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大学・研究所にある論文を検索できる 「膵臓癌に対するバイオマーカー代謝物による膵管内乳頭粘液性腫瘍の検出の可能性」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

膵臓癌に対するバイオマーカー代謝物による膵管内乳頭粘液性腫瘍の検出の可能性

Nakano, Ryota 神戸大学

2021.03.25

概要

はじめに
膵臓癌はほとんどが進行期で診断され、全体の 5 年生存率は 8%未満と予後不良である。膵臓癌を早期に検出するための様々な研究が行われているが、効果的な診断方法は未だに確立されていない。この問題に対する解決方法として、膵臓癌に対して高リスクな疾患を検出することにより膵臓癌の早期診断につながる可能性が考えられる。

メタボローム解析とは、アミノ酸、糖、脂質といった低分子量の生体分子を網羅的に分析す るオミクス解析の一つである。我々はメタボローム解析により、いくつかの代謝物が膵臓癌 に関連し、膵臓癌診断のバイオマーカーになる可能性を報告してきた。まず、Stage Ⅲ、Ⅳ の膵臓癌を主とした血清サンプルに対してメタボローム解析を行い、膵臓癌と健常者の間で、いくつかの代謝物に有意差があることを見出した。さらに、別の切除可能膵臓癌患者の血漿 に対して、ガスクロマトグラフィ質量分析計(Gas Chromatography Mass Spectrometry: GC/MS)によるメタボローム解析の定量分析を実施した結果、histidine、inositol、1,5- anhydro-D-glucitol(1,5-AG)、xylitol の 4 代謝物を用いた回帰モデルが導き出された。さ らに、前向きコホート研究において、膵臓癌と診断される 6 年前までに採取された血液で も、1,5-AG や分子鎖アミノ酸の血中濃度と膵臓癌発症との間に関連があることを明らかに した。そこで我々は、これらの代謝物が、膵臓癌が発生しやすい代謝環境、膵臓癌高リスク の状態も反映している可能性を提案し、膵臓癌高リスク疾患である intraductal papillary mucinous neoplasms (IPMN)の検出に、膵臓癌のバイオマーカー候補代謝物が応用できるのではないかと考えた。IPMN 国際ガイドラインにおいて、high risk stigmata(HRS)と worrisome features(WF)を有する IPMN は、膵臓癌前駆病変の有用な指標として定義されて おり、多くの論文でその有用性が報告されている。HRS、WF を有する IPMN を膵臓癌高リス クの膵疾患として捉えることが、膵臓癌の早期診断にとって重要と考えられる。

本研究は、以前、我々が報告した膵臓癌に対する血中バイオマーカー候補代謝物が、膵臓癌高リスクである IPMN の検出にも有用かどうかを明らかにすることを目的とした。

方法・対象
2015 年から 2018 年に、神戸大学医学部附属病院で診断され、あらかじめ規定したプロトコ ルで前向きに採取された、膵臓癌、ならびに、IPMN 患者、そして、それらに年齢・性別をマ ッチさせた健常者の血漿を用いて本研究を実施した。健常者は腹部エコーで明らかな膵疾患 がなく、かつ膵疾患の既往がないものと定義した。また、膵臓癌に関連する患者背景因子(BMI、喫煙歴、飲酒歴)、および、血液検査所見(AST、ALT、ALP、γ-GTP、LDH、Amy、HbA1c)を、研 究参加時の診療録から収集した。HRS もしくは WF を有する IPMN を高リスク IPMN と定義し、 膵臓癌/高リスク IPMN 群を疾患群として、健常者検体と共に、GC/MS を用いたメタボローム 解析を実施した。GC/MS で分析するバイオマーカー候補代謝物は、1,5-AG、arabinose、 asparagine、glutamine、histidine、inositol、lysine、methionine、threonine、tyrosine、 uric acid、xylitol の計 12 種類とした。

すべての検体は8時間以上絶食とした朝に採血した後、速やかに冷却、遠心分離を行い、分析まで凍結保存した。除タンパク、代謝物抽出、凍結乾燥、誘導体化といった検体前処理を行った後、GC/MS による代謝物分析を実施した。定量分析は安定同位体を用いた検量線法にて行い、得られた定量値を統計解析に供して評価した。

結果
合計 114 例の血漿の分析を実施した。検体の内訳は膵臓癌 44 例、IPMN 24 例、健常者 46 例であり、IPMN24 例のうち高リスク IPMN は 15 例であった。疾患群は 59 例(膵臓癌 44 例、高リスク IPMN15 例)、健常群は 46 例で、膵臓癌の患者背景として、stageⅠが 2 例、stageⅡが 18 例、stageⅢが 13 例、stageⅣが 11 例で、IPMN の患者背景は、WF が 9 例、HRS が 6 例であった。

