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大学・研究所にある論文を検索できる 「汽水湖コアを用いた短周期(200~500年)のモンスーン変動の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

汽水湖コアを用いた短周期(200~500年)のモンスーン変動の解明

山田, 桂 信州大学

2020.03.05

概要

1版

様 式 C−19、F−19−1、Z−19 (共通)

科学研究費助成事業  研究成果報告書
平成 30 年

6 月 21 日現在

機関番号: 13601
研究種目: 若手研究(B)
研究期間: 2015 ∼ 2017
課題番号: 15K17775
研究課題名(和文)汽水湖コアを用いた短周期(200∼500年)のモンスーン変動の解明

研究課題名(英文)Centennial-scale monsoon variation by using sediment cores in blackish lake

研究代表者
山田 桂(Yamada, Katsura)
信州大学・学術研究院理学系・准教授

研究者番号:80402098
交付決定額(研究期間全体):(直接経費)

3,200,000 円

研究成果の概要(和文):私たちの暮らす日本列島の気候は,東アジアモンスーンに大きな影響を受けている.
本研究では,西日本の汽水湖に生息した微小甲殻類の殻の酸素同位体比を測定し,過去3000年間の東アジアモン
スーン強弱について特に数百年間隔で復元した.その結果,モンスーンのタイミング,変動の周期に基づき3つ
の時期に区分された.紀元前800∼100年までは東アジア全域や太陽活動と共通する周期が見られた.紀元前100
年以降は地域内の変動や太陽活動との一致は見られなかった.西暦300年以降は一部の地域のみで共通する数百
年周期の変動が見られた.これらのことは,太陽活動は限られた時期にモンスーンに影響を与えていたことを示
す.

研究成果の概要(英文):Climate in Japanese Islands are strongly affected by East Asian summer
monsoon (EASM). We reconstructed centennial-scale East Asian summer monsoon intensity during the
past 3000 years based on oxygen isotope ratio of ostracode shells, which are small crustaceans, in
brackish lake, southwestern Japan. Three intervals were recognized on the basis of the EASM
intensity, timing and cyclic periodicity. The 200 year periodicity was identified in East Asian
summer monsoon records and atmospheric 14C relating to solar activities in the periods of
BC800-BC100. No correlation between our data and other EASM records and sun activity during the
periods of BC100-AD300. Further, common multi-centennial scaled cycles in EASM variations were
identical in some area since AD300. These observations infer that sun activity affected to
centennial scaled EASM variations in a restricted intervals.

研究分野: 古生物学
キーワード: 東アジアモンスーン 気候 完新世 貝形虫 酸素同位体比

様 式 C−19、F−19−1、Z−19、CK−19(共通)
1.研究開始当初の背景
日本を含めたアジアモンスーン地域には,
世界の 6 割以上の人々が生活している.モン

百年周期の変動に太陽活動度があるが,これ
と過去 1,700 年間の夏季モンスーン変動を比
較しても,関連は認められなかった.

スーンは影響下にある地域の降水量を変化
させ,私たちの生活に深く関与する.特に夏
季モンスーンは大陸や日本列島に雨を降ら
せ,人々はその恩恵を受ける一方で,過去に
は洪水や干ばつなどの自然災害も引き起こ
してきた.にもかかわらず,アジアモンスー
ンの駆動メカニズムはどのようなものか,世
界の気候とどう関与しているか,はほとんど
明らかになっていない.また,過去のアジア
モンスーン変動は,10,000 年周期の変動は軌
道要素による夏の日射量変化(Dong et al.,
2010)と,1,000 年周期のモンスーン変動は
北半球高緯度のグローバルな気候変動(Gupta
et al., 2003)と一致することが示された.しか
し,200〜500 年周期の気候変動をもたらして
いるモンスーン変動は,その変動機構等を含
めて不明なままである.
研究代表者は西日本の汽水湖である中海

2.研究の目的
そこで本研究は,中海における底質堆積物
を用い,堆積物,貝形虫の群集変化および殻
の酸素同位体比分析,堆積物中の化学組成分
析を行う.夏季および冬季のモンスーン変動
を過去 8,000 年までさかのぼって復元し,以
下のことを明らかにする.
(1)200〜500 年周期の夏季モンスーン変動
は,いつまでさかのぼって追跡できるのか?
(2)冬季モンスーンも 200〜500 年周期で変
動するのか?
(3)夏季モンスーン変動は過去 8,000 年間を
通して,北緯 30〜40°の地域に共通するの
か?
(4)200〜500 年周期のモンスーン変動の駆
動要素はなにか?
3.研究の方法

