実験、および 15 N 標識実験により決定した。合成した 2 つの fac 錯体を用いて触媒的不斉水素化反応の活性調査を行ったところ、 Ru–PN(H)N 錯体において、これまでに報告例のない、かさ高い置換基をもつ官能基化および非官能基化ケトン類の不斉水素化への有効性を見出した。

本反応の新規性から、反応性・エナンチオ選択性発現の起源と fac 構造との関係に興味がもたれる。本反応は、野依触媒型機構で進行すると想定される。すなわち、Ru– PN(H)N 錯体がメタノール/塩基の作用により、アミド錯体を経由してアルコキソ錯体を形成し、Ru–O 結合の加水素分解によりヒドリド錯体を生じる。この Ru–H が配位する NH との二官能性によりカルボニルを捕捉し、ヒドリドが転位することでアルコキシ錯体が再生される。Ru–PN(H)N および Ru–Ph-PN(H)N を用いて、反応条件下 NMR により構造変化を追跡し、重要中間体の観測に成功した。いずれの錯体も fac構造を保つ。ヒドリド錯体の H–Ru–N–H にカルボニルが相互作用するときに、かさ高い置換基が配位した dmso のメチル基を避けるためエナンチオ面選択性が発現すると推測される。速度論実験の結果、基質に 0 次、水素および触媒に対して 1 次であり、ヒドリド錯体の形成が反応の律速であることがわかった。塩基に対しては擬–1 次となり、この相関を curve fitting により詳細に解析した結果、Ru–NH 種および Ru–NK種のデュアル触媒サイクルの提唱に至った。Ru–NH 種が高活性種であり、脱プロトン化により生じるカリウムアミダード Ru–NK 種はその 5 分の 1 程度の活性を示す。見た目の反応性は、塩基の量に依存する Ru–NH/Ru–NK 比とそれぞれの反応性の和によって決定される。塩基の挙動は野依不斉水素化反応においても依然議論の対象となっており、NK 種の触媒への関与を実験的に証明した本成果に対する注目度は高い。

本水素化触媒系の基質官能基許容性、ケトン/エステル化学選択性、エナンチオ選択傾向を勘案し、その展開としてジエステル類の化学選択的水素化反応に取り組んだ。その結果、マロン酸ジエステルを水素化反応に付すと、部分還元されたβ-ヒドロキシエステルを選択的に得られることを見出した。過剰反応によるジオールは生成せず、コハク酸やアジピン酸基質には活性を示さない。2つの異なる置換基をもつマロン酸を用いて不斉反応にも展開し、エナンチオ選択的な第四級不斉炭素構築の可能性を見出した。前例のない全く新しい手法であり、今後の展開が強く期待される。

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