リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「CTで計測された大動脈アテローム量が経カテーテル的大動脈弁置換術後の予後に及ぼす影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

CTで計測された大動脈アテローム量が経カテーテル的大動脈弁置換術後の予後に及ぼす影響

藤田, 紘 神戸大学

2022.03.25

概要

【背景】
経カテーテル的大動脈弁置換術(Transcatheter aortic valve replacement:TAVR) は、高齢者や複数の併存疾患を有する重症大動脈弁狭窄症の患者に対して広く受け入れられている。デバイスの技術的進歩により術中の合併症頻度は減少してきている が、TAVRを施行されたにも関わらず症状の改善が乏しい症例や、TAVR施行後早期に死亡する症例も存在する。そのため、無益な介入を防ぐという観点からも、TAVRが真に有益となる患者を術前に推定することは重要である。

TAVRなどの侵襲的治療の適応を最適化するためにリスク予測モデルは有用である。心臓手術を必要とする患者の周術期リスク評価モデルの一つとしてSociety of Thoracic Surgeons Predicted Risk of Mortality(STS-PROM)スコアが頻繁に用いられ、TAVRを予定されている患者のリスク層別化にも頻用される。しかし、STS-PROMスコアはTAVRを施行する患者には最適ではないことが報告されている。さらに、STS- PROMスコアは短期的な予後を予測するものであり、中長期的な予後を予測するものではない。したがって、他の指標を用いたより有用なTAVRの予後リスク層別化モデルの構築が必要である。

大動脈アテロームの分布や程度はTAVR術前のX線コンピュータ断層撮影(Computed tomography:CT)で評価することができ、周術期における全身性塞栓症の危険因子として広く認識されている。CTから計測された大動脈アテローム量(Aortic atheroma volume:AAV)が、急性腎不全や脳梗塞といったTAVR後の周術期の有害事象に寄与することが複数の報告で示されている。また、大動脈アテロームの中でも、石灰化プラーク量(Aortic calcium volume:ACV)がTAVR後の有用な予後予測因子であり、予後への寄与の程度は大動脈のセグメント毎(腹部や胸部など)に異なることも報告されている。一方、非石灰化プラークを含むAAVがTAVR後の予後に与える影響については、これまで評価されていない。本研究の目的は、TAVRが施行された患者の術前CT画像を用いて、TAVR後の予後とAAVとの関連を評価し、さらに大動脈セグメント間での違いを明らかにすることである。

【方法】
本研究は単施設後ろ向きコホート研究である。2015年10月から2019年12月までに神戸大学医学部附属病院でTAVRを施行された重症大動脈弁狭窄症の患者を対象とした。除外基準は、冠動脈バイパス術や恒久的ペースメーカー植込術後の患者、重度のCTアーチファクトのため大動脈プラーク量を計測不能と判定された患者とした。すべての患者に対してTAVRの適応を評価するために術前CT検査が行われていた。TAVRはバルーン拡張型または自己拡張型のTAVR弁を使用した。

AAVおよびACVの計測は市販のワークステーションで行った。TAVR術前に施行したCT画像の体軸断面像を用いて、sinotublar junctionから両側総腸骨動脈分岐部にかけて大動脈を1mmスライス毎に抽出した。血管壁と内腔をそれぞれトレースし、ワークステーションのソフトウェアを用いて、大動脈全体の血管容積と内腔容積を自動的に定量化した。AAVは血管容積と内腔容積の差と定義し、さらに胸部大動脈(Thoracic aortic atheroma volume :TAAV)と腹部大動脈(Abdominal aortic atheroma volume :AbAAV)の 2つのセグメントに分割した。ACVはvolume rendering法を用いて定量化した。術前経胸壁心エコー図検査にて左室駆出率、大動脈弁最高血流速度、大動脈弁平均圧較差、大動脈弁弁口面積を計測した。

本研究の主要評価項目は全死亡、副次評価項目は心臓関連死(突然死、心破裂、感染性心内膜炎、心不全による死亡)、TAVR後30日以内の周術期合併症とした。

【結果】
研究期間中に151名の重症大動脈弁狭窄症患者に対してTAVRが施行され、除外基準に抵触した8名を除いた143名を解析対象とした。AAVを測定した結果、AAVの中央値は 63.6ml(四分位範囲:51.2-78.2ml)であった。中央値に基づいて、高AAV群と低AAV群に分けて比較したところ、男性の割合、体表面積、足関節上腕血圧比は高AAV群で有意に高かった。一方で、年齢、STS-PROMスコア、logistic EuroSCOREは両群間で有意差はなかった。既往歴では高AAV群で脂質異常症の割合が高く、経胸壁心エコー図検査における大動脈弁狭窄症の重症度に関連する指標は両群間で有意差はなかった。

