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大学・研究所にある論文を検索できる 「NAD+活性化による老化歯根膜細胞の酸化ストレス制御機構の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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NAD+活性化による老化歯根膜細胞の酸化ストレス制御機構の解析

橋本, 康樹 大阪大学

2022.03.24

概要

【研究目的】
 ミトコンドリアは、呼吸鎖複合体のATP合成により、細胞と生体の生理機能に不可欠なエネルギーを供給する。その一方で、加齢などによるミトコンドリア機能障害に伴いATP合成過程で生じる過剰な活性酸素種(Reactive OxygenSpecies: ROS)は、酸化ストレスとしてゲノムDNAや構成タンパクを傷害し、生体の老化に大きく影響を及ぼす。歯周病は、病態の進行に伴って歯肉溝滲出液中の活性酸素(ROS)代謝物が増加することが報告されており、加齢により疾患重症度が亢進する慢性炎症性疾患であることからも、酸化ストレスの病態形成への関与が強く示唆されている。しかしながら、加齢がどのような分子機構により、歯周組織の酸化ストレス応答に影響しているかについては、未だ十分に解明されてはいない。近年、加齢に伴う酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の生体レベルの減少が、老化の大きな要因の一つとなり、ミトコンドリア機能へも影響を及ぼすことが明らかになりつつある。そこで本研究では、加齢が歯周組織の病態生理に及ぼす影響を明らかにするために、歯根膜における酸化ストレス応答に着目し、老化歯根膜細胞のミトコンドリア動態とNAD+代謝に焦点をあて解析を行った。

【材料と方法】
①加齢が歯周組織に及ぼす影響を検討するため、雄性10〜13週齢及び98〜104週齢のC57BL/6マウスの上顎第二臼歯に8-0絹糸を結紮して絹糸結紮歯周病誘導モデルを作成し、2週間後にマイクロCTによる歯槽骨の骨量解析と歯周組織の組織学的解析を行った。また、高齢マウス歯周組織の酸化ストレスとNAD+の関係について検討するために、雄性80週齢のC57BL/6マウスにβ-Nicotinamide mononucleotide(NMN)(500mgNMN/kgw)を5日間腹腔内投与した。歯周組織の凍結切片を作成し、ROS検出試薬であるDihydroethidiumで染色することで歯根膜のROSを検出、評価した。
②初代培養ヒト歯根膜細胞(HPDL)に、in vitroで複製老化を誘導することで老化歯根膜細胞を樹立した。継代数13以前のHPDLを正常HPDL、継代数26以降のHPDLを老化HPDLと定義し、それぞれの細胞内NAD+活性をNAD/NADH Assay Kit-WSTを用いて定量、評価した。また、NAD+の前駆体であるNMNの培養液中への添加が細胞内NAD+レベルに及ぼす影響を検討した。
③HPDLにおけるROSにNMNが及ぼす影響について検討した。細胞内ROS、ミトコンドリア内ROSについては、CellROX Green. MitoSOXにてそれぞれ蛍光標識し、共焦点顕微鏡にて観察、その蛍光強度をImageJソフトで定量、評価した。
④HPDLのミトコンドリア機能にNMNが及ぼす影響について検討した。ミトコンドリアはATP産生機能の低下によりその膜電位の低下が生じるため、ミトコンドリアの膜電位に反応して変色するJC-1色素を用いて標識し、ミトコンドリア膜電位の脱分極状態を評価した。
⑤HPDLのミトコンドリアの融合・分裂にNMNが及ぼす影響について、ミトコンドリアをMitoTracker Greenで蛍光標識し、共焦点イメージングによる微細形態の観察と電子顕微鏡によるSEM観察により評価した。
⑥HPDLにおけるNAD+依存性の脱アセチル化酵素であるSirt1、Sirt3の発現に、NMNが及ぼす影響について、qRT-PCR法、ウェスタンブロッティング法にてmRNA並びにタンパクレベルの発現量を検討した。
⑦HPDLにおけるマイトファジーにNMNが及ぼす影響について、酸性pH感受性ミトコンドリア標識Mtphagy Dye、ライソゾーム標識Lyso Dyeを用いてHPDLを共染色し、脱分極剤であるCCCP(カルボニルシアニド3-クロロフェニルヒドラゾン)処理によるマイトファジーの誘導について、共焦点イメージングにより検討した。

【結果】
①絹糸結紮歯周病誘導モデルにおいて、高齢マウスは若齢マウスより重度な骨組織の破壊を示した。また、高齢マウス歯周組織に蓄積したROSは若齢マウスと比較して増加した。
②老化HPDLは正常HPDLと比較して細胞内ROSの顕著な蓄積を示した。
③継代数増加に伴って、HPDLの細胞内NAD+は減少した。NMN処理により、老化HPDLのNAD+量は、正常HPDLと同レベルに回復した。
④老化HPDLにおいてみられた細胞内ROSとミトコンドリアROSの亢進は、NMN処理により、正常HPDLと同レベルに回復した。
⑤老化HPDLにおいてみられたミトコンドリアの脱分極は、NMN処理により、正常HPDLと同レベルに回復した。
⑥老化HPDLにみられた断裂ミトコンドリアは、NMN処理により減少し、融合したミトコンドリアの増加が共焦点イメージングと電子顕微鏡で観察された。
⑦老化HPDLのSirt3の発現量は、止常HPDLと比較して、mRNA、タンパクレベルで減少していた。NMN処理により、Sirt3の発現レベルは部分的に回復した。老化HPDLのSirt1の発現量は、正常HPDLと比較して、mRNA、タンパクレベルともに変動は見られなかった。
⑧老化HPDLにおいて、ライソゾームとマイトファジー活性の減少がみられた。NMN処理により、老化HPDLのライソゾームの発現量は増加し、マイトファジー活性の回復が認められた。
⑨高齢マウス歯根膜のROSS、NMN投与により減少していることが組織学的観察により明らかとなった。

【結論および考察】
 本研究により、老化歯根膜細胞におけるROS増加の分子メカニズムとして、細胞内NAD+の低下によるミトコンドリア膜電位の異常が明らかとなった。また、老化歯根膜細胞では、ミトコンドリアの融合による脱分極ミトコンドリアの回復やマイトファジーによるダメージミトコンドリアの排除が低下し、その結果としてROS産生が増加していることが示唆された。興味深いことに、NAD+の前駆体であるNMNの投与により、高齢マウス歯根膜のROSの蓄積が改善することが生体レベルで明らかとなった。本研究結果は、高齢者における歯周組織破壊の要因の一つとして、歯根膜の酸化ストレスの増大機構が関与していることを明らかにした。さらに、NMN投与により高齢者の歯根膜のミトコンドリア機能を賦活することは、酸化ストレスの抑制を介して脆弱な歯周組織の疾患抵抗性を高めることが可能であることが示唆された。本研究の成果は、高齢者において歯根膜のNAD+活性制御に基づく新規の歯周病予防・治療法の開発につながるものとして期待される。

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