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大学・研究所にある論文を検索できる 「Mint3 mitigates apoptosis of tubular epithelial cells and renal fibrosis after ischemia-reperfusion injury」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Mint3 mitigates apoptosis of tubular epithelial cells and renal fibrosis after ischemia-reperfusion injury

那須, かほり 東京大学 DOI:10.15083/0002004283

2022.06.22

概要

慢性腎臓病(CKD)は代表的な慢性疾患であり、疾患の不可逆性、透析治療や腎移植を要する end-stage renal disease (ESRD)への進展、多くの合併症などにより患者の生活の質の低下とともに医療経済的負担も世界中で問題になっている。そのためCKD悪化のメカニズムの解明が必要とされている。

CKDの診断基準には糸球体濾過量(GFR)の低下と尿蛋白の存在が含まれている。GFRの低下は尿細管間質の傷害の程度とよく相関しているといわれており、尿細管間質の傷害は原疾患に関わらずCKDに共通する特徴であり、治療の標的となりうる。その尿細管間質傷害の代表的な組織学的所見として線維化がある。線維化は細胞外基質の過剰な蓄積であり、傷害の修復過程でもあるが、過剰になると機能障害を引き起こす。CKDにおける線維化は低酸素などの刺激による上皮細胞傷害によって起こると考えられている。上皮細胞傷害は細胞死、代謝異常、免疫反応、上皮間葉転換(EMT)、TGF-βの活性化などを介して線維化を引き起こす。我々はこれらの機序の中で細胞死に着目し研究を進めた。急性腎傷害(AKI)では上皮細胞死の大半はネクローシスであるが、CKDではアポトーシスが中心となり線維化につながるとされている。この線維化のメカニズムを解明する上で虚血再灌流傷害(IRI)モデルや片側尿管結紮(UUO)モデルといった動物モデルが有用とされている。

腎臓は血流シャントの存在や尿細管上皮細胞の恒常的な再吸収などの機能維持のために多くの酸素を要することなどから低酸素に陥りやすい臓器である。特にCKDにおいては糸球体硬化や尿細管間質傷害による傍尿細管毛細血管(PTC)の喪失、酸化ストレス、腎性貧血などによる腎臓の慢性的な尿細管間質の低酸素状態が明らかにされている。生体は低酸素に対する防御機構として転写調節因子であるhypoxia-inducible factors (HIF)を備えている。 HIFのαサブユニットは、通常酸素分圧ではprolyl hydroxylase domain- containing proteins (PHD)によって水酸化を受けて速やかに分解され、さらにfactor inhibiting HIF- 1(FIH)による水酸化によって転写活性が抑制される。低酸素分圧ではPHDやFIHによる水酸化が抑制され、HIF-αが活性化し、核内への移行と標的遺伝子の転写活性を介して低酸素への適応反応として血管新生や赤血球生成、嫌気性代謝が促進される。腎臓では尿細管上皮細胞、マクロファージ、周皮細胞におけるHIF-1が尿細管間質の線維化に影響するといわれており、特に尿細管上皮細胞におけるHIF-1の腎線維化への影響はトランスジェニックマウスやPHD阻害作用をもつコバルトなどの薬剤を用いて報告されている。

本研究で扱ったMint 3 はFIHによるHIFの抑制を解除し、HIFを活性化すると報告されている分子であり、特にマクロファージにおける機能がこれまでに報告されている。Mint3欠損マクロファージはLPS刺激やウイルス感染に対してATP産生低下やサイトカイン産生低下といった機能低下を示し、さらにMint3は炎症反応において中心的な役割を果たす NF-κ Βにも影響すると報告されている。以上を踏まえて腎臓においてMint3はFIHの抑制とHIFの活性化を介して腎線維化を改善させるという仮説を検証していくこととした。

腎傷害におけるMint3の役割を探索するため、Mint3 ノックアウト(KO)マウスを用い、片側虚血再灌流傷害(uIRI)後に腎線維化が起こるモデルを作成した。uIRIl日後の急性期の虚血再灌流傷害はコントロールである同胞の野生型マウスとの差を認めなかったが、KOマウスではuIRI7日後の線維化の有意な増悪と、PTCの有意な減少、尿細管上皮細胞のアポトーシスの有意な増加を認めた。

既報ではMint3は主にマクロファージにおいて機能することが報告されていたことから線維化の増悪に対するマクロファージにおけるMint3の関与を検討するためにLysM-CreマウスとMint3 floxマウスを用いてマクロファージ特異的なMint3 KOマウスを作成し、 uIRIを施行した。しかしコントロールのマウスと比較し線維化に差を認めなかったことから、上記で認めた線維化の増悪にはマクロファージ以外の細胞のMint3が関与しているものと考えられた。免疫組織染色で腎臓におけるMint3の発現を確認したところMint3は尿細管上皮細胞を中心にユビキタスに発現していた。以上より培養近位尿細管上皮細胞株である mouse cortical tubular cell (MCT)を用いて Mint3 を siRNA でノックダウン(KD)する系でMint3の機能解析を行っていくこととした。

