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書き出し

泌尿器科手術で使用する生体内分解性亜鉛合金の開発

佐野, 貴紀 神戸大学

2023.03.25

概要

Kobe University Repository : Kernel
PDF issue: 2024-05-02

Bioabsorbable zinc alloys for use in urological
surgery.

佐野, 貴紀
(Degree)
博士(医学)

(Date of Degree)
2023-03-25

(Resource Type)
doctoral thesis

(Report Number)
甲第8688号

(URL)
https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100485872
※ 当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。

(課程博士関係)
学 位 論 文 の 内 容 要 旨

Bioabsorbable zinc alloys for use
in urological surgery.

泌尿器科手術で使用する生体内分解性亜鉛合金の開発

神戸大学大学院医学研究科医科学専攻
腎・泌尿器科学
(指導教員:黒田 良祐 教授)
佐野

貴紀

Introduction
現在泌尿器科ではロボット支援手術による根治的前立腺全摘や腎部分切除が行われ
ている。これらの手術では広く非吸収性クリップが使用されており、術中に開放し
た尿路と接することがある。このためクリップが尿路へ迷入し、それに伴う難治性
感染症や異物により画像アーチファクトが生じることで局所再発の診断が遅れるこ
とが報告されている。そこで我々はステープルやクリップが溶解することにより結
石付着及びそれに伴う血尿や感染リスク、尿路へのクリップの迷入やCTアーチファ
クトを軽減することができると考えた。

Material and Method
我々は生体への影響、分解性、強度・延性を考慮して金属を選択した。現在マグネ
シウム(Mg)を主体とした生体分解性金属が整形外科分野や外科分野にて使用されて
いる。Mgは強度にも優れ、分解性も良好であるものの、泌尿器科分野ではマグネシ
ウムイオンが結石生成を促進する可能性が高いと考えられた。そこで我々は神戸大
学工学部と協力し亜鉛(Zn)をメインとしてMg、ストロンチウム(Sr)を微量配合した
合金を4種類(Zn,Zn-Mg,Zn-Sr,Zn-Mg-Sr)作成した。1種類につき5匹ずつの雄ラット
の膀胱内に留置した。4週、8週、12週間経過した後に取り出しを行い、分解性や結
石の付着、組織変化の評価を行った。さらにラットにて溶解性が良好であり、結石
付着を認めなかったZn-Mg-Sr合金をブタ5頭の膀胱に留置した。ブタは1.4.8.24週で
血中のZn,Mg濃度を測定し、膀胱鏡にて材料の変化を観察した。24週経過した後に取
り出しを行った。金属は埋入前及び取り出し後にmicro CTで体積を測定し減少率を
評価した。またZn-Mg-Sr合金を人体尿に一か月浸漬し、電子顕微鏡及びエネルギー
分散型分光法にて材料表面の変化及び元素を評価した。
Result
Zn-Mg-Srの合金とすることで純亜鉛のおよそ3倍の強度及びチタン(Ti)と同程度の延
性を持つ素材となった。今回の実験で180度折り曲げても折れることはなくステープ
ルやクリップとして使用できる素材であった。
ラットの実験ではZn-Sr-Mg合金が最も分解しており、4週: 4.17%(range 2.56-5.6
8)、8週: 5.71%(range 5.45-5.92)、12週: 6.51%(range:5.73-7.22)であった。12週
での溶解率を比較するとpure Zn:3.04%、Zn-Mg:2.62%、Zn-Sr:3.44%、Zn-Mg-Sr:6.5
1%でありZn-Mg-Sr合金はpure Zn,Zn-Mg,Zn-Srより有意に溶解していた(P<0.01)また
膀胱内の合金素材への結石付着に関しては純Znでは9/15体に、Zn-0.1Mgでは15/15体
に結石付着があったのに対しZn-Mg-Srでは結石付着を認めなかった。その他の材料
と比較しZn-Mg-Srは有意に結石の付着が少なかった。(P<0.01)結石分析ではリン酸
水素マグネシウムであった。
ブタの実験において溶解率は24週:3.72 %(range:1.75-4.85)であった。

