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大学・研究所にある論文を検索できる 「ニホンヤマビルの宿主動物のDNA同定と地理的遺伝構造から明らかになった近年の分布拡大要因と拡大範囲」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ニホンヤマビルの宿主動物のDNA同定と地理的遺伝構造から明らかになった近年の分布拡大要因と拡大範囲

森嶋, 佳織 モリシマ, カオリ 東京農工大学

2021.05.10

概要

ニ ホ ン ヤ マ ビ ル ( Haemadipsa japonica ; 以 下 、 ヤ マ ビ ル ) は、 哺 乳 類 や ヒ トへの 吸 血 性 を も つ 陸 生 ヒ ル で あ り 、 日 本 で は 本 州 、 四 国 、 九 州 に 分 布 す る 。 日本 における ヤ マ ビ ル の 分 布 は 、か つ て は 山 中 や 渓 谷 に 限 定 され て い た 。し か し 、 1990 年代 以 降 、全 国 的 に ヤ マ ビ ル に よ る 吸 血 被 害 が 多数 報 告 さ れ る よ う に な った 。 ヤ マ ビ ル は 尺 取 虫 様 に 移 動 す る こ と を 考 慮 す る と 移 動 性 は 低 い と 考 え ら れる 。 そ の た め 、 ヤ マ ビ ル の 近 年 の 分 布 拡 大 と 野 生 動 物 の 分布拡大 と の 関 連 性 が指 摘 さ れ て い る 。 ま た 、 ヤ マ ビ ル の 吸 血 被 害 は 林 業 作 業 の 支 障 と な る な ど 問 題化 し て い る 。 こ の よ う な 問 題 を 解 決 す る た め に 、( 1 ) ヤ マ ビ ル は ど の よ う な 吸血 対 象 ( 宿主 ) 動 物 を 介 し て 広 が っ て い る の か 、( 2 ) 現 在 の ヤ マ ビ ル の 分 布 拡大 は ど こ の 集 団 を 核 と し て ど の 程 度 広 が っ て い る の か 、 と い う 点を 解明 す る必 要 が あ る 。 本 研 究 で は こ の 2 点 に 着 目 し た 。

第 2 章 で は 、 全国 26 箇所 で 採 集 し た ヤ マ ビ ル の 消 化 管 に 残 る 吸 血 液 の invertebrate - derived D N A( iDNA ) の ミ ト コ ン ド リ ア DNA( mtDNA ) の 1 6 S リボ ソ ー ム R N A( rRNA )遺 伝 子 領 域 の 塩 基 配 列 を 決 定 し 、宿 主 動 物 の 同 定 を 行 っ た 。そ の 結 果 、 1 4 4 匹 の ヤ マ ビ ル か ら 1 7 種 類 ( 哺乳類 10 種 と 両 生 類 7 種 ) の 宿 主動物 が 同 定 さ れ た 。ま た 、1 匹 の ヤ マ ビ ル か ら 1 種 類 の 宿 主 動 物 が 同 定 さ れ た。 さ ら に 、 ニ ホ ン ジ カ ( 以 下 、 シ カ ) が ヤ マ ビ ル の 主 要 な 宿 主 動 物 で あ っ た 。 シカ の分布の 在・不在 が ヤ マ ビ ル の 宿 主 動 物 の 選 択 性 に 与 え る 影 響 を 検 討 し た 結果、 シカ の 分 布 の 在 ・ 不 在 に よ っ て 、 ヤ マ ビ ル の 宿 主 動 物 の 組 成 が 有意に 異な っ て い た 。 シカ が 分 布 す る 地 域 で は 、 ヤ マ ビ ル の 無尾目 ( カ エ ル 類 ) の 吸血 利用 が 減 少 する 一 方 で 、 シカ の 分 布 が 確 認 さ れ て い な い 地 域 で は 、 無尾目 ( カ エル 類 ) が 重 要 な 宿 主 動 物 で あ っ た 。 こ れ ら の こ と は 、 シカ の 増 加 に 伴 い 、 ヤ マビル の 主 要 宿 主 動 物 が 無 尾 目 ( カ エ ル 類 ) から シカ に 変 化 す る こ と で 、 ヤ マ ビル の 成 長 と 繁 殖 力 が 増 し 、 結 果 と し て ヤ マ ビ ル 個 体 群 の 増 加 ・ 拡 大 を も た ら した もの と 考 え ら れ た。

