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複合生態フィールド教育研究センター報告 第36号

東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センター 東北大学

2021.03.31

概要

複合生態フィールド教育研究センター報告 第36

著者
雑誌名

ページ
発行年
URL

東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィールド
教育研究センター
複合生態フィールド教育研究センター報告
36
1-84
2021-03-31
http://hdl.handle.net/10097/00134573

ໝࣣ୆ఠέͻȜσΡ‫ݪࡄ֗ޗ‬ΓϋΗȜ༭࣬
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Bulletin of Integrated Field Science Center
No.36
March 2021

൐ཤఱ‫ڠ‬ఱ‫֭ڠ‬෠‫௺້شݪࡄڠ‬ໝࣣ୆ఠέͻȜσΡ‫ݪࡄ֗ޗ‬ΓϋΗȜ

序        文

2019 年 12 月末に中国で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID -19)が世界中で猛威を振るっています。発生から 1
年経った今でも,終息の兆しは見えません。本学では感染拡大を防止するため,「新型コロナウイルス感染拡大防止のため
の東北大学の行動指針(BCP)
」を策定し,各部局で管理体制を構築し,対応にあたってきました。フィールドセンターにお
いても,感染防止対策マニュアルの策定,消毒の徹底,時差通勤,居室の分散化,テレワーク,オンラインでの授業や会議
の推進などの 3 密(密接,密集,密閉)の回避等,徹底した対策を実施してきました。
新型コロナウイルスの感染拡大は,フィールドセンターの教育・研究・生産活動に大きな影響を及ぼしています。研究の
停滞による影響はもちろんのこと,実習面でも内容や規模の縮小により,学生の皆さんにフィールドセンターの広大さと多
様さを伝える機会が減ってしまいました。また,授業のオンライン化により,農学を学ぶ上でとても重要な「触る」「嗅ぐ」
「味わう」といった体験や共同作業を行う機会も大きく減ってしまいました。改めて,五感をフルに使い,コミュニケーショ
ンをとりながら農学フィールドを学ぶことの重要性を強く認識しています。生産面では,市場価格の低下や販売先の減少に
よる農場収入の減少が生じています。本号に掲載されている業務報告は令和元年度の内容であり,新型コロナウイルス感染
前の状況です。1 日も早く事態が終息し,コロナ前の状況に戻ることを願うばかりです。
今年はこのように大変な状況ではありましたが,8 月には川渡フィールドセンターが教育関係共同利用拠点第 3 期
(2021 - 2025 年度)として再認定されたことは大きな成果です。また,女川フィールドセンターでは,東北マリンサイエン
ス研究拠点事業が最終年度を迎え,2011 年からの 10 年間にわたる活動の経緯や成果を記載した「東北マリンサイエンス拠
点形成事業(海洋生態系の調査研究)成果報告書」が刊行されました。さらに,農工連携等による農林水産業および農山漁
村の復興と活性化を目指した「次世代農業農村創造センター」(仮称)構想の中では,川渡フィールドセンターが実規模実
証研究の拠点として位置づけられています。女川フィールドセンターでも海洋域における農工連携の拠点として発展させる
べく検討が進められています。複合生態フィールド制御部(仙台)では,農工連携の柱となる IT 農学・地域計画に関する産
学連携等の取り組みが進められています。
コロナ禍で世界が大きく変わりつつある今日,フィールド教育・研究においても IT 技術を取り入れた新たな教育研究の在
り方を示していく必要があると同時に,フィールド本来の「五感で体験しながら学ぶ」ことの重要性を再認識し,両者を融
合させた新たなフィールド教育プログラムを創出する時に来ていると感じています。フィールドセンター 3 部門 6 分野の教
員とその教育研究をサポートする技術職員および組織運営面をサポートする事務職員が連携し,新型コロナウイルス感染症
の対策を徹底しながら,先導的なフィールド教育研究を展開していきたいと思っています。

