日本人乳幼児における腸内真菌叢形成に関する研究
概要
九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
日本人乳幼児における腸内真菌叢形成に関する研究
三島, 梨子
https://hdl.handle.net/2324/6787683
出版情報:Kyushu University, 2022, 博士(農学), 課程博士
バージョン:
権利関係:Public access to the fulltext file is restricted for unavoidable reason (3)
氏
名
:三島
梨子
論文題名
:日本人乳幼児における腸内真菌叢形成に関する研究
区
:甲
分
論
文
内
容
の
要
旨
ヒトの腸内には細菌、ウィルス、そして真菌をはじめとする多様な微生物が存在する。真菌はヒ
ト免疫細胞や腸内細菌に影響を与えることが知られており、免疫系の発達や腸内細菌叢の形成が行
われる乳幼児期において腸内真菌が重要な役割を担っている可能性が示唆される。しかし、乳幼児
を対象とした真菌叢研究は多くなく、特に日本人乳幼児については、細菌叢の研究で行われている
ような次世代シーケンサーを使用した俯瞰的な菌叢解析が行われていない。そこで本研究では、日
本人乳幼児を対象とした腸内真菌叢の俯瞰的解析を展開し、乳幼児期の腸内真菌叢の形成過程、そ
してその真菌叢形成に影響する環境因子の調査を行った。
第 1 章では、序論として腸内真菌叢の先行研究をまとめた。腸内真菌が宿主健康や腸内細菌叢に
与える影響についてこれまでの知見を基にその重要性を議論し、それに続く研究の課題について述
べた。
第 2 章では、日本人乳幼児 10 名を対象に生後 1 か月から 3 年までの腸内真菌叢を追跡調査した。
その結果、生後初期には糸状菌と酵母が対峙する菌叢が見られたが、徐々に糸状菌の占有率が減少
し、最終的にはほぼ酵母で構成される菌叢に変化していく様子が観察された。また、菌組成は離乳
食の開始を境に大きな変化を見せた。生後 1 か月時には Penicillium や Meyerozyma などの環境真菌
が有意に多く、生後 3 か月になると皮膚の常在真菌として知られる Malassezia が増加した。離乳食
が開始すると Saccharomyces が優占し始めるとともに、Papiliotrema、未同定の Cucurbitariaceae、
Filobasidium、Sporidiobolus といった低存在比の菌種の増加が確認された。また、代表的な腸内真菌
である Candida は生後初期および離乳食の開始後すぐに増加する傾向が見られたが、生後 2 年以降
にはほとんど消失し、代わりに Saccharomyces を優占とする菌叢が形成されていた。日本人成人の
多くは Saccharomyces 主体の真菌叢を有することが知られており、離乳を契機に成人型の真菌叢形
成が始まることが示唆された。
第 3 章では、日本人乳幼児 105 名を対象に生後 1 か月および生後 1 年時の腸内真菌叢を調査し、
環境因子と腸内真菌叢の関係性について解析した。まず分娩方法の影響に着目したところ、生後 1
か月時点では帝王切開児において環境菌 Eupenicillium や皮膚常在菌 Malassezia restricta の有意な増
加が確認された。一方、経腟分娩児では Rhodotorula や Trichosporon といった膣内の真菌が多く、分
娩法の影響が乳幼児腸内真菌叢に影響を与えることが示唆された。続いて授乳法の影響について調
査を行ったところ、生後 1 か月時では母乳栄養児に Malassezia、母乳と人工乳の両方を摂取してい
る混合栄養児では Saccharomyces が有意に多かった。特に、経腟分娩で混合栄養の乳児では、生後 1
か月の時点で Saccharomyces 優占の真菌叢である傾向が強かった。
第 4 章では、本論文の内容を総括した。第 2 章および 3 章の結果を合わせて、日本人乳幼児の腸
内真菌叢が環境因子の影響をどのように受けながら形成されていくのかを考察した。
以上、乳幼児の腸内真菌叢を俯瞰的に解析することで、これまで未知の部分が多かった日本人乳
幼児の腸内真菌叢形成の全体像が明示された。さらに成長に伴う糸状菌と酵母のバランス変動や、
分娩様式および授乳方法の真菌叢形成への影響といった新たな知見も見出された。