リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「脳卒中患者の麻痺側上肢を用いた生活動作における項目難易度の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

脳卒中患者の麻痺側上肢を用いた生活動作における項目難易度の検討

松岡 耕史 北里大学

2021.07.20

概要

【背景】
 脳卒中後の麻痺側上肢に対する作業療法では,上肢機能に着目するのみでなく,麻痺側上肢で行う日常生活動作(以下,生活動作)を考慮した訓練および目標の設定が重要である.今日,脳卒中の上肢麻痺に対する多くの訓練法や評価尺度が開発されている.しか し,これまでに開発された尺度は機能障害や一部の生活動作を評価するものであり,我々が生活を送るうえで行う多くの生活動作を評価できる尺度はほとんどない.さらに,生活動作が遂行可能か否かは評価できるが,具体的にどの工程で困難さを示しているか詳細に評価することができない.また,幅広く生活動作全般で,なおかつ具体的な工程の難易度はこれまでに明らかにされていない.麻痺側上肢の目標設定および訓練をする際には,患者の上肢機能レベルに応じた適切な難易度の設定が重要であるが,現状では,作業療法士が各々の経験から目標や訓練を設定していることが多い.しかし,麻痺側上肢で行う生活動作の難易度が明らかになることで,患者が次に実施可能な動作や訓練すべき動作が示されるため,作業療法士はこれらを経験則から判断することなく麻痺側上肢の目標や訓練の設定が可能になる.それゆえに,多くの生活動作を細かい具体的な工程に分け,その難易度を知ることができる尺度を開発することが必要である.さらに,麻痺側上肢を用いて生活動作が遂行可能か否かを予測する因子とその cutoff 値を示すことで,作業療法士は患者の能力に対応した麻痺側上肢で行える生活動作を理解しやすくなり,患者の上肢機能に対応した生活動作における目標や訓練を提供することが容易になる.

【目的】
 本論文では,脳卒中患者における麻痺側上肢で行う生活動作を評価する尺度の開発および麻痺側上肢で行う生活動作が遂行可能になる機能レベルを検討した.第一研究では,麻痺側上肢で行う生活動作を評価するActivities Specific Upper-extremity Hemiparesis Scale(以下,ASUHS)を開発し,その妥当性と信頼性を明らかにすること,および生活動作の項目難易度をRasch 分析により明らかにすることを目的とした.また,第二研究では,生活動作の中でも特に実施頻度が高い食事動作に関して,麻痺側上肢を用いて遂行可能になる機能レベルについて,予測因子と cutoff 値を明らかにすることを目的とした.なお,本研究は多摩丘陵病院倫理審査委員会の承認を受け,対象者に対し書面で説明をし同意を得て実施した(多丘倫 29-2).

【方法及び結果】
[第一研究]脳卒中患者の麻痺側上肢で行う生活動作尺度の開発
 対象:多摩丘陵病院回復期リハビリテーション(以下,リハ)病棟に 2015 年 4 月から2019 年 8 月に入院した脳卒中患者を対象とした.
 手続き:これまでに報告されている生活動作に関する尺度をもとに,利き手に関連する 251 項目と,非利き手に関連する 175 項目から成る ASUHS の予備的項目を作成した. ASUHS の項目は 3 つのカテゴリーから成り,A カテゴリーは食事や整容等の「Activities of Daily Living」,および洗濯や掃除等の「Instrumental Activities of Daily Living」の項目,B カテゴリーはこれらを細かい動作に分け,C カテゴリーはさらに細かく分けられている.例えばA カテゴリーが「Eating」の場合,B カテゴリーでは「Using a rice bowl」や「Using a spoon」等に分かれ,このうち「Using a rice bowl」の C カテゴリーは「Holding a rice bowl on a table」,「Carrying a rice bowl to the mouth」等となる.C カテゴリーの項目を麻痺側上肢で実施し,正確に動作が可能(4 点)から,動作の助けにならない(1 点)の 4 段階で得 点を付ける.
 解析:ASUHS に対して主成分分析を用いて項目の一次元性を確認した後,Rasch 分析により Rasch モデルに適合しない項目を削除した.また,識別力と専門家 5 名による内容妥当性,cronbachα 係数を用いた内的整合性,および Kappa 係数を用いた検者間信頼性の解析を行った.さらに,Rasch 分析を用いて項目難易度を解析した.
 結果:対象は 145 例であり,ASUHS の項目の一次元性と高い識別力,および内容妥当性が得られた.ASUHS の項目は利き手麻痺用 168 項目と,全項目のうち利き手のみで行う項目を除いた非利き手麻痺用 116 項目に分けられた.利き手麻痺用および非利き手麻痺用の項目の内的整合性は共に Cronbachα 係数 = 0.99 であり,検者間信頼性はそれぞれ Kappa係数 = 0.74 および 0.75 であった.さらに,ASUHS の項目難易度は-8.71 logit から+5.18 logit の範囲で示された.