2020 年 12 月

複合生態フィールド教育研究センター長  小 倉 振一郎

目       次

Ⅰ.研 究 報 告
  1 .投稿論文 ………………………………………………………………………………………………………………………

1

  2 .研究業績 ………………………………………………………………………………………………………………………

6

Ⅱ.業 務 報 告
  1 .概  況 ……………………………………………………………………………………………………………………… 20
  2 .教育関係 ……………………………………………………………………………………………………………………… 36
  3 .開放講座等 …………………………………………………………………………………………………………………… 37
  4 .令和元年度 講演会・研修会等関係 ……………………………………………………………………………………… 42
  5 .令和元年度の主な来訪者等 ………………………………………………………………………………………………… 43
  6 .農産・飼料関係 ……………………………………………………………………………………………………………… 50
  7 .畜産関係 ……………………………………………………………………………………………………………………… 60
  8 .林木関係 ……………………………………………………………………………………………………………………… 69
  9 .機械関係 ……………………………………………………………………………………………………………………… 69
 10.事務関係 ……………………………………………………………………………………………………………………… 72

Ⅲ.資     料
  1 .研修報告………………………………………………………………………………………………………………………… 75
  2 .職員等一覧表 ………………………………………………………………………………………………………………… 83

Ⅰ.研 究 報 告

目          次

1.投 稿 論 文
研究論文
   和田沙都子・今野 真輔・寺田 文典・小倉振一郎・深澤 充:
   出生直後の馴致がその後の管理作業時の行動反応と血漿中コルチゾル濃度に与える影響 ………………………

1

2.研 究 業 績 ……………………………………………………………………………………………………………… 6

センター報告 36:1-5(2021)

1

出生直後の馴致がその後の管理作業時の行動反応と
血漿中コルチゾル濃度に与える影響
和田沙都子 1,3・今野真輔 2・寺田文典 1,4・小倉振一郎 1・深澤 充 1*

The effect of early stroking on calf behavioural response and plasma cortisol concentration during later
managements
Satoko WADA1, 3, Shinsuke KONNO1, Fuminori TERADA1, 4, Shin-ichiro OGURA1,
Michiru FUKASAWA1*
キーワード:愛撫,誘導,体重測定,採血

