Prognostic role of the innate immune signature CD163 and
概要
論文審査の要旨及び担当者
報告番号
甲 乙 第
論 文審査 担当 者
号
主
査
泌尿 器科学
先 端医科 学( がん免 疫)
籠
谷
勇
紀
内 科学
金
子
祐
子
学 力確認 担当 者:柚 﨑
通介
氏
大
案
納
忠
微生 物学 ・免疫 学
吉
村
名
家
基
譜
嗣
審 査委員 長: 籠谷
昭
彦
勇紀
試 問日:2023年 5月 17日
(論文審査の要旨)
論文題名:Prognostic role of the innate immune signature CD163 and “eat me” signal
calreticulin in clear cell renal cell carcinoma
(淡明細胞型腎細胞癌における自然免疫系マーカーCD163とイートミーシグ
ナルのカルレティキュリンが予後に及ぼす役割)
近年がんにおいて自然免疫系の働きが注目を集めているが腎細胞癌における役割は十
分に知られていない。本研究では腎細胞癌の自然免疫環境に着目し、自然免疫マーカー
の 発 現 と 予 後・転 移 巣 別 の 違 い・ゲ ノ ム 異 常 と の 関 連 に つ い て 検 討 し た。CD163と
calreticulinの発現状況を用いた自然免疫の新たなリスク分類を定義し、腎細胞癌の予後と
関連すること、転移巣でよりリスクが高いこと、特徴的なゲノム異常が見られることを
示した。
審査ではcut offとしてマーカー発現量の中央値を用いることの妥当性について問われ
た。用いた中央値は本研究のコホート1における値であり、発現の多寡に着目したグルー
プ化を行うなど一般化が可能なcut off値を検討することも重要であると指摘された。合わ
せてマーカー間の比率による検討も行うよう助言があった。免疫チェックポイント阻害
薬の効果と自然免疫との関連について問われた。本研究では免疫チェックポイント阻害
薬 を 使 用 し た 患 者 が 少 な く、自 然 免 疫 と 治 療 効 果 の 関 連 を 示 す ま で に は 至 ら な か っ た
が、自然免疫への介入はがん細胞の認識、その後の獲得免疫の活性化へと繋がるため今
後の検討で関連を示せる可能性があると回答された。次に転移箇所によって自然免疫リ
スクが異なる理由について問われた。低リスク群での肺と骨は血行性に転移する転移好
発 部 位 で あ り、自 然 免 疫 環 境 に 関 わ ら ず 転 移 が 生 じ る 可 能 性 が あ る と 回 答 さ れ た。ま
た、自然免疫マーカーは正常組織にも発現しているため、腫瘍組織との発現の差を見る
必要性について問われた。本研究においては腫瘍辺縁の免疫環境も検討し正の相関関係
を 認 め た も の の、正 常 組 織 の 免 疫 環 境 は 検 討 し て お ら ず 今 後 の 課 題 で あ る と 回 答 さ れ
た。また、自然免疫マーカーの発現に相関が見られない理由について質問された。腎細
胞癌においては他癌のようにCD47/SIRPチェックポイントが予後に影響しておらずSIRP
の発現自体も少なく、これまで報告されてきた腎細胞癌の免疫環境の独自性を反映して
いる可能性があると回答された。また、自然免疫マーカー陽性細胞にクラスター形成の
兆候が見られるか、CD8などのマーカーを指標としたT細胞浸潤との関連があるかについ
て質問され、その解析は未施行であり、今後の検討課題であると回答された。次にTP53/
Cell cycle経路のゲノム変異と自然免疫環境とが関係する機序について問われた。詳細は
不明であるが自然免疫環境が高リスクな場合は癌の悪性度も高く、がん抑制遺伝子の変
異と相互作用している可能性について回答された。ストレス環境での自然免疫マーカー
発現状況や、マーカーの調節遺伝子の解析、mutation burdenとの関連がないかを検討し
仮説を立てていくよう助言を頂いた。
以上のように、さらに検討すべき課題や今後の研究の発展が必要であるものの、腎細
胞癌における自然免疫環境を明らかにし、予後との関連を示し、今後腎細胞癌の新たな
治療へ繋がる可能性がある点において有意義な研究であると評価された。 ...