In vivoでMint3 KOにより傷害腎のPTCの減少を認めたが、HIF下流遺伝子で代表的な血管新生因子であるVEGFの発現は低酸素刺激したMCTで増加したものの、Mint3 KDによる減少は認められなかった。一方でvivoと同様、MCTにおけるMint3 KDにより低酸素によるMCTのアポトーシスは増悪した。また予想に反し、FIHのsiRNAによるKDはMint3 KDのアポトーシス増加を抑制せず、FIHはこの機序ではMint3に関与しない可能性が考えられた。さらにMCTにおいてはMint 3 KDとFIHKDとも代表的なHIF下流遺伝子のmRNAの発現には影響しなかった。以上より尿細管上皮細胞におけるMint3の機能にはFIH/HIFは関与していない可能性が示唆された。

さらにMCTにおけるMint3 KDによる低酸素下でのアポトーシス増加のメカニズムをin vitroの系で解明していくこととした。FIHは初めHIF-1の転写活性を抑制する因子として報告されたが、その後、他の蛋白のアンキリンリピートドメイン(ARD)も水酸化することが報告された。FIHにより水酸化されることが報告されている代表的なARD含有蛋白には NF-κΒ inhibitor α(ΙκΒα)Ν NF- κΒρ105Ν Notch-1Λ MYPT1などがある。さらに Mint3 欠損マクロファージでは核内におけるN F - κ Β p 6 5 の発現と細胞質におけるリン酸化
ΙκΒα (ρΙκΒα)の発現が低下することが報告されている。以上を踏まえて抗アポトーシス作用を有するNF-κΒとMint3の関係に着目した。NF-κΒは炎症反応において中心的な役割を果たし、p50、p52、p65(RelA)、RelB、c-Relを構成因子とする2量体が転写制御作用を示す転写因子である。NF-κΒは通常状態では阻害因子であるΙκΒと結合することで細胞質にとどまりその機能を抑制されているが、種々の刺激によりΙκΒキナーゼ(IKK)が活性化されるとΙκΒがリン酸化されユビキチン化を受け分解される。それにより細胞質内のNF-KBは核内に移行し、標的遺伝子の転写活性を調節する。特にρ105とplOOをそれぞれ前駆蛋白とするp50とP52は転写活性ドメインを持たないことから、転写活性に対し抑制的に働 くと報告されている。さらにNF-κΒは抗アポトーシス遺伝子の発現を促すことで抗アポトーシス作用を示すことが報告されている。このNF-κΒの抗アポトーシス作用に着目した。MCTにおいてMint3 KDではNF-κΒ下流遺伝子であるCCL2、CXCL2、IL-θのmRNAレベルでの発現の低下を認めた。これに一致して抑制性のNF-KBp50のmRNA、核内の蛋白レベルでの発現増加を認めた。ΟΟΟΝΓ-κΒ ρ65やρΙκΒαについては有意な発現の変化 は認められなかった。さらにMint3 KDによりNF-κΒ下流の抗アポトーシス分子である TRAF1、BIRC3、GADD45p. TNFAIP3 の発現低下を認めた。

以上より本研究ではMint3はuIRIiこよる尿細管上皮細胞のアポトーシスと腎線維化を軽 減することが示された。In vitroで尿細管上皮細胞におけるMint3 KDは転写活性ドメインを持たない抑制性✰NF-κΒ p50の有意な発現上昇を引き起こした。この抑制性NF-κΒ p50
の発現上昇がNF-κΒ下流の抗アポトーシス遺伝子の発現を抑制し、アポトーシスの増加を引き起こしたことが腎線維化の増悪につながった可能性があると考えられた。本研究の新規性としては尿細管上皮細胞におけるMint3の機能に着目した点、さらにその上でin vitroで尿細管上皮細胞におけるMint3とNF-κΒ p50の関係を明らかにし、NF-κΒの抗アポトーシス作用に着目した点があげられる。

本研究の限界点としては尿細管上皮細胞についてはin vitroのノックダウンの実験のみを行い、尿細管上皮細胞特異的Mint3 ノックアウトマウスを用いての実験は未施行である点、またアポトーシスについてのFIHの関与の否定とNF-κΒ p50の関与についてはin vivoでの検証が行われていない点があげられる。さらにMint3によるNF-κΒ p50の発現への影響の詳細なメカニズムも未解明であることから、今後さらなる実験が必要と考えられる。

本研究では尿細管上皮細胞におけるMint3の機能について報告した。腎臓分野においてこれまでMint3に関わる報告はなく、さらには上皮細胞におけるMint3の機能についても初めての報告である。本研究で尿細管上皮細胞におけるMint3は腎線維化に関与することが明らかになり、さらなる研究でMint3はCKDに対する新たな治療につながる可能性が示唆された。

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