緒言

そこで本研究では,出生直後に馴致を行った子牛と行わな

我が国のウシの管理上の課題の 1 つに,管理作業中のウ

かった子牛の 6 から 8 か月齢時における誘導,体重測定お

シの粗暴な行動によって,作業者がウシに激突されたり,

よび採血の一連の管理作業に対する行動反応とストレス刺

ウシと施設等の間に挟まれたりする事故の発生が挙げられ

激に対する生理的な指標である血漿中コルチゾル濃度を測

る。この様なウシによる管理作業中の事故の原因には,施

定し,出生直後の馴致が子牛のその後の管理作業に対する

設などの環境要因,作業工程などの人為的要因,および作

反応に与える影響を検討した。

業者に対するウシの恐怖心や警戒心,攻撃性などのヒト-
ウシ関係要因の 3 つの側面があり,それぞれについて分析

材料と方法

と対策が必要である(志藤,2019 a,b)。近年では農家の

本試験は東北大学動物実験専門委員会の承認を受けて行

機械化と大規模化にともない,環境要因や人為的要因は整

われた(承認番号:2017 農動 - 036)。試験は 2018 年 12 月

備されつつある一方で,頭数の増加によってウシ一頭あた

から 2019 年 5 月まで,すべて東北大学大学院農学研究科

りの管理時間すなわち管理者がウシを直接取り扱う機会が

附属複合生態フィールド教育研究センター陸域生産システ

減少したことで,ヒト-ウシ関係は希薄化している(Jago

ム部(川渡フィールドセンター)(以下,川渡 FC)で行わ

ら,1999,Krohn ら,2001)。そのため,限られた管理時

れた。

間の中で効率的に良好なヒト-ウシ関係を構築する必要が
ある。

供試動物

これまでの研究で,出生直後にウシやブタに対してヒト

黒毛和種去勢雄子牛 7 頭を供試した。子牛はいずれも川

が優しく声をかけながら愛撫すること(以下,馴致)で,

渡 FC 内の牛舎 A のペン(4 m × 4 m のコンクリート床の

短い時間でより良好なヒト-家畜関係を形成できることが

踏込み式牛床)または牛舎 B のペン(4 m × 8 m のコンクリー

示されている(Boivin ら,1992,小迫と井村,1999 a, b,

ト床の踏込み式牛床)において,自然分娩で出生した。出

Probst ら,2012,Lürzel ら,2015)。しかし,ウシを用いた

生後,母牛と子牛は同一ペン内で飼育され,後述する処理

先行研究では,出生後の馴致によるヒトとの関係の調査は

のいずれかを受けた。牛舎 A および B のペンで飼育され

3 か月齢程度までしか行われていない(Jago ら,1999,

た母牛と子牛は,子牛がおよそ 20 日齢の時に牛舎 B 内に

Krohn ら,2001)。多くの肉用牛の繁殖農家では子牛が市場

ある群管理ペン(14 m × 8 m)に移動した。移動作業は川

に出荷される 8 か月齢時まで飼育していることから,子牛

渡 FC に勤務する家畜管理担当職員が行った。すべての子

がより成長した時点での管理作業に馴致が与える影響を明

牛に対して 1 か月齢と 2 か月齢時に,風邪予防のためのワ

らかにすることは,安全な作業管理に有益な情報となる。

クチン(ボビバック® B5,共立製薬株式会社,東京)を筋

1

東北大学大学院農学研究科
東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センター
3
現在:秋田県平鹿地域振興局農林部
4
現在:明治飼糧株式会社研究開発部
* 連絡者:深澤 充(michiru.fukasawa.b4@tohoku.ac.jp)
2

センター報告第 36 号(2021)

