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大学・研究所にある論文を検索できる 「日本の高齢者肺癌に対する初回治療についてのレジストリデータを用いた解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

日本の高齢者肺癌に対する初回治療についてのレジストリデータを用いた解析

成田, 翔子 東京大学 DOI:10.15083/0002005065

2022.06.22

概要

背景
社会の高齢化に伴い、がんの罹患患者の高齢化も進んでいる。特に肺癌は罹患患者の年齢の中央値が 70 歳と高齢者に多く、高齢者の治療選択については議論が尽きない。高齢者に限定した治療も研究されており、若い世代の標準治療であるシスプラチン併用療法 とは異なり、単剤療法やカルボプラチン併用療法の有効性を示す臨床試験の結果もあるが、このような臨床試験に登録される患者は合併症が少なく全身状態もよい患者であり、実臨 床で見られるような様々な背景因子を持つ高齢者にとって、臨床試験で有効性が示された 治療が適切な選択でない可能性もある。実臨床で高齢者の治療実態を把握し、さらなる最 適化を目指すことは、超高齢化社会を迎えた日本においては急務である。
日本では 2006 年にがん対策基本法が成立し、がん治療の現状把握および治療戦略を目的に、2007 年よりがん診療連携拠点病院を対象としたレジストリ制度、院内がん登録が開始された。さらに、がん対策基本法で掲げるがん医療の均てん化を目的とし、がん種ごとの診療の質指標である Quality Indicator(QI)が作成された。この指標に基づいた診療の質の向上を目的とし、2011 年より各がん診療連携拠点病院から任意で提出された診断群分類(Diagnosis Procedure Combination、以下 DPC)による定額報酬算定制度の調査データと院内がん登録のデータの統合を行っている。この統合データベースは患者の背景と治療がひも付けされた日本最大の実臨床のデータベースであり、病院ごとの QI 達成率が算出できるようになっている。
日本でも院内がん登録やQI 調査のような網羅性の高い大きなデータベースを用いた実臨床のがん治療研究が行われるようになり、高齢者のがん種ごとの初回治療の実施割合に着目した研究はすでに報告されている。しかし、進行期肺癌は組織型や遺伝子変異によって治療選択が大きく異なる多様性のある疾患であり、具体的な化学療法のレジメン選択も重要である。本研究では、QI 調査のデータベースを用いて、進行期肺癌における実臨床の治療実態を明らかにし、特に高齢者の進行期肺癌の治療選択の現状について臨床試験との比較を行うことを目的とし、進行期肺癌の年齢、組織型ごとの治療選択を日本で初めて評価した。

方法
本研究は院内がん登録と DPC 調査データの統合データベースである QI 調査のデータベースを用いて解析を行った。2013 年時点では 409 のがん診療連携拠点病院が院内がん登録に参加しており、このうち 68.2%にあたる 279 病院が QI 調査に参加していた。
がん研究センター中央病院の倫理審査員会の承認を受け、2013 年に診断された IV期の肺癌患者の QI 調査データを抽出した。2013 年に診断された肺癌上皮性腫瘍 IV 期の患者 9,737 人を対象に解析を行った。
年齢は院内がん登録のデータの診断日の年齢とし、組織型は ICD-O-3(international Classification of Disease for Oncology, 3rd edition)の形態診断コードをもとに腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌を定義し、腺扁平上皮癌、神経内分泌癌、大細胞癌、カルチノイド腫瘍、肉腫様癌はその他の組織型に分類した。DPC 調査データの処方データをもとに診断日を基準として最初に投与された抗悪性腫瘍薬を初回化学療法と定義した。シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチンを含む多剤併用療法を「白金製剤併用療法」、その他日本肺癌学会のガイドラインで転移進行期の肺癌に推奨されている殺細胞性抗悪性治療薬を「単剤療法」、2013 年当時肺癌に承認されていた分子標的治療薬を「Tyrosine Kinase Inhibito(rTKI)、肺癌に承認されているもののガイドラインで推奨されていない薬剤を「非推奨療法」と定義した。また、診断後に抗悪性腫瘍薬を 1 回も投与されていないことを「Best Supportive Care(BSC)」とした。

