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副甲状腺ホルモンは腎近位尿細管における糖新生を亢進させる

塚田, 弘之 東京大学 DOI:10.15083/0002005059

2022.06.22

概要

【背景と目的】
糖新生は骨格筋に由来する乳酸やアミノ酸、ピルビン酸、グリセロールなどの非糖質性基質からグルコースを産生する反応である。糖新生は律速酵素としてホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)、フルクトースビスホスファターゼ(FBPase)、グルコース-6-ホスファターゼ(G6Pase)を必要とし、これらは肝臓と腎臓のみが保有している。従って、糖新生はこれら 2 つの臓器でのみ起こるとされている。

肝糖新生において、絶食状態ではグルカゴンやカテコラミンによりPEPCK と G6Pase の発現が亢進し、糖新生も亢進する。一方で、摂食時にはインスリンによりPEPCK と G6Pase の発現は抑制され、糖新生も抑制される。この現象の主な機序として、インスリン/インスリン様増殖因子(IGF)によりセリン/スレオニンキナーゼであるAkt がリン酸化されると、下流に位置する forkhead box protein Ol(FoxO1)がリン酸化され核内から細胞質へ移行し不活性型となり、PEPCK や G6Pase の発現が抑制されるという経路が知られている。こ のように、肝臓における糖新生の制御はインスリン/Akt/FoxO1 シグナルが重要な役割を担 うとされている。一方で、腎近位尿細管で行われる糖新生は、全身の糖産生への寄与が通 常の状態では 10-25%程度とされるが、長期の飢餓状態では肝糖新生と同等の糖新生能を認め、食後状態においても最大で 60%に達すると報告されている。しかしながら、肝臓とは対照的に、その調節機構や生理学的意義については不明な点が多い。

副甲状腺ホルモン(PTH)は、PTH1 型受容体(PTH1R)に端を発し、Gs 蛋白が関与しアデニル酸シクラーゼ/cAMP 系を介して protein kinase A(PKA)を活性化する経路(cAMP/PKA 経路)と、Gq 蛋白が関与し phospholipase C(PLC)を介してジアシルグリセロールの産生亢進とPKC の活性化をもたらす経路(PLC/PKC 経路)により多彩な生理作用をもつホルモンである。PTH は以前より近位尿細管の糖新生亢進作用が動物実験で報告されており、実臨床においても原発性副甲状腺機能亢進症や慢性腎臓病(CKD)に伴う 2 次性副甲状腺機能亢進症でインスリン抵抗性を高率に合併することが知られ、高PTH 血症が全身の糖代謝に影響する可能性が示唆されている。しかしながら、PTH の近位尿細管の糖新生作用やそのシグナル伝達経路について検討した研究は少ない。そこで、今回、私の所属する研究室が得意とする単離近位尿細管を用いた手法により、PTH による近位尿細管糖新生亢進作用や細胞内シグナル伝達経路を解析し、その生理学的意義について検討した。

【方法】
近位尿細管における糖新生関連酵素 mRNA 発現量の変動を解析するために、Wistar ラットおよび同意承諾の得られた腎臓摘出患者の腎組織の皮質から速やかに実体顕微鏡下で近位尿細管の単離を行い、グルタミン含有の組織培養液(DMEM + 10%FBS)に移した。そして、ヒト 1-34 PTH(PTH)1 nM、Dibutyryl-cAMP(db-cAMP)0.2 mM を添加し、37 ℃、5% CO2下で 12~18 時間培養したのちサンプルを回収した。インスリンによる糖新生抑制作用を検討したサンプルは、インスリン 10 nM を添加して 4 時間後に回収を行った。糖新生亢進作用のシグナル伝達経路の解析したサンプルは、db-cAMP もしくはPTH ともに特異的阻害剤(PKA 阻害剤:H89 10 μM、PKC 阻害剤:Gö 6983 100 nM)を組織培養液に添加した。FoxO1の特異的な遺伝子発現抑制を行ったサンプルは、si-RNA をラット近位尿細管に導入してから 12~18 時間後に回収を行った。各々の近位尿細管サンプルから mRNA を抽出し、PEPCKと G6Pase の mRNA を定量的PCR(qPCR)により解析した。

近位尿細管におけるグルコース産生能、PEPCK 酵素活性およびG6P 濃度の変動を解析するために、ラットの単離近位尿細管をPTH 1 nM、db-cAMP 0.2 mM を添加したグルタミン含有の組織培養液に移し、37 ℃、5% CO2 下で 12~18 時間の培養を行った。次に、近位尿細管 100 本を乳酸ナトリウムとピルビン酸塩を含むグルコース非含有の組織培養液に移し、インスリン 10 nM を添加し、4 時間の培養後に近位尿細管を回収した。近位尿細管からグルコース産生能、PEPCK 酵素活性およびG6P 濃度の測定用サンプルを作成し、マイクロプレートリーダーを使用して比色分析により各々を算出し、蛋白質濃度で補正した。

腎皮質における目的蛋白の発現を検討するために、ラットおよびヒトの腎皮質を組織培養 液に移して 37 ℃、5% CO2 下で 40 分のプレインキュベーションを行い、PTH 1 nM で培養したものと、PTH 非添加で培養したものを作成した。インスリン 10 nM を添加したのち、 37 ℃、5% CO2 下で 15 分培養した腎皮質を回収して蛋白抽出を行い、SDS-PAGE 法を用いた Western Blotting によりAkt と FoxO1 の蛋白発現を評価した。