肉内注射により投与した。家畜管理担当職員による耳標装

2

馴致区および対照区も期間中に計 30 分間の処理を受けた。

着,給餌,体重測定等の供試子牛の飼育および下痢の治療
は,川渡 FC で通常行われている方法に準じた。耳標装着

調査方法

は生後 2 週間以内,体重測定は毎月一回,下痢の治療は適

供試子牛が 6 か月齢,7 か月齢,8 か月齢時に誘導,体

宜行った。給餌は毎日朝夕の 2 回,同居する母牛に対して

重測定および採血作業の一連の管理作業に対する行動反応

グラスサイレージと濃厚飼料の給与を行った。

を評価し,同時に血漿中コルチゾル濃度を測定した。

1 か月齢および 3 か月齢時には馴致の効果を検証するた

一連の管理作業は 14 時から開始した。初めに 3 人の家

めに,逃走距離の測定と新奇アリーナ(試験用にコンパネ

畜管理担当職員が子牛を各ペンから 4 ~ 16 m 離れた待機

で囲ったコンクリート床の閉鎖空間)における対人反応の

場に移動させた。その後待機場から 1 頭ずつシュートを通

比較試験を行った(Wada et al., 2021)。3 か月齢の対人反

し保定枠場に入れ,そこで体重測定を行った。体重測定後

応比較試験の直後に母子分離をして,子牛を川渡 FC 内の

に,保定枠場内で 1 名の家畜管理者が子牛をロープで保定

牛舎 C のペン(4 m × 4 m)に移動した。子牛はペンあた

し,家畜管理担当職員とは別の者が採血した。採血はヘパ

り 2 頭または 3 頭で群飼され,飼料評価の試験に供試され

リン入り 10 ml 真空採血管を用いて頸静脈から行った。な

た。供試牛の飼料評価試験への割り当てに偏りはなかった。

お,採血者はこの作業以外で子牛と接触していない。採血

供試子牛は 5 か月齢時に家畜管理担当職員によって去勢お

終了後,子牛を保定から解放して元のペンに戻し,作業を

よび除角された。去勢は観血去勢で行い,鎮痛剤としてセ

終了とした。一連の作業を 1 頭につき約 20 分で行い,待

ラクタールおよび局部麻酔としてプロカインを投与した。

機場へ移動を始めた時からペンに戻すまでのすべての作業

去勢終了直後に除角器を用いて除角し,その後焼きごてで

をビデオで撮影した。血液サンプルは血漿分離後,測定ま

除角部を止血した。除角時に局部麻酔の投与はなかった。

で - 20 ℃以下で凍結保存した。

牛舎 C での給餌などの一般管理は川渡 FC で通常行われて

管理作業に対する行動反応として,子牛を待機場へ誘導

いる方法に準じ,毎日 9 時および 16 時に飼料評価試験の

する際の行動反応 2 種類(すくみ反応:管理者の誘導に

設計に従って,グラスサイレージや濃厚飼料を給与した。

抗って動かない反応。逸走反応:管理者の誘導を振り切ろ
うとする反応)と体重測定および採血作業に対する供試子

馴致処理
本研究では馴致区と対照区を設定した。処理は出生した

牛の行動反応(体重測定時の保定枠場内での反応および採
血を行う際のロープ保定および採血に対する反応)を 4 段

ペンで行われ,20 代女性 3 名,20 代男性 2 名,30 代男性

階で採点した(Grandin 1993)。小迫と井村(1999 b)に従い,

1 名の計 6 名のいずれかが行った。処理を統一するために

1 名の評価者が撮影動画を用いて評価を行った。子牛の行

6 名の馴致者には事前に指導を行った。また,馴致者は家

動反応の採点基準を表 1 に示した。

畜管理担当職員とは別の人物であった。

また管理作業に対する生理反応として,採血したサンプ

馴致区の子牛(5 頭)には,馴致者が優しく声をかけな

ルの血漿中コルチゾル濃度を測定した。測定には DetectX ®

がら,軍手をはめた手で背,腹および首にかけて愛撫する

Cortisol Enzyme Immunoassay Kit(ARBOR ASSAYAS, MI,

処理(馴致処理)を行った。馴致処理を 2 通りの方法,す

USA)を用いた。

なわち 10 時および 17 時にそれぞれ 3 分間,出生翌日より
5 日間連続で行う方法(3 頭)または 10 時および 17 時に
それぞれ 5 分間,出生翌日より 3 日間連続で行う方法(2 頭),

統計解析
血漿中コルチゾル濃度は正規分布を仮定した。血漿中コ

で実施した。1 か月齢および 3 か月齢時に行った馴致処理

ルチゾル濃度の試験区間の差は,対照区と馴致区の平均を

の効果を検証するための逃走距離測定や新奇アリーナにお

分散が等しくないと仮定した 2 標本による t - 検定で比較

ける対人反応試験の結果,両処理区の間には違いが無かっ

した。

た(和田,未発表)ことから,両者をプールして「馴致区」
とした。馴致処理の間,馴致者が安全かつ確実に処理を行

結果と考察

うようにするため,母牛をスタンチョン(牛の頚部を挟ん

対照区の 1 頭,馴致区の 2 頭について試験期間中に下痢

で安定させるつなぎ止め具)やロープで保定し,馴致者お

の症状がみられたため,治療として抗生剤(水性アンピシ

よび子牛から隔離した。この際,母牛は供試子牛に近づく

リン注「KS」またはウルソデオキシコール酸 5 %「KS」,

ことはできないが,視覚や聴覚で供試子牛を認識できる状

いずれも共立製薬株式会社,東京)を静脈注射により投与

況にあった。

した。

対照区の子牛(2 頭)には,10 時および 17 時にペンの中

馴致区および対照区の管理作業に対する各行動反応の評

で馴致者が佇立した状態で約 3 m の距離から供試子牛を 5

点を図 1 に示した。誘導時のすくみ反応(図 1a)について

分間見つめた。この処理を出生翌日より 3 日間連続で行った。

は 8 か月齢時に,馴致区で対照区に比べて低い評点を示し

和田ほか:出生直後の馴致がその後の管理作業時の行動反応と血漿中コルチゾル濃度に与える影響

表1

管理作業に対する行動反応(誘導時のすくみ反応,誘導時の逸走反応,体重
測定に対する行動反応および採血作業に対する行動反応)の評点基準
誘導時

評点

体重測定に対する行動反応および

すくみ反応

逸走反応

採血作業に対する行動反応

1

従順

従順

従順

2

立ち止まる

小走り

多少の抵抗。作業への支障なし

3

抵抗あり

駆け足

強い抵抗。作業に多少の支障

4

移動せず

制御不能。暴走

非常に強い抵抗。作業に多大な支障

図 1  作業時の各月齢における対照区および馴致区の管理作業に対する行動反応(
(a)誘導時のすくみ反応,
(b)誘導時の逸走反応,
(c)体重測定に対する行動反応および(d)採血作業に対する行動反応)の
評点の比較
それぞれの管理作業に対する行動反応の評点基準は表 1 を参照。
対照区(n = 2)の棒グラフは平均値,
馴致区(n = 5)の棒グラフと誤差線は平均値と標準誤差を示す。

3

センター報告第 36 号(2021)

