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大学・研究所にある論文を検索できる 「慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者における肺動脈バルーン拡張術後の低酸素血症に関する検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者における肺動脈バルーン拡張術後の低酸素血症に関する検討

Matsuoka, Yoichiro 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景/目的】
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は、器質化した血栓による肺動脈の狭窄や閉塞を特徴とし、肺血管抵抗(PVR)の上昇や肺動脈圧の上昇をきたす。無治療で経過すれば、右心不全を引き起こし、死に至る重篤な疾患である。CTEPH に対して初めて予後を改善する治療法として確立したのは外科的肺動脈内膜摘除術(PEA)であり、現在でも手術可能な CTEPH患者に対する標準的治療である。しかし、CTEPH 患者の 40-70%は、併存疾患の存在や、病変が肺動脈の末梢にあるため、手術で切除しきれない等の理由で手術非適応であるとされている。近年、手術非適応患者において、肺動脈内病変に対する血管内治療として、肺動脈バルーン拡張術(BPA)が発展し、治療後の血行動態の改善や生存率の向上を含む有効性、および安全性が示されてきた。しかし、実臨床において、BPA 後に、血行動態はほぼ正常化まで改善を示しているにもかかわらず、労作時息切れ等の症状が残存したり、酸素化改善が乏しい症例をよく経験する。BPA による酸素化所見と血行動態の関係性は明らかになっていない。本研究の目的は CTEPH 患者における BPA 後の酸素化所見の臨床的影響を評価、検討することである。

【方法】
対象患者
2011 年 9 月から 2019 年 12 月の間に神戸大学病院で CTEPH と診断され、BPA が施行された患者を対象とした。除外基準は、超高齢者(90 歳以上)、stage4-5 の CKD 患者、予後 6 か月未満と予測される担癌患者とした。
CTEPH 診断時のルーチン評価として右心カテーテル・肺動脈造影・肺機能・動脈血ガス検査、自覚症状(NYHA 分類)、肺機能検査、血液ガス検査、6 分間歩行試験(6-MWT)、心肺運動負荷試験(CPET)、および睡眠時無呼吸検査を施行し、BPA 前と BPA 後 3 ヵ月後の評価を行った。可能な限り酸素 off とした状態で 6-MWT 行った。各検査は BPA 前後では酸素に関して同条件で行った。

BPA の実施方法
過去の報告と同様に 6Fr ガイディングカテーテル(Profit®, Multipurpose, or Judkins right and left 4.0; Goodman, Nagoya, Aichi, Japan)を使用し、0.014 インチガイドワイヤー(Athlete Bpahm®; Japan Lifeline, Tokyo, Japan)で病変を通過させた。アンギオ画像の所見より、適正なサイズのバルーンで病変を拡張した。1 回の手技時間は 2 時間以内、または造影剤量が規定量に達した時点で終了し、平均肺動脈圧(mean PAP)が正常化するかどうかにかかわらず、到達可能な病変をすべて治療し終えるまで施行した。

統計解析
患者の年齢、6 分間歩行距離(6MWD)、血行動態、運動耐容能、肺機能、血液ガス所見などの連続変数を、正規分布では Student t 検定、非正規分布では Mann–Whitney U 検定を使用して比較した。患者の性別、NYHA-FC 分類、および薬剤の使用については独立性を χ2 検定で比較した。 症状の有無についての単変量解析、多変量解析についてはロジスティック回帰分析を使用した。労作時の desaturation(6-MWT 中の最低 SpO2とベースライン SpO2 の差)に関する単変量解析、多変量解析については線形回帰分析を使用した。

【結果】
2011 年 9 月から 2019 年 12 月までに当院で CTEPH と診断され、BPA を行った連続 99 症例に対して解析を行った。BPA は、一人当たり平均 4.0±1.5 回施行した。

