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大学・研究所にある論文を検索できる 「慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者におけるバルーン肺動脈形成術の右心機能への影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者におけるバルーン肺動脈形成術の右心機能への影響

住本, 恵子 神戸大学

2022.03.25

概要

【背景】
肺高血圧症(PH)は、肺動脈圧及び肺血管抵抗が上昇し引き起こされる病態であり、 慢性的に持続した圧負荷のため、右房や右室の拡大(remodeling)をきたししばしば 右心不全や死に至る予後不良の疾患である。PH の予後予測は重要であり、多数の因子 が関与しているとされているが、右室収縮能は最も重要な予後予測因子の一つである。また、右心系(右心房ならびに右心室)のremodeling も PH 患者の予後予測因子と報 告されており、右心系の総合評価は PH 患者を管理する上で重要である。

慢性血栓塞栓性肺高血圧(CTEPH)は、器質化した血栓により肺動脈の狭窄や閉塞を起こした結果、肺動脈圧が上昇し PH を呈する疾患である。外科的肺動脈内膜摘除術が CTEPH の主な治療法であるが、外科的肺動脈内膜摘除術が不適応患者には、経カテーテル的に行うバルーン肺動脈形成術(BPA)が治療の選択肢となる。しかしながら、 BPA の施行による右心系の形態学的変化の関連は明らかではない。よって、本研究の目的は、CTEPH 患者を対象に BPA 前後での右心系の形態学的変化について明らかにすることである。

【方法】
2011 年 8 月から 2019 年 7 月まで、当院循環器内科で CTEPH に対し BPA を行った45 例を対象とした。少なくとも 3 ヶ月以上有効な抗凝固療法を行った後に施行したスワンガンツカテーテル検査にて、平均肺動脈圧が 25 mmHg 以上、かつ肺動脈楔入圧が 15 mmHg 以下であり、肺換気血流シンチグラフィーもしくは肺動脈造影にて肺動脈狭窄もしくは閉塞を示唆する所見を認めた場合に CTEPH と診断した。外科的肺動脈内膜摘除術を施行した症例と重症左心系弁膜症(僧帽弁疾患ならびに大動脈弁疾患)を有した症例は除外した。

BPA 前(平均 2.9±2.1 か月前)、及び BPA 終了後(3 か月後)にスワンガンツカテーテル検査および経胸壁心エコー図検査を施行した(GE Healthcare 社製 Vivid E9)。米国心エコー図学会のガイドラインに基づき、右室収縮能は右室自由壁 3 領域の peak speckle-tracking longitudinal strain の平均値(RV free-wall strain)として評価し、RV free-wall strain が 20 %以下を右室収縮不全と定義した。右心系の remodeling の評価のため、収縮末期で右室ならびに右房面積を測定した。

【結果】
対象症例の平均年齢は 69±11 歳で 35 例(78 %)が女性であった。左室駆出率は平均 69±11 %と左室収縮能は保持されていた。BPA 前の平均肺動脈圧は 37.0±8.4 mmHg、肺血管抵抗は 679.3±391.4 dyne·sec·cm−5 であった。

BPA 前後で右室面積は 15.0±5.3 cm2 から 9.6±3.0 cm2 に減少し(p<0.0001)、RV free-wall strain は 5.9±5.6 %から 21.2±4.9 %へと増加し(p<0.0001)、右房面積は 17.3±6.6 cm2 から 13.4±3.8 cm2 に減少した (p=0.0002)。BPA 前には 14 例(31 %)で中等度以上の三尖弁閉鎖不全症を認めたが、BPA 後には 3 例のみとなり、グレード 1 以上の三尖弁閉鎖不全症の改善を 24 例で認めた。また、BPA 後に 26 例(65 %)で右室収縮能は正常化し、BPA 前の右室面積が BPA 後の右室収縮能正常化を予測する独立した因子であった。(odds ratio:1.16,95 % confidence interval 1.01–1.34, p=0.0305)。

