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令和二年度 「短寿命RIを用いた核分光と核物性研究VII」

京都大学

2021.09

概要

原子炉や加速器を利用することで、多様な不安定原子核や素粒子を生成できる。これらの不安定原子核や素粒子は、宇宙核物理や原子核物理の研究対象であるばかりでなく、その静的な電磁気性質を用い、超微細相互作用を介して、電子物性の研究にも広く利用されている。これらの研究分野及び関連する領域に関し、令和3(2021)年1月15日、「短寿命RIを用いた核分光と核物性研究VII」専門研究会がオンライン形式で開催された。新型コロナウイルスの感染が拡大する最中ではあったが、1)メスバウアー分光法関連 2)摂動角相関測定法関連 3)陽電子寿命分光法 4)ミュオンスピン緩和とβ核磁気共鳴法 5)ミュオンを用いた化学状態分析 6)不安定核ビーム生成装置開発 7)核分光法 等、多彩なテーマが提供された。活発な議論がなされ、各研究分野の最新の動向や技術的ノウハウを知る場として十分機能した。また、院生・学生の積極的な参加も頼もしい限りであった。お忙しい中、原稿をお寄せいただいた講演者の方々にお礼を申し上げると共に、この報告書が、今後の各研究の進展に貢献すれば幸いである。
Various unstable nuclei and elementary particles can be generated by using a reactor or an accelerator. These unstable nuclei and elementary particles are not only the targets of nuclear astrophysics and nuclear physics, but are also widely used as useful probes for investigation of electromagnetic properties of condensed maters through their hyperfine interactions. Regarding these research fields and related fields, on January 15, 2021, the specialist meeting "Nuclear Spectroscopy and Nuclear Properties Using Short-Life RI VII '' was held online. Although it was in the midst of the spread of the new coronavirus in Japan, the following talks were presented. 1) Mössbauer spectroscopy 2) TDPAC (time-differential perturbed angular correlation) 3) Positron annihilation lifetime spectroscopy 4) μ-SR and β-NMR 5) Identification of chemical state using muons 6) Development of the radioactive ion beam techniques 7) Nuclear spectroscopy At the meeting, useful information in each research field and know-how of the experimental techniques were exchanged through active discussions, and the positive attitude of graduate students and students was also encouraged. The editors would like to thank the authors for preparing the manuscripts and hope that this report will contribute to the future progress of each research field.

この論文で使われている画像

参考文献

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T. Minamisono et al., Physics Letters B 457, 9-16 (1999).

40

溶液中のβ-NMR 分光のための高分解能化について

Improvement of Spectral Resolution for β-NMR Spectroscopy in Liquids

阪大理 1、東京都市大 2、新潟大研究推進機構 3、新潟大理 4、高知工科大 5、筑波大 6、

理研仁科セ 7、量子科学技術研究開発機構 8

三原基嗣 1、松多健策 1、福田光順 1、若林諒 1、大谷優里花 1、木村容子 1、福留美樹 1、

高山元 1、南園忠則 1、西村太樹 2、高橋弘幸 2、泉川卓司 3、大坪隆 4、

野口法秀 4、生越瑞揮 4、佐藤弥紗 4、高津和哉 4、百田佐多生 5、小沢顕 6、長友傑 7、

北川敦志 8、佐藤眞二 8

M. Mihara1, K. Matsuta1, M. Fukuda1, R. Wakabayashi1, Y. Otani1, Y. Kimura1, M. Fukutome1,

G. Takayama1, T. Minamisono1, D. Nishimura2, H. Takahashi2, T. Izumikawa3, T. Ohtsubo4,

N. Noguchi4, M. Ogose4, M. Sato4, K. Takatsu4, S. Momota5, A. Ozawa6, T. Nagatomo7, A. Kitagawa8,

and S. Sato8

Department of Physics, Osaka University

Tokyo City University

Institute for Research Promotion, Niigata University

Department of Physics, Niigata University

Kochi Institute of Technology

University of Tsukuba

RIKEN Nishina Center for Accelerator-Based Science

National Institute for Quantum and Radiological Science and Technology (QST)

