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大学・研究所にある論文を検索できる 「抗HIV治療薬に向けた高性能触媒的不斉Friedel–Crafts反応の開発と機構解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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抗HIV治療薬に向けた高性能触媒的不斉Friedel–Crafts反応の開発と機構解明

LE, Phuc Thien 名古屋大学

2021.06.02

概要

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)によって引き起こされる後天性免疫不全症候群(AIDS)は,2000 年に世界の死亡原因トップ 7 位にランクされる極めて危険な疾患である.1987年にジドブジンが市販されて以来,現在では 23 種以上の抗 HIV 治療薬が開発されてきた.非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤( NNRTIs)エファビレンツはその一例であり,抗 HIV 治療薬として広く用いられている.しかし,耐性ウイルスの発現や副作用軽減の観点から,新薬の開発が常に求められている状況にある.2013 年に Zhou らは, インドール骨格をもつトリフルオロエタノールが, エファビレンツとほぼ同程度の酵素阻害活性を示すことを見出した.新たな抗 HIV 治療薬の基本骨格として注目が集まっており, この化合物を基盤とした構造活性相関の研究が期待されている.この化合物の最も直接的な合成法は, 置換インドールとトリフルオロピルビン酸エステルとの不斉 Friedel-Crafts( FC) 反応であり, この反応は, 共生成物が無く, E ファクター0である環境負荷低減型反応であるとともに, 原子効率, 段階効率の観点からも魅力的である.これまでに, 数多くの触媒系が報告されてきたが,抗 HIV 治療薬の開発研究におけるプロセス化に向けては決して完璧とは言えず, 反応性, 選択性, 生産性の観点から,さらなる高性能な触媒の開発が求められている. 本研究では,当研究室で開発されたビスアミジン型配位子の(S,S)-Naph-diPIM-dioxo-iPr (LS )の CuII 錯体「CuLS」の有効性を調査した.

反応条件を最適化した結果,溶媒に CPME(シクロペンチルメチルエーテル)を用いると,0.5 mol%の CuLS 存在下,98:2 のエナンチオマー比で 5 分以内に FC 生成物を定量的に与えることが明らかになった. 0.005 mol%に下げてもよく, 従来法に比較して 2 桁以上性能を向上することに成功した. 1, 2, 5, 6 および 7 位置換インドールに適用できるが, 4 位に置換基を導入すると選択性が低下する傾向にある. 本研究では, すべての FC 生成物の絶対配置を決定し,エナンチオ面選択機構を考察した.正四面体・三角両錐・四角錐型中間体を想定することによって本反応における選択性発現機構を理解した. 4 位に硫黄・ヨウ素・臭素・塩素原子をもつインドールはエナンチオ面選択が逆転する. これらの基質においては配位機構が優先すると考えられる.速度論実験により, 基質構造によって, 反応機構が大きく影響されることがわかった. 高い反応性を有する基質では,それぞれカチオン–相互作用と CuLS 錯体への配位を介して求核剤と求電子剤の二重活性化により反応が進行することが明らかになった. CuII 錯体による触媒的不斉 FC 反応の反応機構に関する重要な情報をもたらし,抗 HIV治療薬の開発研究を促進するための物質基盤を提供することができた.

不斉増幅は自然界での化学進化に関わる重要な現象であり,非線形現象発現の有無やその程度は反応機構を推定する上で重要な情報を与える.CuLS を用いた触媒的不斉 FC 反応の機構解明の研究過程で, 相分離を伴う著しい正の非線形現象が観測された.触媒調製条件や触媒濃度の相違によってその程度と様相が大きく変化する. 本研究では,この非線形現象を系統的に調査することによって, これまでにない新しい非線形現象の発現機構を見出した. 銅:配位子= 1:1 (Cu:LS :LR =1:x:1–x)系では, [Cu] = 0.1 mMの条件下では全く非線形現象が観測されないが,[Cu] = 0.5 mM の条件下では白色固体の相分離を伴い,強力な不斉増幅が発現する.X 線回折実験により,これは Noyori 機構によって理解できた.活性種となる 1:1 錯体 CuLS (CuLR )は溶媒 CPME に対し高い溶解性を示すが,ヘテロキラル二量体 CuLS CuLR の溶解性は低く, 白色固体として相分離する.これが初期の CuLS /CuLR 比を高め, 現象を発現する根源となる. その一方, 配位子過剰系(Cu:LS :LR =1:1:x)にすると, 0.1 mM でも紫色固体の相分離を伴って強力な非線形現象が発現する.一般的にホモキラル 1:2 錯体 CuLS LS (CuLR LR )よりもヘテロキラル 1:2 錯体 CuLSLR の方が熱力的に安定だと考えられる.その CuLSLR が紫色固体として触媒系から除去されることが, CuLS /CuLR 比を高め, 正の非線形現象を発現する.この Kagan 機構が非線形現象発現の根源となっていると考えるのが最もらしいが,注意が必要である. 本研究では, ICP 分析・測度論実験による反応性・選択性・様相の相関を系統的に調査し,MALDI-TOF MS 分析および X 線結晶構造解析による固体の構造解析を行うことで, 従来の Kagan 機構ではなく,新しい機構が関与することがわかった.予想に反し,ヘテロキラル 1:2 錯体 CuLS LR よりホモキラル 1:2 錯体 CuLSLS (CuLR LR )の方が安定である.これはホモキラル 1:2 錯体における n-*相互作用による安定化によるものであり,CuLSLS (CuLR LR )は容易に生成し,溶解性は高く,紫色溶液となるが, CuLS LR は生成しにくい. CuLSLS は CuLR LR と相互作用しやすく, ホモキラル 1:2 錯体のヘテロキラル二量体 CuLSLS CuLR LR を形成し,それが自己会合することによって(CuLSLS CuLR LR )n の紫色固体が相分離したものと理解できる. 金属錯体を用いる不斉触媒反応において,しばしば観測される非線形現象は Noyori 機構と Kagan 機構によって解釈される傾向にあるが,注意を要する. 見た目, Kagan 機構であっても全く異なることもある. 特に相分離を伴う非線形現象の機構には注意が必要である.本研究は, その理由を具体的に示した初めての例であり,関連研究への波及効果は大きい.

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