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睡眠覚醒サイクルに伴う海馬リップルの動態

岡田, 真実 東京大学 DOI:10.15083/0002002520

2021.10.15

概要

【序論】
新しく獲得した記憶は海馬で一時的に保存され、その情報が大脳皮質に送られることで安定した記憶になると考えられている。この過程は、記憶の固定化と呼ばれる。記憶の固定化に重要な役割を果たすと考えられているのが、海馬で生じるリップルである。リップルは高周波で振動する特徴的な脳波であり、主にノンレム睡眠時や無動覚醒時に発生する。リップル発生時には学習時の活動パターンが再生される。再生される活動パターンは常に同じではなく、その時々によって異なることが知られている。また、リップルの波形も多様である。類似した細胞集団の活動を伴うリップルの波形は類似しているということが示されており、リップルの波形は含まれる情報によって変化するものと考えられる。

しかし、リップルの波形とマウスの置かれた状況・状態との対応は明らかになっていない。それに加え、従来の研究は記憶との関連を調べるために短期的な観察がされることが多く、長期的に観察して詳細な解析を行った研究は存在しない。そこで本研究は、慢性的にリップルを観察する系を確立し、リップルがどのように長期変動するかを明らかにすることを目的とした。

【結果と考察】
1. 睡眠覚醒サイクルにおいてリップルの発生頻度が変化する
自由行動下のマウスから長期的にリップルを観察するため、海馬に記録電極を慢性的に埋め込んだ。電極埋め込み後、記録を開始するまで記録用環境内で飼育し、これをホームケージとした。本研究ではマウスの状態をノンレム睡眠、レム睡眠、無動覚醒、運動覚醒の 4 つに分類した。リップルは主にノンレム睡眠時、無動覚醒時に生じることが知られているため、この 2 つの状態に限ってリップルの検出を行った。ホームケージにおいてリップルを 24 時間にわたり観察したところ、リップルの発生頻度は時間経過、マウスの状態により大きく変動していた(図 1A)。1 時間ごとのリップルの発生頻度を調べると、暗期に高く明期に低い傾向が見られた(図 1B,D)。リップルの発生頻度はノンレム睡眠と無動覚醒で異なっているように見られたため、ノンレム睡眠と無動覚醒に分けて発生頻度を調べた。その結果、ノンレム睡眠、無動覚醒どちらにおいても、明期と比較して暗期の方が発生頻度が高いことがわかった(図 1C,D)。また、持続する睡眠、または覚醒の期間にもリップルの発生頻度が変化しているように見られた。そこで、持続する睡眠、または覚醒を三分割し、それぞれの期間におけるリップルの発生頻度を調べた。その結果、睡眠時には初期から後期に向けて発生頻度が減少し、覚醒時には増加することが分かった(図 1E)。以上の様なリップルの発生頻度の変動は海馬神経細胞の発火活動の変動と類似していることから、リップルの発生頻度は発火活動の変化を反映していると考えられる。

2. 睡眠覚醒サイクルにおいてリップルの波形の特徴が変化する
続いて、リップルの波形の特徴の変動を調べた。本研究ではリップルの波形を特徴づける指標として、リップルの持続時間、強度、ピーク周波数、ピークの相対位置を調べた。それぞれの特徴の経時変化をノンレム睡眠、無動覚醒に分けて調べた結果、特徴により異なる変動が見られた(図 2A)。また、暗期、明期における各指標の平均値を比較した結果、ピーク周波数はノンレム睡眠、無動覚醒のどちらにおいても暗期の方が高い値を示した(図2B)。さらに、持続する睡眠、または覚醒を三分割し、それぞれの期間における各指標の平均値を調べた。その結果、ピーク周波数は睡眠時には後期に向けて減少し、覚醒時には後期に向けて増加していくことがわかった(図 2C)。また、睡眠時においてはピークの相対位置が後期に向けて増加していた。以上の結果から、リップルの波形の特徴も睡眠覚醒サイクルにおいて変化することがわかった。特に、ピーク周波数はリップルの発生頻度と類似した変動を示し、規則的に変動することが明らかになった。

3. 新奇環境においてリップルの動態が変化する
最後に、神経活動の変化に伴うリップルの変動を調べた。マウスを新奇環境に提示すると、海馬神経細胞の発火頻度が上昇すること、他の環境とは異なる細胞集団が活動することが知られている。そこで、ホームケージで 24 時間記録後、新奇環境でさらに 24 時間記録を行った。リップルの発生頻度を調べると、ノンレム睡眠時にはホームケージと比較して変化はなかったが、無動覚醒時には特に暗期において上昇していた(図 3A)。さらに、リップルの波形の特徴の変動について調べた。個々の特徴は様々な変動を示したため、全ての特徴を基に Robust continuous clustering という手法を用いて、類似した特徴をもつリップルを複数のクラスターに分類した。各クラスターは類似した特徴をもつリップルを含んでいた(図3B)。各クラスターの発生頻度の経時変化を調べると、クラスターごとに異なる変動が見られた(図 3C)。新奇環境で発生頻度が増加するクラスターのリップルは持続時間が長く、ピーク周波数が高く、ピークの相対位置が高いという特徴を有していた。特にピーク周波数は、新奇環境における発生頻度の増加と高い相関を示した。以上の結果から、新奇環境においてリップルの発生頻度が上昇し、特定の波形のリップルが生じやすくなるということがわかった。このことから、新奇環境の情報がリップルの発生頻度や波形に反映されていることが推察される。

【総括】
本研究は、24 時間以上の長期にわたり慢性的にリップルを観察する系を構築したことで、自然な睡眠覚醒サイクルにおけるリップルの変動を捉えることに成功した。さらに、新しい数理科学的手法を適用したことで、長時間記録のデータの詳細な解析を可能にした。その結果、リップルの発生頻度、波形の特徴が睡眠覚醒サイクルの中で変動すること、新奇環境において発生しやすいリップルの波形が存在することを明らかにした。特に、リップルの発生頻度とピーク周波数は海馬で処理される情報をよく反映すると考えられる。本結果から、リップルの発生頻度や波形を見ることで、海馬の活動状態や活動する細胞集団の情報を抽出可能であることが示唆される。

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