1. はじめに

我々は最近、液体の水に打ち込んだ短寿命核 12N (I = 1, T1/2 = 11 ms) の β 線核磁気共鳴 (β-NMR) スペ

クトル測定を行い [1]、さらに核スピン I = 1/2 の 17N (I = 1/2, T1/2 = 4.173 s) についても液体中の β-NMR ス

ペクトル測定に成功した [2]。これにより、溶液中に入射したイオンが形成する化学種探索といった、化学や

生物学分野とも関連した新たな研究に発展する可能性が拡がった。従来の安定核による溶液 NMR にお

いては古くから実証されているように、溶液中の化学種同定には、ppm あるいはそれ以下のオーダーでの

精密化学シフトや、スピン-スピン結合に関する情報が有力な手掛かりを与える。これらを観測するために

は、十分に線幅の狭い、すなわち高分解能な NMR スペクトルを取得する必要があり、一様性の高い静磁

場中で測定を行うことや、四重極相互作用が生じないスピン 1/2 のプローブ核を用いることなどが要求され

る。高分解能 β-NMR 分光を行うに当たり、後者については、我々は上述の 17N や 15C (I = 1/2, T1/2 = 2.449

s) のスピン偏極ビームを開発し [3]、生化学や物質科学において様々な場面で重要な役割を果たす窒素

および炭素の β-NMR プローブ核の供給が可能となった。一方、静磁場の一様性については、現在向上に

向けて装置等の改良を行っているところである。

我々が放射線医学総合研究所 HIMAC 施設で使

用している β-NMR 装置について、磁場分布を測定

し、その結果をもとに一様性の最も高い位置に試料

を設置し直した。これにより ppm オーダーの分解能

での β-NMR 分光が実現しつつある。現在の状況

と、最近得られた溶液中 17N の β-NMR スペクトルに

ついて報告する。

2. 磁場分布測定

我々が HIMAC で使用している β-NMR 用電磁石

は、直径 200 mm の端面をもつ磁極(ポール)からな

る H 型電磁石で、ポールギャップは 84 mm である。

41

Fig. 1. Schematic view of the magnetic pole.

Fig. 2. a) Two-dimensional (x, z) magnetic field distribution at y = 0.5 mm and at B = 0.8 T. b) Histogram of the

magnetic field intensity inside the square shown in a).

最大 1.1 T の磁場を発生することができ、一様性を高めるために円形のシムが取り付けられている。Figure

1 に示すように、ポールギャップの中心を原点として、ビーム軸に平行な方向を y 軸、鉛直方向を z 軸、ビー

ム上流側から見て水平左方向を x 軸と定義し、プロトン NMR プローブ (Metrolab PT2025) を用いて3次元

磁場分布測定を行った。

得られた磁場分布の形状は、原点に対し対称とはならず、一様性の高い、すなわち磁場分布が平坦な場

所は下方に大きくずれていることが判明した。中心位置の磁場 0.8 T のときの測定結果を Fig. 2-a に示す。

最も一様性の高い場所は、(x, y, z) = (2, 5, -15) (in mm) の辺りであり、y = 5 mm における (x, z) 分布を等高

線で示している。ここで、ビームスポットが 10 × 10 mm2 の場合(Fig. 2-a の青い四角で囲った領域)の磁場

強度のヒストグラムを Fig. 2-b に示すと、分布の幅は FWHM で 1ppm 程度であり、現有の電磁石で ppm オ

ーダーの β-NMR スペクトル測定が可能であることが示された。これはギャップの中心部分に比べ、線幅を

約1桁狭くできることを意味している。磁場分布の形状は中心磁場の強さにも依存しており、1 T の場合、一

様性はは 0.8 T のときよりも悪くなった。これは、リターンヨークの磁化が飽和している箇所が存在しているた

めであると考えられる。

磁場分布が原点対称からずれる理由はまだ分かっていない。今後は、原因究明に加えて、一様性の向

上を目指しシムの形状を最適化するためにも、数値シミュレーションを行うことが必要であると考えている。

3. 実験方法

さまざまな溶液および水の中の 17N の β-NMR ス

ペクトル測定を行った。実験装置の写真を Fig. 3 に

示す。HIMAC シンクロトロン加速器から供給される

核子当たり 70 MeV の 18O ビームを 2 mm 厚の Be

標的に入射させ、入射核破砕反応により 17N を生

成した。そして SB2 二次ビームライン [4] で分離し

た後、β-NMR 装置まで輸送される。17N の角度と運

動量を適切に選択することにより核スピン偏極が得

られる [2, 3]。液体試料は、磁場分布測定結果に基

づき、上述した一様性の高い位置に設置した。印

加した静磁場は 0.8 T である。試料は Fig.3 に示し

たような 20 × 20 × 5 mm3 のガラス容器に密閉し、

1 mm 厚のポリエチレン板で作成したホルダーに固

定した。ソレノイド型の RF コイルを、その中間に試

Fig. 3. Photograph of the β-NMR equipment at HIMAC

taken from the downstream of the beam line.

42

料が来るように設置した。試料の上下には、2 枚の

プラスチックシンチレータからなるカウンターテレス

コープを設置し、β 線検出に用いた。試料から 60

mm 上流にコリメータを設置し、17N ビームが試料内

に収まるようにした。測定中の静磁場の値をモニタ

ーするために、Fig. 3 に示すように試料中心から約

30 mm 離れた位置にプロトン NMR プローブを挿入

した。ただし、プローブは動作中に磁場を発生し、

静磁場に余分な磁場が加わてしまうため、測定中

は電源を切った。30 分〜1 時間おきに測定を中断

し、磁場調整を行うことにより、静磁場のドリフトを

Fig. 4. Example of 17N beam spots at the sample position 1ppm 以下に抑えることができた。

after passing through a collimator. The green lines indicate

静磁場中ではビームが曲がるため、ビームの軌道

the center lines at the sample position.

