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大学・研究所にある論文を検索できる 「プロテオーム解析によるミトコンドリア新規複合体の同定」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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プロテオーム解析によるミトコンドリア新規複合体の同定

中野, 栄治 東京大学 DOI:10.15083/0002005105

2022.06.22

概要

ミトコンドリアでは解糖系、クエン酸回路、電子伝達系など様々な反応を経てアデノシン三リン酸:ATP を産生するだけではなく、細胞内カルシウムイオン濃度調節や脂質酸化 など多彩な機能を有している。ミトコンドリアによるエネルギー代謝は種々の臓器の機能に必須であり、腎臓では尿細管機能や腎糸球体の濾過機能に重要な役割を果たしている。腎糸球体における選択的濾過障壁機能の破綻はネフローゼ症候群の原因となるが、近年の網羅的遺伝子解析により、ミトコンドリアに局在する酵素をコードする一群の遺伝子異常が遺伝性ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群(SRNS)の原因となることが明らかになった。その中の一つである ADCK4 はコエンザイム Q10(CoQ10)の合成に関わる酵素 aarF domain containing kinase 4 (ADCK4)をコードする遺伝子である。ADCK4 に関してはこれまでにCOQ6 と細胞内で結合することや、ADCK4 変異患者の線維芽細胞で CoQ10 の産生が低下していることが報告されている。また、ADCK4 をノックダウンした糸球体上皮細胞(ポドサイト)では遊走能が低下していること、また ADCK4 患者変異を導入した酵母細胞では増殖が低下することなど細胞に様々な影響を及ぼす可能性示されている。しかし、実際にADCK4 がCoQ10 合成またはその他機能で果たす分子生物学的なメカニズムは明らかになっていない。

本研究はADCK4 の細胞内局在および関連分子との機能的相互作用からCoQ10 合成へ与える影響を解明することを目的とし、以下の検討を行った。

(1) ADCK4 のミトコンドリア局在機序と ADCK4 変異体における局在
ADCK4 の細胞内局在を検討するため、N 末端またはC 末端にタグを付与した ADCK4を発現させるとC 末端タグは上方(60 kDa)・下方(55 kDa)の 2 本のバンドを検出し、N 末端タグは上方のバンドのみ検出した。C 末端側を認識する抗 ADCK4 抗体ではどちらも 2本のバンドが検出された。ミトコンドリア画分には上方(60 kDa)のバンドは検出されず、下方(55 kDa)のバンドのみが検出された。これらのことから、ADCK4 はN 末端に近い部位で分子内切断をうけることが明らかになった。また、蛍光免疫染色ではN 末端、C 末端の Flag タグが共にミトコンドリアに局在した。以上のことから、ADCK4 は N 末端側で分子内切断をうけ、両断端がミトコンドリアに局在することが示された。SRNS の原因として報告のあるADCK4 変異が細胞内局在に与える影響を検討したところ、ADCK4 変異体はミトコンドリア局在自体には影響がなかった。

(2) ADCK4 の網羅的結合蛋白解析
ミトコンドリアにおける ADCK4 複合体を解析するために、Stable isotope labeling by amino acids in cell culture (SILAC)および銀染色のゲル抽出を用い、質量分析による結合蛋白の網羅的解析を行った。これら 2 つの方法の両者から、新規のADCK4 結合蛋白としてピロリン-5-カルボン酸レダクターゼ(PYCR)を検出した。PYCR はプロリン生合成の最終段階で働く酵素であり、Δ1-ピロリン-5-カルボン酸塩からプロリンへのNAD(P)H 依存性還元を触媒する。PYCR は PYCR1 とPYCR2 のアイソフォームがあり、85%のアミノ酸配列の相同性が認められる。PYCR1 変異はAutosomal recessive cutis laxa type 2B を引き起こし、PYCR2 変異は hypomyelinating leukodystrophy-10 の原因となる。SILAC法および銀染色による方法の両者で PYCR が検出され、結合蛋白質候補として有力と考えられた。

(3) PYCR とCoQ10 合成蛋白による蛋白複合体形成
PYCR のアイソフォームである PYCR1 とPYCR2 はいずれもヒト培養ポドサイトに存在し、また種々の細胞でミトコンドリアに局在していた。免疫沈降実験によりADCK4 が内在性のPYCR1 と PYCR2 の両者と結合することを確認した。また、Proximity ligation assay によりそれらとADCK4 がミトコンドリアで結合することを明らかした。さらに PYCR1 および PYCR2 は ADCK4 のみならずADCK3 とも結合した。