4

た。誘導時の逸走反応(図 1b)については,いずれの月齢

か月齢時:df = 4,t = 4.55,P < 0.05)。血漿中コルチゾル

でも馴致区と対照区に大きな違いは認められなかった。体

濃 度 は, 採 血(Hopster ら,1999) や 車 両 へ の 積 み 込 み

重測定に対する行動反応(図 1c)については,いずれの月

(Fukasawa 2012)など,管理作業に対する家畜のストレス

齢でも馴致区と対照区に大きな違いは認められなかった。

指標として用いられおり,採血によって 2 から 10 倍に上

採血に対する行動反応(図 1d)は 7 か月齢および 8 か月齢

がる(Hopster ら,1999)。Probst ら(2012)は,出生直後

時に,馴致区では対照区に比べて低い評点を示した。対照

にヒトからの馴致を受けた子牛について,10 か月齢で屠殺

区では毎月作業を繰り返すことで,誘導時のすくみ反応と

した際の血中コルチゾル濃度が馴致を受けていない子牛よ

採血作業に対する行動反応の評点が上昇し,扱いにくくな

り低い傾向にあることを示し,馴致により子牛の屠殺時の

る傾向にあった。Pajor ら(2000)はウシに嫌悪的な作業

一連の作業によるストレスが軽減されている可能性を報告

を繰り返すことにより,移動などの作業が次第に困難にな

した。本研究においても,6 か月齢,8 か月齢時において

ることを示している。採血は嫌悪的な作業とされているが

馴致区の血漿中コルチゾル濃度の低下が確認できたことか

(Hopster ら,1999),馴致区では嫌悪的な作業を繰り返し

ら,馴致区の子牛の管理作業によるストレスが軽減された

たのにもかかわらず評点が上昇する傾向は見られなかった。

と考えられる。

このことから,出生直後の馴致によってその後の管理作業

本研究では,7 か月齢,8 か月齢時において馴致した子

に対して扱いやすい落ち着いた行動反応を示す可能性が示

牛の管理作業に対する行動反応の落ち着きと 6 か月齢,8

唆された。ただし,Lürzel ら(2016)は,出生初期の馴致

か月齢時における血漿中コルチゾル濃度の低下が確認され

が逃走距離に与える影響は何もしない場合には 1 年後には

た。調査月の間で反応に若干のバラツキはあるものの,馴

消失してしまうことを示し,良好な関係の維持には普段の

致した子牛では馴致の効果は途中で消失することなく 8 ヵ

飼育環境での正の関わりが必要であろうと述べている。そ

月まで持続した一方,馴致していない子牛は同じ作業を繰

のため,出生直後の集中的な馴致に加え,普段の飼育管理

り返したにも関わらずこの期間で嫌悪的な作業に馴れるこ

の中で短時間でも優しく声をかけることや愛撫することで,

とはなかった。これらの結果から出生直後の馴致を受けた

その後の管理作業に対して扱いやすい落ち着いた行動反応

子牛は,成長後の管理作業時にヒトが扱いやすい落ち着い

を示すことが期待できる。

た反応を示し,管理作業によるストレスも軽減できる可能

馴致区と対照区における採血したサンプルの血漿中コル

性が示唆された。ただし本研究で供試した対照区の子牛が

チゾル濃度を図 2 に示した。血漿中コルチゾル濃度は,6

2 頭と少なかったため,今後さらなるデータの積み重ねが

か月齢時および 8 か月齢時に馴致区で対照区に比べて有意

必要と考えられる。

に低くなった(6 か月齢時:df = 4,t = 9.59,P < 0.01,8

謝辞
本研究は「革新的技術開発・緊急展開事業(うち人工
知能未来農業創造プロジェクト)・AI や ICT を活用した
周年親子放牧による収益性の高い子牛生産技術の開発」
として行われた。

引用文献
Boivin X, Neindre PL, Chupin JM. 1992. Establishment of
cattle - human relationships. Applied Animal Behaviour
Science. 32, 325 - 333.
Fukasawa M. 2012. The calf training for loading onto vehicle at
weaning. Animal Science Journal. 83: 759 - 766.
Grandin T. 1998. Behavioral agitation during handling of cattle is
persistent over time. Applied Animal Behaviour Science. 36,
1 - 9.
Hopster H, van der Werf JT, Erkens JH, Blokhuis HJ. 1999.
図 2  作業時の各月齢における対照区および馴致区の管理
作業時の血漿中コルチゾル濃度の比較
対照区(n = 2)の棒グラフは平均値、馴致区(n = 5)
の棒グラフと誤差線は平均値と標準誤差を示す。*
印は各月齢で対照区と馴致区との間に有意な差があ
ることを示す(P < 0.05)。 ...

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