とコリメータ位置を調整する必要がある。確実に目

的位置にビームを止めるためには、リアルタイムでビーム位置をモニターできるのが望ましい。しかし二次ビ

ームである 17N の強度は 1 パルス当たり 104 個程度であり、蛍光板による発光を通常のカメラで撮影するに

は微弱過ぎる。そのために、高感度カメラ(Watec, WAT-910HX)を使用し、試料位置にプラスチックシンチ

レータを設置して下流側からビーム像を撮影した。外部からの光がカメラに入らないよう、シンチレータとカ

メラは遮光した筒の中に収めた。コリメータ通過後のビームスポット画像の例を Fig. 4 に示す。下流側から

見て右側に約 6 mm コリメータを移動させると、ビームがほぼ試料の中央に来ることを確認した。スポットの

形状が、コリメータに比べてやや横長に伸びているのは、運動量の拡がりにより、磁場中でのビームの軌道

も拡がるためであると考えられる。最終的に、最適なコリメータのサイズを 7 mm × 10 mm と決定した。

NMR スペクトルの測定は、π パルスによるスピン反転法 [2,

5] を用いて行った。上下の検出器の計数比 r について、RF

磁場(π パルス)をかけない (off) ときとかけた (on) ときの比

roff/ron (= R) をとることにより、β 線非対称度の変化 ∆AP =

(R1/2 – 1) /(R1/2 + 1) が NMR 信号強度として求められる。ここ

で A は β 線非対称計数で、17N の場合 A = +0.25 である。P

はスピン偏極度である。RF の周波数の関数として∆AP を測

定することにより、β-NMR スペクトルが得られた。

4. 実験結果とまとめ

様々な液体試料中の 17N の β-NMR スペクトルを Fig. 5 に

示す。この中で、H2O は以前に静磁場 B0 = 1 T で測定した

結果 [2] である。線幅は RF 磁場の強度 B1 = 0.140 μT で決

まっており、分解能は FWHM で 200ppm となる。他の試料

は B0 = 0.8 T、B1 = 46 μT で測定した今回の結果で、FWHM

は約 40ppm まで狭まった。磁場一様性が向上したため、横

緩和時間 T2 が長くなり、π パルスの時間幅を以前の 0.68 ms

から 2 ms まで伸ばしても ∆AP が小さくならず、測定効率が

格段に向上した。各溶液試料は窒素を含んでいるため、も

し入射した 17N が溶液中の窒素原子と置換した場合、観測

されるシフトは、安定核の窒素 NMR から得られた化学シフト

と等しくなるはずである。その予想値 [6] を Fig. 5 に示してい

るが、必ずしも再現しているとは言えなさそうである。今後さ

らに精密なスペクトルを測定し、詳細を明らかにしていく予

定である。

43

Fig. 5. β-NMR spectra of 17N in various liquid

samples, which is shown as a function of the

relative frequency shift from the resonance line

(4309.4 kHz) in NH3 solution. The vertical scale

is offset for display. The black lines indicate

expected shifts from known chemical shifts.

H2O 中 17N のスペクトルについては、Fig. 5 の低周

波数側のピークについて高分解能化を図り、B1 =

4.6 μT、パルス幅 20 ms の π パルスを用いて測定を

行った。Figure 6 に結果を示す。B1 が与える線幅は

FWHM で約 40 Hz であり、分解能は 9ppm まで到達

した。この共鳴線について、1成分であると仮定して

fitting して得られた曲線を Fig. 6 に示したところ、ま

だ統計誤差は大きいが、実験結果の方がやや拡が

っているようにも見える。スピン-スピン結合により複

数のピークを形成している可能性も考えられる。線

幅をさらに半分くらいに狭めて測定すれば、構造が

明らかになってくると思われる。

17

今回、現在我々が使用している β-NMR 電磁石の Fig. 6. High resolution β-NMR spectra of N in H2O.

The solid curve is the best fit to the data using a response

3次元静磁場分布を測定し、磁場一様性の高い位 function for the π-pulse method, assuming a single peak.

置を特定した。試料をこの位置に設置し、かつ高感

度カメラでビームをモニターすることにより確実に 17N ビームを試料中に停止させることができた。これによ

り、ppm オーダーでの高分解能 NMR スペクトル測定が可能になり、H2O 中の 17N については FWHM で

9ppm の分解能でのスペクトルが得られた。もう少し分解能を高めれば、スペクトルに内部構造があるかどう

かが判明すると思われる。今後、数値計算シミュレーションなどを駆使してシムの形状最適化によりさらに磁

場一様性を高めることができれば、T2 が長く、かつビームスポットをより大きくすることができるようになり、高

い効率での高分解能スペクトル測定が可能になると考えている。

References:

[1] T. Sugihara et al., Hyperfine Interactions 238, 20 (2017).

[2] M. Mihara et al., Hyperfine Interactions 240, 113 (2019).

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Sons, Inc., New York (1979).

