[研究トピックス]博士論文概要 : 太陽で起きる小規模なフレアと付随する質量放出・ジェットに関する理論的・観測的研究(博士論文)

概要

太陽で起きる小規模なフレアと付随する質量放出・ジェットに関する理論的・
観測的研究（博士論文）
太陽では典型的な太陽フレア (1029 – 1032 erg)より小さなフレア (1024 – 1029 erg) とそれ
に伴うプラズマの噴出現象が頻発している。これらの小さなフレアは太陽大気のあらゆる層
(光球・彩層・コロナ)で観測されており、典型的な太陽フレアと共通の定性的な性質をいく
つか持つ。しかし、太陽での小さなフレアに関して、典型的な太陽フレアと同様の物理機
構で説明できるのかについては理論的にも観測的にも十分に検証されていない。太陽で
の小さなフレアの物理機構は、小さなフレアに伴う加熱・運動が太陽大気に与える影響を
議論するための基礎となるため重要である。そこで、本研究では太陽で起きる小規模フレ
アとそれに付随するプラズマ噴出の物理機構を解明するために、 典型的な太陽フレアの
理論・相関関係との比較に焦点を当てて理論的・観測的研究に取り組んだ。
まず、太陽静穏コロナでの小さなフレアについて、極端紫外線による撮像観測とHα線に
よる撮像分光観測を実施し、その熱力学的な性質に着目して25例のイベントを解析した。
その結果、典型的な太陽フレアの場合と同様に、コロナでの磁気リコネクションによって発
生した熱が彩層に伝搬して彩層のガス圧が上昇することで、高密度の上昇流/下降流が生
じている観測的な証拠を複数発見した (Kotani et al. submitted)。さらに、これら25例の太
陽静穏コロナでの小規模フレアについて、小さなフレアに伴う噴出物の物理量とフレアの
エネルギーの相関関係を調べ、より大規模な太陽/恒星でのフレアとの比較を初めて実施
した。その結果、噴出物の質量・速度・運動エネルギーは、10桁以上に渡ってフレアのエ
ネルギーと相関関係にあることがわかった。この結果は、太陽での小さなフレアの物理機
構だけでなく、恒星フレアに伴うプラズマ噴出の性質を理解するための基礎的な相関関係
を提供するものである (Kotani et al. 2023)。また、コロナ・彩層・光球で起きる磁気リコネク
ションによるダイナミクスの統一的な理解を目指して、光球を想定した環境で磁気リコネク
ションの3次元磁気流体計算を実施した。解析の結果、光球でのジェット状構造の形成機
構は、コロナ・彩層のものとは異なることがわかった。この研究を通して、コロナ・彩層・光球
におけるフレア(磁気リコネクション)現象に伴うジェット現象の統一モデルの基礎を築くこと
に成功した (Kotani & Shibata 2020)。

図1: フレアのエネルギーと噴出物の質量の間の相関関係 (Kotani et al. ...

この論文で使われている画像