スプライシング因子RBFOX2およびPTBP1による大腸癌関連マイクロエクソンの制御
概要
マイクロエクソンは非常に小さなエクソンである。ヒトの神経組織や筋組織で高発現しており、選択的スプライシングによりその発現量が調節されている。最近、マイクロエクソンのスプライシングパターンの異常が自閉症スペクトラム障害を引き起こすことが報告され、マイクロエクソンのスプライシング制御と疾患との関わりが明らかになった。しかしながら、その他の疾患、特に癌におけるマイクロエクソンのスプライシングパターンの変化や、マイクロエクソンのスプライシング異常が癌の進行に果たす役割はほとんど研究されていない。本研究では、大腸癌組織と大腸正常組織のトランスクリプトームデータを使用し、マイクロエクソンのスプライシングパターンを網羅的に解析した。長さが 3~15 nt の 1492 個のマイクロエクソンの中から、大腸癌組織と大腸正常組織とでスプライシングパターンが大きく変化する17 個 (1%) のマイクロエクソンを同定した。Gene ontology 解析の結果、これらのマイクロエクソンをもつ遺伝子は細胞接着と遊走に関わる遺伝子であることが明らかになった。マイクロエクソンの周辺の RNA 配列を用いた RNA モチーフ解析およびRNA 結合タンパク質データベースの解析、ならびに shRNA による発現抑制実験と cDNA の過剰発現実験により、大腸癌細胞でマイクロエクソンのスプライシングを制御するスプライシング因子 RBFOX2 と PTBP1 を同定した。CLIP解析の結果、RBFOX2 と PTBP1 はマイクロエクソンの周辺のイントロンに直接結合していた。最後に、大腸組織検体を用いた RBFOX2 と PTBP1 の発現量解析を行い、大腸正常組織に比べて、大腸がん組織で RBFOX2 は発現量が低下し、PTBP1 は増加していた。以上の結果から、RBFOX2 と PTBP1 の発現変化は、マイクロエクソンのスプライシングの制御を通して、大腸癌細胞の細胞接着能および遊走能に影響を与えていると考えられた。