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書き出し

Ror1受容体はアストロサイトにおいてPPARaを介した脂肪酸代謝を促進する

田中, 祐紀 神戸大学

2023.09.25

概要

Kobe University Repository : Kernel
PDF issue: 2024-05-02

Ror1 promotes PPARa-mediated fatty acid
metabolism in astrocytes

田中, 祐紀
(Degree)
博士(医学)

(Date of Degree)
2023-09-25

(Resource Type)
doctoral thesis

(Report Number)
甲第8701号

(URL)
https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100485885
※ 当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。

(課程博士関係)

学位論文の内容要旨

Ror1 promotes PPARα-mediated fatty acid metabolism in
astrocytes
Ror1 受容体はアストロサイトにおいて PPARαを介した脂肪酸代謝を促進する

神戸大学大学院医学研究科医科学専攻
細胞生理学
(指導教員:南 康博 教授)
田中 祐紀

脳に最も豊富に存在するグリア細胞であるアストロサイトは、脂質代謝制御において重
要な役割を果たす。アストロサイトは脂質代謝制御の中でも、特に脂肪酸分解経路である脂
肪酸β酸化能が高く、必要に応じて代謝物を神経細胞に供給することが知られている。また
アストロサイトは過剰な脂肪酸を脂肪滴として貯蔵することで、脂肪毒性から神経細胞を
保護するはたらきをもつ。そのため、アストロサイトによる脂質代謝は生理的および病理的
状況下において厳密に制御されていると考えられるが、その分子制御機構については不明
な点が多い。
Ror ファミリー受容体 Ror1 および Ror2 は Wnt5a の受容体として機能することにより
非古典的 Wnt シグナル経路を活性化することが知られている。Ror1 と Ror2 は発生過程の
様々な組織や細胞において一過的に高発現しており、組織・器官形成において重要な役割を
担っている。中枢神経系においては、Ror1 と Ror2 がともに発生過程の大脳皮質神経前駆
細胞に高発現しており、その増殖・分化を制御することが示されている。また、成体の大脳
皮質における Ror2 の発現量は胎生期と比較して低下することが示されているが、生後の脳
内における Ror1 の発現や機能については未解明であった。
本研究では、胎生 15 日目と生後 0、7、13 日目のマウス大脳皮質における Ror1 および
Ror2 の発現量について Western blot 法により比較解析を行い、Ror2 の発現量は生後に減
少するのに対し、Ror1 の発現量は生後 7 日目以降において上昇することを見出した。この
時期の大脳皮質では、神経前駆細胞がアストロサイトへと分化することが知られている。そ
こで、神経前駆細胞の初代培養系を用いてアストロサイトに分化誘導し、分化誘導前後にお
ける発現量を解析した結果、Ror2 は分化後に発現低下するのに対して、Ror1 は分化したア
ストロサイトにおいて発現上昇することが示された。これらのことから、Ror1 は分化・成
熟したアストロサイトにおいて重要な役割を担っている可能性が考えられた。
アストロサイトにおける Ror1 の機能を明らかにするため、初代培養アストロサイトを用
いて Ror1 の発現を抑制することにより発現量が変化する遺伝子について RNA-seq 法によ

Ror1 の発現抑制によって有意に発現低下する遺伝子を 230 個、
り解析を行った。
その結果、
有意に発現上昇する遺伝子を 279 個同定した。同定した遺伝子について遺伝子オントロジ
ー解析を行った結果、発現低下した遺伝子群には脂質代謝や脂肪酸代謝制御に関わる遺伝
子が多く含まれることが明らかになった。脂質代謝制御における Ror ファミリーの関与に
ついては不明であったため、Ror1 の発現抑制によって発現低下する脂質代謝・脂肪酸代謝
関連遺伝子について qRT-PCR 法を用いて検証を行い、Ror1 の発現抑制によって発現が有
意に減少する遺伝子として、脂肪酸の取り込みや輸送に関わる Fatp1(Fatty acid transport

protein 1)、Fabp7(Fatty acid binding protein 7)、脂質分解酵素である Mgll(Monoglyceride
lipase)、Pla2g5(Phospholipase A2 group 5)、ミトコンドリアでの脂肪酸β酸化に関わる
Cpt1a ( Carnitine palmitoyl-transferase 1A )、 Octn2 ( Organic cation / carnitine
transporter 2 )、 Acadl ( Acyl-CoA dehydrogenase long chain )、 Acadvl ( Acyl-CoA
dehydrogenase very long chain)、Hadh(3-Hydroxyacyl-CoA dehydrogenase)、Acaa2

