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大学・研究所にある論文を検索できる 「亜鉛結合タンパク質のモデルとしてのメタロチオネイン-3におけるサルフェン硫黄の役割」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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亜鉛結合タンパク質のモデルとしてのメタロチオネイン-3におけるサルフェン硫黄の役割

イウンジエイ, ディン Yunjie, Ding 筑波大学

2020.07.27

概要

【目的】ヒトは生活環境,ライフスタイル及び食生活を介して,酸化・親電子ストレスに日々曝されている.一方,サルフェン硫黄は6つの価電子からなる硫黄原子で、他の硫黄原子に可逆的に結合したものを指し、高い抗酸化性および高い求核性を有する.我々はサルフェン硫黄を有するシステインパースルフィド(CysSSH)やグルタチオンパースルフィド(GSSH)などの分子により,活性酸素種(ROS)や親電子物質が不活性化されることを明らかにしてきた.また,先行研究により,新生ペプチドに導入するtRNAの合成酵素であるシステインtRNA合成酵素(CARS)がシステイン(CysSH)を基質としてCysSSHを生成することを見出した。このことは、細胞内タンパク質中にCysSSHが広範に存在する可能性を示唆している。本研究では,タンパク質結合性のサルフェン硫黄の機能を明らかにするために,生体内からサルフェン硫黄結合タンパク質(SSBP)を同定し,その同定されたタンパク質をモデルとして,タンパク質におけるサルフェン硫黄の機能やサルフェン硫黄を介した生体防御システムの解明を試みた.

【対象と方法】
SSBPの単離: マウス脳可溶性画分を各種カラムクロマトグラフィーにて分離し、得られた画分と親電子プローブであるβ-(4-hydroxyphenyl)ethyl iodoacetamide(HPE-IAM)を反応させ、生成したbis-S-HPE-IAM付加体をUHPLC-ESI-MS/MSにて検出することで、SSBPを追跡した.
タンパク質の同定: nanoUPLC-MSEを用いた.
リコンビナントタンパク質: 大腸菌の高発現系を用いて調製した.
金属の定量: ICP-MSにて行った.
タンパク質の3次元構造モデリング: 統合計算システムMOEを用いて解析した.
培養細胞: ヒトグリア芽細胞腫U87細胞を用いた.

【結果】UHPLC-ESI-MS/MSによるサルフェン硫黄の定量法を用いて,マウス脳可溶性画分からSSBPを分離した結果,複数のSSBPの存在が観察されたが、最終的にSDS-PAGE上で16kDaを示す高純度のタンパク質を得た.当該タンパク質のトリプシン消化断片をnanoUPLC-MSEにて解析したところ,メタロチオネイン-3(MT3)が同定された.次にヒトリコンビナントMT3を調製し,本タンパク質中サルフェン硫黄を定量するための測定条件を最適化した。得られた結果を以下に示す.1)分子内に20個のCysSH残基および7個の亜鉛(Zn)を有するMT3は約20個のサルフェン硫黄を含有することが分かった.さらに、MT3のCysSH残基のアラニン置換によりサルフェン硫黄の含有量は減少した.2)MT3およびZn非結合型のapo-MT3は共に同程度のサルフェン硫黄を含有したが,前者は37°Cで28日間安定的に保持された一方で,後者は3日以内に消失した.3)HPE-IAMまたはシアンイオン処置によりMT3中からサルフェン硫黄を除くと,MT3中のZnも同様に減少した.4)MT3をROSであるH2O2、NO誘発剤あるいは親電子物質であるメチル水銀と反応させると,曝露濃度依存的にサルフェン硫黄とZnは減少した.5)U87細胞をH2O2あるいは親電子物質の曝露条件化において,MT3のノックダウンにより細胞毒性の有意な増加が見られ,逆にMT3の高発現でそれぞれの毒性は有意に軽減された.6)さらに,MT3の3次元構造モデル解析を行った結果,サルフェン硫黄が結合したMT3は,サルフェン硫黄非結合型のMT3と比較してその3次元構造を維持したまま,熱安定性およびZn結合の親和性が共に高いことが示唆された.

【考察】本研究より,MT3はSSBPであり,MT中CysSH残基と同程度のサルフェン硫黄が付加していることが明らかとなった.過去の論文を調べると、スペインの研究グループから種々のMT分子種に酸不安定な硫黄(硫化水素として検出)が付加していることが報告されており,彼らが検出した硫黄はMT分子のCysSH残基に付加したサルフェン硫黄に由来している可能性が高い。実際,MT3のCysSH変異体においてサルフェン硫黄の結合量は減少した.また,MT3のZnがCysSH残基に結合することが知られているため,CysSH残基に結合するサルフェン硫黄はZnの保持に関与するではないかと予想される.リコンビナントMT3及びMOEを用いた解析により,MT3がタンパク質内にサルフェン硫黄を保持することで,Zn親和性が向上することが明らかとなった。一方、Zn非結合型のapo-MT3においては、サルフェン硫黄を安定的に保持することが難しいため、Znの結合がサルフェン硫黄にとって必要不可欠であると考えられる。すなわち,MT3に結合するサルフェン硫黄とZnは相互依存の関係性にあることが示唆された.サルフェン硫黄はCysSHの炭素鎖に結合した硫黄に比べて高い抗酸化性および求核性を有する.実際にMT3結合性のサルフェン硫黄は酸化・親電子ストレスのモデルとしてのH2O2、NO誘発剤あるいはメチル水銀との反応により減少した。同時に認められたZnの遊離は,細胞内においてはZnシグナルの活性化とそれに伴うストレス応答に関連することが考えられる.U87細胞での検討より、MT3はROS及び親電子物質に対して防御的に働くことが分かったが,その理由として1)サルフェン硫黄の直接的な作用、2)Znシグナルを介した抗酸化・抗親電子制御の間接的な作用が考えられる.MT3以外のZn結合タンパク質もサルフェン硫黄を保持できることが報告されており,サルフェン硫黄はそれらのタンパク質の機能にも重要な役割を果たしていることが期待される.

【結論】マウスの脳よりSSBPの1つとして同定されたMT3は,分子内に約20個のサルフェン硫黄および7個のZnを有する.MT3中のサルフェン硫黄とZnは相互依存の関係性にあり,MT3は自身にサルフェン硫黄を結合することで,抗酸化・抗親電子作用を有している.

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