の湖底で採取された柱状試料について,堆積

本研究では,200〜500 年周期の夏季・冬季

物,微小甲殻類(貝形虫)とその殻の酸素同

アジアモンスーン変動について,変動パター

位体比分析を行い,過去 1,700 年間に起こっ

ンや東アジアでの共通性について明らかに

た 200〜500 年ごとの気候変動を見いだし,

するために,1) 中海底質試料の採取,2) 堆

200〜500 年ごとの気候変動は東アジア夏季

積相変化の把握および 14C 年代測定による高

モンスーン強度を反映しており,5 回の弱体

精度年代モデルの作成,3) 貝形虫群集解析に

化期があったことを初めて突き止めた.これ

よる長期的・地域的古環境変化の把握,4) 貝

らの過去 1,700 年の夏季モンスーン変動は,

形虫 Bicornucythere bisanensis 殻の酸素同位体

北緯 30〜40°の地域で共通していた.

比分析によるモンスーン変動の復元,5)全

一方で,研究代表者の現在までの研究は,
以下の問題がある.
(1)酸素同位体比分析に用いた貝形虫殻の
個体数が少なく,精度に問題が残る.
(2)夏季モンスーン変動しか復元しておら
ず,気候変動の全容は解明できていない.
(3)過去 1,700 年までしか明らかにしておら
ず,この変動がどこまで追跡可能かわかって
いない.
また,地球規模の気候変動に影響を与える数

有機炭素,全窒素,全硫黄濃度(CNS)分析
に基づく湖内酸化還元状態の復元,を行った.
4.研究成果
2015 年 9 月に中海湖心部において N2015
コアを採取した.記載・分割後 14C 年代測定
法による堆積速度曲線を求め,コア中の貝形
虫群集,貝形虫 Bicornucythere bisanensis の成
体殻及び最後の幼体(A-1)殻の酸素・炭素
同位体比分析,堆積物の全有機炭素量,全窒
素量,全硫黄量濃度測定をそれぞれ行った.

ため,またコア深度 350.5 cm の年代がコア深

(1)N2015 コア
2015 年 9 月 28 日に島根大学エスチュアリ

度 371 cm よりも古い年代を示したため,こ

ー研究センター所有のマッケラス空気圧式

れらの年代値は用いず,他の 8 試料の放射性

ピストンコアラーで中海湖心部(35°28.205 ’

炭素年代(BP)を用いて,堆積速度曲線を作

N・133°10.894’E)から試料を採取した.採取

成した(図 1)


した N2015 コアの直径は 7.5 cm,
コア長は 387
cm であった.同コアの岩相は全体的に貝殻
を含むシルト層で,コア深度 136 cm,210 cm,
219 cm,300 cm,307 cm,318 cm および 355 cm
に貝殻密集層が存在した(図 1)
.また,コア
深度 326 cm,340 cm,355 cm および 374 cm
にコケムシが存在した.
コアは半割後,肉眼による記載を行い,土
色計 SPAD-503(コニカミノルタ)で色(L*,
a*,b*)を測定した.その後幅が約 2.2 cm の
キューブを埋め込み,帯磁率測定用試料を採
取した.その残りの 2/3 を全有機炭素・全窒

図 1 N2015 コアの柱状図と堆積速度曲線

素・全硫黄測定用試料に,1/3 を粒度・含水
率測定用試料とし,それぞれ 1cm ごとに分割
した.もう片方は,長さ 25 cm のプラケース

(3)炭素・酸素同位体比分析
1 cm 間隔で分割したコア試料は 63 µm の篩

を埋め込み,軟 X 線用試料として採取した.

上で水洗し,残渣を常温で乾燥させた.その

その残りを貝形虫用試料とし,1 cm ごとに分

試料から貝形虫を拾い出し,さらにその中か

割した.貝形虫用,全有機炭素・全窒素・全

ら B. bisanensis のできるだけ透明な殻を,成

硫黄用および含水率用のすべての試料の湿

体殻は 3∼5 個体,A-1 幼体殻は 10 個体取り

重量を測定した.

出し,クリーニング後,高知大学海洋コア総
14

(2)N2015 コアの C 年代測定

合研究センターの安定同位体比質量分析計

再堆積の可能性の少ない保存状態の良い

MultiPrep-IsoPrime を用いて酸素・炭素同位体

二枚貝(7 サンプル)および植物(3 サンプ

比を測定した.
測定精度は δ13C で 0.05‰,
δ18O

ル)の 14C 年代測定を,株式会社地球科学研

で 0.06‰である.

