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大学・研究所にある論文を検索できる 「限局性高リスク前立腺癌におけるthe fossa of Marcilleリンパ節郭清の意義:リアルタイムPCR法による評価」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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限局性高リスク前立腺癌におけるthe fossa of Marcilleリンパ節郭清の意義:リアルタイムPCR法による評価

Bando, Yukari 神戸大学

2020.03.25

概要

【背景】
高リスク限局性前立腺癌に対する根治的前立腺全摘除術においては、閉鎖、内外腸骨リンパ節を含む骨盤リンパ節郭清を併施することが標準的である。しかし、これらの領域のみに郭清範囲を限定すると、一部の症例で郭清領域外に転移陽性リンパ節が残ることがわかっている。このことは治療的・診断的観点より不十分である可能性があり、現行の郭清範囲が妥当かどうかは検討の余地がある。一方で、郭清範囲の拡大は手術時間の延長やリンパ瘻などの合併症リスク、出血量の増加を引き起こす可能性があり、拡大の利点は明らかではない。

本研究では、前立腺癌のリンパ経路として重要な領域である the fossa of Marcille に着目した。The fossa of Marcille は閉鎖リンパ節領域近位部・総腸骨血管外側背側に位置しており、膀胱側方から後背側・外側へ続くリンパ経路の起点である可能性が指摘されている。これまで報告されたインドシアニングリーンを用いたマッピング研究では、検出されたセンチネルリンパ節の一部が the fossa of Marcille に存在していたと報告されている。

リアルタイム PCR 法による郭清リンパ節の評価は、通常の病理組織学検査では検出漏れや見落としを生じうる病理標本スライス厚以下の微小な病巣を検出することができることが先行研究で報告されているが、この手法で the fossa of Marcille を評価した研究は過去に報告されていなかった。そこで本研究では、リアルタイム PCR 法を用いて、the fossa of Marcille の郭清を追加することが高リスク限局性前立腺癌に対し診断的・治療的意義を有するかにつき検討した。

【方法】
神戸大学医学部附属病院でロボット支援腹腔鏡下根治的前立腺摘除術を施行した高リスク群に分類される限局性前立腺癌症例 52 症例を対象とした(具体的には、①前立腺生検時 Gleason score 8 以上、②PSA 20 ng/ml 以上、③臨床病期 cT3a 以上のいずれかを満たす症例)。郭清リンパ節は左右の閉鎖・内腸骨・外腸骨リンパ節領域、および the fossa of Marcille の 8 領域に分けて回収した。回収したリンパ節のうち、3mm 以上のリンパ節を二分割し、それぞれヘマトキシリンエオジン染色を用いた通常の病理組織学的検査と、リアルタイム PCR 法を用いて転移の有無を評価した。(3mm 未満のリンパ節については、十分な検体ボリュームがなく評価不十分になる可能性を考え、通常通り病理組織学的評価のみを行い本研究の対象外とした。)

リアルタイム PCR 法には、半切された各リンパ節から抽出した RNA 50μg を用いて作成した cDNA を使用した。サイクリング条件は 50°C で 2 分間、95°C で 10 分間、続いて 95° C で 15 秒間・60°C で 1 分間の 40 サイクルとした。先行研究に倣いターゲット遺伝子には kallikrein related peptidase 3(KLK3)、リファレンス遺伝子には Glyceraldehyde-3- phosphate dehydrogenase (GAPDH)を用いた。ネガティブコントロールとして病理組織学的に前立腺癌陰性が確認された膀胱前立腺全摘症例の郭清リンパ節 4 症例計 35 個を使用したが、いずれもリアルタイム PCR 法で KLK3 は増幅されなかった。そのため、threshold として KLK3 の配列を含む GeneArt Strings DNA フラグメントで作成された検量線を使用して、 1 コピーに相当する Ct 値を設定し、リアルタイム PCR 法での転移陽性を定義した(本研究では分子レベルの転移と呼称する)。

生物学的再発の定義は PSA 値 ≥ 0.2 ng/ml とした。術後、一度も 0.2 ng/ml 未満に下がらなかった症例は手術日をもって再発と診断した。

主要評価項目は各手法での陽性リンパ節検出率と the fossa of Marcille の転移陽性リンパ節数とした。副次評価項目は安全性(周術期合併症)・生物学的再発と各手法での陽性リンパ節の有無との関連性とした。