44

酸化物形燃料電池材料 YSZ 中 19O のスピン格子緩和時間の温度依存性

Temperature dependence of spin-lattice relaxation time of 19O in oxide fuel cell material YSZ

阪大理 1、新潟大研究推進機構 2、新潟大自然 3、東京都市大 4、理研仁科セ 5、量研機構 6、

高知工科大 7、筑波大 8

大谷優里花 1、三原基嗣 1、松多健策 1、福田光順 1、若林諒 1、沖本直哉 1、福留美樹 1、

木村容子 1、高山元 1、泉川卓司 2、野口法秀 3、生越瑞揮 3、佐藤弥紗 3、高津和哉 3、大坪隆 3、

西村太樹 3、髙橋弘幸 4、菅原奏来 4、Aleksey Gladkov5、北川敦志 6、佐藤眞二 6、百田佐多生 7、

奥村寛之 7、森口哲朗 8、小沢顕 8

Y. Otani1, M. Mihara1, K. Matsuta1, M. Fukuda1, R. Wakabayashi1, N. Okimoto1, M. Fukutome1,

Y. Kimura1, G. Takayama1, T. Izumikawa2, N. Noguchi3, M. Ogose3, Y. Sato3, K. Takatsu3, T. Ohtsubo3,

D. Nishimura4, H. Takahashi4, S. Sugawara4, A. Gladkov5, A. Kitagawa6, S. Sato6, S. Momota7,

H. Okumura7, T. Moriguchi8, and A. Ozawa8

Graduate School of Science, Osaka University

IRP, Niigata University

Graduate School of Science and Technology, Niigata University

Tokyo City University

RIKEN

QST

Kochi University of Technology

Tsukuba University

1.はじめに

固体酸化物形燃料電池(Fig.1)はクリーンでかつ大きなエネルギーを生み出す可能性を持つ電池として

注目されている[1]。この電池材料の電解質のひとつである ZrO2 安定化 Y2O3 (YSZ)中の酸素イオン伝導

率を調べる重要な手法として、安定な原子核を用いる 17O(I = 5/2) NMR 法がある。しかし、17O 同位体の

天然存在比は 0.038%と小さく自然界にごくわずかしか存在していないため、NMR を検出するためには 17O

濃縮試料が必要である。このため試料作成にコストがかかり、あまり研究が進んでいないという現状が

ある。そこで我々は不安定核 19O( T1/2 = 26.9 s, I = 5/2 )ビームを用いるβ-NMR 法により酸素イオン

伝導率を決定することを試みている。これが実現すれば

試料作成のコストが大幅に減り、従来の実験方法よりも

手軽かつ低コストに酸素イオン伝導率を調べる事ができ

るので、新しい電池材料の開拓がよりスムーズになる可

能性がある。最近我々は偏極度約 10%の高偏極 19O ビーム

の生成に成功した[2]。今回はこれを用いて YSZ 中 19O の

スピン格子緩和時間 𝑇𝑇1 の温度依存性を測定した。

Fig.1. Conceptual diagram of solid

oxide fuel cell system.

45

2. 実験

実験は千葉県にある放射線医学総合研究所の加速器施設 HIMAC 二

次ビームライン[3]で行った。

セットアップをFig.2, Fig.3 に示す。

YSZ 単結晶試料(10 mm×10 mm,厚さ 0.5 mm)を 4 枚並べて Al テープ

で固定して設置し、そこに 19O の偏極ビームを埋め込み、放出される

β線を観測した。磁場の強さは 0.6 T であった。この時 YSZ 試料の

ビーム下流側にはセラミックスヒーターを装着し、室温から 200 ℃

近くまで温度制御が出来るようにした。19O 偏極ビームは 70A MeV の

18

Fig.2. Schematic drawing of the

子ピックアップ反応を起こすことで生成した。入射角度を反転させ

experimental setup.

O ビームを Be ターゲットに対して 1.25°の角度で入射させ、中性

ることで偏極の向きを反転させることができるので、偏極方向が上

向きと下向きの 2 種類のビームを生成し、これらを用いて 𝑇𝑇1 測定を

行った。スピン偏極した核から放出されるβ線放出確率は式

𝑊𝑊(𝜃𝜃) = 1 + 𝐴𝐴𝐴𝐴cos𝜃𝜃 に従い、

偏極方向に対して非対称な角度分布を

示す。ここで 𝐴𝐴(= -0.7 for 19O)はβ線非対称係数で、𝑃𝑃は偏極度で

a)

ある。このため、偏極方向に対し上下に置かれた検出器の計数比は、

𝑃𝑃の変化を反映する。この性質を利用すると、試料に対し上下に置か

れた検出器でβ線を時間 𝑡𝑡 の関数で計数することで、YSZ 中 19O の

スピン格子緩和を観測することが出来る。19O を上(下)向きに偏極さ

𝑁𝑁𝑈𝑈𝑈𝑈 (𝑡𝑡)

せた時の各時間のβ線の上下のカウント比 𝑅𝑅↑(↓) (𝑡𝑡) = 𝑁𝑁

𝑅𝑅 (𝑡𝑡)

𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑 (𝑡𝑡)

から

非対称度 𝑎𝑎(𝑡𝑡) = 𝑅𝑅↑(𝑡𝑡) − 1 を求めることにより、緩和スペクトルが

b)

Fig.3. The pictures of YSZ sample

holder taken from a) upstream side

and b) downstream side. A ceramic

heater is attached to the sample.

