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大学・研究所にある論文を検索できる 「食道癌に対するロボット支援下非胸腔アプローチ根治的食道亜全摘術後の体系的術後機能評価の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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食道癌に対するロボット支援下非胸腔アプローチ根治的食道亜全摘術後の体系的術後機能評価の検討

吉村, 俊太郎 東京大学 DOI:10.15083/0002001415

2021.09.08

概要

[ 背景] 食道癌治療において手術が大きな役割を担っている一方で、食道癌に対する根治的食道切除は最も術後合併症、術後死亡の多い手術の一つである。食道癌手術は、右開胸を含めたアプローチを必須としていたが、これには分離換気による右肺の虚脱、片肺換気が必須である。この分離肺換気は食道癌術後の肺合併症の成因となり、術後に様々な機能低下、QOL低下につながる可能性があると考えられてきた。低侵襲食道癌手術として胸腔鏡下食道切除術が報告され、開胸手術と比較して術後疼痛の軽減や肺活量の回復が早いなどの利点が報告されている一方、術後肺炎発生率の低下や入院期間の短縮、術後死亡率の低下に有意性はなく、低侵襲手術とされる胸腔鏡下手術も肺合併症の軽減には十分な役割を果たしていないのが現状である。
我々は、開胸操作、片肺分離換気を行わないロボット支援下非胸腔アプローチ食道亜全摘術(以下、非開胸手術)を実施し、非開胸手術は従来手術との比較において術後肺炎発生の低減という有用性に加え、腫瘍学的な非劣性も示してきた。

[ 目的] 本研究は非開胸手術の低侵襲性および有用性を生理学的かつ術後の機能評価の面か ら検証することを目的とした。食道癌術後 QOL を後方視的に解析し、食道癌術後周術期成績、血清サイトカイン、呼吸機能、体成分分析、術後 QOL を前方視的に検討した。

[ 後方視的研究方法] 食道癌に対し、2010 年 1 月から 2014 年 12 月までに開胸手術または非開胸手術により食道亜全摘、後縦隔経路胃管挙上再建を行った患者のうち、食道癌術後再発、他領域の悪性腫瘍に対し治療継続中または手術、食道癌術後合併症に対し再手術を行っていない患者を対象とした。QOL 調査は食道癌術後あるいは食道癌術後化学療法施行後 3 ヶ月以上経過した患者に対し、2014 年 10 月から 2015 年 9 月まで EORTC QLQ-C30 と EORTC QLQ OES18 を用いて横断的に行い、QOL スコアを非開胸手術群と開胸手術群とで比較した。

[ 後方視的研究結果] 64 人に対し QOL 調査を行い、63 人(非開胸手術群 26 人、開胸手術群 37 人)より回答を得た(98.4%)。非開胸手術群の Global health status、Physical、Role、Cognitive、 Fatigue、Nausea、Pain、appetite loss、Reflux、Taste のスコアが非開胸手術群において有意に良好だった。多変量解析による QOL スコア低下に影響する因子の検討では、Physical、Role、 Cognitive、Fatigue、Nausea and vomiting、Pain、Reflux、Taste において開胸手術がリスク因子であった。また Physical スコアの悪化因子として 75 歳以上、Role スコアの悪化因子として術後経過期間が 1 年未満であることであった。さらに、壁深達度が T3 以深であることがTasteスコアの悪化因子であった。

[ 後方視的研究考察] 非開胸手術群の術後 QOL は開胸手術群と比較して多くの指標において良好であることが示されたが、術前 QOL の評価や、経時的な QOL の検証はされておらず、前向き研究による検討が必要であると考えられた。

[ 前方視的研究方法] 2015 年 4 月から 2017 年 3 月まで本学において症例集積した自主臨床試験の 2017 年 11 月 30 日時点での解析を行った。この自主臨床試験は当科にて食道癌手術を行った患者のうち、以下に示す適応基準に該当する患者を対象とした。(1)病理学的に確定した食道癌患者であること。(2)一期的根治切除が可能であること。(3)主病巣が T3 までの食道癌であること。(4)同意取得時において 20 歳以上 85 歳未満であること。(5) PS (ECOG-PS)が 0 または 1 であること。(6)重要臓器機能が十分に保たれ耐術可能と判断されること。(7)同時性重複癌がないこと。(8)術前放射線療法を受けていないこと。全対象患者に対し、開胸手術、非開胸手術を提示し、daVinci S による非開胸手術は、本術式が保険外診療であることへの同意が得られた患者を対象に実施し、その他の患者に対しては開胸手術を行った。本研究は(1)周術期成績、(2)術前、術直後、術後第 1、3、5、7 病日の血中 IL-6、IL-8、IL-10、(3)術前、術後 6 ヶ月の呼吸機能、(4)術前、術後 3、6 ヶ月の InBody770 を用いた体成分分析、(5)術前、術後 3、6 ヶ月の EORTC QLQ-C30、EORTC QLQ-OES18 を用いた QOL 評価の 5 項目に関して、全患者及び pT0-2 の患者(サブグループ)において非開胸手術と開胸手術とで比較検討した。