[第二研究]脳卒中患者の麻痺側上肢における食事動作の遂行度と予測因子の検討
 対象:多摩丘陵病院回復期リハ病棟に 2015 年 4 月から 2019 年 12 月に入院した右利き手麻痺の脳卒中患者を対象とした.
 手続き:食事動作において,「Using a rice bowl」,「Drinking water from a plastic bottle」,「Drinking water with a cup」,「Using a spoon」に関する 4 つの B カテゴリーの項目を用いた.食事動作の 4 つの B カテゴリーの項目は,合計 16 の C カテゴリーの項目に分けられる.
 解析:入院時に評価したFugl-Meyer Assessment-Upper Extremity (以下,FMA-UE) (Total)や Functional Independence Measure(以下,FIM)等と ASUHS の食事動作に関する計 16 項目における総得点に対し,Spearman の順位相関係数により解析した.また,食事動作 16 項目について,それぞれ麻痺側上肢で遂行可能群(3 点以上)と遂行不可能群(3 点未満)の2 群に分け,麻痺側上肢による遂行可否について最も独立した予測因子を Logistic 回帰分析にて算出した.さらに,各項目がそれぞれ麻痺側上肢で遂行可能になる cutoff 値を Receiver Operating Characteristic curve (以下,ROC) にて算出した.有意水準は 5%未満とした.
 結果:対象は 79 例,内訳は,男性 52 例,年齢 66.1±12.8 歳,FMA-UE (Total) 42.5±22.3 点であった.ASUHS の食事動作の総得点との相関は,年齢,FMA-UE (Total),FMA-UE (Hand),FMA-Sensory (以下,S) (Light touch),FMA-S (Proprioception),FIM 運動,FIM 認知,MMSE の 8 つで認められた.これらの変数を独立変数,食事動作 16 項目における麻痺側上肢での遂行可否を従属変数とした Logistic 回帰分析の結果,16 項目全てで FMA-UE (Total)が有意な予測因子であることが示された.また,ROC の結果,各項目が遂行可能になる FMA-UE (Total)の cutoff 値は 14 点(Holding a plastic bottle)から 50 点(Carrying a cup without water to the mouth)の範囲で示された.

【考察】
 第一・第二研究の結果より,ASUHS は高い妥当性と信頼性を有していることが示された.また,麻痺側上肢で実施する生活動作の項目難易度が明らかになった.さらに,食事動作に関して遂行可能になる麻痺側上肢の機能レベルと予測因子が明らかになった.
 本研究で開発した ASUHS を用いることで生活動作の具体的な工程を評価することができ,さらに生活動作の項目難易度にもとづき,次の訓練課題や目標にすべき生活動作を知ることが可能である.また,食事動作に関して,対象者の FMA-UE (Total)が cutoff 値よりも高い場合,麻痺側上肢で遂行できる可能性があり,同程度の cutoff 値の場合,次の訓練課題や目標にできる可能性がある.例えば,患者の FMA-UE (Total)が 31 点の場合,「Holding a rice bowl on a table(cutoff = 24)」や「Lifting a cup without water in the air(cutoff= 24)」等は cutoff 値が 31 点より低いため,麻痺側上肢で遂行できる可能性がある.一方,「Lifting a rice bowl in the air(cutoff = 32)」や「Lifting a cup containing water in the air(cutoff = 34)」等は cutoff 値と同程度のため,次の訓練課題や目標の目安にすることができる.このように,本研究結果を用いることにより,作業療法士は経験則で麻痺側上肢に対する生活動作訓練の提供や目標の選定をするのではなく,患者の能力に適した訓練や目標を段階的に提供できる可能性がある.

【結論】
 脳卒中患者の上肢麻痺のレベルを反映する日常生活動作の尺度であるASUHS は,高い妥当性と信頼性を有していることが示された.また,麻痺側上肢で実施する生活動作の項目難易度が明らかになった.さらに,ASUHS の食事動作は,FMA-UE (Total)が 14 点から 50 点の範囲において麻痺側上肢にて遂行可能なことが明らかになった.作業療法士は ASUHS を用いることにより生活動作の具体的な工程を評価することができるだけでな く,患者の機能レベルに適した生活動作に関する訓練と目標の選定ができる可能性がある.本研究は麻痺側上肢における生活動作に対する作業療法の目標および訓練課題設定において臨床上有用である.

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る