得られた。本実験では、ビームを 40 s 出した後に 80 s 止めるとい

うサイクルで測定を行った。今回は YSZ の温度を 298 K、313 K、333

K と変化させ、各温度につき偏極上向きと下向きのビームで 1 時間

ずつ測定を行った。

3. 結果と考察

今回得られた YSZ 中 19O の偏極緩和スペクトルを Fig.4 に示す。温度が高くなるほど緩和が速くなる様

子が観測された。

Fig.4 のデータを偏極緩和曲線で fitting し、スピン格子緩和時間 𝑇𝑇1 を求めた。fitting

関数は以下の通りである[4]。

ビーム ON 領域:𝑎𝑎ON (𝑡𝑡) = 𝑎𝑎0 ∙

𝑡𝑡

𝑇𝑇1 1−𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒�−𝑇𝑇1�

𝑡𝑡

𝜏𝜏

1−𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒�− �

𝜏𝜏

+ 𝐶𝐶 (𝑡𝑡 ≤ 40s)

ビーム OFF 領域:𝑎𝑎OFF (𝑡𝑡) = 𝑎𝑎ON (40) ∙ 𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒 �−

𝑡𝑡−40

�+

𝑇𝑇1

46

𝐶𝐶 (𝑡𝑡 > 40s)

ここで、𝑎𝑎0 は初期非対称度、𝑡𝑡 はビームを出して

からの経過時間、𝜏𝜏 (= 38.8 s)は 19O の平均寿命、

𝐶𝐶は定数である。定数 𝐶𝐶をパラメーターとして導

入している理由は、上向きに偏極した時と下向き

に偏極した時とではビームスポットの位置がずれ

ることにより、ベースラインが 0 でなくなる可能

性があるからである。解析の際には 𝑎𝑎0 と 𝐶𝐶 は

温度に依存しないと仮定して共通の値とし、3つ

Fig.4. Time dependence of 19O polarization in YSZ.

のスペクトルを同時に fitting した。

Figure 5 は各温度 T における実験結果 𝑇𝑇1 をグラフにプロットしたものである。この結果を Viefhaus

らによる 17O NMR 法の実験結果[5]と比較してみる。YSZ の結晶構造を Fig.6 に示す。YSZ 中に埋め込まれ

た 19O が酸素置換位置に入ったとすると、ホストの酸素イオンと同様に、YSZ の結晶内の酸素空孔をジャ

ンプしながら移動すると考えられる。ジャンプする事で 19O の偏極緩和が起こり、酸素イオンのジャンプ

の頻度、つまり移動の速さは 19O 偏極緩和時間と相関関係を持つことになる。この考え方に基づいて定式

Fig.5. Temperature dependence of T1 of 19O in YSZ.

The blue curve is the BPP curve deduced from the

17

O NMR experiment. The result of

17

O NMR

experiment is also shown[5]. The black curves are

the BPP curve for 19O expected from the 17O result.

化した BPP モデル[6]を用いると、𝑇𝑇1 を以下の式で表すことが出来る。

3 1 𝑒𝑒 2 𝑞𝑞𝑞𝑞

2𝐼𝐼 + 3

𝜂𝜂 2

∙ �

� � 2

� �1 + � { 𝐽𝐽(𝜔𝜔0 ) + 4 𝐽𝐽(2𝜔𝜔0 )}

𝑇𝑇1 40 5

𝐼𝐼 (2𝐼𝐼 − 1)

𝑒𝑒 2 𝑞𝑞𝑞𝑞

ここで、

𝐽𝐽(𝑛𝑛𝑛𝑛0 ) =

𝜏𝜏𝐶𝐶

1 + (𝑛𝑛𝜏𝜏𝐶𝐶 𝜔𝜔0 )2

は四重極結合定数、𝜂𝜂 は非対称パラメーターで YSZ の

場合は 0 である。𝐼𝐼(= 5/2)はスピン量子数、𝐽𝐽(𝑛𝑛𝑛𝑛0 )はスペクトル密

度、𝜔𝜔0 はラーモア周波数、𝜏𝜏𝐶𝐶 はジャンプ頻度の逆数、つまりジャン

プの平均時間である。したがって、𝑇𝑇1 から酸素イオン伝導率を決定

付ける物理量である 𝜏𝜏𝐶𝐶 が得られる。17O NMR 法で得られた 𝑇𝑇1 の実

験値と BPP 曲線を Fig.5 に示した。ここで、YSZ 中の 17O については

47

Fig.6. Crystal structure of YSZ.

https://en.wikipedia.org/wiki/Yttriastabilized_zirconia

𝑒𝑒 2 𝑞𝑞𝑞𝑞

= 600 kHzと求められており[5]、この式の四重極モーメント 𝑄𝑄と 𝜔𝜔0 を今回の 19O の場合[7]に置

き換えて計算し直したものが、Fig.5 の黒線である。この線と今回の実験結果を比較してみると、誤差の

範囲内で一致していることがわかる。これは、最初に仮定した BPP モデルの考え方で、19O が酸素空孔を

ジャンプして移動していることの証明となっている。しかし、今回我々が測定した温度領域では、17O の

𝑇𝑇1 は BPP モデルから外れている。今回の実験で我々は単結晶を用いていたのに対し、Viefhaus らはナノ

粒子結晶を用いていたため、何らかの格子欠陥が 𝑇𝑇1 に寄与している可能性も考えられる。

本実験により、YSZ 中にビームとして埋め込まれた 19O がホストの酸素イオンと同様に振舞っている可

能性が示された。このことは、19O β-NMR 法が新たな酸素イオン伝導率測定法として有望である事を示唆

している。今後はさらに統計誤差を小さくしたり、今回とは異なる温度や磁場で測定したりする予定で

ある。YSZ についての研究を通して 19O β-NMR 法を確立することにより、新たな燃料電池材料の開拓へ

とつながることが期待される。

Reference

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摂動角相関法を用いたペロブスカイト型酸化物 SrTiO3 中の