究所を通じて Beta Analytic Inc. に依頼し加速

N2015 コアに含まれる成体殻計 166 試料は

器質量分析計により行った.測定の結果,全

コア深度 387∼207 cm(BC884∼AD1072 年)

14

14

ての試料について C 年代が求められた. C

から選択し,測定に必要な殻の数である 3 個

年代値から暦年代への補正は Intcal13(植物)

を満たす試料について,全ての試料の測定を

及び Marine13(貝)
(Reimer et al., 2013)の較

行った.コア全体としては,δ18O は−1.347

正曲線を用いている.地域的な海洋リザーバ

∼0.865‰の範囲で変動し(図 2)
,δ13C は−

ー効果の補正については海洋全体の平均的

6.396∼−3.855‰の範囲で変動した.コア深

リザーバー年代の約 400 年のみを用いた.14C

度 387∼295 cm
(BC884∼AD403 年)
では,
δ18O

年代から暦年代の較正には誤差 2σ(95%確

は−1.086∼0.865‰の範囲で変動し,δ13C は

率)で示した.コア深度 159 cm の年代が他

−5.770∼−3.855‰の範囲で変動した.また,

の値に基づく曲線から外れた年代を示した

コア深度 294∼207 cm(AD414∼AD1072 年)

では,δ18O は−1.347∼0.518‰の範囲で変動
13

年から AD387 年にかけて,緩やかに低下す

し,δ C は−6.396∼−4.256‰の範囲で変動

る傾向を示した.δ13C に関しては,特に変

した.δ18O と δ13C はどちらも,細かな増減を

動パターンは見られず,ほぼ一定に推移した.

伴いつつ,深度が浅くなるにつれて(現在に

(4)全有機炭素・全窒素・全硫黄濃度測定

近づくにつれ)減少傾向を示した.

N2015 コアの BC884∼AD1072 年に相当す
るコア深度 387∼207 cm で分析可能な計 179
試料についての TOC 濃度,全窒素(TN)濃
度の測定を行った.また,計 154 試料につい
ての全硫黄(TS)濃度の分析を行った.測定
の結果,TOC 濃度は 1.280∼4.12%の範囲で,
TN 濃度は 0.116∼0.288%の範囲で,TS 濃度

図 2 過去 2800 年間の貝形虫の成体殻の酸

は 0.709∼1.320%の範囲で変動した.TOC 濃

素・炭素同位体比曲線.

度は 1.280∼3.173%であった.また,C/N 比
は 7.412∼14.231 の範囲で,C/S 比は 1.531∼

加えて,78 試料について A-1 幼体殻の酸
素・炭素同位体比測定を行った.試料につい

2.994 の範囲で変動した.
(5)考察

ては,コア深度 387∼296 cm を対象とし,測

既存研究の X コアの成果(Yamada et al.,

定に必要な殻の数である 8 個を満たす試料に

2016)と総合し,過去 2800 年間のデータを

ついて,全ての試料の測定を行った.コア深

得ることができた(図 2).成体の B. bisanensis

度 297 cm から 387 cm,年代にして AD387

殻の酸素同位体比は,BC800 年以降長期的に

年から BC883 年では,δ13C は-5.45‰から

低下した.貝形虫群集によれば中海の塩分は
徐々に低下したと推察されることから,酸素
同位体比の長期的な低下は湖内の塩分低下
によると推察される(図 4).

図 4 過去 2800 年間の貝形虫の成体殻の酸素
同位体比と古環境.
図 3 BC800 から AD300 年の貝形虫の A-1 幼体
殻の酸素・炭素同位体比.

この地域的な要因を排除するため,標準化し
た酸素同位体比変動を求め他地域の東アジ
ア夏季モンスーン(EASM)変動及び太陽活

-4.19‰の範囲で変化し,δ18O は-0.138‰か

動を示す大気中の Δ14C と比較した(図 5).

ら 0.947‰の範囲で変化した(図 3)
.δ18O

また,ウェーブレット解析およびスペクトル

の変動は,BC883 年から BC750 年にかけて

解析を行い,周期と卓越時期を明確にした.

は減少,BC750 年から BC1 年にかけては増

標準化した酸素同位体比の周期や変動パタ

加,BC1 年から AD387 年にかけては減少を

ーンにより,BC800 年以降は 3 つに区分され

示した.また,全体を通して見ると,BC883

た.Stage A(BC800∼BC100 年)では,EASM

変動と大気中の Δ14C に 200 年周期と共通の

約 AD300 年までは 300〜500 年周期,AD300

変動パターンがみられ,東アジア全域の

〜BC100 は卓越周期が見られず,BC100〜

EASM が太陽活動に影響を受けていたと考え

BC800 は 200 年周期が卓越していたことが明

られる.Stage B(BC100∼AD300 年)では,

らかになった.

