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大学・研究所にある論文を検索できる 「拘束水浸ストレスおよび社会的敗北ストレスがマウスの睡眠へ及ぼす影響の解析とその比較」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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拘束水浸ストレスおよび社会的敗北ストレスがマウスの睡眠へ及ぼす影響の解析とその比較

安垣, 進之助 筑波大学

2023.09.04

概要









論 文 題 目:

拘束水浸ストレスおよび社会的敗北ストレスが
マウスの睡眠へ及ぼす影響の解析とその比較

指導教員:
人間総合科学研究科生命システム医学専攻
柳沢正史教授



属:筑波大学大学院人間総合科学研究科
生命システム医学専攻



名:安垣進之助



的:

本研究では,うつ病の発症過程で睡眠構築の変化がどのように現れるかを解明するこ
とを目的とした.そのために,ストレス曝露がマウスの睡眠へ及ぼす影響を解析しようと
試みた.ストレス曝露の方法として,マウスにうつ様表現型を生じることが知られている
拘束水浸ストレス(water immersion and restraint stress: WIRS)モデル,および社会的
敗北ストレス(social defeat stress: SDS)モデルという,異なる 2 つのストレスモデルを用
いた.それぞれについて,様々なパラメータに注目し,観察された睡眠変容からストレ
スと睡眠との関係性について考察しようと試みた.また,SDS モデルでみられる睡眠変
容 の 生 理 的 作 用 を 解 明 す る た め , メ ラ ニ ン 凝 集 ホ ル モ ン ( melanin-concentrating
hormone: MCH)産生ニューロンの活動に注目し,当該ニューロン除去マウスにおける
SDS 曝露誘発性のうつ様表現型への影響についても検証した.
対象と方法:
・WIRS 曝露
遠心チューブ内に B6J マウスを拘束し,マウスが逃げないよう,各チューブに延伸ネッ
トを被せ,ネットとマウスの尾をゴムバンドで固定した.マウスが入った遠心チューブを,
ZT0.0 から ZT2.5 のあいだで 2 時間,垂直に立てて胸部(剣状突起のあたり)まで水に
浸した.このストレスセッションを 1 日 1 回,睡眠記録中の 1 日を除く週 6 日間連続で,
3 週間にわたっておこなった.WIRS 誘発性のうつ様表現型は,強制水泳テスト,ショ
糖嗜好性テスト,および体重測定により評価した.
・SDS 曝露
B6J マウスを攻撃マウス(ICR 系統)のホームケージに移し,10 分間にわたり身体的接
触をさせた.10 分間のストレスセッションの後,B6J マウスをホームケージへ戻し,翌日
のセッションまで隔離された状態とした.このストレスセッションを 1 日 1 回,10 日間連
続しておこなった.SDS 誘発性のうつ様表現型は,社会的相互作用テスト,高架式十
字迷路,および体重測定により評価した.
・MCH 産生ニューロン除去マウスの作製
Pmch iCre/iCre マウスと野生型 C57BL/6J マウスとの交配により得た Pmch iCre/+ マウスと,
NSE
iCre/+

LSL-DTA/ LSL-DTA

; NSE

LSL-DTA/+

マウスとの交配により,MCH 産生ニューロン除去マウス(Pmch

)を作製した.

・脳波(electroencephalogram: EEG)・筋電図(electromyogram: EMG)の記録,解析
WIRS を用いた実験では,EEG・EMG 記録は計 4 回(Baseline,ストレス曝露 1W,
ストレス曝露 2W,ストレス曝露 3W)おこなった.SDS を用いた実験では,EEG・
EMG 記録は計 3 回(Baseline,ストレス曝露 Day 1,ストレス曝露 Day 10)おこ
なった.4 秒ごとに 1 エポックとして区切り,SleepSign ソフトウェア(Kissei
Comtec, Nagano, Japan)を使用した自動解析により各エポックを覚醒,ノンレム

睡眠,レム睡眠のいずれかの状態に振り分けたのち,手動で確認・修正した.