次にPYCR とADCK4 の結合領域を検討した。PYCR1 の欠失変異体とADCK4 との結合実験により、ADCK4 が PYCR1 のdimerization 領域で結合することがわかった。 COQ6 はADCK4 と結合するが、免疫沈降実験によりCOQ6 と PYCR1 が結合することが示された。さらに、その結合にはPYCR のdimerization 領域の後半部分が必要であった。ADCK4 と PYCR の結合にはPYCR のdimerization 領域の前半と後半が必要であることから、COQ6 とPYCR の結合には ADCK4 を介していないことが明らかになった。これらのことから、ADCK4 とCOQ6、PYCR1 は緊密なミトコンドリア内分子複合体を形成することが示された。

(4) PYCR 変異体による ADCK4 の局在変化
次に PYCR のミトコンドリア局在にPYCR のどの領域が関与するかを明らかにするため、欠失変異体の細胞内局在を検討した。PYCR1 のΔ2-98 はミトコンドリアに局在せ ず、またΔ7-40 は部分的なミトコンドリアへの局在を認めた。このことから、PYCR1 の N 末端側の配列がミトコンドリア局在に必須であることが明らかになった。またΔ117- 145 欠失変異体もミトコンドリア局在が完全に阻害された。一方でdimerization 領域の欠失はミトコンドリアへの局在には影響せず、dimerization およびADCK4 や CoQ6 との結合はミトコンドリア局在に必須ではなかった。

次に Autosomal recessive cutis laxa type 2B およびhypomyelinating leukodystrophy-10 で同定された患者変異が PYCR のミトコンドリア局在に変化を与える可能性を検討した。PYCR1 R119H および PYCR2 R119C の患者変異型ではミトコンドリア以外の局在が主体であった。このことから、PYCR のR119 変異による病原性には PYCR 蛋白のミトコンドリア局在の障害が関与する可能性が示唆された。さらに、ミトコンドリアへ局在しない PYCR 変異体がADCK4 に与える影響を検討した。ミトコンドリアへの局在が変化する PYCR1 欠失変異体(Δ2-98、Δ117-145)および PYCR1 患者変異体(R119H)では共発現した ADCK4 のミトコンドリア局在を阻害することが示された。

(5) PYCR のCoQ10 産生に対する影響
新規複合体の機能として PYCR がCoQ10 の合成に与える影響について検討した。 siRNA を用いてPYCR1 および PYCR2 をノックダウンし、細胞内の CoQ10 量をコントロールと比較した。HEK293T 細胞およびヒト培養ポドサイト細胞では、細胞内の CoQ10量にコントロールとの有意な差は認めなかった。また HEK293T 細胞ではミトコンドリア画分の CoQ10 量にも有意な差は認めなかった。さらに、PYCR1 欠失変異体および PYCR1 患者変異体のドミナントネガティブな作用を考慮し、変異体を遺伝子導入した細胞におけるCoQ10 量をコントロールと比較した。その結果、コントロールと変異体では細胞内のCoQ10 量に有意差は認められなかった。これら結果からはPYCR による CoQ10産生への影響は示されなかった。

(6) ADCK4 のキナーゼ活性
ADCK4 のパラログであるADCK3 は酵母のコエンザイム合成蛋白に対するキナーゼ活性を有していることが報告されているが、ADCK4 のキナーゼ活性についてはこれまで検討されていない。32PγATP キナーゼアッセイを用い、ADCK4 をキナーゼとしたリン酸化の反応を検討した。HEK293T 細胞から抽出したADCK4 をミトコンドリア溶解液と反応させると、30~35kDa 付近に明らかに増強されたリン酸化のバンドが検出された。さらに、ADCK4 免疫沈降物に対してリン酸化反応を行ったところ、ミトコンドリア画分との反応で増強されたバンドと同様の分子量でリン酸化反応を認めた。このことから、ミトコンドリアに存在するADCK4 複合体はそれ自身にキナーゼと基質を含むことが明らかになった。

本研究では、ADCK4 がミトコンドリアに局在する機序を明らかにし、ADCK4 および COQ6 がプロリン合成に関与するPYCR1 とミトコンドリア内で複合体を形成することを明らかにした。さらに、病原となる PYCR1 および PYCR2 の特定の変異はADCK4 のミトコンドリア局在を阻害することを示した。これらの結果は ADCK4 がPYCR1 と新規の複合体を形成し、ミトコンドリア内で別々の役割を持つと考えられていた機能的複合体同士が相互に連関を持つ可能性を示唆するものである。加えて、ADCK4 複合体がキナーゼと基質を含むリン酸化反応を示し、キナーゼ反応が ADCK4 の機能発現に関わる可能性も見出された。

本研究で見出した新規のADCK-COQ6-PYCR 複合体はミトコンドリアの多様な機能に関与する可能性が示唆される。今後新規の複合体の機能やADCK4 のキナーゼとしての役割を明らかにすることにより、遺伝性ネフローゼ症候群のみではなく、種々のミトコンドリア病の多様な病態を解明する手がかりとなる可能性がある。

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