(Acetyl-CoA acyltransferase 2)を同定した。以上の結果から、Ror1 はアストロサイトに
おける脂肪酸代謝制御に寄与する可能性が示唆された。
アストロサイトは過剰な脂肪酸を細胞内に取り込み、脂肪滴として貯蔵することが知ら
れている。そこで、培養アストロサイトに過剰量のオレイン酸を負荷した際の脂肪滴形成に

Ror1 の発現抑制が与える影響を解析した。その結果、オレイン酸負荷後 2 時間の時点にお
ける脂肪滴の形成には顕著な影響は認められなかった。一方で、オレイン酸負荷 24 時間後
においては、コントロール細胞における脂肪滴量の減少が認められ、Ror1 発現抑制細胞で
はコントロール細胞と比較して、残存する脂肪滴量の増加が観察された。Ror1 の発現抑制
によって発現低下する Mgll は脂肪滴の分解酵素をコードすることから、Ror1 は脂肪滴の
分解促進に働くと考えられる。

Ror1 の発現抑制によって発現低下する遺伝子には、脂肪酸β酸化の律速酵素である Cpt1
を含む脂肪酸β酸化関連タンパク質をコードする遺伝子が複数含まれていた。脂肪滴の分解
によって生成された遊離脂肪酸はミトコンドリアに移行してβ酸化に利用されることが知
られている。そこで、培養アストロサイトに蛍光標識された脂肪酸(Red-C12)を取り込ま
せ、パルス・チェイス法による脂肪酸の動態解析を行った。添加直後における Red-C12 は
脂肪滴に局在する様子が観察され、その量はコントロール細胞と Ror1 発現抑制細胞との間
で明らかな違いは認められなかった。一方、48 時間後においては、Ror1 の発現抑制によっ
てミトコンドリアに局在する Red-C12 量が減少し、細胞内に残存する Red-C12 量が増加
することが示された。この結果と一致して、Ror1 の発現抑制細胞ではコントロール細胞と
比較して、細胞内 ATP レベルの低下が認められた。以上の結果から、Ror1 は脂肪酸のミト
コンドリアへの移行とβ酸化によるエネルギー産生を促進する働きをもつことが示唆され
た。
最後に、Ror1 がどのように脂肪酸代謝制御に関わる遺伝子の発現を促進するのかを明ら
かにするため、公共データベースである ChIP-Atlas を用いてこれらの遺伝子の発現制御に
関わる候補転写因子の予測を行った結果、Peroxisome proliferator-activated receptor α
(PPARα)の関与が示唆された。そこで、培養アストロサイトを PPARαの阻害剤である
GW6471 で処理し、オレイン酸を負荷したところ、Ror1 を発現抑制した場合と同様に 24
時間後に残存している脂肪滴量の増加が認められた。さらに、PPARαのアゴニストである
GW7647 処理によって Mgll、Cpt1a、Octn2 の発現上昇が認められ、Ror1 の発現抑制によ
ってこれらの遺伝子の発現上昇が有意に抑制されることが示された。
以上の結果から、成熟したアストロサイトにおいて発現する Ror1 は、PPARαによる脂
肪酸代謝関連遺伝子の転写制御を促進することにより、脂肪滴に由来する脂肪酸を利用し
てミトコンドリアβ酸化を促進する働きをもつことが明らかになった。今後、アストロサイ
トにおける Ror1-PPARαシグナルを介した脂肪酸代謝制御が、脳のエネルギー代謝や恒常
性維持に果たす役割を明らかにすることが重要である。

神戸大学大学院医学研究科(博士課程)

論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
甲 第 3303号



受付番号



田中訪紀

Rorl promo
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s PPARa-med
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論文題目

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Ror1受容体はアストロサイトにおいて PPARaを介した脂肪酸代謝
Di
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on を促進する

主 査
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審査委員
副 査

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e・exam
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副 査
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:[パ文冗 こ




摩文瞑

(要旨は 1, 0 0 0字∼ 2, 0 00字程度)

脳に最も豊富に存在するグリア細胞であるアストロサイトは、脂質代謝制御において重要な役割を
果たす。 アストロサイトは脂質代謝制御の中でも、特に脂肪酸分解経路である脂肪酸f3酸化能が
高く、必要に応じてその代謝物を神経細胞に供給することが知られている。またアストロサイトは
過剰な脂肪酸を脂肪滴として貯蔵することで、脂肪毒性から神経細胞を保護するはた らきをもつ。
そのため、アストロサイ トによる脂質代謝は生理的および病理的状況下において厳密に制御されて
いると考えられるが、その分子制御機構については不明な点が多い。
Rorファミリー受容体 Rorlおよび Ror2は発生過程の様々な組織や細胞において一過的に高発現し

