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大学・研究所にある論文を検索できる 「Improvement in Thermoelectric Properties and Development of Thermoelectric Devices for Room-Temperature Application」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Improvement in Thermoelectric Properties and Development of Thermoelectric Devices for Room-Temperature Application

奥 友洋 大阪府立大学 DOI:info:doi/10.24729/00017771

2022.07.21

概要

本論文では、熱電変換材料の熱電特性の高性能化と新規熱電変換デバイス開発に関する研究について報告する。熱電変換材料とは熱と電気を相互に変換する特性を持った物質または材料のことである。金属から半導体までの電気伝導率を持つ物質はその温度勾配を熱起電力に変換する Seebeck 効果を示すことがよく知られている。Seebeck 効果をはじめとする熱電変換現象をデバイスとして利用すると熱を電気に変える熱電発電が可能となる。

熱電変換デバイスは熱機関の一種でスケールメリットがなく、希薄に分散した熱を利用することができる点に特徴がある。つまり、室温廃熱等の小規模分散型の低品位な熱の利用において、その他の発電方式よりも高い性能を発揮できる可能性がある。近年、環境・エネルギー問題への意識の高まりと環境発電技術への注目から、熱電発電による室温廃熱の利用が注目を集めている。しかしながら、従来の設計指針では室温付近で高い熱電特性を示す材料の開発や廃熱を上手く利用できるデバイスの開発が進んでいない。

そこで本研究では、電子バンド構造の観点から、室温域における熱電変換材料の電気的特性の発現機構を解明し、また室温域で高い発電出力を示す新規熱電変換デバイスを提案することを目的とした。具体的には、室温付近で高性能を示す熱電変換材料として、我々のグループで独自に開発したGeTe-Sb2Te3 系材料に着目し、その結晶構造・熱電特性・電子バンド構造の相関を実験と計算を相互補完的に用いることにより解明することを試みた。特に、既存の室温材料に匹敵する高い電気的特性の発現機構の解明と、それを用いて中温域の熱電変換材料を室温領域で高性能化する材料設計指針を提案した。さらに、室温付近での温度差を利用したデバイスとして、太陽光を吸収する機能を熱電変換デバイスに付与することを提案した。そこで Cu-Ni 合金を原理実証材料として用い、熱電変換デバイスを設計・試作し、擬似太陽光照射下でのデバイス発電特性評価を行い、熱電特性及び光吸収機能とともに議論した。

本論文は 5 つの章で構成される。

第 1 章では熱電変換技術を概説した。熱電変換技術は発電において、我々の環境に存在する太陽光や工場の廃熱(排熱)、人間の体温、海水、空気中のガスなど多様な形態の熱を利用できる技術であることを紹介した。特に、室温付近の廃熱を有効利用することが重要であることを、昨今の社会情勢とともに述べた。また、熱電変換の基礎理論を材料およびデバイスの観点から説明した。特に、熱電特性を定義する上で重要な無次元性能指数と出力因子は熱電変換材料の Seebeck 係数、電気伝導率、ならびに熱伝導率を用いて定義されることを、熱電効果を考慮した熱の収支計算から導出した。さらに、熱電特性を決定するミクロな物理量をBoltzmann 輸送理論により説明した。本章の最後に本研究の目的と概要を述べた。

第 2 章では本研究で用いた主な手法の原理を簡潔に述べた。具体的には、試料及びデバイスの作製手法、結晶構造の同定及び結晶構造解析手法、熱電特性に関する各種物性の測定手法、第一原理計算によるバンド構造の計算手法について述べた。

第 3 章では GeTe-Sb2Te3 材料に着目し、室温付近の高出力因子の発現機構を解明することを試みた。我々のグループでは過去に(GeTe)nSb2Te3 (10≦n≦24)で表される GeTe 系材料において、組成 n の値を調整することにより室温付近で高い出力因子が得られたことを報告したが、その要因は未解明であった。GeTe 系材料は本来中温域の p 型材料として知られている。また、GeTe は温度によって結晶構造が変化する材料で、低温相の菱面体晶構造と中温相の立方晶構造を持つことが知られている。バンド構造に関して、菱面体晶構造では高エネルギーの Σ バンドと低エネルギーの L バンドがわずかなエネルギー差で存在し、これら価電子帯の谷間(バンド端)は立方晶構造への構造相転移を通してエネルギー位置が入れ替わる。結晶構造とバンド構造の特徴はGeTe-Sb2Te3 を含むGeTe 系材料においても同様であり、温度上昇の過程でΣ バンドと L バンドのバンド端が縮重すると高い熱電特性が期待される。なお、この手法はバンド端縮重と呼ばれる。以上の背景から、(GeTe)nSb2Te3 において室温付近で高出力因子が発現した機構を解明するにはバンド構造の情報が必要であるが、この材料の結晶構造やバンド構造の詳細は未解明であった。

本章の目的は、(GeTe)nSb2Te3 (10≦n≦24)の結晶構造・バンド構造・熱電特性の相関を解明することである。私は、(GeTe)nSb2Te3 (n = 10, 12, 16, 20, 24)多結晶体試料の放射光粉末X線回折データを Rietveld 法で解析し、第一原理計算によるバンド構造の計算を行った。下記の 1)では(GeTe)nSb2Te3 のバンド端縮重の n 依存性に関する研究結果を、2)では GeTe と (GeTe)10Sb2Te3 のバンドの異方性に関する研究結果について述べる。