酸素イオンダイナミクス測定

Observation of Dynamic Behavior of Indium Doped SrTiO3 Studied by Means of the

Perturbed Angular Correlation Method

金沢大人社 1、金沢大理工 2、京大複合研 3

小松田沙也加 1、 佐藤渉 2、大久保嘉高 3

S. Komatsuda 1, W. Sato 2, and Y. Ohkubo 3

Institute of Human and Social Sciences, Kanazawa Univ.

Institute of Science and Engineering, Kanazawa Univ.

Institute for Integrated Radiation and Nuclear Science, Kyoto Univ.

1. はじめに

チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)は立方晶に属し、中心対称性を有するペロブスカイト酸化物で

ある。

Ti4+サイトに対し価数が低くイオン半径の小さい Ga3+や In3+等の不純物元素が置換されると、

ドーパント近傍に電荷補償の酸素欠陥 Vo を生じたり、結晶格子の収縮による歪みが生じることで

量子構造が変化し光触媒機能等の物性を向上させると報告されている[1]。一方で 3 価の不純物元素

が Sr2+の位置を置換してドナーとして電気伝導性向上へ寄与する可能性も示唆されている。このよ

うに不純物元素の占有状態が SrTiO3 の物性を制御する重要な因子となっており、SrTiO3 の物性を精

密に制御・設計するには、微量導入された不純物元素の占有サイトと果たす機能を原子レベルで解

明する必要がある。

そこで我々は,SrTiO3 に

111

Cd(←111In)を導入し,これをプローブとして用いたγ線摂動角相関

(TDPAC)法により SrTiO3 の局在量子構造を研究している。先行研究において、SrTiO3 中にドープさ

れた 111Cd(←111In)は均一に分散し 3 種類のサイトを占有することがわかった。そのうちの 1 つのサ

イトは電場勾配値がゼロであり、立方晶 SrTiO3 中の Sr もしくは Ti サイトのいずれかを占めたと考

えられるが、残りの 2 つのサイトは 1.67(27)×1022 V/m2、1.78(27)×1022 V/m2 の場勾配値を示した。

これらの占有サイトについては、111In の Sr, Ti サイト置換に伴う電荷補償のため生じた酸素空孔が、

111

In 近傍に存在し、いわゆる In-defect の状態にあることが可能性の一つとして提案された。また占

有サイトのほかにも、500 K 以上の試料温度で In-defect 成分の減少とともに、In 周辺の局所構造が

高温で動的変動を起こす現象を観測した。

本稿では、In-defect 状態をより詳しく解明するために、In のドープ濃度を 0.1%に増やした試料

を調製し TDPAC 測定した結果を示し、In ドープ濃度の上昇に伴って形成する酸素空孔が In-defect

成分に影響を与えるのかを議論する。さらに高温中での TDPAC 測定結果を示し、In-defect 周辺の

局所構造の動的変動についてさらに詳しく調べた結果を報告する。

49

2. 実験

硝酸インジウムのエタノール溶液を調製し、この溶

-0.15

(a) RT

液中に化学量論組成比で Sr:Ti=1:1となるように

混合した SrCO3 と TiO2 の粉末を加え、エタノールが蒸

-0.1

発するまで加熱・撹拌した。In の濃度は Ti の原子数に

対して 0.1%となるように調製した。得られた粉末試料

-0.05

を錠剤成型したあと、Ti の原子数に対し約 100 ppt の

111

In 塩酸溶液をペレットに滴下し,空気中 1473 K で

24 時間焼成した。本稿ではあらかじめ非放射性の In を

0.1%含むこの試料を 0.1 at.% In-doped SrTiO3 とする。

(b) 500 K

-0.1

(一方、非放射性の In を含まない試料につい ては

石英管に入れ、室温から 1100 K の範囲で TDPAC 測定

した。111In 塩酸溶液を滴下していない試料についても

同時に作成して XRD 測定を行い、SrTiO3 の立方晶ペ

ロブスカイト型構造が生成していることを予め確認し

た。摂動角相関測定には BaF2 シンチレータによる 4 検

-0.05

A22G22(t)

undoped SrTiO3 と記述する。)得られた試料を粉砕して

(c) 1100 K

-0.1

出器法を採用した。本分光法は、プローブからカスケ

ード壊変で放出される 1- 2 線の同時係数を計数する

-0.05

ことで、 1- 2 の角度異方性の時間変動を 線の放出

時間差 t の関数として観測し、電場勾配や磁場に関す

る情報を得る手法である。4 検出器系を用いる場合の

角度異方性は、理論的に以下の関数で表される。

2[N(,t)-N( /2,t)]

A22 G22 (t)=

N(,t)+2N( /2,t)

(d) RT②

-0.1

(1)

ここでAkk は角相関係数といい角度異方性の大きさを

表す。Gkk (t)は時間微分摂動係数であり、摂動に関する

すべての情報を含んでいる。 N(,t)は遅延同時計数値

-0.05

50

100

150

200

Time (ns)

である。

Fig. 1 TDPAC spectra of 111Cd(←111In)

in 0.1 at.% In-doped SrTiO3 annealed at

1473 K for 24h. The measuring

temperature are indicated.