EASM 変動と大気中の Δ14C の振幅がともに

(2)冬季モンスーンも 200〜500 年周期で変

小さくなるものの,周期やパターンの共通性

動するのか?

はみられなかった.Stage C(AD300∼AD1800
14

少なくとも BC800〜AD300 年に関しては,

年)では,他地域の EASM や大気中の Δ C

卓越周期は認められなかった.

との共通性は認められず,エルニーニョ・南

(3)夏季モンスーン変動は過去 8,000 年間を

方振動(ENSO)と類似した変動がみられた.

通して,北緯 30〜40°の地域に共通するの

EASM と太陽活動との関係は北緯 33 度の日

か?

射量が大きかった BC800〜AD300 年のみに

BC800〜BC100 年は東アジア全域に共通し

見られたことから,EASM 強度は日射量の大

た.しかしながら,BC100 年以降は限られた

きい時期にのみ太陽活動の影響を受けてい

地域にのみ共通した.

たと推察される.

(4)200〜500 年周期のモンスーン変動の駆
動要素はなにか?
BC800〜BC100 年については,太陽活動と同
じ周期が認められたことから,太陽の強弱が
モンスーンの変化を引き起こしていると推
察される.BC100〜AD300 年は明瞭な要因は
わからなかった.AD300 年以降は日本列島周
辺については,ENSO と関係が最も強かった
ことから,この変動がモンスーンに影響を与
えていると考えらえる.
5.主な発表論文等
〔雑誌論文〕
(計 6 件)
➀ Yamada, K., Masuma, T., Seto, K., Uchida,
M.,

Amano,

A.,

and

Sampei,

Y.,

Paleoenvironments and relative sea-level
changes caused by regional tectonics during
図 5 過去 2800 年間の東アジア夏季モンスー

the last 4500 years in Kumihama Bay,

ン変動と太陽活動,ENSO,北緯 30°N の日射

northern Kyoto Prefecture, central Japan.

量との比較.

Quaternary International, 471, 332-344, 2018,

A-1 の殻の酸素同位体比からは,明瞭な周期
を捉えることはできなかった.以上のことか

査読有.doi: 10.1016/j.quaint.2017.11.029
② Yamaguchi, T., Kuroki, K., Yamada, K.,

ら,当初の(1)〜(4)の目的に対して,以

Itaki, T., Niino, K., Motoyama, I.,

下の結果が得られた.

Pleistocene deep-sea ostracods from the Oki

(1)200〜500 年周期の夏季モンスーン変動

Ridge, Sea of Japan (IODP Site U1426) and

は,いつまでさかのぼって追跡できるのか?

condition of the intermediate water.

Quaternary Research, 88, 430-445, 2017,査
読有,doi: 10.1017/qua.2017.68

集に基づいた中海の過去2800年間の古環

③ Yamada, K., Kuroki, K., Yamaguchi, T.,
Data

report:

Pliocene

and

④ 小原一馬・山田 桂・瀬戸浩二,貝形虫群

Pleistocene

境変遷.日本地質学会第123年学術大会,
2016年,東京桜上水.

deep-sea ostracods from Integrated Ocean

⑤ 黒木健太郎・山田 桂・瀬戸浩二・池原 実,

Drilling Program Site U1426 (Expedition

中海における冬季古環境指標としての貝

346). In Tada, R., Murray, R.W., Alvarez

形虫殻の安定同位体比,汽水域研究会,

Zarikian, C.A., and the Expedition 346

2016年,松江市

Scientists, Proceedings of the Integrated
Ocean Drilling

Program,

346:

College

⑥ 山田 桂・増馬鉄朗・瀬戸浩二・内田昌男・
天野敦子・三瓶良和,京都府北部久美浜湾

Station, TX (Integrated Ocean Drilling

における過去4500年間の相対的海面変動

Program). 2017, 査読無,

と古環境変遷.日本地質学会第122年学術

doi:10.2204/iodp.proc.346.201.2017

大会,2015年,長野市.

④ Yamada, K., Masuma, T., Sakai, S., Seto, K.,
Ogusa, H., and Irizuki, T., Centennial-scale
East Asian summer monsoon intensity based
on 18O values in ostracode shells and its

6.研究組織
(1)研究代表者
山田 桂 (YAMADA,Katsura)
信州大学・学術研究院理学系・准教授
研究者番号:80402098

relationship to land-ocean air temperature
gradients over the last 1700 years. ...

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