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インサーション型蓄電池用リン酸、および硫酸系ポリアニオン材料

西尾, 陽 NISHIO, Akira ニシオ, アキラ 九州大学

2022.03.23

概要

近年、脱炭素社会への傾倒やSDGs への世界的な関心から再生可能エネルギーの需要が高まっているが、不安定電源であるためその電気エネルギーを化学エネルギーとして貯蔵しておくための蓄電池として、現行の Liイオン電池よりも高性能化、低コスト化を望むことのできる全固体電池とNa イオン電池が注目されている。全固体電池は出力特性や電池寿命、安全性において長所を持つが、電極/固体電解質間の界面抵抗が大きいため充放電時の過電圧や印加可能な電流を狭めてしまうという問題がある。Na イオン電池については豊富な資源量からコストパフォーマンスの高い二次電池として期待されているが、Na の標準電極電位が Li のそれよりも約 0.3 V 高いためセル電圧がその分低くなることやNa イオンがLi イオンの2 倍以上のイオン体積、3 倍以上の原子量を持つため、エネルギー密度が低い、キャリアイオンが動くための大きい拡散パスが必要という問題がある。本論文で着目する材料は充放電前後で結晶構造変化の小さいインサーション型機構での利用が可能な材料であるとともに、キャリアイオンの拡散において広いボトルネックを持つポリアニオン系材料を選択した。

本論文では、全固体電池の問題点である電極/固体電解質間の界面抵抗低減のために電極と固体電解質が一体となった単相型全固体電池に着目し、その材料探索と、アルカリ塩添加による電気化学特性の向上を狙った。また、Na イオン電池用正極材料として、強い誘起効果により高電位化が期待できる硫酸系ポリアニオン材料の電気化学特性と充放電反応機構メカニズムの解明を目的とした。本論文で明らかにされた成果を以下にまとめる。

1) 酸化物系全固体電池は一般的に高温焼成が必要なため副反応が起こるため電極/固体電解質の界面抵抗が大きくなりやすい。本研究では、電極・固体電解質一体型の全固体電池「単相型全固体電池」を用いることで上記の問題の解決を図った。NASICON 型材料 Li1.5Cr0.5Ti1.5(PO4)3 は Li3-xMxTi2-x(PO4)3(M: 遷移金属)で示される材料群の中でも高いイオン伝導度を示すため固体電解質として適しているとともに、材料中の Cr3+と Ti4+における 3 価/4 価のレドックスに正極および負極機能を担わせることができるため単相型全固体電池の材料として選択した。LiTi(PO4)3 のTi 位置にCr が固溶し合成され、高温焼結により得られたペレットの電気伝導度は室温にて 2×10-4 S cm-1 と高い値を示した。充放電特性では約 2 V の電池電圧が得られ、液系電池では動作不可能な-40°C においても充放電することが示された。充放電反応におけるレドックス種はCr3+/Cr4+とTi3+/Ti4+が担うことがXPS 測定により明らかとなった。

2) NASICON 型材料 Li1.5Cr0.5Ti1.5(PO4)3 を用いた単相型全固体電池の特性向上のために焼結体の緻密性に着目した。Li1.5Cr0.5Ti1.5(PO4)3 の焼結体は相対密度が低く、その緻密性を上げることでキャリアイオンパスの確保を狙った。焼結体の粒界を埋めるフラックスとして融点の低く Li イオン伝導性を持つリチウム塩 Li3BO3 に着目し、そのLi1.5Cr0.5Ti1.5(PO4)3 への添加効果を検討した。その結果、Li3BO3 の有無で比較すると相対密度、電気伝導度、可逆容量、充放電サイクルにおいて特性の向上が確認された。また、OCV の充電状態から0 V 短絡するまでの時間がLi3BO3添加により増加したことから、電子伝導性が低下し電気伝導におけるイオン伝導性の寄与が増加したことが明らかとなった。これは電子伝導性がほとんどなくイオン伝導性の大きいLi3BO3 による影響であると考察される。

3) Na 系の単相全固体電池におけるアルカリ塩の添加効果の有無について検証を行うとともに、キャリア元素の存在確認が Li 系よりも容易な Na 系にてその場形成電極を観察するために Na3V2(PO4)3 焼結体への Na3BO3 添加を検討した。Na3BO3 添加によって相対密度、イオン伝導度、充放電サイクル特性が向上したとともに、SEM-EDS による観察で充電前後において焼結体表面のNa 量が変化したことが明らかとなった。また、Na3BO3 の有無でその場形成電極の形成状態が異なることが明らかとなった。

4) Na イオン電池用新規正極材料として強い誘起効果による高電位化の期待できる硫酸系材料から、初期組成へのNa イオンの挿入と脱離が可能なeldfellite 型材料(NaM(SO4)2; M は遷移金属)に着目し、種々の M に関する既報の DFT 計算から電解液の範囲内にて V2+/V3+/V4+の 2 段階レドックスの予測される NaV(SO4)2 を設計した。ゾルゲル法により合成を行い NaV(SO4)2 を得、その合剤電極が初期組成への Naイオン脱離挿入過程、Na イオン挿入脱離過程にてそれぞれ作動電位3.9、2.1 Vvs. Na/Na+で動作し、広い電位範囲にて約1 電子分の102 mAhg-1 の可逆容量を示した。充放電中の結晶構造変化の追跡のためにex- situ XRD 測定を行い、格子の膨張収縮、および新たな相の出現を確認した。充放電中の電荷補償についてはex-situ XAFS 測定(V K-edge およびO K-edge の観察)とDFT 計算(状態密度算出とBader 電荷分析)により検証し、初期組成への Na+挿入脱離過程では V が大きく電荷補償に寄与するのに対し、 Na+脱離挿入過程ではV とO 両方が電荷補償に寄与することが明らかとなった。

以上、本論文ではインサーション可能なリン酸系、および硫酸系ポリアニオン材料を単相型全固体電池やNa イオン電池用正極材料に適用し、電気化学特性や充放電反応機構、ならびに電極形成機構を明らかにすることで、電池材料および電池系の新たな展開へと繋がる知見を提供している。

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