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被子植物における局所規模の種子生産と地球規模の系統形成に影響する要因

香取 拓郎 東北大学

2020.09.25

概要

序章
被子植物の分布と種多様性の地理的なパターンには局所規模から地球規模まで幅広く存在している。さまざまな空間スケールにおいて、不明なメカニズムが多く残されている。局所規模の種多様性は、各種の個体密度と相関している。例えば、種の個体密度が低い と、局所規模の種多様性が高くなる効果がある。そのため、種の個体密度の決定メカニズムは、局所規模の種多様性の決定にとって重要である。そこで本研究では、アカシデ(カバノキ科)に注目し、種の個体密度と種子生産量の関係の解明を試みた。

また、地球規模では、種分化、分布域変化、絶滅などが分布と種多様性のパターンに影響すると考えられる。これまで、被子植物の「緯度(高緯度または低緯度)」が種分化率および絶滅率に与える影響、および、「生活型(木本または草本)」が種分化率および絶滅率に与える影響はそれぞれ研究されてきたが、「緯度」と「生活型」のデータを両方用いて、それぞれの独立した影響、または組み合わせによる影響を検証した研究はなかった。そこで本研究では、被子植物の 17 分類群(目または科)14558 種を対象に、生育緯度と生活型が、種分化率、絶滅率、分布拡大率、生活型進化率に与える影響を調べ、地球規模での被子植物の分布と種多様性のパターンに影響するメカニズムの解明を試みた。

第一章
アカシデ(カバノキ科)健全種子生産が最大化する個体密度
緒言
被子植物は、母個体からの距離が遠いほど散布される種子の密度が下がるが、種特異的な捕食者や感染症から逃れる確率が上がることから、生存実生の密度は母個体から中間的距離で最大化するという現象(Janzen-Connell モデル)がある。この現象によって、同種の個体密度を抑制し、局所規模の種多様性を高めているとされてきた。Janzen-Connell モデルは種子散布と実生の段階についてのモデルだが、種の個体数や個体密度には、種子散布よりも前の段階である種子生産量も影響を持つと思われる。結実率は、個体の周囲における繁殖個体の個体密度と正の相関があることが多くの被子植物種で報告されている。一方、散布前の種子または胚珠の食害回避率は、個体密度と負の相関があることが、いくつかの種で報告されている。本研究では、結実率と散布前の種子の食害回避率の両方を同時に調査することにより、胚珠あたりの健全種子生産率の生産率が最大化する個体密度が存在するかを検証した。

材料および方法
対象種はアカシデ Carpinus laxiflora (カバノキ科) 、調査地は東京都稲城市におけるコナラ Quercus serrata(ブナ科)などの落葉広葉樹が優占する二次林で行った。種子採取個体として、繁殖個体(花穂をつけている個体)の中から 27 個体を選んだ。

説明変数として、各種子採取個体から一定の半径以内の繁殖個体密度を表す以下の 4 種類の指数を用意した。1)繁殖個体数(NL = n)、2)種子採取個体から各繁殖個体までの距離の逆数の合計(𝑁𝐷 = ∑𝑛 𝑑())、3)各繁殖個体の胸高断面積の合計(𝐴𝐿 = ∑𝑛 𝐴𝑘)4)種子採取個体から各繁殖個体までの距離の逆数とその繁殖個体の胸高断面積の積の合計(𝐴𝐷 = ∑𝑛 𝐴𝑘𝑑())。これら数式において、n は各種子採取個体から一定の半径以内の繁殖個体数、d は種子採取個体から周囲の各繁殖個体までの距離、A は種子採取個体の周囲の各繁殖個体の胸高断面積である。この解析における半径としては、20m、40m、60m、80m を使用した。

種子採取個体から1個体あたり 100 個以上の種子を採取し、1)健全(中身が充実し、虫害もされていない種子)、2)虫害(表面に昆虫が開けた穴がある種子)、3)シイナ(サイズは成熟しているが中身が充実しておらず中空な種子)、4)損壊、5)腐敗、6)未成熟、に分類した。シイナは、受粉・受精に失敗した種子である。損壊、腐敗、未成熟は、受粉・受精に成功した種子か失敗した種子であるかの判別ができなかったので、結実率と虫害回避率の算出には用いなかった。

応答変数として、結実率( = (健全+虫害)/(健全+虫害+シイナ))、虫害回避率( = 健全/ (健全+虫害))、健全種子生産率 ( = 健全 / (全ての種子))を算出した。

結果および考察
周囲の繁殖個体密度に対して、結実率は正の相関、虫害回避率は負の相関を示した。それにより、健全種子生産率は中間的な繁殖個体密度の条件で最大化した(図 1)。

この現象は、アカシデの個体密度にも影響している可能性がある。繁殖個体密度と結実率の関係は、正の相関になることが多くの被子植物において共通する一般的な傾向であるが、繁殖個体密度と種子の虫害回避率の関係は、被子植物において傾向が共通していない。そのため、個体密度と虫害回避率がどのような関係であるかによって、健全種子生産率が最大化する個体密度は大きな影響を受けることが示唆された。

結論
アカシデは、中間的な個体密度の条件下で、胚珠あたりの健全種子生産量が最大化していた。この現象は、アカシデの個体密度にも影響し、個体群の存続および個体密度の制限への影響の一つになっている可能性がある。しかし、この傾向は被子植物の種によって異なり、中間的な個体密度で健全種子生産率が最大化しない種も多いことが示唆された。

