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大学・研究所にある論文を検索できる 「Development of sodium transition-metal sulfide active materials and sulfide electrolytes with reduction stability for all-solid-state sodium batteries」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Development of sodium transition-metal sulfide active materials and sulfide electrolytes with reduction stability for all-solid-state sodium batteries

奈須 滉 大阪府立大学 DOI:info:doi/10.24729/00017853

2022.11.28

概要

持続可能な社会構築に向けて、リチウムイオン電池を筆頭とする高エネルギー密度な蓄電デバイスの需要は大きく高まっている。拡大する需要を満たす補完的な電池として、現行のリチウムイオン電池と同等のエネルギー密度を示し、より豊富で普遍的な資源を可動イオン種とするナトリウム電池が注目されている。近年、硫化物固体電解質が有機電解液に匹敵する高いナトリウムイオン伝導度を示すことから、エネルギー密度と信頼性を兼ね備え、高速充放電が可能な全固体ナトリウム電池の開発が期待されている。

実用化を阻む一つの課題として、固体電解質の耐酸化性および耐還元性が低く、電極活物質との間で副反応が生じることが挙げられる。副反応によって、エネルギー効率や、活物質の利用率の低下が生じ、電池の長期作動が困難となる。課題解決に向けて、固体電解質の分解が生じない電位範囲で作動可能な電極活物質や、安定な界面形成が可能な固体電解質の利用が必要となる。これまでに、遷移金属硫化物正極活物質と硫化物電解質を用いた全固体電池が可逆に作動することが報告されている。これらの活物質では、高エネルギー密度化の観点から、ナトリウムを多く貯蔵できる高容量な正極活物質であることが求められている。また、固体電解質の電極活物質に対する安定性の向上も重要となる。硫化物電解質と負極活物質の界面に発生する還元反応相が高い電子伝導度を示す場合、この反応相と固体電解質との間でさらなる還元反応が生じ、固体電解質が継続的に劣化する。界面に生じる還元反応相の電子伝導度の低下が、還元反応と劣化の抑制のための本質的な解決策である。

本研究では、全固体ナトリウム電池の長寿命化に向けて、あらかじめナトリウムを多く含有する遷移金属硫化物に着目し、高容量かつ可逆に作動する正極活物質の開発を行った。また、固体電解質の構成元素を適切に選定することによって、負極活物質と固体電解質の界面に形成する還元反応相の組成と電子伝導度を制御し、長期作動可能な全固体ナトリウム金属電池の設計指針を提案した。本論文はその成果をまとめたものであり、4 章から構成されている。

第 1 章は、本論文の緒言であり、研究背景と目的ならびに本論文の概要について述べた。

第 2 章では、ナトリウム高含有遷移金属硫化物の新奇相の探索によって、高容量な電極活物質の開発を行った。酸化還元種である硫黄と可動イオン種のナトリウムが多く含まれる組成として Na2TiS3 に着目した。可逆容量やサイクル特性といった電極特性の向上のため、メカノケミカルプロセスを用いて Na2TiS3 準安定相の作製に取り組んだ。従来報告されていた O3 型層状構造を示す Na2TiS3 では、全固体電池において、理論容量(280 mAh g−1)の半分程度の 120 mAh g−1 の可逆容量を示した。一方で、メカノケミカル法で得られた二つの新規相である非晶質相と立方晶岩塩型 Na2TiS3 では、それぞれ 240 mAh g−1 と 260 mAh g−1 の高い可逆容量を示した。O3 型層状構造中では、イオン伝導度が 1.8 × 10−7 S cm−1 と低い値を示す一方で、非晶質相 Na2TiS3 と立方晶岩塩型 Na2TiS3 では、どちらも 10−6 S cm−1 以上まで伝導度が増加した。ナトリウムイオン伝導度に優れる構造をもつことが、活物質の利用率向上に寄与したと考えられ、イオン伝導度に着目した正極活物質の探索が全固体ナトリウム電池の高容量発現に有効であることを明らかにした。

一層の高容量化に向けた取り組みとして、Na2TiS3 と比較して、ナトリウムと硫黄をより多く含む組成である Na3NbS4 に着目し、そのイオン伝導度に着目した材料開発を行った。 Na3NbS4 においても、メカノケミカルプロセスの条件に依存して 3 種の新規な相がそれぞれ得られた。熱処理で得られた従来相Na3NbS4 では30 mAh g−1 と低い容量であったのに対し、最も高いイオン伝導度を示した新奇な準安定相 Na3NbS4 では、240 mAh g−1 の高容量を示すことを見出した。イオン伝導度に着目した構造の探索によって、Na3NbS4 を活物質に用いた全固体ナトリウム電池においても、可逆容量が増大することを明らかにした。

