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大学・研究所にある論文を検索できる 「仕事役割と家庭役割双方が父親の情緒応答性に与える影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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仕事役割と家庭役割双方が父親の情緒応答性に与える影響

坂村 佐知 東北大学

2021.03.25

概要

【背景】
子育ては親の成長発達とともに新しい課題に直面し、不安や緊張を伴うものとされている。子育てを通して育まれる父子関係は、精神的社会的に相互に影響を与えるものであり、特に、乳児期における非言語的な相互交流は不可欠なものであるといわれている。この相互交流の中で乳幼児の情緒を読み取る能力は情緒応答性といわれ、養育者に必要な能力であるとされる。今回、父親の情緒の読み取り能力の特徴を明らかにし、それに影響を与える要因について検討することとした。

【研究課題Ⅰ:方法】
研究目的を父親の情緒の読み取り能力の特徴を検討することとし、生後 2 か月~1 年未満の第 1 子を持つ就労中の父親で、子どもと同居しているものを対象とし、ウェブ調査による横断研究を行った。父親の子ど もの情緒の読み取り能力の測定には日本版 I FEEL Pictures(JIFP)を使用し、子どもの表情 30 枚の写真から父親の読み取る子どもの情緒の回答内容がコード 101~117(17 コード)に分類できるものは子ども側の視点で情緒を言語化できるとし、コード 118~120(3 コード)に分類したものを、子ども側の視点で情緒を言語化できないと評価した。さらに各写真の回答された各コードの割合とコード数を算出し、情緒の読み取りが容易な子どもの表情と難しい子どもの表情を同定した。
分析には SPSS Statistics ver.23 for Windows を使用し、有意水準は両側 p<0.05 と設定した。

【研究課題Ⅰ:結果】
200 名のデータから、20 代から 50 代までの父親 190 名のデータを分析対象とした。
30 枚の写真のうち、情緒の読み取りが容易な子どもの表情は、写真番号 No.24 であった。この写真は子ど も側の視点で情緒を言語化できないと評価したコードの使用割合が 5.8%と少なった。さらに最も回答が集中したコードの使用割合は 90.5%と 30 枚中最も高く、コード番号は子ども側の視点で情緒を言語化できると評価したコード番号 101、カテゴリー「喜び」に分類される情緒であった。一方、情緒の読み取りが難しい子どもの表情は写真 No.15 であった。この写真は、子ども側の視点で情緒を言語化できていないと評価したコードの使用割合が29.5%と高かった。さらに最も回答が集中したコードの使用割合は 17.4%であり、コード番号は子ども側の視点で情緒を言語化できていないと評価したコード番号 120、カテゴリー「分からない・不明」であった。

【研究課題Ⅱ:方法】
父親の情緒応答性に影響を及ぼす要因を明らかにするために、研究課題Ⅰに追加して父親が読み取った情 緒カテゴリーと、母親の P 反応(Popular 反応:後述)が一致した写真の数を写真 30 枚で割った率(P 反応一致率)を算出した。また、父親の就労状況として、就労時間、職業、職務ストレス(JCQ)、育児状況として平日と休日の育児時間、育児行動、さらに属性を調査した。父親の子どもの情緒の読み取り能力は JIFP を用いて以下のように評価し分析した。まず、母親の P 反応との一致率が高いことを、母親の情緒の読み取りとの類似性が高いと判断した。次に情緒の読み取りの到達状況として、始めに、読み取った情緒が子ども側の視点で情緒を言語化できるかどうかという評価として、子ども側の視点で情緒を言語化できないと評価した、コード番号 118~120 の使用割合が 20%以上の場合、情緒を言語化できないとした。次の段階である情緒が読み取りやすい表情を適確に読み取れるという評価に写真 No. 24、最終段階である情緒が読み取りにくい表情を適確に読み取れるという評価に写真 No. 15 を用いた。最終的に、父親の情緒の読み取りと母親の情緒の読み取りとの類似性への関連要因の検討、および父親の情緒の読み取りの到達状況への関連要因の検討として、単変量解析によって選択した変数と父親の就業状況と育児参加状況を独立変数とし、多変量解析(重回帰分析またはロジスティック回帰分析)を行った。
分析には SPSS Statistics ver.23 for Windows を使用し、有意水準は両側 p<0.05 と設定した。

【研究課題Ⅱ:結果】
分析対象の 190 名の父親は平均年齢 36.2±5.8 歳で 75.8%が会社員として就労していた。
情緒の読み取り能力と育児参加状況の関連は、休日育児時間四分位 75%以上(632.1±178.5 分)では 25%未 満(55.7±24.1 分)と比べて P 反応一致率が高かった(p=.010)。また、『コミュニケーション』をよく行っている群が、行っていない群と比較して P 反応一致率が高かった(p=.015)。
情緒の読み取り能力と就労状況の関連は、職務ストレスの要求度が四分位 25%から 50%の父親群に比べて、75%以上の父親群の P 反応一致率は有意に高かった(p=.006)。
多変量解析の結果、休日育児時間が四分位 75%以上の父親は 25%未満の父親に比べて P 反応一致率が高くなる関連がみられ(β=0.23,95%CI:3.0-16.0,p=.004)、母親と類似した読み取りができるようになっていた。さらに、『コミュニケーション』を多く取る方が、読み取りが難しい写真 No.15 を読み取ることに関連する傾向があり(AOR:4.00,p=.089)、曖昧な情緒を読み取ることができる可能性が考えられた。

【考察】
研究課題Ⅰより、父親にとって読み取りやすい情緒と読み取りにくい情緒があることが分かった。この背景には、読み取りやすい情緒は情緒の分化では初期の段階であるのに対し、読み取りにくい写真はさらに分化した複雑な情緒であったことがあげられる。さらに父親が遊びを中心とした育児を主に行い、快の情緒を多く経験すること、不快な情緒に対処する、世話に分類される育児を行う機会が時間的にも短いことが考えられた。

研究課題Ⅱより、男性の休日に育児時間を長く確保すると母親により近い情緒の読み取りができ、コミュニケーションを子どもと多くとることで、より難しい情緒がわかるようになるという特徴から、父親が情緒応答性を高めるには父親のワーク・ライフ・バランスを再考し、コミュニケーションを多くとれる子どもとの関わりができるためにはどのような支援方法が必要か課題を明らかにした。