第二章
生育緯度と生活型が、種分化率、絶滅率、生活型進化率、分布拡大率に与える影響
緒言
生物種の地球規模の多様性と分布のパターンは、「種分化、絶滅、分布拡大」などの現象によって形成されている。そして、これら 3 つの現象は、気候や地形などの非生物要因からの影響を受けており、この因果関係は動物と植物の多くの系統において研究されてきた。例えばユキノシタ目(被子植物)では、木本より草本のほうが種分化率と絶滅率が高い傾向が検出されたが、一方、被子植物の別の研究では生育緯度(高緯度または低緯度)による種分化率と絶滅率への影響は検出されなかった。しかし、被子植物の生活型データと生育緯度データを両方とも説明変数データを用い、生活型と生育緯度それぞれが種分化率と絶滅率へ与える影響を独立に検証できた研究はない。そこで本研究では、被子植物の種分化率と絶滅率に対して、生育緯度と生活型のそれぞれが与える影響、および生育緯度と生活型の組み合わせによる影響の存在を検証した。

材料および方法
対象としたのは被子植物の真正双子葉類から選んだ 17分類群 (目または科) であり、合計14558種を用いた。本研究では、真性双子葉類の系統樹データとして、Zanne et al. (2014)による現生種の系統樹データを用いた。各種の生育緯度データは GBIF.org から Magnoliopsida (双子葉類) の occurrence データをダンロードした。各種の生活型データ (木本か草本) は複数のオンラインデータベースおよび文献から生活型データを引用した。そして、対象種を回帰線 (緯度23°) を境界に高緯度と低緯度に分け、高緯度木本、両域木本、低緯度木本、高緯度草本、両域草本、低緯度草本の6つに分類した。Rの diversitree パッケージのGeoSSE モデルを用いて、17分類群ごとに、高緯度草本、高緯度木本、低緯度草本、低緯度木本における、種分化率、絶滅率、生活型進化率、分布拡大率を算出した。

結果および考察
種分化率は、緯度または生活型による影響はどちらも確認されなかった(図 2a)。絶滅率は、高緯度では草本より木本のほうが有意に高くなったが、低緯度では木本-草本間の有意差はなかった(図 2b)。また、木本の絶滅率は低緯度より高緯度のほうが有意に高かったが、草本の絶滅率には高緯度-低緯度間の有意差はなかった(図 2b)。生活型進化の頻度は、緯度または進化方向の違いによる有意な差は検出されなかった(図 2c)。分布拡大率は、草本の高緯度から低緯度への拡大と、木本の低緯度から高緯度への拡大が多く発生し、一方、草本の低緯度から高緯度への拡大と、木本の高緯度から低緯度への拡大はほとんど発生していないことが分かった(図 2d)。
生活型を区別せずに生育緯度の影響を検証した過去の研究では、生育緯度が種分化率や絶滅率へ与える影響は検出されなかったが、本研究によって、木本は高緯度で絶滅が起こりやすいことが分かった。木本は、世代時間が長い生活型であるため、進化速度が遅いことが知られている。高緯度の木本の絶滅率が高い原因は、木本の進化速度が遅いため、高緯度における気候の大きな年代変動に対して、木本は適応的な生活型でないためである可能性が考えられた。

結論
高緯度における木本は絶滅しやすい傾向が見られた。その原因としては、高緯度における気候の年代的変化の大きさに対して、世代時間が長い生活型である木本の適応進化の速度が間に合わない可能性が示唆された。また、草本の高緯度から低緯度への分布拡大率 と、木本の低緯度から高緯度への分布拡大率が高く、一方、草本の低緯度から高緯度への拡大と、木本の高緯度から低緯度への拡大はほとんど生じていなかった。種分化率と生活型進化率に対しては、緯度も生活型の種類も影響が確認されなかった。

第三章
総合討論
被子植物を対象に、局所規模における個体密度と健全種子生産量の関係(第一章)、および、地球規模にける緯度、生活型、種分化、分布拡大、絶滅の関係(第二章)の研究をそれぞれ行なった。両者の結果に共通する点としては、被子植物全体に一般的に存在する傾向が確認されることは稀であるという点であった。局所規模および地球規模のいずれにおいても、被子植物内の各系統や種の影響が存在し、系統や種独自の影響を無視することはできなかった。

また、両方の研究成果を統合的に考察するためには、まだ不明な点や不十分な解析が多いと思われた。第一章の研究では、個体密度と受粉成功、および個体密度と種子虫害の関係についてアカシデを対象に解析したが、温帯(高緯度)の種であるアカシデだけで被子植物全体の一般的な傾向は断定できない。一方、第二章の研究では、緯度と生活型が、種分化率、絶滅率、分布拡大率、生活型進化率に与える影響を解析したが、第一章では扱った現象である生物間相互作用を扱っていない。地球規模のスケールと、局所的に発生している生物間相互作用を関連させる必要がある。これまでの研究で明らかになっている生物間相互作用の地球規模でのパターンとしては、被子植物は低緯度ほど年間の葉の被食率が高い、などがある。そのため、第一章の研究における、個体密度と受粉成功、および個体密度と種子虫害の関係を、高緯度種と低緯度種と比較した場合、緯度によって関係が異なる可能性もあるが、高緯度種と低緯度種で比較可能な形で研究された例は少ない。生物間相互作用が強いと種分化率を高めるという予測もあり、第一章で扱った個体密度と生物間相互作用の関係およびその強さが緯度によって異なった場合、緯度ごとの種分化率や絶滅率に影響している可能性もあるが、知見は不十分である。

局所規模の生物間相互作用と、地球規模の分布と種多様性を関連づけるためには、これらの不十分な点を解明する必要がある。

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