TGFBI角膜ジストロフィモデルマウスの作製とCRISPR/Cas9システムを用いた遺伝子治療の検討
概要
[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名 北本 昂大
本研究は TGFBI 角膜ジストロフィに対する CRISPR/Cas9 を用いた遺伝子治療の可能性
を示すため、TGFBI 角膜ジストロフィ症例における表現型と遺伝子変異の関係性、TGFBI
角膜ジストロフィモデルマウスの作製、モデルマウス角膜に対する CRISPR/Cas9 を用いた
遺伝子編集を試みたものであり、下記の結果を得ている。
1.
東京大学医学部附属病院眼科に受診している TGFBI 角膜ジストロフィ 26 例に対し遺
伝子解析を行い、表現型との関係性について検討した。26 症例中 14 症例が R124H 変
異、4 症例が R124C 変異、1 症例が R555W 変異、6 症例が L527R 変異、1 症例が A546D
変異であった。R124H 変異では顆粒状の混濁と星状の混濁が混在した顆粒状角膜ジス
トロフィ 2 型(granular corneal dystrophy type2 : GCD2)の所見を呈するが、今回解析し
た 14 例中 1 症例では顆粒状の混濁のみを呈する顆粒状角膜ジストロフィ 1 型
(GCD1)
の所見を呈した。また A546D 変異症例においては既報とは異なった表現型が認められ、
遺伝子解析を行っていないが、同じく TGFBI 角膜ジストロフィである実妹とも明らか
に異なる角膜混濁所見が認められた。また TGFBI 角膜ジストロフィでは通常両眼に角
膜混濁が生じるのに対し、L527R 変異症例においては 6 例中 2 例では片眼のみに角膜
混濁が生じていた。このように表現型による遺伝子変異の推定には限界があり、遺伝
子解析による診断の重要性が示唆された。
2.
CRISPR/Cas9 および相同配向型修復による遺伝子編集技術を用いて、ヒトでは格子状
角膜ジストロフィ(lattice corneal dystrophy : LCD)を生じる代表的な変異である R124C
変異を有するマウス(TGFBI-R124C マウス)を作製した。ホモ変異を有する
TGFBI-R124C マウスでは、20 週齢までに 61.3%、40 週齢までに 73.9%の眼において角
膜混濁が生じた。免疫組織学的検討の結果、角膜混濁は TGFBIp の沈着が原因であるこ
とが確認された。また角膜上皮剥離モデルでは野生型マウスと比較して角膜上皮の再
生の遅延がみられ、TGFBI 角膜ジストロフィの臨床所見と類似していた。これらのこ
とより TGFBI-R124C マウスは TGFBI 角膜ジストロフィの疾患モデル動物として妥当で
あることが示された。
3.
作製した TGFBI-R124C マウスを用いて、in vivo での CRISPR/Cas9 による TGFBIp 発
現の抑制を試みた。まず GFP 遺伝子を標的とした guide RNA(gRNA)と Cas9 蛋白を
発現するレンチウイルスベクター(LV/Cas9-gRNA-GFP)を作製し、GFP 発現マウスの
角膜に導入した。その結果角膜実質および角膜上皮細胞において GFP の発現低下がみ
られ、角膜において CRISPR/Cas9 システムが機能したことを確認した。次に変異 Tgfbi
遺伝子を標的とした gRNA と Cas9 蛋白を発現するレンチウイルスベクター
(LV/Cas9-gRNA-mTGFBI)を作製し、TGFBI-R124C マウスの角膜に導入した。その結
果、角膜における TGFBIp の発現低下が確認され、Tgfbi 遺伝子の編集によるものであ
ることが確認された。
以上の結果より、CRISPR/Cas9 による遺伝子編集が TGFBI 角膜ジストロフィの新たな治
療法となりうることが示唆された。
よって本論文は博士(医学)の学位請求論文として合格と認められる。