膀胱鏡で観察すると12週までは粘膜浮腫もありステープルは膀胱粘膜へ露出してい
なかったが24週では膀胱鏡にて観察可能となっていた。全てのブタにおいて実験経
過にて血中Zn及びMg濃度に有意な変化は認められなかった。また膀胱組織をHE染色
にて観察するとクリップをつけた部分の粘膜に軽度炎症所見は認めるものの筋層に
は炎症所見など認めず治癒していることがわかる。
一頭が実験中に体重減少、食欲不振を来たしたため12週で取り出しを行った。創部
や膀胱内に感染所見は認めず、血中Zn Mg濃度の変化もないことから今回の材料その
ものが直接の死因では無いと判断した。
5本のZn-Mg-Sr合金を4週人体尿に浸漬させた実験での溶解率は4週:12.75%(range
9.7-20.3%)であった。また4週経過した素材表面を電子顕微鏡及びエネルギー分散型
分光法観察すると合金表面は平滑ではなくわずかに凹凸を認めた。溶解が進んでい
る部分と合金表面を膜状に覆う物を認めた。合金表面を覆っている物質を解析する
とCa、P、C、Oといった原子が覆っていることが分かった。今回我々が作成した亜鉛
合金にはこれら元素は含まれていないため、尿中のシュウ酸(C2H2O4)やリン酸成分
がカルシウムイオンと結合しシュウ酸カルシウムやリン酸カルシウムといった結石
成分となって金属表面を薄く覆っているものと考えられる。これらの成分が覆うこ
となく溶解が進んでいる部分はSrが多く存在しており、ZnやMgと比較して卑金属で
あるSrが優先的に溶解している可能性が考えられた。
Discussion
現在、泌尿器手術は様々なロボット支援手術が行われている。手術の術式が変わる
につれて新たな手術デバイスが開発されているが、クリップやステープルに関して
はロボット手術で使用できる生体内分解するデバイスは無い。泌尿器科分野におい
てはZn-Mg合金を使用し、ラットでの動物実験では8週で2.6%の溶解率であり、Mg濃
度を上げることにより溶解性が改善したと報告した。しかし、我々の実験において
はMg濃度を上げることにより結石付着のリスクが上がることが分かった。そのため
我々はZnにMgにSrを添加することにより結石付着を抑制しながら溶解性を改善する
ことができた。
今回我々は生体内溶解性金属を開発するためにZnに微量のMgとSrを添加した金属を
作成し強度・延性の試験を行った。SrはZn,Mgよりも標準電極電位が高いため溶解性
が上がることが期待できる。現在溶解性縫合糸としても使用されているポリL乳酸と
比較しても強度・延性ともに同等以上であった。またポリL乳酸は元に戻ろうとする
性質が強いため、クリップを作成する場合にはロックする必要があるため、小さい
クリップやステープルとして使用することは難しい。しかし金属の場合は様々な形
を作成することが可能である。
Zn合金のMgやSrの濃度をごくわずかに変えたのみで大きく分解スピードが変わる原
因ははっきりしていない。in vitroの実験で人体尿に5本のZn-Mg-Sr合金を4週浸漬
させた実験ではラットよりも溶解スピードが早いことが分かった。このため材料が

体液に浸漬していることが重要である可能性がある。in vitroと比較して動物実験
にて溶解スピードが低下した原因としては以下のことが考えられる。
ブタ、ラットともに素材のおよそ半分程度は膀胱外にあるため溶解スピードが低下
した。ラットにおいては膀胱も小さく、1日の尿量は11ml程度と少ないためクリップ
に対しての溶媒が少ないため溶解スピードが低下した。ブタにおいては12weeksまで
はクリップが粘膜に埋まり込んでいるため尿への暴露が少なかった。ブタにおいて
はラットと比較して大きな素材を埋入したため、体積に対して表面積が小さくなり
溶解率が低下した。体積減少量で比較するとラットは12weeks:0.275m㎥であったの
に対しブタは12weeks:0.720m㎥であり体積減少はブタの方が多かった。
今回我々が作成したステープルはラットに使用しているものでも現在使用されてい
るステープルよりもサイズが大きいためより細いステープルであれば溶解率はさら
に改善すると考えられる。
生体分解性素材でクリップを作成することにより、現在問題となっている尿路への
異物迷入や、術後CTのアーチファクトが改善することが期待できる。
また生体分解性金属を使用してリニアステープラーを作成することができれば尿路
再建をロボットでスムーズに作成することが可能であるため、低侵襲及び手術時間
の短縮に寄与できると考える。

conclusion
泌尿器科手術において生体分解性金属を使用することにより、クリップの尿路への
迷入やそれに伴う難治性感染症を改善させることが期待される。さらに加工しやす
い金属であるためステープラーなど様々な形に加工することができるためロボット
手術において有用である。