【結果】
ラット近位尿細管において、db-cAMP の添加により Pepck と G6pase の発現が亢進し(Pepck:4.4 倍、G6pase:4.7 倍)、この作用はインスリンにより抑制された。一方で、PTHの添加によっても Pepck と G6pase の発現は亢進した(Pepck:5.9 倍、G6pase:4.2 倍)が、この作用はインスリンにより殆ど抑制されなかった。これらの結果は、ヒト近位尿細管に おける PEPCK と G6Pase の qPCR においても同様であった。

ラット近位尿細管にdb-cAMP およびPTH を添加した際のグルコース産生能は、いずれも亢進した(cAMP:7.3 倍、PTH 7.8 倍)。PEPCK 酵素活性、G6P 濃度は、Pepck と G6pase の発現量の変動と概ね同様の傾向を示した。

特異的阻害剤を用いたシグナル伝達経路の解析では、ラット近位尿細管において H89 は cAMP による Pepck と G6pase の発現亢進を有意に完全に抑制し、PTH による発現亢進に影響を与えなかった。一方で、Gö 6983 はPTH による Pepck と G6pase の発現亢進を有意に完全に抑制し、cAMP による発現亢進に影響を与えなかった。以上から、PTH はPKC 経路を介して、cAMP とは異なる機序で近位尿細管における糖新生を亢進させることが示された。次に、インスリンシグナルの下流に位置する FoxO1 に着目して実験を行った。PTH の添加により Pepck と G6pase の発現亢進を認めたラット近位尿細管では、FoxO1 の発現が有意に亢進していた。そして、近位尿細管における FoxO1 の特異的な遺伝子発現抑制を行ったところ、PTH による Pepck と G6pase の亢進作用は、有意に抑制された。これらの結果から、 PTH による近位尿細管糖新生亢進作用には FoxO1 が関与していることが示唆された。 Western blotting による検討では、ラット腎皮質において、PTH はインスリンによるAkt リン酸化亢進に影響を与えなかった。一方で、PTH はインスリンによる FoxO1 リン酸化亢進を有意に抑制した。これらの結果から、PTH による近位尿細管におけるインスリン抵抗性の機序として、PTH がインスリンによる FoxO1 リン酸化を阻害する可能性が考えられた。

【考察】
本研究では、①PTH は近位尿細管における糖新生を亢進させること、②PTH による近位尿細管糖新生亢進作用はPKC 経路を介すること、③PTH はインスリン/Akt/FoxO1 経路を阻害して近位尿細管におけるインスリン抵抗性を惹起すること、を見出した。

PTH は骨、腎臓、腸管を主な標的臓器として生理作用を示すが、その他の作用も想定される。例えば、PTH が悪液質に関与し、糖新生を亢進させることが報告されている。また、原発性副甲状腺機能亢進症やCKD ではインスリン抵抗性を高率に合併することが知られている。本研究の結果は、これらの報告に関連する生理学的機序の 1 つである可能性がある。 PTH の骨作用はPKA 経路が主な細胞内シグナル伝達経路とされるが、本研究における PTHによる近位尿細管糖新生亢進作用はPKC 経路を介していた。PKC とインスリン抵抗性の関連を示唆するものとして、PTH 受容体の細胞内シグナル伝達のうちPKA 経路のみが障害され、PKC 経路は保たれる偽性副甲状腺機能低下症(peudohypoparathyroism: PHP)のⅠa 型では肥満やインスリン抵抗性を合併することが知られており、本研究結果に矛盾しない報告と考えられる。

また、近年、近位尿細管における糖新生を制御する因子として、近位尿細管の転写コアクチベーターperoxisome proliferator activated receptorγcoactivator 1α(PGC1α)と FoxO1 の活性化が示唆されており、絶食時に原尿中からの SGLT1/2 を介したグルコース再吸収が低下すると、インスリン受容体シグナルの減弱で FoxO1 が活性化し、PEPCK と G6Pase の発現が亢進することが報告されている。本研究の結果では、PTH はインスリン/Akt シグナル伝達には影響を与えなかったが、PTH はPKC を介してFoxO1 のリン酸化に伴う核外移行を阻害してインスリン抵抗性を惹起していることが示唆されており、近位尿細管において、FoxO1は糖新生制御に重要な因子である可能性が高い。

本研究の限界として、実験に用いたPTH が生理的な濃度と解離していること、FoxO1 の遺伝子改変動物における検討を行っていないこと、FoxO1 やPTH1R の局在を組織学的に評価できなかったことが挙げられる。

【結論】
本研究の結果から、近位尿細管において、PTH はPKC 経路を介して糖新生を亢進させることが示された。さらに、PTH はインスリン/Akt/FoxO1 シグナルを阻害して、近位尿細管におけるインスリン抵抗性を惹起する可能性が示唆された。この作用は、原発性副甲状腺機能亢進症、偽性副甲状腺機能低下症および慢性腎臓病に伴う糖代謝異常やインスリン抵抗性の病態解明の一端となると考えられた。

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