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大学・研究所にある論文を検索できる 「経済状態と育児困難及び虐待との関連―健やか親子21の調査から-」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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経済状態と育児困難及び虐待との関連―健やか親子21の調査から-

田中 深雪 山梨大学

2022.09.27

概要

【研究の目的】
すこやか親子21(最終評価)で収集した全国規模の調査データを使用し、経済状態と育児困難、虐待との関連を検討する。

【方法】
1.研究デザイン:横断研究
2.研究対象健やか親子最終評価実施対象となった472市区町村に居住し、調査期間内に乳幼児健康診査に該当した児の保護者
3.分析方法本研究に使用した変数は、「母親の年齢」、「母親の就業状況」、「児の出生順序」、「児の性別」、「現在の暮らしの経済的な状況」、「子どもを虐待しているのではないかと思うことがあるか」、「現在の子育ての状況」、「子育てについて気軽に相談できる人はいるか」、「ゆったりとした気分で子どもと過ごせる時間があるか」、「育児に自信が持てないことがあるか」、「父親の育児」、「父親が子どもと遊ぶ」、「声をかけてくれる地域の人がいるか」、「地域の祭りや行事への参加」、「地域の子育てサークルに参加」、「妊娠・出産についての状況」、「現在の母親の喫煙」とした。

解析は以下の手順で実施した。

1)児の年齢で層化し(3~4か月児、1歳6か月児、3歳児)記述統計を実施した。
2)経済的困難と各変数の関連を検討するために、児の年齢ごとにスピアマンの相関係数を算出した。
3)児の年齢ごとに各変数について因子分析を実施した。また、先行文献を用いてその妥当性を検討した。
4)因子分析によって抽出された変数と経済困難感、育児困難感及び虐待について児の年齢ごとに構造方程式モデリング(SEM: Structural Equation Modeling)、平均構造分析(完全情報最尤推定法)を用いて実施した。

【結果】
調査期間の2013年4月から8月の間に乳幼児健康診査を受診した児の保護者で調査に回答したのは75,622人(3~4か月健康診査;20,729人:回収率89.0%、1歳6か月健康診査:27,922人:回収率83.9%、3歳児健康診査;26,971人:回収率82.0%)であった。

経済困難感と「児の出生順序が高い」、「現在の喫煙がある」、「母親の年齢が低い」、「母親が就業していない」、「妊娠・出産の満足がない」、「育児の満足がない」、「気軽に相談できない」、「ゆったりと子どもと過ごせていない」、「育児の自信がない」、「父親が育児をしない」、「父親が子どもと遊ばない」、「地域で声をかけてくれる人がいない」、「サークルに参加しない」との関係が示唆された。育児状況に関する因子分析では因子構造はすべての年齢で一貫していた。Factor1は「父親が遊ぶ」「父親の育児」の2項目であり「父親のサポート」、Factor2は「妊娠・出産の満足」「育児の満足」「ゆったりと過ごせる」「育児の自信」「気軽に相談できる」の5項目であり「育児困難感」、Factor3は「地域の声掛け」「地域の祭りや行事の参加」「サークルに参加」の3項目であり、「地域とのかかわり」と命名した。経済困難感と育児困難感、虐待に関する構造方程式モデリング(SEM)では、経済困難感をもつ母親は育児困難感をもちやすく虐待との関係が示唆された。また、虐待との直接的な関連よりも育児困難感を介した虐待へのパスが高かった。

【考察】
経済困難感と育児状況、サポートとの関連については、相関係数は低いものの係数がプラス方向で有意であったことからポジティブな関連が示唆された。経済困難感と育児困難感、虐待のパス係数は直接効果よりも間接効果の方が高かった。経済困難感は育児不安や育児困難感、さらには生活困難からのストレスをもちやすく母親のストレスは相当強いものと考える。育児不安は虐待のリスクであるとの報告が多くあることから、経済困難感が育児困難感を経由し虐待へと繋がっているものと示唆される。育児困難感の構成要素が「育児の満足」「ゆったり過ごす」「育児の自信」「気軽に相談」であったため母親への肯定的な声かけやアドバイス、母親自身がゆったりとした時間を持てるような育児支援が必要だと考える。

本研究の強みは全国を対象とした大規模調査データの解析結果ということである。本研究の限界は相対的貧困と育児困難感及び虐待との関連を明らかにできなかったこと、虐待について母親の主観を指標としており経済困難感と虐待との関連を明らかにできなかったこと、居住地や家族構成を考慮し分析できなかったこと、地域とのかかわりについて行政サービス、NPOなどの子育て支援との関連について評価できなかったことである。地域における育児支援(行政サービスなど)は虐待防止に効果的であるとの報告があることから、今後地域における育児支援との関連についても検討する必要があると考える。

【結論】
経済困難感を持つ母親は、育児困難感を持ちやすく、虐待に繋がる可能性があることが示唆された。また、経済困難感を持つ母親は、虐待との直接的な関連よりも育児困難感を経由して虐待に繋がっている可能性が示唆された。