18 例で BPA 後に平均肺動脈圧が正常化した後も、肺動脈に残存狭窄があったため、運動耐応能を改善する目的で追加の BPA を施行した。追加の BPA 前後での血行動態指標では、平均肺動脈圧は 21.3±4.71 mmHg から 10.8±8.9 mmHg に改善し(p<0.0001)、肺血管抵抗は 339.2±167.2 dyne·sec·cm−5 から 257.7±76.4 dyne·sec·cm−5 と改善傾向を認めた(p=0.0833)。追加の BPA 前後での経胸壁心エコー図検査の指標では、右室面積は 11.5±3.8 cm2 から 9.2±3.8 cm2 へと減少した (p=0.0045)、RV free-wall strain は 17.2±4.8 %から 22.8±7.4 %へと増加した (p=0.0216)。しかしながら、右房面積は 13.5±2.8 cm2 から 12.9±4.8 cm2 と有意な改善は認めなかった (p=0.5256)。

【考察】
本研究では、CTEPH 患者において、BPA 後に有意な右心系の縮小(reverse remodeling)ならびに収縮能の改善を認めた。また、BPA 前の右室面積は BPA 後の右室収縮能の正 常化を予測する独立した因子であった。さらに、血行動態が正常化した後でも肺動脈の残存狭窄に対し BPA を追加で行うことによって、さらなる右室の reverse remodeling と右室収縮能の改善を認めた。

PH 患者における予後規定因子は多く報告されているが、すべてを個々の患者に用いることはできない。PH を呈する原因疾患は様々あるが、PH 患者における右室収縮機能低下は臨床的背景、原因疾患に関わらず、予後不良因子とされていることから、PH患者における右室収縮能の評価は非常に重要である。さらに、肺動脈性 PH 患者では、右室 remodeling もまた右室収縮機能不全と同様に予後不良因子であると報告されており、右房 remodeling も、肺動脈性 PH 患者の独立した予後規定因子であることが報告されている。我々は、肺動脈性 PH 患者を対象に、肺血管拡張薬導入後中期(5.7 ヶ月)に右房・右室の reverse remodeling を認めた症例は予後良好であったと以前に報告している。さらに、肺血管拡張薬導入前の右室収縮能が正常で、かつ治療開始後中期に右房・右室の reverse remodeling を認めた症例は、より予後良好であった。このことから肺動脈性 PH 患者において右室の reverse remodeling のみならず右心系全体の reverse remodeling の評価が重要であるといえるが、CTEPH 患者に対する右心系 remodeling ならびに治療後の右心系の reverse remodeling や右室収縮能の変化に関する検討はなされていなかった。

CTEPH は右心不全を来す死に至る疾患である。外科的肺動脈内膜摘除術は中枢型 CTEPH の確立した治療法である。BPA は外科的肺動脈内膜摘除術の適応とならない末梢型 CTEPH が対象となり、平均肺動脈圧や肺血管抵抗を低下させ、運動耐応能を改善させる。本研究では、経胸壁心エコー図検査を用いて、BPA 後に右心系の reverse remodeling および右室収縮能の改善を認め、BPA 前の右室の remodeling が、BPA 後も右室収縮能が正常化しない独立した規定因子であった。また、BPA を行い平均肺動脈圧が正常化したものの肺動脈に残存狭窄がある患者に対して、追加の BPA を行うことによって、さらなる血行動態・右室の reverse remodeling および右室収縮能の改善を認めた。よって、CTEPH 患者において、右心系の remodeling ならびに右室収縮能を評価することは、BPA 後の病態を推測するうえで重要な評価項目であるといえる。

【結語】
BPA を行った CTEPH 患者において有意な右心系の reverse remodeling ならびに右室収縮能の改善を認めた。経胸壁心エコー図検査で右心系全体の remodeling の評価を行うことは BPA を行う CTEPH 患者の管理を行う上で有用である。

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