果:

・WIRS 曝露は睡眠・覚醒のパラメータにさまざまな影響を及ぼした
全体の傾向として,1W,2W,3W のすべてにおいて,WIRS 曝露後にはノンレム睡眠
量が増加し,対照的に,覚醒量は減少していた.レム睡眠量については,1W で大きく
増加し,2W および 3W ではその傾向が鈍化した.なお,これはエピソード回数の増加
に起因するものであった.EEG パワースペクトルへの影響についても解析したところ,
ノンレム睡眠中のデルタパワーが減少していた.これは 1W で最も顕著であった.また,
暗期におけるレム睡眠量の変化は,身体症状のひとつである体重変化とのあいだに
負の相関があった.
・SDS 曝露は睡眠・覚醒のパラメータにさまざまな影響を及ぼした
全体の傾向として,Day 1,Day 10 ともに,SDS 曝露後には覚醒量の減少とそれに伴う
ノンレム睡眠量の増加がみられた.レム睡眠量の変化はよりダイナミックであった.明
期の前半ではレム睡眠量が減少し,暗期では,レム睡眠量が増加した.また,WIRS
曝露とは異なり,睡眠の断片化やレム潜時の短縮がみられた.EEG パワースペクトル
への影響については,暗期におけるノンレム睡眠中のデルタパワーの減少や,レム睡
眠中のシータパワーの減少がみられた.
・MCH 産生ニューロンは SDS 曝露による行動変容に寄与しているかもしれない
MCH 産生ニューロン除去群では,対照群と比較して,SDS 曝露後の社会的関心の程
度に差が生じる傾向があった.


察:

本研究は,WIRS を用いることにより,3 週間という長期間にわたるストレス曝露がマウス
の睡眠構築へ及ぼす影響を解析した初めての例である.WIRS 曝露は,うつ病患者に
みられる睡眠異常と同様に,マウスにおけるレム睡眠量の増加を誘導した.この効果
は 1W で特に顕著であった一方,2W および 3W では増加の程度が 1W よりも小さい
様子であった.このことから,ストレスに長期間にわたり曝露され続けることで,レム睡
眠量の増加という,本来みられるはずのストレス環境に対する睡眠の適応的変化が,
徐々に鈍化した可能性がある.また,WIRS へ曝露されたマウスは,ノンレム睡眠中の
デルタパワーが減少していた.これは,うつ病患者における徐波睡眠の減少という観
察結果と一致する.
SDS モデルを用いた睡眠解析では,レム睡眠は,SDS 曝露直後には急激に抑制され,
暗期で大きく増加に転じた.Day 1 と Day 10 とを比較すると,レム睡眠量の増加のしか
たは Day 10 において鈍化するような傾向がみられた.これは,WIRS 曝露により生じた
睡眠変化における,“ストレス曝露初期と比べ,後期ではレム睡眠の変化のしかたが鈍

化する”という特徴と類似している.さらに,SDS 曝露後にはレム睡眠潜時の短縮,お
よび睡眠の断片化がみられた.これは,うつ病患者における睡眠で頻繁にみられる特
徴であり,WIRS 曝露では観察されなかった変化である.
総じて,曝露されるストレスのタイプにより,睡眠変容のしかたもそれぞれ異なるのかも
しれない.
また,MCH 産生ニューロン除去マウスでは,SDS 曝露後に生じる行動変容が対照群と
は異なる傾向にあった.SDS 曝露はレム睡眠量をダイナミックに変化させたが, MCH
産生ニューロンはレム睡眠中に活動が最も高くなることが知られていることから,MCH
産生ニューロンの除去により,レム睡眠中の MCH 産生ニューロンの活動によって本来
もたらされる作用にも影響が生じたのかもしれない.


論:

本研究は,マウスにうつ様行動を誘発するための 3 週間の WIRS 曝露,および 10 日
間の SDS 曝露が,睡眠構築にどのような影響を及ぼすかを明らかにした.興味深いこ
とに,睡眠構築の変化は,ストレス曝露初期で顕著であったが,慢性的に曝露を継続
することにより,その変化の程度が徐々に鈍化した.さらに,観察されたいくつかの睡
眠変容は,うつ病患者に生じる睡眠障害の特徴を再現するものであった.本研究では,
WIRS と SDS という,異なる 2 つのストレスモデルを用いて,それぞれに対する応答を
観察した.WIRS モデルと SDS モデルでは共通してストレス曝露初期にレム睡眠が大
きく増加した.一方,うつ病患者にみられる睡眠異常の代表例のうち,明期・暗期で一
貫したデルタパワーの減少は WIRS モデルにおいて,睡眠の断片化,レム睡眠潜時
の短縮は SDS モデルにおいて,といったように,その特徴が個別に再現された点は重
要なポイントである.このように,ストレスモデルのタイプによってマウスの睡眠に生じる
変化も異なりうることが明らかとなり,うつ病自体が多様な睡眠特性をもつ疾患であるこ
とも示唆された.

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