神 戸大学大学院医学(
系)研・
究科(博士課程)

論 文 審査

諭文題目

Ti
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甲第

3290 号

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佐野貴紀

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泌尿器科手術で使用 する生体内分解性亜鉛合金の開発

主 査
審歪委員



の 要 旨


受付番号

の 結果

Chi
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r
副 査

Vi
c
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mi
ne
r
副 査

Vi
c
eexami
ne
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給芹巧
討上卓道

考井

(要旨は 1
, 000字∼ 2
, 000字程度)

K人

【目的】
現在泌尿器科ではロボット支援手術による根治的前立腺全摘や腎部分切除、膀脱全摘が行
われている。これらの手術では広く非吸収性クリップが使用されており、術中に開放した
尿路と接することがある。このためクリップが尿路へ迷入し、それに伴う難治性感染症や
異物により画像アーチファクトが生じることで局所再発の診断が遅れることが報告されて
いる。また膀脱全摘ではステープラーで作成した新膀脱に結石が付着し血尿や感染のリス
クになることが報告されている。そこで我々はステープルやクリップが溶解することによ
り結石付着及びそれに伴う血尿や感染リスク、尿路へのクリップの迷入や CTアーチファ
クトを軽減することができると考えた。
【方法ならびに結果】
我々は生体への影榔、分解性、強度・延性を考慮して金属を選択した。神戸大学工学部と
協力し亜鉛 (
Z
n
)をメインとして Mg、ストロンチウム (
S
r
)を微量配合した合金を 4種類 (
Z
n、

Zn-M

g Z
n
S
r、Zn-MgS
r
)作成した。ラットにて溶解性が良好であり、結石付着を認めな
かった Zn-MgS
r合金をブタ 5頭の膀脱に留置した。
Zn-MgS
rの合金とすることで純亜鉛のおよそ 3倍の強度及びチタンと同程度の延性を持
つ素材となった。今回の実験で 1
8
0度折り曲げても折れることはなくステープルやクリッ
プとして使用できる素材であった。
ラットの実験では Zn-Sr-Mg合金が最も分解しており、 1
2遷 6
.
5
1%(range
:
5
.7
3
-7
.
2
2
)であ

、 Zn-MgS
r合金は Zn、Zn-M

g Z
n
S
rより有意に溶解していた。また膀脱内の合金素
材 へ の 結 石 付 着 に 関 し て は Zn-0.lMg で は 1
5
/
1
5体に結石付着があったのに対し

Zn-MgS
r で は 結 石 付 普 を 認 め な か っ た 。 プ タ の 実 験 に お い て 溶 解 率 は 24 週:
3
.
7
2%(range
:l
.7
5
4
.
8
5
)であった。 5本の Zn-MgS
r合金を 4週人体尿に浸漬させた実験で
の溶解率は 4週: 1
2
.
7
5
%
(
r
a
nge9
.
7
2
0
.
3
%
)であった。 4週経過した素材表面を電子顕微鏡
及びエネルギー分散型分光法観察すると合金表面は平滑ではなくわずかに凹凸を認めた。
溶解が進んでいる部分と合金表面を膜状に覆う物を認めた。合金表面を覆っている物質を
解析すると Ca、P、C、0 といった原子が毅っていることが分かった。これらの成分が覆
うことなく溶解が進んでいる部分は S
rが多く存在しており、 Znや Mgと比較して卑金属
である S
rが優先的に溶解している可能性が考えられた。

【総括】
泌尿器科手術において生体分解性金属を使用することにより、クリップの尿路への迷入や
それに伴う難治性感染症を改善させることが期待される。さらに加工しやすい金属である
ためステープラーなど様々な形に加工することができるためロボット手術において有用で
ある。本研究では様々な合金を作成し動物実験を行い安全性やどのような組成が溶解率を
rが溶解を促進する可能性や亜鉛合金とすることによ
改善するかを明らかにした。さらに S
り尿路結石に付羞を低減し得ることを明らかにした報告である。よって本研究者は博士(医
学)の学位を得る資格があると認める。

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