3. 結果と考察

Fig. 1 に得られた 0.1 at.% In-doped SrTiO3 の TDPAC

スペクトルを一部示す。Fig. 1(a)~(c)は各測定温度で測定した試料の TDPAC スペクトル、Fig. 1(d)

は Fig.1 (a)~(c)測定後、再び試料を室温に戻して得られた TDPAC スペクトルである。試料中に磁

性原子が含まれていないため,スペクトルはプローブ核(I = 5/2)と核外場との電気四重極相互作用

を反映する摂動パターンであると考え解析を行った。静的な時間微分摂動係数Gstatic

22 (t)は以下の式

50

で表される。

13

10

Gstatic

cos(6Q t)+ cos(12Q t)+ cos(18Q t)]

22 (t)= [1+

(2)

ここでQ は(3)式のとおりプローブ核位置での電場勾配テンソルの主軸成分 Vzz に比例する。

Q = −

eQVzz

4I (2I-1)ℏ

(3)

室温で測定したスペクトルについては軸対称な電場勾配を仮定し、次式で表される 3 つの成分を仮

定した(4)式で最小二乗フィッティングを行った。

II

(t)1 + f2Gstatic

(t)2 + (1-f1-f2)

G22 (t)= f1Gstatic

22

22

(4)

Fig. 2 には、解析の結果得られた成分比の温度依存性を示した。比較のために先行研究で得られた

undoped SrTiO3 についても示している。f1 , f2, 1-f1-f2( = f3 とする)の成分比で表される 3 つの電場

勾配成分は、分布が見られないことから、プローブは 3 種類のサイトを均一に占有していることが

わかった。またそのうちの f3 成分については無摂動のスペクトルパターンであり電場勾配値 0 の成

分である。立方晶ペロブスカイト構造をとる SrTiO3 中の Sr や Ti サイト位置の電場勾配は本来 0 で

あることから、この f3 成分は欠陥の無い Sr もしくは Ti サイト位置を置換した

111

Cd(←111In)由来の

成分であると考えられる。この成分は先行研究において undoped SrTiO3 の TDPAC スペクトルを測

定した際にも観測された。

残りの f1 , f2,の 2 成分の占有サイトについても、先行研究において undoped

を測定したときに得られた電場勾配の値と誤差範囲内で一致した。電場勾配の値が 0 ではないこと

から、プローブは格子間隙を占有しているか、もしくは近傍に欠陥が存在する Sr, Ti サイトを占有

している可能性が挙げられる。プローブは分布のない 2 種類のサイトを占有していることから、

111

In は Sr, Ti の 2 種類のサイトを占めており、かつ近傍に均一な欠陥が存在する In-defect 状態であ

る可能性が高い。先行研究において、Ti4+の位置に 3 価の陽イオンが置換すると、その置換サイト

近傍に電荷補償のため酸素空孔が形

成することが報告されている[2]こと

100

からこの defect は、In ドープに伴い生

ここで Fig. 2 より、undoped SrTiO3 と

0.1 at.% In-doped SrTiO3 の成分比の温

度依存性を比較すると、

より多くの In

をドープした 0.1 at.% In-doped SrTiO3

の試料の方が、undoped SrTiO3 よりも

In-defect 成分である f1 , f2,の値が大き

い傾向がみられた。一方で、欠陥のな

80

Fraction(%)

成した酸素空孔である可能性がある。

(a) undoped SrTiO3

(b) 0.1 at.% In-doped SrTiO3

f1(In-defect成分①)

f2(In-defect成分②)

f3 (電場勾配0成分)

f4(動的摂動成分)

60

40

20

400

600

800

1000

1200

400

600

800

1000

Temperature (K)

Fig. 2 Temperature dependence of the fraction of

TDPAC spectra for (a) undoped SrTiO3 and for (b) 0.1

at.% In-doped SrTiO3.

