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大学・研究所にある論文を検索できる 「Sik3変異マウスにおける睡眠量の恒常性制御を担う組織・細胞集団の時空間的探索」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Sik3変異マウスにおける睡眠量の恒常性制御を担う組織・細胞集団の時空間的探索

岩﨑, 加奈子 筑波大学

2022.11.22

概要

目 的:
 全⾝性にSIK3のExon13を⽋損するSik3Slpマウスでは睡眠量と睡眠負債が顕著に増加するが、SIK3は胎⽣期から脳と末梢組織で発現するため、(1)SIK3(SLP)が神経発⽣を変化させた結果として、または、(2)SIK3(SLP)が神経細胞以外の細胞機能に影響を与えた結果として、睡眠量が変化した可能性を否定できなかった。そこで、新規に時期特異的にSik3Slpアリルを誘導するマウスを作成し、SIK3(SLP)が成熟した神経細胞で睡眠量を制御しうるか明らかにすることを第⼀⽬的とした。
 次に、SIK3(SLP)の責任脳領域を明らかにすることを第⼆の⽬的とした。所属研究室において、様々な脳領域特異的CreマウスとSik3floxマウスの交配実験が⾏われ、視床下部におけるSIK3(SLP)の発現が睡眠増加に⼗分であることが⽰された。本研究では、AAVを⽤いた脳局所的な遺伝⼦改変により、視床下部においてSIK3(SLP)が睡眠量を増加させる神経核の同定を⽬標とした。

対象と方法:
実験動物:時期特異的に神経細胞においてSik3Slpアリルを誘導するため、神経細胞特異的にCreERT2を発現させるSynapsin1CreERT2マウスと、Cre依存的にSlpアリルを発現するSik3ex13floxマウスを作成した。また、組織学的検討のためROSALacZ/+マウスを使⽤し、グルタミン酸作動性神経細胞特異的に操作するためにVglut2Creマウスを使⽤した。
脳波筋電図測定:睡眠覚醒⾏動を調べるため、脳波筋電図測定を⾏った。脳波筋電図データは20秒ごとに覚醒、NREM睡眠、REM睡眠に判別し、各ステージの合計時間を求めた。また、脳波データに対して⾼速フーリエ変換を⾏い、睡眠負債の指標であるノンレム睡眠時δパワーを算出した。

結 果:
1. Synapsin1CreERT2マウスの組換え効率:Synapsin1CreERT2;ROSALacZ/+マウス脳でX-gal発⾊を⾏った。⽣後28⽇齢以降(⻘年期)のタモキシフェン投与と⽐べて、⽣後14⽇齢以降(後期乳児期)のタモキシフェン投与は、⾼効率で組換えを引き起こすがわかった。
2. タモキシフェンを後期乳児期に投与したSynapsin1CreERT2;Sik3ex13flox/+マウスの睡眠覚醒:Synapsin1CreERT2;Sik3ex13flox/+マウスに対して後期乳児期にタモキシフェンを投与し、SIK3(SLP)を神経細胞特異的に発現させると、ノンレム睡眠量とNREM睡眠時δパワーの両⽅が増加した。
3. タモキシフェンを⻘年期に投与したSynapsin1CreERT2;Sik3ex13flox/+マウスの睡眠覚醒:Synapsin1CreERT2;Sik3ex13flox/+マウスに対して⻘年期にタモキシフェンを投与し、SIK3(SLP)を神経細胞特異的に発現させると、NREM睡眠時δパワーは増加するが、NREM睡眠量は変化しなかった。
4. SIK3(SLP)発現マウスの脳波データを⽤いたProcess Sの推定:睡眠の恒常性制御を担う睡眠負債「Process S」を、睡眠覚醒ステージ情報と脳波δパワーをもとにシミュレーションした。SIK3(SLP)発現マウスでは、Process Sが増加速度に対して減少が遅いことが明らかになった。
5. Sik3ex13flox/floxマウスにおいてCreの発現により睡眠量が増加する脳領域:Sik3ex13flox/floxマウス脳にCre発現AAVを局所投与することで、SIK3(SLP)が睡眠量を増加させる脳領域を探索した。視床下部腹内側核にCreが発現した個体では、睡眠量が増加傾向にあった。
6. Vglut2Cre/+マウスを⽤いたSIK3(SLP)の神経核特異的な発現による睡眠変化:Vglut2Cre/+マウスにCre依存的にSIK3(SLP)を発現させるAAVを投与し睡眠覚醒⾏動を調べた。視床下部腹内側核にAAVを感染させるとNREM睡眠が増加するが、NREM睡眠時δパワーは変化しなかった。