全固体ナトリウム電池の本質的な低コスト化に向けては、電極活物質中のナトリウム以外の元素についても同様に、安価で豊富な資源を選択する必要がある。そこで、より安価で豊富な元素で構成される鉄系硫化物に着目し、高い容量と可逆性をもつ正極活物質を開発した。ナトリウム含有の鉄系硫化物の中から、FeS4 四面体が稜を共有して鎖状となっている特徴的な構造を有する Na2FeS2 に着目し、その電極特性を調べた。Na2FeS2 を正極活物質とした全固体電池において、2 電子反応の理論容量に一致する 320 mAh g−1 の高い容量で、300 サイクル以上の間、可逆に作動可能であることを見出した。X 線回折測定と光電子分光、メスバウアー分光測定から、充放電中の Na2FeS2 の化学状態および構造の変化について解析した。初期の 1 電子反応では、充電時に Na2FeS2 から Na1.5FeS2 を経由し NaFeS2 へと構造変化しており、Na2FeS2 の初期構造でみられた鎖状の FeS4 四面体配列がホスト構造となり、インターカレーション類似の反応を示すことが明らかになった。2 電子反応時には、結晶性の低下が観測されたものの、FeS4 四面体は維持されており、ホスト構造が充放電中も維持されていることが分かった。ナトリウムを含有しない黄鉄鉱(FeS2)における硫黄のみが酸化還元する充放電反応とは異なり、Na2FeS2 では鉄と硫黄の両方の酸化還元が充放電に関与しており、これがホスト構造の維持に寄与していると考えられる。高いナトリウムイオン伝導度に加えて、ホスト構造を維持したままナトリウムイオンの脱挿入時が可能な正極活物質の開発が、高容量かつ長期にわたって可逆作動可能な全固体ナトリウム電池の構築に重要であることが明らかになった。

第 3 章では、ナトリウム金属負極に対する硫化物固体電解質の界面反応性に着目し、両者の界面で生じる還元反応相について調べた。ナトリウム金属を負極活物質に用いた全固体ナトリウム金属電池は高いエネルギー密度を示すことが期待される。しかし、最も一般的な固体電解質である Na3PS4 では、低電位な負極活物質と接触した際、還元分解反応によって硫化ナトリウム(Na2Sx)と電子伝導度の高いリン化ナトリウム(NaxP)を生じる。このリン化ナトリウムが還元反応相の電子伝導度に大きく影響を与えると考えられる。還元反応相の電子伝導度の低下を目的として、固体電解質の中心元素として、ナトリウムと電子伝導性の化合物を形成しないホウ素を用いた Na3BS3 ガラス電解質に着目した。ナトリウム金属を対極としたサイクリックボルタンメトリーによって、固体電解質の還元安定性を評価した。Na3PS4では、開始時の電位から還元側へ掃引した時、Na 金属の析出する 0 V に到達するまでに、固体電解質の分解反応に帰属できる還元電流が明瞭に観測された。一方で、Na3BS3 を用いた場合では、還元分解による電流はわずかにしか観測されなかった。また、交流インピーダンス試験によって固体電解質の抵抗を測定したところ、Na3BS3 を用いた場合では抵抗に大きな変化はみられず、形成された還元反応相が電池特性に大きな影響を及ぼさないことがわかった。X 線回折、走査型電子顕微鏡、光電子分光を用いて還元反応相を評価した。Na3PS4 では、 Na2S と NaxP で構成される 10 m 以上の厚い還元反応相の形成が観測されたのに対し、 Na3BS3 では、Na2S とホウ素の酸化物で構成される 100 nm 以下の薄い還元反応相が観測された。Na3BS3 を電解質とした全固体ナトリウム金属対称セルでは、薄い還元反応相がナトリウム金属と固体電解質の界面に形成され、これがバッファ相として働くことにより 2000 サイクル以上の可逆なナトリウムの析出と溶解が可能となった。また、ナトリウム金属を負極活物質、TiS2 を正極活物質とした全固体ナトリウム金属電池では、Na3BS3 を負極側電解質として用いなかった場合では、正極あたりの容量が 5 サイクルの間で 50 mAh g−1 まで劣化したのに対し、用いた場合では15 サイクル以上の間、200 mAh g−1 の容量で可逆に作動した。

全固体ナトリウム金属電池を可逆に作動させるためには、ナトリウム金属負極との界面に Na3BS3 などの安定な界面を形成する電解質を適用することが効果的であることを見出した。

第 4 章では、本論文で得られた成果の総括を行った。本研究において、ナトリウム含有の遷移金属硫化物において、初期構造のナトリウムイオン伝導度とナトリウムの脱挿入時の骨格となるホスト構造に着目した正極活物質を開発することによって、全固体ナトリウム電池を長期にわたって、高容量で作動させることに成功した。また、固体電解質の還元生成物を予測し、その電子伝導度を低下させる構成元素を選択することによって、低電位を示すナトリウム金属負極活物質に対しても、安定な界面形成が可能であることを明らかにした。以上の結果から、正極活物質と負極活物質、それぞれの界面における課題の解決に向けた活物質および固体電解質の材料設計指針を提案し、高エネルギー密度かつ長寿命な全固体ナトリウム電池が構築できることを示した。本論文で得られた指針を正極活物質や固体電解質の開発に適用することで、全固体ナトリウム電池の実用化に大きく貢献できると考えられる。

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