1) (GeTe)nSb2Te3 (n = 10, 12, 16, 20, 24)において、n(12≦n≦24)の減少とともに、菱面体晶構造の格子歪みが減少し、n = 10 において菱面体の格子歪みが最も少ない立方晶構造になることが結晶構造解析により明らかになった。また格子歪み・Ge 欠損濃度・Ge サイトの置換原子数によってキャリア濃度・易動度の変化を説明することができた。さらに、結晶構造と組成の制御により、n=12 の試料で、Z, L, Δ, Σ 価電子バンド端のエネルギー差が小さくなり、試料のキャリア濃度に相当するエネルギー領域で、これらバンド端が縮重することを、第一原理計算により予測した。実験的に求めた Seebeck 係数を解析することにより、状態密度有効質量の増大が確認でき、これがバンド端縮重に起因するものであることが示唆された。室温近傍で得た(GeTe)12Sb2Te3 の出力因子は既存の Bi2Te3 系室温材料に匹敵した。本研究により、従来中温域で知られる熱電変換材料を、室温域の材料として改良するための設計指針を提案した。

2) GeTe 系材料では、バンドの異方性も熱電特性に大きな影響を与える事が知られているが、これまで詳細な研究がなされていないことから、GeTe と(GeTe)10Sb2Te3 の有効質量の異方性を評価した。GeTe 系では 4 重に縮重した L バンドと 12 重に縮重した∑バンドが伝導に寄与すると報告されているが、ヘビードープ領域では 6 重に縮重した Δ バンドも伝導に寄与すること、さらに Δ バンドが Σ バンドよりも重い状態密度有効質量、並びに L バンドよりも高い異方性を有することを明らかにした。さらに、(GeTe)10Sb2Te3 はGeTe よりも重い有効質量をもつが、有効質量の異方性は大きく変化しないことが明らかになった。

第 4 章では室温付近での温度差を利用したデバイスとして、太陽光を吸収する機能を熱電変換デバイスに付与することを提案した。さらに、擬似太陽光照射下でのデバイス発電特性評価を行った後、熱電特性及び光吸収機能とともに議論した。熱電変換デバイスの研究例として太陽光を利用した発電がおこなわれている。従来の太陽光発電は太陽光スペクトルのうち可視光を利用するが、熱電変換デバイスと組み合わせて可視光から赤外光までの広い領域を利用するという考えがある。この発想に基づき、我々のグループの先行研究にて光発熱フィルムと熱電変換デバイスを組み合わせた発電デバイスの開発が行われた。一方で、先行研究のデバイスは部材間の熱損失が課題であり、デバイス構造を工夫して同一材料に熱電変換機能と光発熱機能を実現する方策が必要であるとの着想に至った。

本章の目的は、同一材料に熱電変換機能と光発熱機能を付与したデバイスを提案・開発し、その光発熱効果の原理を解明することである。私は原理実証材料として Cu-Ni 合金を選択 し、放電プラズマ焼結と黒色メッキ加工によりデバイスを設計・試作した。下記の 1) では 第一原理計算による Cu-Ni 合金の熱電特性の予測結果について、2) では Cu-Ni 合金を使用 した新規デバイスの作製・評価結果について述べる。

1) Cu100−xNix (x = 13, 19, 31, 38, 50, 62, 81, 87) において、第一原理電子状態計算と Boltzmann輸送方程式を用いた熱電パラメータの理論計算により電子状態密度および電子熱電特性を求め、熱電特性が最適化されるような組成を予測した。無次元性能指数の比較より、Cu38Ni62近傍の組成で最も高い熱電特性を示すことが予測された。また Seebeck 係数がこの高い熱電特性を決定することを確認し、高い Seebeck 係数は Ni の d 電子の寄与がこの組成付近で最も大きくなることで説明できることを明らかにした。

2) 市販のコンスタンタン(Cu54Ni45Mn の板状試料)に黒色メッキ加工を施し、光吸収機 能を付与し、形成物の構造、反射率、擬似太陽光照射下での試料の温度上昇を実験的に評価 した。電子顕微鏡観察より、黒色メッキ加工により、Cu-S の組成をもつ立体的なフレーク 構造が試料上に形成されていることを確認した。さらに反射率測定より、紫外–赤外光まで の波長において、黒色メッキ加工試料が、メッキなし試料よりも低い反射率(例. 波長 600 nm で反射率 2%)を示すことを明らかにした。反射率が低減した要因は、Cu-S の光学特性 のほかに、紫外–赤外光がフレーク構造の内部で多重反射したことに起因すると予測した。実際にフレーク構造モデルを用いた電磁界シミュレーションにて、この構造による反射率 の低減を定性的に再現した。次に、擬似太陽光の照射下で試料の温度上昇を測定したところ、黒色メッキ加工試料が、メッキなし試料よりも高い温度上昇を示した。試料に吸収された光 が非輻射緩和により熱に変換されると仮定すると、試料の高い温度上昇が反射率の低減に よって説明されることを定性的に示した。最後に、放電プラズマ焼結で試作した n 型- Cu50Ni50/p 型-Cu 熱電変換デバイスに黒色メッキ加工を施し、擬似太陽光の照射下で発電時 の開放電圧を測定した。その結果、1.0 SUN(100 mW/cm2)の光照射に対して 11 nW/cm2 の 最大出力密度が見積もられ、メッキ加工を施さなかったデバイスと比べて優位に高い値を 示した。以上から、熱電変換材料に光吸収機能を付与することにより、太陽光を利用した室 温付近の温度差で発電する新規熱電変換デバイスを提案した。

第 5 章では本研究を総括した。

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