それぞれの候補代謝物に関して、膵臓癌/高リスク IPMN に対する個別バイオマーカーとしての性能評価を行った。GC/MS にて定量分析を実施した後、それぞれの代謝物に対して単変量解析を行い、ROC 曲線解析から曲線下面積(AUC)値を算出した。個別のバイオマーカーとして最大の AUC 値を示したのは lysine で、AUC 値は 0.79、感度は 67%、特異度は 86%であった。

続いて、12 種類の候補代謝物に対して多重ロジスティック回帰分析実施し、膵臓癌/高リスク IPMN の検出モデルを作製した。ステップワイズ法で methionine、arabinose、xylitol、 lysine の 4 代謝物が変数として選択され、これらを用いた回帰式を作製し、ROC 曲線解析から AUC 値を算出した。その結果、算出式 :p=1/1+e(-z)(Z=2.91276175-0.1273538×Methionine+2.37491003×Arabinose+2.74253629×Xylitol- 0.0259883×Lysine)による検出モデル(モデル 1)が導き出され、AUC 値が 0.90052、感度は 79.6%、特異度は 86.9%であった。

次に、より高精度な検出モデルを作製するため、候補代謝物と臨床パラメーター情報とを組み合わせた、膵臓癌/高リスク IPMN の検出モデルを作製した。疾患群と健常群で 2 群間比較を行い、有意差を示したパラメーターについて多変量解析を行った。2 群間比較において、臨床パラメーターの BMI、生化学検査の ALP と HbA1c で有意差を認め、バイオマーカー候補代謝物では、threonine、methionine、arabinose、asparagine、xylitol、1,5-AG、lysine、 histidine、tyrosine で有意差を認めた。これらの有意差を認めた 12 変数について多重ロジスティック回帰分析を行った。ステップワイズ法にて methionine、arabinose、xylitol、 lysine、histidine、BMI、ALP、HbA1c が変数として選択され、回帰方程式を作製して ROC 曲線解析から AUC 値を算出した。 その結果、 算出式 :p=1/1+e(-z)(Z=3.91057535- 0.1673851×Methionine+1.99758114×Arabinose+4.26097704×Xylitol- 0.0269253×Lysine-0.0456392×Histidine- 0.1668986×BMI+0.00739289×ALP+0.82968479×HbA1c)による検出モデル(モデル 2)が導き出され、AUC 値が 0.96、感度は 92%、特異度は 90%と、高精度な結果を示した。

さらに、導き出した検出モデルの疾患検出能を検証するため、モデル作製で使用した検体とは別の膵臓癌、ならびに IPMN 患者の血漿 18 検体(膵臓癌:11 例、IPMN:7 例)の分析を行った。検証サンプルのデータを検出モデルの回帰式に当てはめたところ、膵臓癌/高リスク IPMN の検出感度は、モデル 1 で 66%(12/18)、モデル 2 では 100%(18/18)であった。

考察
一般人口における膵臓癌の罹患率の低さを考慮すると、膵臓癌のみでなく、膵臓癌発症高リスク集団を検出できるバイオマーカーの特定が重要である。本研究におけるメタボローム解析の結果、多くの代謝物において、高リスク IPMN においても、膵臓癌と同様の変化が起きていることが示唆された。また、多重ロジスティック回帰解析により膵臓癌/高リスク IPMNの有用な検出モデルを確立することに成功した。90%以上の高い感度・特異度を示し、今後の臨床応用にも有用となる可能性があると考えられた。

本研究はいくつかの制限がある。1 つ目は、微小な膵臓癌病変はほとんどの画像検査で検出 困難であるため、健常者が微小な膵臓癌を有していないと証明することはほぼ不可能である。本研究では、腹部超音波検査で膵疾患のないものを健常者として選択しており、明らかな膵 疾患を持った患者は除外された。2 つ目は、高リスク IPMN の患者数が比較的少なかったこ と、3 つ目に、切除可能な膵臓癌患者数が比較的少なく、膵臓癌患者の約半数であったこと である(20/44、45.4%)。

結論
我々はメタボローム解析を用いて膵臓癌/高リスク IPMN の有用な検出モデルを確立した。導き出された検出モデルは、膵臓癌/高リスク IPMN に対して高い感度と特異度を示し、その高検出能を検証試験においても確認することができた。これらの結果から、膵臓癌の血中バイオマーカー候補代謝物が、膵臓癌前駆病変である高リスク IPMN の検出にも有用である可能性が示唆された。

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