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書き出し

超音波による新しい電気化学発光反応場の創出と分析化学への展開

金, 継業 信州大学

2021.03.01

概要

4版

様 式 C−19、F−19−1、Z−19 (共通)

科学研究費助成事業  研究成果報告書
令和

元 年

6 月 21 日現在

機関番号: 13601
研究種目: 基盤研究(C)(一般)
研究期間: 2016 ∼ 2018
課題番号: 16K05813
研究課題名(和文)超音波による新しい電気化学発光反応場の創出と分析化学への展開

研究課題名(英文)New electrochemiluminecent reactions under ultrasound irradiation and the
approach to analytical chemistry
研究代表者
金 継業(JIN, Jiye)
信州大学・学術研究院理学系・教授

研究者番号:40252118
交付決定額(研究期間全体):(直接経費)

3,700,000 円

研究成果の概要(和文):電気化学反応系に超音波を照射されると電極界面での物質移動の促進,電極表面の活
性化などの効果が期待され、電気分析化学の領域において注目されている。一方、超音波の電気化学発光(ECL)
反応にどのような影響に及ぼすかについて、研究がほとんど進んでいない。本研究では,超音波の周波数によっ
て超音波の物理的な反応場と音響キャビテーションによる化学的反応場の影響をそれぞれ検討し,種々の分析ニ
ーズに応じた新しいECL検出原理の創出に関する基礎研究を行った。それに加えて、超音波により安定性に優れ
たエマルション、金ナノ粒子/グラフェンの機能性複合ナノ材料の調製にも成功し、環境水分析のセンサーを開
発した。
研究成果の学術的意義や社会的意義
電気分析化学の分野では,超音波をボルタンメトリーに用いた研究が多数報告されているが,ECL反応に適した報
告は極めて少ない。反応系の制御が困難であることに加えて,計測の難しさが原因と考えられる。本研究は超音
波による物理的または化学的効果を最大限に利用することを工夫して,ECLにおける新規反応の探索と反応機構
解析を行うものであり,それらの特徴を充分に活かした新しいECL計測法を提案している。電気化学の基礎的な
分野および分析化学の分野を始めとした種々の領域の発展にも広く資する,独創的かつ有意義な研究であると考
えられている。
研究成果の概要(英文):The application of ultrasound to electrochemical processes is currently
attracting an amount of interest on account of a number of advantages, such as increasing of the
mass transport, activation or in situ cleaning of the electrode surface. On the other hand, however,
little fundamental study to date has systematically investigated the actual influence of ultrasound
irradiation on electrochemiluminescent (ECL) reactions. In this study, both physical effect and
chemical effect of ultrasound were examined respectively by using different ultrasonic waves. By
fusion of ultrasound with ECL measurement system, new detection principles, such as the
Sono-potential modulated ECL, cavitation-induced ECL, Sono-assisted ECL in emulsion system, have
been developed for various analytical purposes. Sonochemical methods have also been developed to
prepare new nanomaterials for the applications in environmental sensing.

研究分野: 分析化学
キーワード: 電気化学発光 超音波 キャビテーション 電位変調 金ナノ粒子 薬物分析



式 C−19、F−19−1、Z−19、CK−19(共通)

