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大学・研究所にある論文を検索できる 「パラジウムナノ粒子触媒および連続照射型マイクロ波を組み合わせた生成物選択的なリガンドフリー Buchwald-Hartwig 反応の開発とそれを用いる salsolinol 誘導体の設計・合成」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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パラジウムナノ粒子触媒および連続照射型マイクロ波を組み合わせた生成物選択的なリガンドフリー Buchwald-Hartwig 反応の開発とそれを用いる salsolinol 誘導体の設計・合成

山田, 真希人 大阪大学

2022.03.24

概要

近年、金属やリガンドの使用量を抑えることが可能な金属ナノ粒子(NPs)触媒が開発され、これまでに各種カップリング反応などに使用されている。著者が所属する研究室においても、金やガラスに担持した金属NPs触媒を開発し、リガンドフリー触媒反応に利用している。

 ところで、環境低負荷な方法論構築のため可視光やマイクロ波といった外部エネルギーを利用した有機合成が盛んに研究されている。マイクロ波は、双極子モーメントの大きな物質・化学種により選択的に吸収、活性化されることで反応が加速される。一般的なマイクロ波を用いる反応では、双極子モーメントの大きい極性溶媒中での迅速加熱効果により望みの反応が促進されている。そのような反応では、従来、高出力のマイクロ波を瞬間的に照射し、短時間で反応液を設定温度まで昇温した後、その後は反応温度を維持するために断続的に低出力のマイクロ波を照射する装置を用いていた。一方、著者の所属する研究室では、反応温度が設定値に達しても連続的にマイクロ波を照射する装置を開発し、硫黄修飾金にRu NPsを担持した触媒SARuや硫黄修飾ガラスにPd NPsを担持した触媒SGlPdを用いる、塩化アリールの鈴木―宮浦カップリングに応用した。特にSGlPdを用いる反応では、マイクロ波を吸収することが知られる金属固体(アルミ箔)を添加することで、反応系中のマイクロ波吸収量が増加し、アルミ箔を添加しない場合に比べカップリング体の収率も向上するという興味深い結果が得られた。

 上で示したように、マイクロ波による反応時間短縮や反応促進は知られていたものの、前述のような双極子モーメントの違いによる化学選択的または生成物選択的な反応など、マイクロ波の更なる高度利用は未開拓であった。そこで著者は、従来の加熱条件では高温、強塩基条件にて副生成物が得られるBuchwald-Hartwig反応に着目し、PdNPs触媒、連続照射マイクロ波と共存金属固体を組み合わせ、副生成物の生成を抑え、目的のBuchwald-Hartwig反応成績体のみを与える新しい合成法の開発に取り組んだ(研究1)。また、研究1の反応をテトラヒドロイソキノリン(THIQ)環を持ち、モノアミン酸化酵素(MAO)への阻害活性(または親和性)を有することが知られている天然有機化合物salsolinol類縁体のN-アリール化誘導体の合成に応用し、計算化学との組み合わせにより新規MAO阻害剤候補化合物の創成を志向した研究にも取り組んだ(研究2)。

 まず、研究1について概説する。芳香族アミンは、医薬品、農薬、染料、ポリマーなどの幅広い分野において機能性有機分子の基本骨格に多く見られる。芳香族アミン合成法として、Buchwald-Hartwig反応が近年最も広く用いられている。Buchwald-Hartwig反応は、リガンドの設計により温和な条件で多様な反応基質に適用可能となっている。しかし、金属NPs触媒を用いたBuchwald-Hartwig反応は、その他のカップリング反応の報告に比べ少なくいくつかの欠点を有していた。報告例が少ない理由は、十分な活性を持つ触媒の調製や触媒反応の活性化が困難であるためと考えた。また、触媒活性が低い場合、高温、強塩基条件にてハロゲン化アリールからアラインの生成を経由して副生成物を与える。そこで著者は、双極子モーメントの大きな化学種をマイクロ波により活性化し、Buchwald-Hartwig反応成績体のみを得られないかと考えた。

 実際に著者は、4-ブロモアニソールとモルホリンをモデル基質とし、連続照射型マイクロ波を用いた反応の条件について検討した。その結果、4-ブロモアニソール、モルホリン、tert-カリウムブトキシド、SGlPdおよび銅板のp-キシレン溶液を、90°C、マイクロ波出力100Wで2時間加熱し、Pd NPs活性の維持のために反応を2段階に分け、1段階目終了時にSGlPdを除去し再度90°C、100Wで30時間加熱することで、アライン経由の副生成物を得ることなく目的のカップリング体のみを90%の高収率で得ることに成功した。本反応の基質適応範囲は広く、計算したものを含む他のハロゲン化アリールやモルホリン以外のアミンが本反応にも適応することができる。また、本反応においてSGlPdは10回以上繰り返し利用可能で、各回の目的物の収率は84―92%の高収率を維持し、さらに反応溶液中のPd漏洩量は0.33μgと極めて少なく抑えることができた。

 次に、研究2について概説する。MAOにはMAO-AとMAO-Bの2つのサブタイプがあり、どちらも食品や薬物から摂取されたモノアミンを代謝し、神経伝達物質を不活性化する役割を担う。これらのMAOが過剰に働くと、MAO-Aではうつ病、MAO-Bではパーキンソン病などの中枢神経系の疾患を誘導するためMAOは魅力的な創薬標的である。

 ところでsalsolinolは哺乳動物の脳内で生合成されるモノアミンであり、MAO-Bにより代謝され、MAO-Aに対しても親和性があることが知られている。また、salsolinolの誘導体であるsalsolidineやheliamineもわずかにMAO-Aに対して親和性または阻害活性を有していることが分かっている。さらにheliamineは、窒素上に官能基が付加することで阻害活性が向上し、MAO-Bに対しても阻害活性を示すことが近年報告された。

 このような報告がある中で、単純なアリール基が置換したsalsolinol類の誘導体のMAOに対する阻害活性に関する報告はない。そこで著者は、計算科学ソフトMaestroを用いてMAO-A,MAO-Bそれぞれにより適合するsalsolinol誘導体の構造を予測し、自身の開発した生成物選択的Buchwald-Hartwig反応によりN-アリール化salsolinol類誘導体を設計・合成した。

 Maestroによる計算の結果、heliamineの窒素に4-ヒドロキシメチルフェニル基や4-カルボキシフェニル基が置換した誘導体やsalsolidineの窒素に4-ヒドロキシメチルフェニル基が置換した誘導体は、MAO-A中のアミノ酸残機と水素結合を形成すると予測され、dockingscoreが元の反応基質やsalsolinolに比べ向上した。また、4-フルオロフェニル基、3,5-ジフルオロフェニル基、3,5-ビストリフルオロメチルフェニル基などのフッ素官能基を持つアリールが付加したheliamineでは、MAO-Bに対するdockingscoreが向上した。

 これらの誘導体を含む13個の化合物は、研究1で著者が開発したBuchwald-Hartwig反応により12-78%の収率で得られた。酸素官能基を持つような誘導体は、均一系金属触媒を用いる場合に低収率または反応が進行しないことがしばしばあり、リガンドを調整する必要があるが、本反応ではリガンドを用いる必要がなく、網羅的に誘導体合成が可能である点で価値ある手法であると考えている。

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