塩順化タバコBY-2細胞から分泌されたアラビノガラクタンタンパク質の解析によるアラビノガラクタンタンパク質の生合成と輸送の機構細胞
概要
九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
Mechanism of Biosynthesis and Transport of
Arabinogalactan Proteins Through the
Characterization of Their Secreted Forms from
Salt Adapted Tobacco BY-2 Cells
ウエケ アリンゼ ボニファス
https://hdl.handle.net/2324/7157401
出版情報:Kyushu University, 2023, 博士(農学), 課程博士
バージョン:
権利関係:Public access to the fulltext file is restricted for unavoidable reason (3)
氏
論
文
(NWEKE ARINZE BONIFACE)
名
ウエケ アリンゼ
名
Mechanism of Biosynthesis and Transport of Arabinogalactan
ボニファス
Proteins Through the Characterization of Their Secreted Forms
from Salt Adapted Tobacco BY-2 Cells
(塩順化タバコ BY-2細胞から分泌されたアラビノガラクタンタンパ
ク質の解析によるアラビノガラクタンタンパク質の生合成と輸送の
機構細胞)
論文調査委員
主
査
九州大学
教授
松岡
副
査
九州大学
教授
熊丸 敏博
副
査
九州大学
准教授
樋口 裕次郎
論
文
審
査
の
結
果
の
健
要
旨
アラビノガラクタンタンパク質(AGP)は、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)ア
ンカーによって細胞膜と結合している植物の細胞外プロテオグリカンである。動物細胞において、
このアンカーはホスホリパーゼによって切断され、その結果として GPI アンカーが除去されたタン
パク質が細胞外に分泌されることが知られている。この知見を受けて、植物細胞から細胞外に分泌
される AGP の分泌機構も、ホスホリパーゼによる GPI アンカーの切断によるものと推定されてい
た。
タバコ培養細胞 BY−2株など複数の植物細胞を高塩濃度の培地に順化させると、順化した細胞か
らの AGP の培地への分泌量が増大することが報告されている。しかし、AGP の生合成と細胞外へ
の輸送機構および分泌された AGP の構造的特徴の詳細はまだ明らかになっておらず、塩ストレス
下で分泌される AGP の性質についてもほとんど解析されていない。この分泌増大機構と分泌され
た AGP の性質を調べるため、タバコ AGP とサツマイモスポラミンの融合タンパク質(SPO-AGP)
を構成的なプロモーターを用いてタバコ BY-2 細胞で発現させ、細胞を塩適応させた後の SPO-AGP
の分泌量を検討した。塩適応細胞からの SPO-AGP 分泌量の増大は認められなかったため、高塩濃
度の培地に順化した細胞による AGP の分泌増大は AGP 遺伝子の発現制御によるものであり、AGP
が安定化するためではないと考えられた。一方、培地中に分泌された SPO-AGP を界面活性剤の一
種である TritonX-114 を用いた二相分配に供すると、SPO-AGP のかなりの割合が疎水性構造を有
する物質が濃縮される界面活性剤相に回収された。この結果は、SPO-AGP の一部が GPI アンカー
を持つことで界面活性剤相に回収されたことを示唆していた。また、ホスファチジルイノシトール
特異的ホスホリパーゼ C(PI-PLC)を用いた生化学的特性解析から、塩順化培地中に分泌された
GPI アンカー型 SPO-AGP は PI-PLC に耐性を持つ形態、すなわち GPI アンカーの脂質部分が未成
熟型であることが示唆された。
超遠心分離により沈降する SPO-AGP を含む画分を、細胞外小胞などを浮上させることでタンパ
ク質や糖質から分離する方法である OptiPrep の密度勾配を用いた浮遊アッセイに供したところ、
SPO-AGP の一部は密度勾配中で浮上し、OptiPrep 密度勾配における低密度画分に回収されること
を見出した。この結果は、分泌された SPO-AGP の一部が細胞外小胞または低密度の細胞外粒子に
結合している可能性を示していた。また抗 AGP 糖鎖抗体は低密度画分に含まれる糖タンパク質と
反応し、特に LM2 は他の抗 AGP 糖鎖モノクローナル抗体よりも低密度画分に存在するタンパク質
を強く認識した。塩順化非形質転換 BY-2 細胞から分泌された内在性 AGP は、OptiPrep 浮遊アッ
セイにおいて SPO-AGP 発現株から分泌された抗 AGP 糖鎖抗体反応性タンパク質と同様な挙動を
示した。またこれらの OptiPrep 密度勾配遠心において浮上した SPO-AGP および LM2 反応性糖タ
ンパク質は、かなりの割合で TritonX-114 を用いた二相分配において界面活性剤相に回収された。
これらのことは、GPI アンカーを持つ AGP が OptiPrep 密度勾配遠心において浮上する膜小胞また
は油滴に存在する可能性を示していた。
培地中の分泌物の免疫染色、脂質プローブによる脂質の蛍光染色と顕微鏡イメージングにより、
分泌された SPO-AGP と油滴染色性色素ナイルレッドにより染色される構造との部分的な共局在が
認められた。この観察結果から、塩順化タバコ BY-2 細胞から分泌された AGP の一部は GPI アン
カー型として油滴と結合していることが示唆された。これらの結果は、疎水性物質の植物細胞から
の分泌に、GPI アンカーを持つ AGP が寄与している可能性を示唆していた。
以上要するに、本研究は、塩適応した植物細胞において、GPI アンカー型の AGP が油滴と会合
して分泌される可能性を世界で初めて示したものであり、植物分子細胞生物学の発展に寄与する価
値ある業績と認める。よって本研究者は、博士(農学)の学位を得る資格があるものと認める。 ...