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大学・研究所にある論文を検索できる 「L2多義語の認知処理過程の解明―言語間(L2 – L1)の曖昧性の解消過程及びL2習熟度の影響―」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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L2多義語の認知処理過程の解明―言語間(L2 – L1)の曖昧性の解消過程及びL2習熟度の影響―

岡本 吉世 東北大学

2021.03.25

概要

我々の用いる言語では,言葉の意味はしばしば曖昧性を持つ。言葉の曖昧性とは,ここでは多義性のことを指す。例えば,英語の”right”や”bank”などの単語が複数の意味を持つことや,ひらがなで書かれた日本語「あめ」や「はし」などが複数の意味を持つことである。さらに,第二言語(L2)学習者をはじめとする 2 つ以上の言語を用いる者(バイリンガル,マルチリンガル)は,そもそもあらゆる言語が持つ言語内(L1 – L1)の曖昧さに加え,言語間(L2 – L1)の語彙の曖昧さの処理の問題にも直面している。そして,言語間(L2 – L1)の曖昧さを処理するのが困難であるということは,これまでの研究から示されている事実である(Degani & Tokowicz, 2010; Eddington et al., 2013)。言語間(L2 – L1)の語彙の曖昧さは,ある言語から別の言語に翻訳される時に発生する(Tokowicz, 2014)。これまでの脳イメージング研究では,L1 処理における意味の曖昧さを調査しているものが多かった(Binder et al., 2009; Bitan et al., 2017)。これらの研究では,中側頭葉や下前頭回などの意味処理に関連する脳領域が,個々の言語内の単語・文レベルの両方において意味の曖昧さの解消に関与していることを報告している。しかし,L2 学習者がどのように曖昧な L2 単語を処理し, L1 と L2 の間の翻訳の曖昧さを解消しているのか,および L2 習熟度がこの認知処理をどのように仲介するのかについてはほとんどわかっていない。これまでの心理言語学の研究では,L2 学習初期や L2 習熟度が低い時には,必ず L1 を介して L2 にアクセスする浅いルートであるが,L2 習熟度が高くなることで,L2の意味概念に深くアクセスするルートも発達してくることが予想されている(van Heuven et al., 1998, Kroll & Stewart, 1994)。以上のことから,本研究では,次の二つの仮説を立て,検証することを目的とした。本研究の一つ目の仮説としては,言語間(L2 – L1)の語彙の曖昧さの処理の認知プロセスは,言語内(L1 – L1)のそれとは異なるものであり,言語間(L2 – L1)特異的な曖昧性解消の認知プロセスが存在する。これに加えて,言語間(L2 – L1)特異的な多義語処理過程においても,L2 意味概念への深いアクセスが L2 習熟度依存的である可能性があると考えられる。これら 2 つの仮説を検討することを目的として,fMRI 実験を行なった。

英語を L2 として学習している日本語母語話者が,MRI 撮像中に言語間(L2 – L1)および言語内(L1 – L1)の意味的関連性判断課題を遂行した。言語間(L2 – L1)課題では,曖昧な単語と曖昧でない単語を 25 個ずつ用意した。課題中は,各ターゲット英語(L2)単語が提示された後に,意味的に関連している,または関連していない日本語(L1)単語が提示されるので,参加者は,関連,もしくは無関連を素早く判断する。 L1 課題においても同様であるが,L1 課題では課題中は日本語のみ使用した。この課題は,関連する曖昧な単語(RA)、関連しない曖昧な単語(UA),関連する曖昧でない単語(RU),および関連しない曖昧でない単語(UU),の 4 つの条件下において行われている。

脳活動の分析では,L2 – L1 および L1 の両課題において意味的に関連する条件(RA と RU)に焦点を当 てた。統計分析は,被験者間で脳活動と曖昧性の主効果,および曖昧性と言語の相互作用の主効果を同定するため,L2 – L1 および L1 の両課題において,SPM12 を用いて 1 標本 t 検定を実施した。差分画像として,曖昧性の効果を調べる解析では,L2 – L1 課題の [英語RA > 英語RU]とL1 課題の [日本語RA > 日本語RU]を分析した。そして,言語間(L2 vs. L1)と曖昧さ(曖昧な単語 vs. 曖昧でない単語)の相互作用効果を検証する解析では,被験者間において,[(英語 RA > 英語 RU)> (日本語 RA > 日本語 RU)]の条件を比較した。さらに,課題における L2 習熟度の影響を調べるために,L2 – L1 課題において全脳レベルの回帰分析 [英語 RA > 英語 RU] を実施し,参加者の TOEIC スコアを L2 習熟度として使用し,L2 習熟度依存性について検討した。なお,参考として意味的には無関連な条件についても解析は行った。

関連条件の解析の結果,まず,L2 – L1 および L1 の両課題において,曖昧性の主効果が左下前頭回の活性化を誘発することを明らかにした。この脳領域は,言語の種類に関係なく,意味の曖昧さを解消するための重要な役割を果たしている可能性が示唆された。しかし,言語間(L2 vs. L1)と曖昧さ(曖昧な単語 vs. 曖昧でない単語)において,相互作用効果は発見することができなかった。一方, L2 – L1 課題における言語間(L2 – L1)の曖昧性解消[RA > RU]において,L2 習熟度と脳活動との間に有意な相関が見つかった。この領域での有意な相関は,L1 課題では見つからなかったことから,L2 習熟度が上がると,左角回の活性化が高まる,ということが示された。この結果から, L2 習熟度が上がると,左角回を介して,L2 単語を認知 してから直接概念的表象へ深くアクセスし,左下前頭回を介して意味選択を行う可能性が支持された。逆に, L2 習熟度が高くない学習者は,左角回を介さず,L2 単語を,L1 を介してから概念的表象へ浅くアクセスし,左下前頭回を介して意味選択を行うというモデルである。すなわち,L2 - L1 間の多義語の曖昧性解消の脳 内過程としては,L2 習熟度が高い学習者と低い学習者では,第一段階の単語へのアクセスの仕方が異なる ことが示唆される。L2 習熟度が高い学習者は左角回を介して L2 単語にアクセスし,L2 習熟度が低い学習 者は左下前頭回を介して L2 単語にアクセスしている。そして次の段階では,言語の種類にかかわらず,左下前頭回が意味の選択という機能を担っている可能性を本研究の結果から提案する。

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