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大学・研究所にある論文を検索できる 「腎細胞がんの悪性化におけるazurocidin搭載細胞外小胞の機能」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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腎細胞がんの悪性化におけるazurocidin搭載細胞外小胞の機能

内藤, 拓也 大阪大学

2022.03.24

概要

【背景・目的】
 細胞外小胞(extracellular vesicle: EV)はあらゆる細胞が放出する小胞の総称で、タンパク質や核酸といった情報を搭載しており、細胞間コミュニケーションに関与している。癌細胞が放出するEVは癌微小環境の形成や腫瘍免疫の調節など癌の悪性化に関わっていることが知られている。EVはサイズを基に大きくlarge EV(LEV)とsmall EV(SEV)の2つに分類でき、LEVは主にマイクロベシクルが含まれる10,000gの遠心で精製されるEV、SEVは主にエクソソームが含まれる100,000gの遠心で精製されるEVである。
 癌におけるEV研究は、体液由来EVを用いたバイオマーカー探索や細胞培養上清由来EVを用いた機能解析などがほとんどである。体液由来EVは生体を構成するあらゆる細胞由来EVが混在しており、由来が特定できず機能解析につながりにくいこと、また細胞培養上清由来EVは複数種の細胞が相互作用しあう癌組織環境を反映していないことが問題となる。そこで当研究室ではこれら問題点を解決する組織浸出EV(Tissue-exudative EV: Te-EV)回収法を開発した。Te-EVは組織を一定時間培養した培地から精製したEVで、この回収法により癌組織から直接放出されるEVを解析することが可能となった。
 Te-EV回収法を用いて正常腎およびRCC組織由来SEVを回収、LC/MSによるタンパク質網羅的解析を行った結果、RCC組織由来SEVに高発現しているazurocidin(AZU1)を見出した。AZU1は好中球が放出するアズール顆粒で同定されたタンパク質で、血管内皮細胞の透過性を上昇させることやマクロファージを活性化させることが報告されている。また先行研究において、RCC細胞がAZU1搭載SEV(SEV-AZU1)を放出し、血管内皮細胞の透過性を上昇させることを見出した。そこで本研究では、SEVに加えLEVにおけるAZU1のさらなる機能解析を進めるとともに、EVへのAZU1搭載機構の解明を目的に検討を行った。

【方法・結果】
 1、4種のRCC細胞株(786-O、ACHN、Caki-1、Caki-2細胞)の培養上清からLEVおよびSEVを回収し、AZU1の発現をウェスタンブロットにより検討した。その結果、全ての細胞株のLEVでAZU1が検出された。一方SEVでは、Caki-1およびCaki-2細胞でのみAZU1が検出された。また、AZU1のC末にFLAGタグを融合したAZU1-FLAGwild-type(WT)を安定高発現させたACHN-AZU1WT細胞を作製し、LEVおよびSEVを回収後、FLAG抗体を用いた免疫電子顕微鏡観察を行った。その結果、AZU1はLEVおよびSEVの膜上に局在することを見出した。先行研究においてRCC細胞由来のAZU1分子量が約35kDaに対し、好中球由来のAZU1分子量が約29kDaと異なることを見出している。AZU1はN型糖鎖修飾を受けうるアスパラギンを3ヶ所有していることから、RCC細胞由来のAZU1と好中球由来のAZU1の分子量の違いはN型糖鎖修飾によるものだと思われた。そこでRCC細胞由来のAZU1がN型糖鎖修飾を受けているのか、ACHN-AZU1WT細胞のwhole cell lysate(WCL)とLEV、SEVをN型糖鎖修飾切断酵素PNGaseFで処理することで検討を行った。その結果、PNGase Fにより全てのサンプルでAZU1分子量の減少がみられ、RCC細胞由来のAZU1がN型糖鎖修飾を受けていることを明らかとした。

 2、既存の報告において、N型糖鎖修飾がタンパク質のSEVへの搭載に関わっていることが明らかとなっている。RCC細胞由来AZU1もN型糖鎖修飾を受けていることから、AZU1のLEVやSEVへの搭載にN型糖鎖修飾が関わっているのではないかと考えた。ツニカマイシンによるN型糖鎖修飾阻害剤実験およびN型糖鎖修飾部位変異型AZU1-FLAG(AZU1-FLAG mutant(mt))を安定高発現させたACHN-AZU1mt細胞を作成し、EVへのAZU1搭載に対するN型糖鎖修飾の関与を検討した。その結果、N型糖鎖修飾阻害によりLEVではAZU1の搭載に変化がみられなかった一方で、SEVでは大きくAZU1の搭載量が減少した。このことから、RCC細胞においてAZU1のN型糖鎖修飾がSEVへの搭載に重要であることが示唆された。