BPA 前後の臨床変数の評価
BPA 後の血行動態はほぼ正常化した。(mean PAP:37.5±10.0mmHg から 20.6±4.9mmHg,p<0.01PVR:744 ± 383 dyne/sec/cm-5 から 261 ± 92 dyne/sec/cm-5、心係数:2.27±0.71 L/min/m2 から 2.43±0.62 L/min/m2, p=0.03。運動耐容能も有意な改善を認めた。(6MWD:311 ± 97m から 360 ± 96m, p<0.01、CPET における peakVO2:12.9 ± 3.9 ml/min/kg から 16.0 ± 4.9 ml/min/kg, p<0.01、VE/VCO2 slope:41.9 ± 11.4 から 30.8 ± 8.3, p<0.01)。しかし、睡眠時無呼吸検査所見や肺機能検査における%DLCO、一秒率といった所見は改善が見られなかった。症状に関しては有意な改善を認めた(NYHA-FC I/II/III/IV; 6/ 18/ 67/ 9 (%) to 26/ 59/ 15/ 0 (%))ものの、BPA 後にも約 4 分の 3 の症例で症状の残存(NYHA-Fc≧2)が確認された。酸素化所見に関しても改善したが(動脈酸素分圧:61.5±12.3 から 67.7±12.7mmHg,p<0.01)、正常化はせず、さらには労作時および睡眠時の desaturation は改善が得られなかった(それぞれ -8.1±4.8%から-7.8±5.1%,p=0.59、-11.4±4.2%から-12.0±4.8%,p=0.47)。

BPA 後の残存する症状(NYHA-FC≧II)の予測因子
BPA 後に残存する NYHA-Fc≧II の症状に関してロジスティック回帰分析を行い、単変量解析にて、DLCO、6-MWT 中 desaturation、6MWD、peakVO2、mean PAP が有意に相関を示した。また、多変量解析において、6 分間歩行中の desaturation(Odds Ratio[OR] 0.591,95% CI 0.416~0.840,p=0.003)、6MWD (OR 0.983, 95% CI 0.968-0.999, p=0.034)、peakVO2(OR 0.724, 95% CI 0.572-0.917, p=0.007)が独立して残存する症状との相関を示した。

BPA 後、6-MWT 中の desaturation の予測因子
BPA 後の残存症状と運動耐容能(6MWD および peakVO2)の関連は既報があるが、残存症状と労作時 desaturation との関連は報告がない。このため、労作時の desaturation に関与する因子の線形回帰分析を行った。単変量解析で肺活量(%VC)、%DLCO、meanPAP、PVR、VE/VCO2 slope が有意な相関を示した。また、多変量解析では、BPA 後の%VC が低値であること(r2=0.03,p=0.01)、mean PAP が高値であること(r2=0.08, p=0.02)、VE/VCO2 slope が高値であること(r2=0.18,p<0.01)が独立して有意に desaturation との相関を示した。

【考察】
本研究では、CTEPH 患者における BPA 治療後の血行動態はほぼ正常化を達成できた。
しかしながら、酸素化所見において SaO2や PaO2は改善するものの正常化せず、労作時および睡眠時の desaturation に関して改善はみられなかった。血行動態はほぼ正常化するものの約 4 分の 3 の患者で NYHA II 度以上の自覚症状残存があり、これには労作時の
desaturation が深く関与していた。

CTEPH 患者において、BPA 後にも低酸素血症が残存することについては過去の論文でも報告されている。しかし、この論文では、労作時の desaturation の原因についてさらなる研究考察を行った。本研究において、労作時 desaturation と、BPA 後の%VC が低いこと、mean PAP が高いこと、VE/VCO2 slope が高いことが相関を示した。BPA 治療後の残存する肺高血圧は、BPA で治療不可能な末梢病変が残存している可能性や、CTEPH の微小血管病変がある可能性を示唆する。また、VE/VCO2 slope は換気血流不均衡のマーカーであるが、労作時のみならず睡眠時 desaturation とも相関していた。治療可能な病変をすべて BPA で治療しても、ミクロレベルでの換気血流不均衡が残存し desaturation を引き起こすものと推定される。

本研究において、肺血管拡張薬の使用は、労作時、睡眠時の desaturation とは関係しておらず、肺血管拡張薬は酸素化改善に寄与しないことが推定された。労作時や睡眠時の desaturation による低酸素血症は肺動脈の血管攣縮を惹起し、肺血管抵抗を上昇させる可
能性がある。日中安静時のみの SpO2で酸素化の評価することは、労作時や睡眠時の低酸素血症を過小評価してしまう可能性がある。BPA 前後の評価として、運動負荷検査や睡眠時無呼吸検査をルーチン検査として施行し、必要があれば在宅酸素療法を継続する必要があると考える。

【結論】
BPA 後、血行動態はほぼ正常化したにもかかわらず、酸素化は正常化しない。さらに労作時、睡眠時の desaturation は改善を認めなかった。労作時の desaturation は BPA 後の残存症状と強く関与しているため、必要に応じて在宅酸素療法の継続が必要であると考える。

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