結果
対象患者 9,737 人年齢の中央値は 70 歳であり、71.9%が男性であった。全患者のうち全身化学療法を行った患者の割合は 74.7%であり、70 歳以上、75 歳以上、80 歳以上では、それぞれ 65.5%、57.1%、44.0%であった。全身化学療法を受けた患者のうち、白金製剤併 用療法を行った患者は、70 歳以上では 62.7%であり、70 歳未満の 76.3%と大きく変わらな かった。このうちシスプラチン併用療法を行った患者は 70 歳未満では 37.7%、70 歳以上では 9.6%のみであり、その他の大部分の患者ではカルボプラチンが選択されていた。特定の遺伝子変異を持たない 75 歳以上の非小細胞肺癌の患者に対して、日本肺癌学会のガイドラインでは単剤療法を推奨しているが、これらの患者群では 37.6%しか単剤療法を受けておらず、ほとんどがカルボプラチン併用療法を行っていた。
組織型ごとにみると、腺癌が 5,865 人(60.2%)、扁平上皮癌が 1,714 人(17.6%)、小細胞癌が 1,816 人(18.7%)であり、全身化学療法を受けていた患者は、それぞれ 75.8%、 62.8%、83.0%と、小細胞癌の患者が最も積極的に化学療法を行っていた。
腺癌では、全身化学療法を行った患者のうち 33.3%が特定の遺伝子変異に対する分子標的治療薬であった。分子標的治療薬は殺細胞性抗悪性腫瘍薬と異なり、年齢が上がっても治療を受けた患者の割合は減少せず、高齢者でも若い世代と同様に化学療法を受けていた。また、全身化学療法を受けた患者のうち、白金製剤併用療法を受けたのは 57.0%であり、併用薬剤としてはペメトレキセドが多かった。単剤療法でもペメトレキセドが最も多く、ついでドセタキセルであった。
扁平上皮癌では、全身化学療法を受けた患者のうち、白金製剤併用療法を受けたのは 79.7%であり、併用薬剤としてはパクリタキセル、TS-1、ナブパクリタキセルが多かった。
単剤療法ではドセタキセルが最も多く、ついで TS-1 であった。
小細胞癌では、全身化学療法を受けた患者のうち、白金製剤併用療法を受けたのは 94.8%であり、他の組織型と比較し多かった。併用薬剤としてはエトポシドとイリノテカンが大部分を占めた。単剤療法を受けた患者は少ないが、薬剤としてはアムルビシンが最も多かった。

考察
本研究は日本の肺癌患者における治療実態を明らかにするために行われた。今回の結果から、高齢者にも若い世代の標準療法である白金製剤併用療法が行われていることが示された。また、白金製剤併用療法を受けている患者のうち、過半数がカルボプラチンを選択しており、高齢者ではその傾向が強いことがわかった。特に特定の遺伝子変異を持たない 75 歳以上の非小細胞肺癌においては、ガイドラインで単剤療法が推奨されているにも関わらず、カルボプラチン併用療法が選択されており、高齢者においても強度の高い化学療法が積極的に選択されていることがうかがえる。海外のガイドラインでは 70 歳以上の高齢者でもカルボプラチン併用療法を推奨していることからも、全身状態良好の高齢者に対しては若い世代と同じ標準治療が選択されていると考えられる。高齢は化学療法の有害事象のひとつのリスク因子だが、臓器障害や合併症などほかの因子の影響も強く、必ずしも年齢のみで治療レジメンを決定していないことがわかる。
一方、小細胞肺癌では高齢者においてもガイドラインでシスプラチン併用療法が第一選択とされているにも関わらず、カルボプラチンを選択する患者がほとんどであった。この背景としては、シスプラチンの毒性がカルボプラチンと比較し強いことや、腎障害の予防の目的で使用される大量補液の影響でシスプラチン併用療法は投与時間が長く外来投与が困難であるといった社会事情が考えられる。肺癌の治療選択の際には、治療の有効性だけでなく毒性や QOL も重視した選択がなされている可能性が示唆された。非小細胞肺癌の単剤療法の治療選択においても、第一選択であるドセタキセルが必ずしも選択されず、より患者の自覚する毒性が少ないペメトレキセドや TS-1 が好まれており、QOL を重視した選択がなされていると考えられる。
最近の高齢者に対する治療開発として、2013 年からカルボプラチンとペメトレキセドの併用療法とドセタキセルの比較試験である JCOG1210 が実施されており、2019 年になりカルボプラチン+ペメトレキセドの非劣性が示された。本研究は、この結果に先立ってカルボプラチン併用療法が普及していたことを明らかにしたとともに、カルボプラチン併用療法が実臨床でも安全に遂行できている可能性を示唆している。ガイドライン作成の際に実臨床における治療実態や治療成績を反映することは難しいが、高齢者のみならず、合併症患者、全身状態不良患者など臨床試験に登録されにくい患者の治療に関しては、本研究のような網羅性のある大規模データベースを用いて治療実態を把握することで、実態に見合った治療を現場に提示できる。またこのような結果を参考とした臨床研究による治療開発は、より実用的なものとなる。後方視的研究の重要性については近年改めて見直されており、世界的にも注目されている。
進行期肺癌の化学療法の進歩はめざましく、2019 年現在、非小細胞肺癌の標準治療は免疫チェックポイント阻害剤の登場により複雑化している。これらを用いた標準療法が若い世代の患者を主体とした研究で確立されるに従い、高齢者における最適な治療選択の議論も難しくなる。高齢者の治療選択に当たっては、高齢者に特化した前向き研究とともに、本研究のようなリアルワールドデータを活用することが重要である。

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