 3、好中球が放出するAZU1は、血管内皮細胞内Ca2+濃度を上昇させることで細胞骨格を再構成し、血管内皮細胞の透過性を上昇させ、血管漏出を引き起こすことが報告されている。また先行研究より、RCC細胞が放出するSEV-AZU1も血管内皮細胞の透過性を向上させることを見出している。しかしながらSEV-AZU1が血管内皮細胞内Ca2+濃度上昇を介して透過性を向上させているのか、そしてその透過性上昇がRCC細胞の経内皮遊走促進に寄与するのか、またLEV-AZU1がSEV-AZU1と同様の作用を有しているかは不明であった。そこで、mock細胞とACHN-AZU1WT細胞、ACHN-AZU1mt細胞からLEVおよびSEVを回収し、HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)細胞を用いてtransendothelial migration assayにより786-O細胞の経内皮遊走の変化を、細胞内Ca2+濃度測定試薬であるFluo-3AMにより細胞内Ca2+濃度の変化を検討した。その結果、LEV添加では変化がみられなかった一方で、SEV添加では、ACHN-AZU1WT細胞由来SEV添加による786-O細胞の経内皮遊走の亢進、およびHUVEC細胞内Ca2+濃度の上昇がみられた。また、抗AZU1抗体による免疫沈降でのSEV-AZU1の除去やSEVと抗AZU1抗体の同時添加により、SEV-AZU1による経内皮遊走促進作用が抑制可能であることを見出した。このことから、RCC細胞由来SEV-AZU1は血管内皮細胞内Ca2+上昇を介して透過性を上昇させ、RCC細胞の経内皮遊走を促進させること、そして抗AZU1抗体がSEV-AZU1の作用を抑制可能であることが示唆された。

 4、好中球が放出するAZU1はマクロファージを活性化させることが知られている。また、癌組織に浸潤したマクロファージはRCC細胞の増殖や遊走を促進させることが知られている。そこでRCC細胞が放出するLEV-AZU1やSEV-AZU1がマクロファージを介して、RCC細胞の増殖や遊走を促進させるか検討した。ヒト単球様細胞株THP-1細胞をPMAでマクロファージ様(MΦTHP-1細胞)に分化させ、LPSと共にmock細胞とACHN-AZU1WT細胞、ACHN-AZU1mt細胞由来LEVおよびSEVを添加し培養上清を回収した。得られた培養上清を添加し、RCC細胞株786-O細胞の増殖アッセイおよびwound healing assayを行った。その結果、LEV添加では増殖、遊走どちらも変化は見られなかった一方で、SEVの添加ではACHN-AZU1WT細胞由来SEV添加において786-O細胞の遊走促進がみられた。このことから、RCC細胞が放出するSEV-AZU1はマクロファージを介してRCC細胞の遊走を促進させることが示唆された。また、抗AZU1抗体による免疫沈降でのSEV-AZU1の除去により、この遊走促進作用が抑制可能であることを見出した。加えて、好中球由来のAZU1はマクロファージに作用し細胞内Ca2+濃度を上昇させることが知られている。そこで、各EV添加時のMΦTHP-1細胞の細胞内Ca2+濃度変化を検討した。その結果、ACHN-AZU1WT細胞由来SEV添加においてのみ細胞内Ca2+濃度の上昇がみられた。このことから、RCC細胞由来SEV-AZU1はマクロファージの細胞内Ca2+上昇を介して、RCC細胞の遊走を促進させること、そして抗AZU1抗体がその促進作用を抑制できる可能性があることが示唆された。

【結論】
 本研究により、RCC細胞においてN型糖鎖修飾がAZU1のSEVへの搭載に重要であることを明らかにした。また、RCC細胞が放出するSEV-AZU1が血管内皮細胞の透過性上昇を介してRCC細胞の経内皮遊走能を上昇させること、そしてマクロファージに作用することでRCC細胞の遊走を促進させることを見出した。これまで様々な癌悪性化タンパク質の存在が癌細胞放出SEVにおいて報告されてきたが、その搭載機構は不明であった。本研究成果により、これまで未解明であった癌悪性化タンパク質のEV搭載機構解明につながるのではないかと考える。

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