1.研究開始当初の背景
液体中への強力な超音波の照射は,キャビテーションの発生により局所的な超高温・高圧と
いった極限環境を創出できることが知られ,90年代以来,超音波がソフトケミストリー的手
法として用いられ,材料化学,環境化学などの領域に広く応用されてきた[1]。電極界面に超音
波を照射すると,大別して二つの効果が期待できる。一つは超音波振動による撹拌作用,他方
はキャビテーション気泡圧壊の際の高温・高圧による化学的作用である。これらの作用によっ
て,電極界面での物質移動の促進,電極表面の活性化や電極反応経路を変え得るなどの効果が
期待できる。電気分析化学の分野において,超音波の物質輸送の促進効果によって電解効率を
向上することができるが,S/N の観点からボルタンメトリーの感度向上とは言い難い状況にあ
った。
電気化学発光(electrochemiluminescence, ECL)とは,電気化学反応に伴う発光現象であり,
励起光源を必要としない,光学系が比較的簡単であるなどの特徴を有するため,近年分析化学
の検出方法として用いられるようになった[2]。ボルタンメトリーとは異なり,ECL では,光の
強度のみを検出するため,バックグランド電流による影響を殆ど考慮する必要がなく,絶対感
度の向上が期待できる。超音波による音響流効果と音響キャビテーション(化学的反応場)が
溶液中で in situ で形成できる特徴を生かして,新奇的な ECL 反応に至る可能性を秘めている。
電気分析化学の分野では,超音波をボルタンメトリーに用いた研究が多数報告されているが,
ECL 反応に適した報告は極めて少ない。反応系の制御が困難であることに加えて,計測の難し
さが原因と考えられる。本研究では,超音波の物理的または化学的効果を最大限に利用するこ
とを工夫して,ECL における新規反応の探索と反応機構解析を行うものであり,それらの特徴
を充分に活かした新しい ECL 計測法を提案する。
2.研究の目的
(1) Sono-ECL 反応の基礎的解析と ECL の高感度化 ECL の強度は電極表面における電子移動
反応のほか,ラジカル中間体同士の電子交換反応とバルク中にある分子拡散による消光などの
過程に支配され,ECL の各素反応過程を理解することが重要である。そこで,Ru(bpy)32+/トリ
プロピルアミン,Ru(bpy)32+/アスコルビン酸をモデル ECL 反応系として用い,超音波照射と回
転ディスク電極で得られた電位-電流曲線と電位-ECL 曲線に対する定量的な検討を行い,超音
波照射が拡散層における励起化学種の分布にどのような影響を及ぼすかを解明する。
(2) 超音波誘起した ECL 反応の確立による ECL の分析範囲の拡大:目的成分を超音波キャビテ
ーションにより分解し,生じたラジカル中間体を ECL で検出する,すなわち,超音波誘起した
ECL 計測法を提案する。そして,キャビテーションによる微弱の発光信号を分離できる電位変
調 ECL といった新しい計測システムを開発し,ECL 分析範囲の拡大を図る。
(3) 超音波によるエマルション増感型 ECL の計測:超音波により分散安定性に優れたサーファ
クタントフリー(surfactant free)エマルションを調製し,従来有機溶媒の中でしか観察できないよ
うな ECL 反応を水相の中で実現する。
3.研究の方法
超音波の照射効果をより系統的に検討するため,まず,図 1(A)に示すように,ITO 電極
作用電極と向き合わせた方向に超音波振動子(直径 2 mm; 20 kHz)を設置して超音波 ECL セル
を試作する。20 kHz の超音波による化学作用は比較的小さいので,超音波の音響流効果(物
理的効果)に着目して ECL 増感効果についての基礎検討を行う。一方,超音波の引き起こす
キャビテーションは常温と常圧下においても水から・OH を発生できるので,目的成分を酸化さ
せて,ラジカル中間体などを ECL で検出することが期待できる。ここでは,化学作用の大き
い 430 kHz の超音波反応器を用いて,超音波誘起した ECL 検出法の基礎検討を行う。超音波
キャビテーションに由来するソノルミネッセンスの発光信号を取り除くために,図 1(B)に示す
電位変調 ECL 計測システムを構築し,交流電圧(Eac)に同調した発光シグナルをロックイン
アンプで検出する方法を検討し,ECL 分析範囲の拡大を図る。
また,超音波によりサーファクタントフリーo/w エマルションの調製を行う。油滴表面には
界面活性剤などの分散剤が吸着していないため,超音波照射下で微細油滴が電極表面衝突し,
中に含まれる酸化還元物質が電極と直接的に電荷移動反応を起こすことが期待され,従来有機
溶媒の中でしか起きないような電極反応を水溶液の中で実現する。
4.研究成果
(1)回転ディスク電極などの物理的攪拌に比べて,超音波照射下で得られたボルタモグラムの電
解電流は極めて大きい。Compton らは,超音波キャビテーションで生じたマイクロジェット流
により物質移動は著しく促進され,電極界面での拡散層が極限に薄められたと説明されている
[3]。トリプロピルアミンを共反応物として用いた Ru(bpy)32+では,超音波照射下において電解
時間に依存しない定常状態の ECL 応答が得られ,ECL 感度は静止のときに比べ 1 桁も向上し
たことが認められた。ボルタンメトリーとは異なり,ECL では光の強度のみを検出したため,

