EELSスペクトルの計算機シミュレーション
概要
令和4年度
京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
EELS スペクトルの計算機シミュレーション
Computer simulation of EEL Spectrum
京都大学 化学研究所 複合ナノ解析化学領域
根本 隆
研究成果概要
走査透過型電子顕微鏡(STEM)法と電子エネルギー損失分光(EELS)法の組み合わせは、
局所分析法としては非常に有用であり、様々な研究に用いられている。しかし、一方で様々な
情報が重畳してスペクトルに現れるため、その解析には困難が伴い、様々な計算科学的手法
によるスペクトル解釈が広く用いられてきた。近年では、電子顕微鏡の電子源にモノクロメータ
を組み込むことにより、エネルギー分解能の高い詳細なスペクトルが得られるようになってきて
おり、従来は解釈が困難であった、吸収端微細構造の測定が可能となってきた。本研究にお
いては、高エネルギー分解能 EELS スペクトルの解釈において試料原子の熱振動がスペクト
ルに与える影響について、主として VASP ソフトウェアを用いた解釈を試みている。
熱振動をフローズンフォノン法を用いて近似し、原子位置が熱振動により平衡位置からわず
かにずれていると考えて、乱数により摂動を与えた構造モデルを多数生成して各構造に対応
するスペクトルを計算によりシミュレートして平均化することにより、構造モデルから実験スペクト
ルを再現することを目標として計算を行った。
比較的小規模な計算を多数回行うため、1構造あたりの計算で使用する CPU を減らし、多
数の構造について並列して計算を行うよう設定を行
った。
現在は SrTiO3 や類似酸化物結晶の Ti L edge
について検討を進めているが、今のところスペクトル
の再現度が十分でなく、原因の検討を行っている段
階である。粉末 X 線回折法などによって解析された
熱振動の文献値が文献により大きく異なっている問
題もあり、データの信頼性の検討を行うとともに、熱
振動パラメータについてもシミュレーションにより解析
することも検討中である。。 ...