中央値651日(四分位範囲:252-936日)のフォローアップ期間において、24例(16.8%)の全死亡と14例(9.8%)の心臓関連死を認めた。TAVR後30日以内の周術期合併症に関しては、心臓関連死 2例(1.4%)、脳梗塞 2例(1.4%)を認めた。Kaplan-Meier解析では、高AAV群は低AAV群と比較して全死亡(p=0.016)と心臓関連死(p=0.023)が有意に多かった。TAAV、AbAAVに関して、各々の中央値に基づいて2群比較したところ、高AbAAV群は低AbAAV群と比較して全死亡(p=0.0043)と心臓関連死(p=0.023)が有意に多かったが、高TAAV群と低TAAV群の間で、全死亡と心臓関連死の発生率に有意差は認めなかった。 Cox比例ハザードモデルによる単変量解析では、AbAAVが全死亡と有意に関連していた (p=0.0023)。多変量解析の結果、AbAAVのみが全死亡の独立した予測因子であった (hazard ratio:1.06, 95%CI:1.001-1.11, p=0.046)。AbAAVと種々のパラメーターとの相関を解析したところ、推算糸球体濾過量(r=-0.19 p=0.027)と足関節上腕血圧比(r=- 0.24 p=0.0057)と有意な負の相関を示した。AbAAVとボディマス指数、平均血圧、グリコヘモグロビン値、脳性ナトリウム利尿ペプチド値との間に有意な相関は認めなかった。

【論考】
本研究の解析結果から、大動脈アテローム量とTAVR後の全死亡および心臓関連死の間に有意な関連性があることが示された。さらに、AbAAVがTAVR後の全死亡に対する独立した予測因子であった。これらの結果は、術前にCTで計測したAAVが、TAVR後の予後を予測する上で有用な指標である可能性を示唆している。本研究は、TAVRを施行された患者において、非石灰化プラークを含む大動脈アテローム量と予後との有意な関連を示した初めての研究である。

過去の臨床研究において、大動脈アテローム量が心血管手術後の生命予後と関連することが明らかにされており、本研究の結果を支持するものである。大動脈アテローム量と生命予後との間に潜在的な因果関係があることは直感的に理解できるが、大動脈アテロームが死亡リスクの増加をもたらすメカニズムは解明されていない。一般的 に、大動脈アテロームに起因する塞栓症には、血栓塞栓症とアテローム塞栓症の2つのタイプがあるとされる。血栓塞栓症は、中動脈および大動脈に閉塞を起こし、周術期の脳卒中や急性腸管虚血などの全身性塞栓症の原因となる。主に、カテーテルや外科手術による大動脈アテロームへの機械的接触によって誘発される可能性があり、TAVR直後の医原性塞栓症は血栓塞栓症と考えるのが妥当である。ただ、本研究において周術期に血栓塞栓症を認めたのは2例のみであり、この血栓塞栓症のみでは本研究において示されたAAVと予後との関連性を説明できない。一方、アテローム塞栓症は、動脈硬化性プラークに存在する微細なコレステロール結晶が飛散し、末梢動脈を閉塞することで生じる。このメカニズムにより、アテローム塞栓症は主要な臓器の虚血を引き起こし、最終的に心血管関連死や全死亡を増加させると報告されているが、臨床の場では過小評価されることが多い。以前の研究では、アテローム塞栓症患者は一般的に予後不良で、異物反応、不完全閉塞、塞栓症による局所炎症反応の原因となり、進行性の慢性多臓器障害を引き起こす可能性があると指摘されており、このような塞栓症が不顕性に発症している可能性がある。このような“潜在的なアテローム塞栓”という概念は、AAVが予後に大きく影響をすることを説明しうる。

さらに注目すべき点として、TAAVではなくAbAAVがTAVR後の死亡率と有意に関連していたことが挙げられる。病理学的な研究によると、大動脈の脆弱なアテロームは、胸部大動脈より、腹部大動脈でより頻繁に観察されることが明らかになっている。これらのアテロームは炎症マーカーの増加、ホモシステインやプロトロンビンの上昇と関連しており、AbAAVが高い患者の死亡率上昇の一因となっている可能性がある。また、 AbAAVが全身性動脈硬化性疾患の重症度を反映している可能性が示唆されており、これは、動脈硬化の指標の一つである足関節上腕血圧比とAbAAVが有意に相関しているという我々の所見と合致していた。

現在、TAVR術前に施行されるCTデータは、TAVRの適応評価や治療戦略の検討にのみ活用されているが、本研究で得られた知見は、CTで計測可能なAAVがTAVR後の有害事象を予測する有用な指標となる可能性を示唆している。

【結論】
AAVはTAVR後の死亡率と有意に関連し、AbAAVは独立した予後規定因子であった。術前に施行したCTを用いてAAVを評価することで、TAVR後の予後を予測できる可能性がある。今後、より多くの症例数とより長い追跡期間を設定した研究を行い、本研究の臨床的意義を高める必要がある。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る