図 1 超音波を用いる ECL 計測の装置。
(A)ホーン型超音波 ECL セルの断面図,
(B)電位変調 ECL 計測システム
超音波による電解効率の向上は ECL の絶対分析感度の改善に寄与したと考えられる。一方,ア
スコルビン酸を共反応物として用いたときに,超音波の照射によって ECL 強度が逆に減少した。
電気極表面に励起化学種*Ru(bpy)32+を生成する反応ルートの他,H2A による自己消光ルートを
初めに見出し,消光ルート拡散支配であり,拡散層の中において*Ru(bpy)32+と H2A による電子
交換(CT)機構によるものと解明した。ECL 反応は拡散層におけるラジカル中間体同士の電子交
換反応とバルク中にある分子拡散による消光などの過程にも支配されたため,超音波照射によ
り消光ルートを促進する可能性が示唆された。
(2) ECL 反応は本質的に電極表面で生成されたラ
ジカル衝突反応によるものである。しかし,多く
の化合物は電気化学的手法のみでラジカルを生成
できないため直接の ECL 応答が示されない。一方,
超音波のキャビテーションでは,常温,常圧下に
おいて水を熱分解し,ヒドロキシルラジカル(・
OH)と水素ラジカル(・H)を生成する。430 kHz
の超音波は・OH の生成速度が特に大きく,多くの
有機化合物がそれによって酸化され,還元性の高
いラジカル中間体を生じることを分光的な手法に
より追跡できた。麻酔薬であるリドカインが 430
kHz の超音波反応場の中で分解されて,2,6-キシリ
ジンが生成されたことを GC/MS により確認して
いた(図 2)


lidocaine
図2

2,6-xylidine

超音波によるリドカインの分解反応

(B)

(A)

図 3 0.5 mM Ru(bpy)32+と 0.5 mM リ
ドカインを含むリン酸カリウム溶液
(pH11)の中で測定した電位変調
ECL のプロファイル。(A) 静止状態,
(B) 430 kHz の超音波照射下。電位変
調の条件:Eac =100 mV、周波数=
10 Hz。

図 3 には,0.5 mM Ru(bpy)32+と 0.5 mM リドカインを含むリン酸カリウム溶液(pH11)の中
で測定した電位変調 ECL(potential modulation ECL, PMECL)の応答を示す。電極電位をアノー
ディック方向に掃印すると Ru(bpy)32+の酸化電位(E = +1.2 V)とより正側の電位領域(E= +1.45
V)付近に弱い ECL 応答がそれぞれ観測され,リドカインの第 3 級アミン部位の酸化によって
生じた還元性ラジカル中間体,またはリドカインの促進酸化の分解によって生じた中間体が電
極表面に生成している Ru(bpy)33+との電子交換反応により励起種*Ru(bpy)32+を生成する反応経
路と考察している。430 kHz の超音波を照射した場合,+1.2 V 付近の ECL 強度が著しく増大
し,逆に E= +1.45 V 付近の相対強度は低下した。超音波の分解生成物 2,6-キシリジン自体は
Ru(bpy)32+の ECL を引き起こさないため,超音波反応場の中で in situ 生成した・OH がリドカイ
ンの促進酸化を起こし,その反応中間体ラジカルは+1.2 V 付近の ECL 強度に寄与したことが考
えられる。この挙動は回転ディスク電極上では観測されないことから,超音波の化学的作用に
起因することが確認され,キャビテーション誘起した ECL 計測法の実現は可能であった。