[ 前方視的研究結果] 60 人(非開胸手術群 25 人、開胸手術群 35 人)の食道癌患者が本研究に参加し、全員が解析対象となった。pT0-2 の患者は 42 人(非開胸手術群 22 人、開胸手術群 19 人)だった。全患者及びサブグループにおいて非開胸手術は開胸手術と比較して有意に頸部吻合の割合が多かった。また壁深達度(pT)は全患者において開胸群で有意に進行症例が多かったが、サブグループでは有意差は認めなかった。

(周術期成績) 非開胸手術群において、開胸手術群と比較して有意な手術時間の延長を認めたが、出血量は有意に少なかった。術後合併症は、非開胸手術群において開胸手術群と比較して有意な肺炎の減少を認めたが、吻合部狭窄の発症率は有意に頻度が高かった。術後在院日数中央値は非開胸手術群において開胸手術群と比較して有意に短かった。サブグループ解析においても、有意な手術時間の延長、出血量の減少、入院期間の短縮、術後肺炎の減少を認めた。吻合部狭窄は非開胸手術群で発症頻度が高かったが有意差は認めなかった。術後肺炎のリスク因子は、単変量解析、多変量解析において開胸手術、75 歳以上であった。

(血中サイトカイン) 全患者及びサブグループにおける血中 IL-6 は術後第 1、3、5、7 病日において非開胸手術群の方が開胸手術群と比較して有意に低かった。全患者の血中 IL-8 は術直後、術後第 1 病日において非開胸手術群の方が有意に低く、サブグループでは術直後、術後第 1、第 3、第 5 病日において非開胸手術群の方が有意に低かった。全患者、サブグループの血中 IL-10は術直後において非開胸手術群の方が有意に低かった。

(呼吸機能) 食道癌再発死亡 2 例、術後呼吸機能検査未施行患者 1 例を除外した。全患者及びサブグループともに、両群において術前と比較して術後 6 ヶ月の VC、%VC、FVC が有意に減少し、開胸手術群で術後 6 ヶ月の FEV1.0 が有意に減少した。術前と比較した術後 6 ヶ月の VC、%VC、FVC、FEV1.0 の減少率は、全患者及びサブグループともに非開胸手術群と比較して開胸手術群で有意に大きかった。

(体成分分析) ペースメーカーを挿入していた患者 1 例を除外した。全患者における術後 3 ヶ月、6 ヶ月の調査率はそれぞれ 98.3%、94.7%であり、サブグループでは術後 3 ヶ月、6 ヶ月ともに 97.5%だった。全患者及びサブグループの体重、体脂肪量、骨格筋量減少率は術後3ヶ月、 6ヶ月において両群間で有意差は認めなかった。

(QOL 調査) 全患者における術後 3 ヶ月、6 ヶ月の調査率はそれぞれ 91.7%、86.2%であり、サブグループでは術後 3 ヶ月、6 ヶ月ともに 90.0%だった。全患者の術前 QOL は、非開胸手術群で Global health status、Cognitive、Fatigue、Appetite loss、Diarrhea、Taste のスコアが有意に良好だった。術後 QOL スコアは、術後 3 ヶ月、6 ヶ月ともに非開胸手術群の Global health status、Physical、Role、Emotional、Social、Pain、Dyspnea、Reflux のスコアが有意に良好だった。サブグループでは、非開胸手術群の術前 Global health status のみが有意に良好だった。術後 QOL スコアは、術後 3 ヶ月、6 ヶ月ともに非開胸手術群の Physical、Emotional、Pain、 Taste のスコアが有意に良好であり、Global health status、Role、Social、Fatigue、Dyspnea、 Reflux のスコアは術後 6 ヶ月において有意に良好だった。

[ 前方視的研究考察] 非開胸手術群において、肺炎発症頻度の低下、術後入院期間の短縮を認め、術後血中サイトカインレベル上昇の軽減、術後呼吸機能の保持、良好な術後 QOL が示された。しかし、この結果は両群間の患者の腫瘍学的な背景の差の影響を受けている可能性があった。

[ 総括] ロボット支援下非胸腔アプローチ根治的食道亜全摘術は、真に低侵襲な食道癌手術を目指し考案した非開胸の根治的食道癌手術術式である。後方視的 QOL 評価では本術式の優位性が示されたが、この結果を前向きの検討で再考証しつつその低侵襲性の裏付けを生理学的かつ様々な身体機能の温存面からの有用性を検証した。非開胸手術は呼吸筋の温存でき、分離肺換気を必要としないこと、開胸に伴う癒着を回避できることに加え、血中サイトカインレベル上昇の軽減が可能であり、術後肺炎発生率の軽減、術後呼吸機能が保つことのできる食道癌根治手術である。その結果、前向きの術後 QOL の検討でも様々な機能、症状において非開胸手術の優位性が示された。しかし、今後胸腔鏡下手術との比較や、ランダム化試験などの交絡の少ないデザインの比較検討を行なっていく必要がある。また、根治性を開胸手術と同等の手術とする目的で用いたロボット技術の有用性は、長期予後の検討も含め評価する必要があると考える。

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