第 3 章では、 現 在 の ヤ マ ビ ル の 分 布 拡 大 が ど こ の 集 団 を 核 と し て 広 が っ た のか 明 ら か に す る た め に 、 ヤ マ ビ ル が 地 域 的 な 遺 伝 的 組 成 の 違 い ( 地 理 的 遺 伝 構造 ) を も つ か 検 討 し た 。 最初 に 次 世 代 シ ー ケ ン サ ー を 用 い て ヤ マ ビ ル で 利 用 可能 な 核 DNA の マ イ ク ロ サ テ ラ イ ト( Simple Sequence Repeat; SSR ) マ ー カ ー を開 発 し た 。 次 に 、 全 国 で 採 集 し た ヤ マ ビ ル の mtDNA お よ び 核 DNA の 遺 伝 情 報を 用 い て 、ヤ マ ビ ル の 地 理 的 遺 伝 構 造 と 遺 伝 的 分 化 を 調 べ た 。全国 39 集団 508 個 体 の mtDNA の シ ト ク ロ ム c オ キ シ ダ ー ゼ サ ブ ユ ニ ッ ト 1 ( COI ) 遺 伝 子 領 域の 塩 基 配 列 を 用 い た 系 統 解 析 の 結 果 、 秋 田 県 か ら 徳 島 県 に か け て 広 く 分 布 す る A 系 統 群 と よ り 限 定 さ れ た B 系 統 群 の 2 つ に 大 別 さ れ た の み で 、mtDNA の 各地 域 で の 遺 伝 的 な 差異 は み ら れ な か っ た 。 一方、 本研究で 開発した 9 つの 核 SSR マ ー カ ー を 用 い て 全国 37 集団 798 個体 の ヤ マ ビ ル を 解析 した 結 果 、 明 瞭 な 地理 的 遺 伝 構 造 が み ら れ た 。 し た が っ て 、 核 SSR マ ー カ ー を 用 い た 遺 伝 解 析 は 、ど こ の 集 団 を 核 と し て 広 が っ た の か 推 定 す る 上 で 、 有 効 で あ る と 考 え ら れ た 。

第 2 章 の 結 果 、 栃 木 県 の ヤ マ ビ ル の 主要 宿 主 動 物 は シカ であった 。 栃 木 県 内南 北 の ヤ マ ビ ル の 分 布 地 は 、 シ カ の 分 布 地 を 介 す る と 繋 が る 一 方 で 、 第 3 章の 核 SSR マーカー を 用 い た 遺 伝 解 析 の 結 果 、栃 木 県 内 の ヤ マ ビ ル 集 団 は 南 北 間 で遺 伝 的 分 化 が み ら れ 、 遺 伝 的 交 流 を 伴 う 移 動 は 生 じ て い な い と 推 察 さ れ た 。 その た め 、第 4 章 で は 、栃 木 県 を 例 と し て 、シ カ 自 身 の mtDNA の 遺 伝 子 型( ハ プロ タ イ プ ) の 地 理 的 遺 伝 構 造 を 明 ら か に す る と と も に 、 ヤ マ ビ ル の 吸 血 液 か ら得 ら れ た シ カ の iDNA の ハ プ ロ タ イ プ の 地 理 的 分 布 と 比 較 す る こ と で 、 シカ の移 動 を 介 し た ヤ マ ビ ル の 拡大 範 囲 と 、 ヤ マ ビ ル が 県 内 の 南 北 で 遺 伝 的 に 分 化 して い る 要 因 に つ い て 検討した 。 栃木県 内 南 北 で 採 集 し た シカ 自身 と ヤ マ ビ ル から 得 ら れ た シカ の iDNA を 用 い て 、 両 者 の mtDNA の 16SrRNA の ハ プ ロ タ イ プを 比 較 し た 。 そ の 結 果 、 シカ 自身 の ハ プ ロ タ イ プ は 、 栃 木 県 の 南 北 間 で 地 理 的な ま と ま り が み ら れ た 。 ま た 、 ヤ マ ビ ル か ら 得 ら れ た シカ の iDNA の ハ プ ロ タイ プ は 、 シカ 自 身 の も の と 対 応 し て 栃 木 県 の 南 北 間 で 分 化 が み ら れ た 。 こ れ らの こ と か ら 、 栃 木 県 に お け る ヤ マ ビ ル の 分 布 拡 大 は 県 内 の 南 北 に あ っ た 古 く から 分 布 し て い た 各 集 団 の 周 囲 に 十数 km の 狭 い 範 囲 で 広 が っ て い る の み で あ り 、こ の よ う に 分 布 拡 大 範 囲 が 限 ら れ て い る の は 、 シ カ の 行 動 圏 が 限 ら れ て い る ため と 考 え ら れ た 。

以上 の 結果 か ら 、 昔 か ら ヤ マ ビ ル の 分布 する 地 域 で 、 シ カ が 増 加 ・ 分布 拡大す る と 、ヤ マ ビ ル も 増 加 し て 比 較 的 狭 い 範 囲 で 分 布 拡 大 す る こ と が 示 唆 さ れ た 。そ の た め 、 こ の よ う な 条 件 に あ た る 地 域 で は 、 シカ の 管 理 が 、 ヤ マ ビ ル の 繁 殖抑 制 に つ な が り 、 ヤ マ ビ ル の 分 布 拡 大 対 策 と し て 有 効 で あ る と 考 え ら れ た。

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