考 察:
1. Synapsin1CreERT2マウスについて:Synapsin1CreERT2マウスで⾒られる脳領域間で⾒られるCreの発現量の差は、Synapsin1の発現量の違いによるものと考えられる。⼀⽅で、組換え効率の脳領域間での差は、Creの発現量とタモキシフェンのアクセスのしやすさの差の両⽅が寄与していると考えられる。
2. Synapsin1CreERT2;Sik3ex13flox/+マウスの睡眠覚醒⾏動:Synapsin1CreERT2;Sik3ex13flox/+マウスに対して、タモキシフェンを後期乳児期に投与した場合にはNREM睡眠が増加するのに対し、⻘年期に投与した場合には変化しなかった。2つの投与条件間では、SIK3(SLP)が誘導される時期と、組換え効率が異なる。AAVを⽤いて成体でSIK3(SLP)を発現させた場合にも睡眠量が増加することから、これらの条件間のNREM睡眠量の差がSIK3(SLP)の誘導時期によるものとは考えにくく、SIK3(SLP)が誘導される効率の違いによるものと考えられる。
3. SIK3(SLP)が睡眠量を増加させる脳領域:Sik3ex13flox/floxマウスで視床下部腹内側核にCreが発現していると、他の視床下部の神経核と⽐べて覚醒時間の減少が強く⾒られた。さらに、視床下部腹内側核のVglut2陽性神経細胞特異的にSIK3(SLP)を発現させた場合にも、覚醒量の減少が⾒られたことから、視床下部腹内側核のVglut2陽性神経細胞に発現するSIK3(SLP)はNREM睡眠量の増加に⼗分であることが⽰された。
4. SIK3(SLP)がNREM睡眠時のデルタパワーを増加させる脳領域:Synapsin1CreERT2;Sik3ex13flox/+マウスに対して、⻘年期にタモキシフェンを投与した場合、NREM睡眠量は増加しないが、NREM睡眠時δパワーは増加していた。⼀⽅で、視床下部腹内側核のグルタミン酸作動性神経細胞集団にSIK3(SLP)を発現させた場合には、NREM睡眠量は増加したが、NREM睡眠時δパワーは増加しなかった。以上の結果から、NREM睡眠時δパワーの増加には視床下部腹内側核以外の領域に発現するSIK3(SLP)が関与していることが⽰唆された。

結 論:
 Synapsin1CreERT2;Sik3ex13flox/+マウスにおいて、生後14日齢以降にSIK3(SLP)を誘導すると、NREM睡眠の増加とNREM睡眠時δパワーの増加が見られた。一方で生後28日齢以降にSIK3(SLP)を誘導させた場合には、NREM睡眠時δパワーの増加のみが観察された。また、視床下部腹内側核にCreを発現したSik3ex13flox/floxマウスでは、視床下部の他の領域にCreを発現した個体よりも覚醒量が大きく減少した。Vglut2Cre/+マウスを用いてVMHのグルタミン酸作動性神経細胞特異的にSIK3(SLP)を発現させた場合にも、同様に覚醒量の減少が見られたが、ノンレム睡眠時δパワーの増加は見られなかった。
 以上の結果から、生後14日齢以降の成熟神経細胞に発現するSIK3(SLP)がNREM睡眠の増加に十分であり、さらに、SIK3(SLP)が睡眠を増加しうる脳領域は、視床下部腹内側核グルタミン酸作動性神経細胞集団まで狭まることが明らかになった。

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