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イオンクロマトグラフィーによる無機イオンの同時定量に関する研究

吉井, 咲夢 ヨシイ, サクラ Yoshii, Sakura 群馬大学

2020.03.24

概要

海域や湖沼等における富栄養化,酸性雨,海水の酸性化といった水環境問題を解決するために不可欠な水質モニタリング技術のうち,イオンクロマトグラフィー(IC)は一度の試料注入で多成分を定性定量することができる点で優れている.一般的に,環境水中の無機イオンの定量を行う際には陰イオンと陽イオンで測定条件を変えて分析を行う必要があるが,高価なカラムや検出器を準備する必要がある等の課題があり,これが水質汚染対策の未熟な開発途上国への IC の導入を困難としている.このような現状に伴い,一度の試料注入にて電荷の異なるイオン種を分離定量する同時分離法が数多く開発されてきたが,高カラム圧による装置本体への負担が大きい,煩雑な操作を必要とする,1 価弱酸陰イオンの分離能が低い傾向にある等,改善すべき点が残されている.

そこで本研究では,環境水中に含まれる無機イオンを対象に IC を用いた同時分離法の開発を目的とし,上述の課題に対してカラム充填剤と溶離液の組み合わせを最適化するアプローチにて研究を進めた.本研究における同時分離法とは,溶離液・カラム・検出器を測定中に変えることなく複数のイオン種を 1 回の測定で定量することができる,操作性の高いカラムシステムのことを指す.以下に本論文の構成と概要を示す.

1.陰イオン分離 IC における分離カラムとしての陰イオン交換ガードカラムの利用と無機陰および陽イオン同時分離法への応用
分離カラムの保護を目的に使用されるガードカラムを分離カラムとして応用することを検討し,複数の分離カラムを直列に接続する同時分離法において課題となっている高カラム圧の抑制を図 った.8 mM 酒石酸,4 mM リンゴ酸を溶離液として使用することで,分離カラムよりも充填量の 少ない強塩基性陰イオン交換ガードカラムのみでも環境水中の 5 種の無機陰イオン(H2PO4–,NO2–, Cl–,NO3– ,SO42–)の定量が可能だった.また,陰イオン交換ガードカラムと陽イオン交換分離 カラムを直列に接続し,8 mM 酒石酸に 0.5 mM 18 クラウン 6 エーテルを添加した溶液を溶離液 に使用することで,電荷の異なる 8 種の無機イオン(Na+,NH4+, K+,Mg2+,Ca2+,Cl–,NO3–, SO42–)を 1 つの測定条件にて 60 分以内に分離定量することを可能とした.この場合における保持 時間の RSD は全ての分析対象イオンで 1%と良好な結果であったが,1 価弱酸イオン(F–,H2PO4–) の分離能改善と全体の保持時間の短縮が課題となった.

2.酸性溶離液を用いるジオール修飾シリカゲル固定相による無機陰イオン分離
ジオール基修飾シリカゲルカラムに酸性溶離液を用いた場合の無機陰イオンの分離挙動を明らかにするとともに,1 価弱酸陰イオンの分離能改善と全体の保持時間の短縮を図った.その結果, 6 mM 酒石酸を溶離液とすることで 6 種類の陰イオン(F–, Cl–,H2PO4–, NO2–,NO3–, SO42–)を 80 分以内に分離することができ,1 価の弱酸陰イオン(H2PO4–,NO2–)の良好な分離を得ることができた.また,溶離液中の H+が試料陰イオンの分離能に大きく影響していることが分かった.この場合,F–を除く試料陰イオンはジオール基やシラノール基上のプロトン化したヒドロキシ基に対して静電的作用による弱い吸着力で固定相に保持され,溶離液中酸濃度に依存した分離挙動を示すと考えられた.一方で,F–はシリカゲルのケイ素原子に対して配位子交換作用による強い吸着力で保持されるために,溶離液中酸濃度に依存しない分離挙動になったと考えられた.F–の固定相に対する吸着は予想以上に強く,ピークが大きくブロードしたため,F–の分離定量は不可能だった.また,カラム温度が試料陰イオンの保持時間に与える影響を調べたところ,特に保持時間が最も長い SO42–が高い温度依存性を示し,カラム温度を上昇させることで全体の保持時間を短縮できる可能性があった.しかし同時に,NO2–は温度上昇に伴いカラム内で NO3–に酸化されている可能性があることも分かり,高温条件では NO2–を正確に定量できない可能性があることが分かった.

3.ジルコニア固定相を用いたイオンクロマトグラフィーによる無機陰イオンの分離に関する研究ソルボサーマル法により 500℃で焼成された球状ジルコニア(BET 比表面積:111 m2/g,細孔容 積:0.16 cm2/g)に N’-(3-トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン(DETA)を用いてアミノ基を修飾し,物性への影響を調べるとともに,陰イオン交換基修飾ジルコニアカラムを作製し,無機陰イオンの分離を試みた.FT-IR で測定したジルコニア表面のアミン吸収帯におけるスペクトル吸収と,ゼータ電位の測定結果から,1~3 回に修飾回数を増やすことでアミノ基の修飾量は増加していると考えられた.カラムへの充填では,2 回修飾・3 回修飾ジルコニアは凝集しやすく,充分量を充填できなかった.そのため,未修飾ジルコニアを充填したカラム,および 1 回修飾ジルコニアを充填したカラムの 2 本を用いて無機陰イオンの分離を試みた.その結果,塩基性溶離液において陰イオン(Cl–,Br–,I–)と F–を完全に分離することができ,F–はシリカゲルカラムと同様ジルコニアに対しても配位子交換作用による強い吸着力で保持されていることが予想された.ただし,その他の陰イオンを分離することはできなかったため,今後は溶離液組成とともに,カラム長やジルコニアの焼成温度についても検討する.

本研究を通して得られた知見は,操作性の高い安価な水質評価技術に組み込めるポテンシャルを有している.また,水質管理分野だけでなく,医療分野や環境技術開発分野でも IC が活用されていることから,様々な研究分野への応用が期待できる.

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参考文献

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