全ての統計分析には JMP version 13.0 を用い、p <0.05 をもって統計学的有意と判定した。病理組織学的分析と分子分析の間の陽性リンパ節検出率の差にはカイ二乗検定、生物学的無再発生存期間はカプラン・マイヤー法、ログランク検定で評価した。生物学的再発に対する各因子の有意性は、コックス比例ハザード回帰モデルによって評価した。

【結果】
適格症例の年齢中央値は 69 歳、診断時 PSA 中央値は 8.6 ng/ml、BMI 中央値は 23.4 であった。臨床病期は、cT2 が 22 症例(42.3%)、T3a(50.0%)が 26 症例(50.0%)、T3b が 4症例(7.7%)であった。前立腺生検時の Gleason score は 34 症例(65.4%)が 8 以上であった。術後 90 日以内に発生した周術期合併症は 13 件(25.0%)で、いずれも Clavien-Dindo分類 grade 2 以下であった。リンパ瘻は 7 例(13.5%)で確認された。

全 52 症例から摘出した計 1293 個のリンパ節のうち、3mm 以上であった 1262 個について評価した。全リンパ節中の陽性リンパ節の検出率は、病理組織学的分析よりもリアルタイム PCR 法による分析を使用した方が有意に高かった(7.6% vs 0.9%, p<0.01)。また、病理組織学的評価では the fossa of Marcille に陽性リンパ節を認めなかったが、リアルタイム PCR 法による評価では、3 症例の fossa of Marcille から計 7 個の陽性リンパ節が検出された。いずれの症例でも the fossa of Marcille 以外の複数郭清領域に陽性リンパ節が存在しており、観察期間中に生物学的再発をきたした。

観察期間中、13 名(25.0%)で生物学的再発を確認した。他の予後予測因子(術前 PSA 値前立腺全摘 Gleason score、被膜外浸潤の有無、脈管侵襲の有無、外科的切除断端陽性の有無)とともに検討したところ、リアルタイム PCR 法による転移の検出が統計学的に有意な生化学的再発因子であることが示された(p<0.01)。

【考察】
本研究において、リアルタイム PCR 法により通常の病理組織学的分析では検出し得なかった分子レベル転移陽性リンパ節を検出することができ、その検出率は従来の病理組織学的手法と比し統計学的有意に高かった。リアルタイム PCR 法のみで検出しえた陽性リンパ節のうち、7 個(3 症例)は the fossa of Marcille に存在していた。The fossa of Marcilleに転移を有する 3 症例に着目したところ、3 症例全てで既に他の領域にも広範囲に分子レベルの転移をきたしていることが示された。

本研究を行うにあたり、我々は the fossa of Marcille が前立腺癌からのリンパ経路の起点となるのではないかとの仮説を立てた。つまり The fossa of Marcille のみに転移を有するなど、リンパ節転移陽性症例のうち比較的初期のものの中に the fossa of Marcilleリンパ節転移陽性が存在すれば、the fossa of Marcille がリンパ経路の起点としての意義を示唆するのではないかと考えた。しかし仮説に反し、the fossa of Marcille リンパ節転移陽性であることは、むしろ病勢が進行していることを示唆する結果であった。本研究の結果から、the fossa of Marcille を郭清領域に追加することで陽性リンパ節の完全な郭清が達成される症例があるという仮説は否定され、追加の治療的意義は乏しいと結論づけた。また、the fossa of Marcille に分子レベル陽性リンパ節が存在していることが確認されたため、the fossa of Marcille の郭清追加でリンパ節転移の分布がより正確に診断できるという側面はあるものの、the fossa of Marcille の郭清追加のみでは不十分であることは明らかで、完全に正確な病巣範囲の把握には至らないことを示唆する結果であった。

また、本研究では分子レベルの転移の有無が生物学的再発の予測因子であることがわかった。この結果から、分子レベルでの転移の存在は予後不良因子であることが示唆され、アジュバント治療の適応を決める一助になる可能性があると考えられた。ただし、今回は観察期間の中央値が 2 年に満たないため、今後、長期観察後の再評価が必要である。

【結論】
本研究では、The fossa of Marcille は前立腺癌リンパ節転移の起点であるという仮説を確認しえなかった。前立腺全摘除術で the fossa of Marcille の郭清を追加しても診断的意義は限定的で、治療的意義は乏しいと考えられた。The fossa of Marcille を含めた郭清テンプレートにおける前立腺癌転移陽性リンパ節の有無は、生物学的再発の予測因子であった。以上の結果から、the fossa of Marcille はロボット支援腹腔鏡下根治的前立腺全摘除術に併施する骨盤リンパ節郭清の追加郭清領域にする必要はないと結論づけた。

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