リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「Driving performance of euthymic outpatients with bipolar disorder undergoing real-world pharmacotherapy」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

Driving performance of euthymic outpatients with bipolar disorder undergoing real-world pharmacotherapy

山口, 亞希子 名古屋大学

2022.12.22

概要

【緒言】
双極性障害(BD)患者においては症状改善後も再発予防のために服薬の継続が必須であり、BD治療においては社会参画も意識した機能的能力の維持向上の意識が欠かせない。一方で、BDでは認知機能障害が認められ、それらは寛解しても残遺し、機能的能力にも影響する。機能的能力の中でも、特に自動車運転については、精神疾患そのものやその治療薬が交通事故リスクを上げることが知られており、世界的にも注目を集めている。交通事故防止には、症状や薬剤などのリスクを評価し、医療者と患者が丁寧にリスクコミュニケーションを行う事が重要と考えられているが、とりわけ、双極性障害については証左が乏しい。

例えば、疫学研究によれば、BDは交通事故リスク増加と関連していたが、リチウムやバルプロ酸の服用は交通事故リスクと有意な関連を示さない。実験的研究では、リチウムを服用するBD患者16例は健常者22例に比し、運転シミュレータ(DS)課題における反応時間が有意に遅延したが、サンプルサイズは極めて小さい。すなわちBD患者の自動車運転技能に関する検討は不十分なのが現状である。

特に我が国では、気分安定薬を含む大半の向精神薬の添付文書は服薬中の自動車運転を一律に禁止している。こうした厳しい規制により、本来恩恵があるはずの向精神薬を服用することで、社会生活において必須ともいえる自動車運転が禁止され、社会的機能が回復したBD患者の社会参画が妨げられている現状がある。確かにBDでは残遺しやすい認知機能障害の影響も考慮すべきだが、これら一律の規制は必ずしも科学的な証左に基づいたものではない。

そこで本研究では、寛解期にあるBD患者における運転技能および認知機能について健常対照者(HC)との比較を試み、BD患者における自動車運転技能に関する検証を企図した。

【方法】
運転免許を有し、薬物療法下にある症状が安定したBD患者58名と、性および年齢を統制した健常対照者80名が参加した。治療は実臨床に即し、薬剤選択やその他心理社会的治療による統制は行わなかった。

自動車運転課題はDS(豊田中央研究所製)を用いた追従走行課題(車間距離の維持)、車線維持課題(横方向の揺れ)、飛び出し課題(ブレーキ反応時間)の3つの日常的な運転場面に即した内容であった。認知機能は持続的注意課題(CPT)、ウィスコンシンカード分類検査(WCST)、トレイルメイキングテスト(TMT)によって評価した。病状はベック抑うつ質問票(BDI-Ⅱ)、自記式社会適応度評価尺度(SASS)、ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)、ヤング躁病評価尺度(YMRS)、スタンフォード眠気尺度(SSS)で評価し、教育歴、処方薬、運転歴、運転頻度、年間走行距離等の背景情報も確認した。

本研究は名古屋大学医学部生命倫理審査委員会の承認事項に則り、参加者全員から書面及び口頭で同意を得て行われた。

【結果】
5名の患者(4名は処方情報が得られず、1名はシミュレータ酔い)と1名のHC(シミュレータ酔い)を除外し、53人のBD患者(平均年齢42.5歳、標準偏差8.8歳)と79人のHC(平均年齢40.4歳、標準偏差=7.7歳)が解析対象であった。BD患者群はHAMD4.2±4.1点、YMRS1.1±1.4点と、気分症状はほとんどの患者で寛解していることが確認された。処方薬は多剤併用が多く、気分安定薬のみが15.1%、抗精神病薬のみが7.5%、抗精神病薬併用が9.4%、睡眠薬併用が17%で、残りの51%がその他の多剤併用処方であった。背景情報について、教育年数、年間走行距離が患者群で有意に低かった(p<.01)。さらにHAM-D,SSS,BDI-Ⅱは患者群で有意に高く(p<.01)、SASSは患者群で有意に低かった(p<.01)。

運転技能については、年齢、学歴、運転歴、年間走行距離などの背景因子を共変量として設定し、3つの運転課題すべてについて共分散分析を行った。その結果、車線維持課題と追従走行課題で有意差が保持された(それぞれF(1,114)=6.197,p<.01,F(1,114)=7.360,p<.01)(Fig.1)。予備解析では、診断名と共変量との間に交互作用がないことが事前に確認された。

一方、追従走行課題の成績分布では、HCの95%信頼区間から逸脱したBD患者は9名(約18%)のみであった。また、車線維持課題の成績分布では、11人(約21%)がHCの95%信頼区間から逸脱していた。

認知機能については、CPT(p<.01),WCST[カテゴリー達成度(p<.01)、保続性の誤り(p<.05)],TMT(p<.05)において患者群で有意に成績が低く、軽度の認知機能の低下が認められた。さらに、運転技能および神経認知機能、症状評価尺度の関連を検討するため両群で相関分析を行うと、BD群でCPTと追従走行課題の間に有意な負の相関が示された(r=-.35,p<.05)。また、気分エピソード数と罹病期間については、BD群では気分エピソード数(r=0.35,p<.05)と追従走行課題、罹病期間と追従走行課題(r=0.33,p<.05)に有意な相関がみられた。

【結論】
寛解期のBD患者の運転技能はHCに比し統計学的有意に低下していたが、成績分布は両群で大部分重複しており、BD患者において一概に自動車運転技能が低下しているとは結論付けるべきではないと考えられた。またBD患者において軽度の認知機能低下が残遺している場合があり、運転技能と注意機能の関連から、注意機能が運転技能予測指標となる可能性が示唆された。

BD患者の処方薬は多岐にわたったが、向精神薬と運転技能に関連性は見出せず、今回の知見は、向精神薬よりもBD患者の状態が運転能力に大きな影響を与える可能性を示唆していると考えられる。日本の向精神薬の添付文書では、一部の抗うつ薬を除き、向精神薬を服用中の患者の自動車運転が禁止されているものがほとんどである。このような一律的な規制は、病状が安定したBD患者の社会参加を制限し、議論の余地を多く残しているように思われる。BD患者の運転適性を判断する際には、精神科医が処方薬と患者の病状、特に注意機能障害の程度を考慮し、総合的に判断することが必要であると考えられる。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る