51

1200

い Sr, Ti を置換した f3 成分割合が小さいという結果も、In-

-0.15

(a) RT

defect 状態の defect が酸素空孔であることを支持する結果

-0.1

となっている。

Fig. 1(b),(c)について、500~1100 K の高温で測定したスペ

クトルはいずれも指数関数的に減衰する成分(その成分比

-0.05

を f4 とする)を含んでいる。これはプローブ核外場がプロー

ブの中間準位に対して高速で変動する場合に観測される

dynamic

ることを示唆している。動的な時間微分摂動係数G22

ሺtሻ

は以下の式で表される。

dynamic

ሺtሻ=

G22

expሺ-tሻ

(b) 500 K

A22G22(t)

典型的な現象であり、プローブ核が動的な摂動を受けてい

-0.1

-0.05

(5)

ここでは緩和定数であり、プローブ核と核外場との相関

(c) 1073 K

時間に反比例する。Fig. 1(b), (c)は、静的な時間微分摂動係

dynamic

数Gstatic

22 ሺtሻと動的な時間微分摂動係数G22

ሺtሻを含む(6)

-0.1

を用いて解析した。

-0.05

ሺtሻ1 +

G22 ሺtሻ = f1Gstatic

22

dynamic

ሺtሻ

f4G22

(1-f1-f4)

(6)

500 K~700 K では、室温で観測された 3 成分のうち、111In-

高い 1100 K の TDPAC スペクトルでは、111In-defect 成分で

ある f1 , f2,は完全に消失し、動的摂動成分 f4 と電場勾配 0 の

50

100

150

200

Time (ns)

defect 由来と考えられる f1 , f2,の成分割合が大きく減少し、

引き換えに動的摂動成分 f4 が出現した。さらに測定温度が

Fig. 3 TDPAC spectra of 111Cd(←

111

In) in 0.1 at.% In-doped SrTiO3 a

nnealed at 1473 K for 48h. The m

easuring temperature are indicated.

成分 f3 のみとなった。Fig.2 より、より多くの酸素空孔を生じていると予想される 0.1 at.% In-doped

SrTiO3 試料において、動的成分の成分割合が多いことも分かった。この解釈として、500 K 以上の

高温では 111In-defect 状態が解離し、酸素空孔である defect が熱拡散することでプローブ核が動的摂

動を受けた可能性を考えた。しかしこの現象は高温になればなるほど、defect の熱拡散頻度が増加

しプローブと核外場との相関時間が短くなるため、高温になるほど無摂動状態へ近づくはずであり、

矛盾が生じる。そこで上記以外の別の要因を探るため、追加実験を行った。Fig.3 に追加実験で得ら

れた 0.1 at.% In-doped SrTiO3 試料の TDPAC スペクトルを示す。このスペクトルは、試料焼成時間

を、これまでの 24 時間から 48 時間に変えて異なる温度で測定した結果である。Fig. 3(b)より、500

K においてこれまでの試料で観測されていた 500 K での動的摂動成分が観測されなかった。Fig. 3(c)

より、1073 K では動的摂動成分が観測されたが、緩和定数の値は Fig.1 のものと異なった。また Fig.2

より 900 K 以上で消失した In-defect 由来の成分割合 f2 が 1073 K の高温条件でもわずかながら観測

された。これらの追加実験から、高温での defect の状態や局所構造の動的挙動が試料調製条件に依

存して変化する可能性が示唆された。これについては、さらに異なる温度、時間、雰囲気条件で調

製した試料の TDPAC スペクトルを得て比較検討する必要がある。

52

4. まとめ

本研究では、先行研究において観測した undoped SrTiO3 中 111Cd(←111In)の 3 種類の占有サイトの

うち、結晶中の欠陥成分近傍の占有サイトに着目し、その欠陥の状態と高温での熱的挙動について

調べた。0.1 at.% In-doped SrTiO3 中 111Cd(←111In)の摂動角相関スペクトルを異なる温度で測定した結

果、欠陥近傍に存在する In の成分割合が上昇し、引き換えに、欠陥のない占有サイトを占める成分

割合が減少した。したがって、SrTiO3 中を占有する In 近傍に存在する欠陥は In のドープ濃度に影

響して増えることが示唆された。一般に Ti4+の位置に 3 価の陽イオンが置換すると、その置換サイ

ト近傍に電荷補償のため酸素空孔が形成することが報告されている[2]ことから In-defect 状態の

defect は、In ドープに伴い生成した酸素空孔である可能性が考えられる。また、500 K 以上の高温

では In-defect 由来の成分が減少し引き換えにスペクトルの緩和現象が観測された。これは In-defect

状態が高温で解離し defect である酸素空孔が熱拡散する現象を観測した可能性が示唆された。しか

し、熱拡散が激しい高温になればなるほどプローブ核と核外場との相関時間が短くなると予想され

る一方で、実際は相関時間が逆に長くなるという観測結果を得た。したがって、スペクトルの緩和

成分については、酸素空孔の熱拡散以外の要因を検討する必要がある。今後はこのスペクトルの緩

和成分について、試料の焼成温度、雰囲気、時間条件を様々に変化させた試料の局所構造変化から、

その要因を解明する予定である。

【参考文献】

[1] H. Lyu et al. Chem. Sci. 10, 3196 (2019).

[2] P. Andreasson et al. Phys. Rev. B 80, 212103 (2009).

53

KURNS REPORT OF

KYOTO UNIVERSITY INSTITUTE

FOR INTEGRATED RADIATION AND

NUCLEAR SCIENCE

発行所

発行日

住所

京都大学複合原子力科学研究所

令和 3 年 9 月

大阪府泉南郡熊取町朝代西 2 丁目

TEL(072)451- 2300

掲載された論文等の出版権、複製権および公衆送信権は原則として京都大学複合原子力科学研究所に帰属する。

本誌は京都大学学術情報リポジトリに登録・公開するものとする。 https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/

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