Effects of Ventilatory Settings on Pendelluft Phenomenon During Mechanical Ventilation
概要
〔目的(Purpose))
通常、ARDS肺では背側で含気が減少しているが、ARDS患者の人工呼吸管理中に自発呼吸努力を残した際、吸気相の早期に、より含気の多い腹側肺から背側肺に向けて肺内でガスの移動が生じることが判り、これをぺンデルフト現象と呼ぶ。このガスの移動により、背側肺の過膨張と腹側肺の虚脱をきたし、更なる肺障害の原因となっている可能性が指摘されるが、一回換気量の増減を伴わない等、通常のモニタリングでは現象の発生を捉えるのが困難であり、生体での検証には限界があるため、今回、人工的なペンデルフト現象の再現モデルを確立し、人工呼吸器設定がぺンデルフトの程度に与える影響について検証を行った。
〔方法ならびに成績(Methods/Results))
ペンデルフト再現モデルはツインベロータイプのモデル肺を2組使用して作製した。1組のツインベローのうち一方で肺領域、もう一方で横隔膜の挙動を再現することとした。に割り当て、横隔膜ベローは人工呼吸器を用いて駆動させ、その挙動が肺ベローに伝わって駆動することで自発呼吸を再現している。このセットを2組準備して一方を背側肺領域、もう一方を腹側肺領域に見立て、横隔膜ベローに接続した2台の人工呼吸器は同期した状態で駆動させた。更に、2つの肺ベローは別に準備した1台の人工呼吸器で換気を行った。横隔膜ベローに接統した人工呼吸器の駆動条件を変更することで、自発呼吸努力により発生する胸膜圧陰圧の強弱を再現した。ぺンデルフト現象の発生の程度については、背側肺領域において自発呼吸努力を消失させた際と比し、自発呼吸努力を発生させた際に増加する一回換気量の差をペンデルフト量と定義して評価を行った。また、腹側肺領域と背側肺領域との間のガスのフローを測定し、それを基に肺領域間のガスの移動量を算出した。肺ベローを換気する人工呼吸器の設定については、換気モード・吸気トリガー・吸気の立ち上がり・呼気サイクリングを変更し、ぺンデルフト量の変化について検討を行った。
この再現モデルを駆動させると、吸気相早期に腹側肺領域から背側肺領域へのガスの移動が観察され、ペンデルフト現象を再現し得たと考えられた。腹側肺領域と背側肺領域との間の胸膜圧陰圧の較差が拡大するとペンデルフ卜の発生の程度が増強し、また、腹側肺と背側肺との間に肺メカニクスの差が存住すると、両肺領域間の胸膜圧陰圧の較差が大きくなくてもぺンデルフトが発生しやすくなった。一方、人工呼吸器の設定に関しては,吸気トリガ一や吸気時間の変更により両肺領域間のガスの移動量に一部影響を与えたが限定的であり、ペンデルフト量に対してはほとんど影響を与えなかった。
〔総括(Conclusion))
人工的なペンデルフト現象の再現モデルを確立し得た。ペンデルフト現象は、肺領域間の胸膜圧陰圧の不均一性によって生じ、胸膜圧陰圧の較差が拡大することでペンデルフト発虫の程度は增強した。また、肺領域問のメカニクスに差が生じると、胸膜旺陰圧の較差が小ざい状態でもペンデルフトが発生していた。一方、人工呼吸器設定の変更によっては、ぺンデルフト発生の程度にはほぼ影響を与えることはできなかった。