仕事の選択における価値表象の神経基盤
概要
仕事の選択は、人特有の高度な意志決定であり、私たちが生きるための金銭だけでなく将来の生活の質全体に影響する。意志決定は決定を行う対象の価値に基づいて行われることが知られているが、さらに対象の価値がその複数の属性の価値に基づいて決まる意志決定を多属性価値の意志決定と言う。仕事の選択は、複数の属性を重視して仕事の就きたさ(仕事の価値)を評価するという点から多属性価値の意志決定の一種であると考えられる。さらに、仕事の主要な属性の価値として収入と面白さが挙げられるが、これらは将来に亘って得られるかを考慮すべき価値である。これまでは、主に即時の結果を伴う意志決定の研究において、多属性価値の意思決定の神経基盤の枠組みが作られてきた。しかしながら、これが仕事の選択のような将来に亘った結果を伴う意志決定にも適用できるかは未だに明らかになっていない。本研究では仕事の選択の神経基盤を明らかにすることを目的とした。具体的には仕事の価値、収入、面白さを表象する脳領域を同定することを目的とした。このために実験では、各仕事の就きたさ(仕事の価値)を評価している時の脳活動を機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging: fMRI)を用いて測定した。40 名の学生が、fMRI で脳活動を測定中に、提示される 80 の仕事の就きたさを評価した。その後、参加者は fMRI スキャナーの外で収入と面白さを評価した。fMRI データは、仕事の価値評価中の腹内側前頭前野(ventromedial prefrontal cortex: vmPFC)の脳活動と仕事の価値が有意な正相関を示し、仕事の価値評価時の腹側後帯状皮質(posterior cingulate cortex: PCC)・背側 PCC の脳活動と収入・面白さがそれぞれ有意な正相関を示すことを明らかにした。この結果は、仕事の選択が、「対象の属性価値を vmPFC の外部の脳領域が処理し、そこで処理された情報を vmPFC が統合する」とする多属性価値の意志決定の枠組みに準拠することを示している。さらに、PCC 小領域のシミュレーションにおける役割の差異によって属性価値の表象の違いを説明できる可能性を示している。