(3) 1‐ヘプタノール 50 L を含む 0.1 M リン酸緩衝溶液 (pH 7.0)に 20 kHz と 490 kHz の超音
波を連続照射により,
サーファクタントフリーで,安定な o/w エマルションの調製に成功した。
ルミノール/過酸化水素系の ECL 反応は一般に弱アルカリ性の条件下しか観測できないが,エ
マルション溶液を用いる場合,pH 7 の条件下においても 20 倍も増大した ECL 強度が示され,
0∼50 M の濃度範囲において過酸化水素の定量を可能にした。エマルション溶液によるルミノ
ールの ECL 増感効果について,①油滴に吸着したスーパーオキシドアニオンラジカルの安定化,
②ルミノールは油滴の中に分配されており水分子によるルミノールの熱失活が抑制されるなど
が主な要因と推測している。さらに,電極表面に超音波を照射しながら ECL を測定した結果,
分析感度と再現性の向上が見られ,これは超音波照射により電極表面での物質輸送促進,油滴
同士の衝突頻度の増大と吸着種の剥離効果によるものと考えられている。本法は,脂溶性ビタ
ミン E(トコフェロール)の抗酸化作用の分析に適用した。
(4) その他,超音波のキャビテーションを利用して,金ナノ粒子や金ナノ粒子/グラフェンの
機能性複合ナノ材料の調製に成功し,環境水中の六価クロムやネライトキシン系殺虫剤を分析
するためのセンサーを開発した。
<引用文献>
[1] T. J. Mason (Ed): Advances in Sonochemistry, JAI Press, Vol.1 (1990), Vol.2(1991).
[2] A. J. Bard: Electrogenerated Chemiluminescence, Marcel Dekker, New York, 2004.
[3] R. G. Compton, J.C. Eklund, F.Marken, T.O. Rebbit, R.P. Akkermans and D.N. Waller,
Electrochim.Acta,42, 2919 (1997).
5.主な発表論文等
〔雑誌論文〕
(計 4 件)
[1] F. Takahashi, N. Yamamoto, M. Todoriki, J. Jin, Sonochemical preparation of gold nanoparticles for
sensitive colorimetric determination of nereistoxin insecticides in environmental samples, Talanta,
188, 651-657(2018).査読有, DOI:10.1016/j.talanta.2018.06.042
[2] T. K. Sari, F. Takahashi, J. Jin, R. Zein, and E. Munaf, Electrochemical Determination of Chromium
(VI) in River Water with Gold Nanoparticles with Graphene Nanocomposites Modified Electrodes,
Analytical Sciences, 34(2), 155-160(2018). 査読有, DOI:10.2116/analsci.34.155
[3] F. Takahashi, S. Nitta, R. Shimizu, J. Jin, Electrochemiluminescence and voltammetry of
tris(2,2′-bipyridine)ruthenium (II) with amphetamine-type stimulants as coreactants: an application
to the discrimination of methamphetamine, Forensic Toxicol, 36,185-191(2018). 査 読 有 ,
DOI:10.1007/s11419-017-0388-3
[4] M. Matsuoka, F. Takahashi, Y. Asakura, J. Jin, Sonochemiluminescence of lucigenin: Evidence for
superoxide radical anion formation by ultrasound irradiation, Japanese Journal of Applied Physics,
55, 07KB01-07KB06(2016).査読有, DOI: 10.7567/JJAP.55.07KB01
〔学会発表〕
(計 24 件)
[1] Jiye Jin, Şonoanalytical chemistry: Fundamentals and Applications, International Symposium on
Analytical Chemistry in East China Normal University, Shanghai, China, Nov. ...

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