ており、組織 ・器官形成において重要な役割を担っている。成体の大脳皮質における Ror2の発現
量は胎生期と比較して低下することが示されているが 、生後の脳内における Rorlの発現や機能に
ついては未解明であった。
本研究では、まず、胎生期および生後のマウス大脳皮質における Rorlおよび Ror2の 発 現 量 に つ
いて Westernblot法により比較解析を行った。その結果、 Ror2の発現は、生後に減少するのに対

、 Rorlの発現は生後 7日目以降で上昇することが分かった。この時期の大脳皮質では、神経前駆
細胞がアストロサイトヘと分化することが知られているため、神経前駆細胞の初代培蓑系を用いて
アストロサイトに分化誘導し、分化誘導前後における Rorlおよび Ror2の発現量を解析した。その
結果、 Ror2の発現は分化誘導後に減少するのに対し、 Rorlは分化 ・成熟したアストロサイトにお
いて発現上昇することが分かった。
次に、成熟したアストロサイトにおける Rorlの機能を明らかにするため、マウス初代培挫アスト
ロサイトを用いて Ror]の発現抑制により発現量が変化する遺伝子を RNA-se
q法を用いて探索した
ところ、脂質代謝に関わる多数の遺伝子の発現が Ror]の発現抑制により低下することが明らかに
なった。特に脂肪酸代謝に関わる遺伝子(細胞内取り込みや輸送 :Fat
p
l
,Fab
p7
、脂肪酸分解 :M
gl
l
,

Pla2
g5、ミトコンドリアでのf3酸化 :
C
pt
l
a
, Oct
n
2
,A
c
a
d
l
,A
c
a
d
v
l
,H
a
d
h
,A
c
a
a
2
) については、
定最 RT-PC
R 解析においても Ror]の発現抑制により有意に発現低下することが示さ れた。そこで、
初代培接アストロサイトに過剰量のオレイン酸を負荷し、 Ror]の発現抑制が脂肪滴形成に与える影
響を解析した。コントロー)
レ細胞においてはオレイン酸負荷後 2時間の時点で多数の脂肪滴が形成
され、負荷後 24時間においては脂肪滴量の減少が認められた。一方
、 Ror]発現抑制細胞ではコン
トロー)レ細胞と比較して、オレイン酸負荷 2時間後において形成される脂肪滴の量に違いは認めら
れなかったものの、負荷 24時間後において残存する脂肪滴量の増加が観察された。次に、培狸ア
ストロサイトに蛍光標識された脂肪酸 (
R
e
d
C
l
2
)を取り込ませ、パルス ・チェイス法による脂肪酸
の動態解析を行った。添加直後、脂肪滴に局在する Red-C12の量はコントロール細胞と Ror]発現
抑制細胞 との 間で明らかな違いは認め られなかった。

一方、添加後 4
8時間においては、 Ror1の発現抑制によってミトコンドリアに局在する R
e
d
C
1
2量
が減少し、細胞内に残存する R
e
d
C
1
2呈が増加することが示された。 また、 R
o
r
lシグナルによっ
て発現促進される脂肪酸代謝関連遺伝子群の転写制御因子について公共データベースを用いて予
測した結果、 PPARaの関与が示唆された。そこで、培養アストロサイトを P
P
ARaの阻害剤である

G
W
6
4
7
1で処理し、オレイン酸を負荷したところ、 Ror] を発現抑制した場合と同様に 2
4時間後に
残存している脂肪滴量の増加が認められた。 さらに、 PPARaのアゴニストである G
W
7
6
4
7処理によ
って Mgl
l、C
pt
l
a
、O
ct
n2の発現上昇が認められ、 Ror]の発現抑制によってこれらの遺伝子の発現
上昇が有意に抑制されることが示された。

o
r
lの機能について解析を行ったものであ
本研究は、成熟したアストロサイトにおいて発現する R
るが、従来ほとんど行われなかったアストロサイトにおける R
o
r
lが PPA
Ra を介して脂肪酸代謝関
連遺伝子の転写制御を促進することにより、脂肪滴に由来する脂肪酸を利用してミ

トコンドリア

/3酸化を促進するという重要な知見を得たものとして価値ある集積であると認める 。 よっ て、本
研究者は博士(医学)の学位を得る資格があると認める 。

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