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日本人男性において、非アルコール性脂肪性肝疾患は喫煙状態と強く関連し禁煙により改善する:後ろ向き研究

Takenaka, Haruka 神戸大学

2020.09.25

概要

背景と目的
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、アルコール摂取量の少ない人の脂肪肝から脂肪性肝炎、肝硬変までの全領域を含む慢性肝疾患を指す用語である。NAFLD の有病率は、肥満やメタボリックシンドロームの増加とともに、日本を含む世界中で増加している。米国の最近の研究では、NAFLD の有病率の増加に関連して、肝臓関連の死亡率が増加したことが報告されている。
NAFLD の主な危険因子は、肥満と 2 型糖尿病だが、いくつかの研究では、喫煙が NAFLDの発症と関連していることが示されている。喫煙と NAFLD の関連に関する最近のメタアナリシスでは、現在喫煙は NAFLD と有意な関連はないが、過去喫煙は NAFLD と有意に関連していると報告されている。喫煙状態と NAFLD の関係が性別によって異なるかどうかは明らかにはなっていない。先行研究では、女性の喫煙者の数が少なく統計的に評価できないため、男性のみが研究対象となっていた。
今回、性別による違いを明らかにするため、喫煙歴と NAFLD との関連性を検討する横断研究を行った。

対象と方法
2016 年 1 月から 12 月にかけて、淀川キリスト教病院で腹部超音波検査などの健康診断を受けた 17,915 名の被験者を登録した。健康診断では、病歴、処方薬、 アルコール消費量、および喫煙歴を調査した。 B 型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)または C 型肝炎ウイルス抗体(HCV Ab)のデータがない被験者(n = 802)、HBsAg 陽性者(n = 160)、HCV Ab 陽性者(n = 144)、および喫煙歴に関する情報が不十分の者(n = 961)は除外した。アルコール消費量が男性で 30 g /日(n = 1,747)および女性で 20 g /日(n = 635)を超える被験者も除外した。 残りの 13,466 人の被験者を対象にこの研究を行った。
本研究は、ヘルシンキ宣言およびその修正に基づいて実施された。研究計画書は淀川キリスト教病院の倫理委員会で承認された。
被験者の腹部超音波検査は訓練を受けた技師が行い、消化器内科医が評価した。高輝度肝、肝腎コントラストにより脂肪肝を診断し、脈管不明瞭化が認められる場合、中等度から重度の脂肪肝とした。メタボリックシンドロームの診断は日本メタボリックシンドローム診断基準委員会の基準に従った。統計解析は JMP ver.12(SAS Institute Inc.)を用いて、喫煙状態と NAFLD との関連を多変量ロジスティック回帰分析にて検討した。

結果
喫煙歴と研究対象の臨床的特徴
過去喫煙と現喫煙におけるNAFLD を有する被験者の割合は、それぞれ 52.4%と 52.5%で、非喫煙者の 33.0%より有意に高かった(P<0.0001)。また、中等度から重度の脂肪肝の割合も非喫煙者よりも有意に高く(P<0.0001)、脂肪肝の重症度が進行していた。

NAFLD に関連する要因の多変量解析
多変量解析では、喫煙歴(過去喫煙:OR 1.23、95%CI 1.10-1.38、現在喫煙:OR 1.31、 95%CI 1.17 -1.47)は NAFLD と有意に関連していた。他にメタボリックシンドローム(OR 9.24、95%CI 7.79~11.0)、男性(OR 3.27、95%CI 3.00~3.57)、年齢≧40 歳(OR 1.60、95%CI 1.41~1.83)、軽度飲酒(OR 0.77、95%CI 0.71~0.84)が NAFLD と有意に関連していた。

Pack-year と喫煙歴、NAFLD の関連
NAFLD との有意な関連は、pack-year≥20.00 の過去喫煙(OR 1.40、95%CI 1.19-1.64)、 pack-year10.00-19.99 の現在喫煙(OR 1.50、95%CI 1.23-1.83)、pack-year≥20.00 の現在喫煙(OR 1.40、95%CI 1.20-1.63)で認められた。

性別に基づく喫煙歴と NAFLD の関連
Pack-year の増加につれて、中等度から重度の脂肪肝の割合は性別に関係なく増加したが、男性でより強く増加していた(pack-year 0.01-9.99:21.3%、pack-year 10.00-19.99:27.2%、 pack-year ≥20.00:33.7%; P <0.0001)。
男性では、pack-year≥20.00 の過去喫煙(OR 1.44、95%CI 1.22-1.72)、pack-year10.00-19.99 の現在喫煙(OR 1.54、95%CI 1.23-1.94)、pack-year≥20.00 の現在喫煙(OR 1.43、95%CI 1.22-1.68)が NAFLD と有意に関連していた。
女性では、pack-year0.01-9.99 の現在喫煙において、NAFLD と有意な負の関連があった(OR 0.41、95%CI 0.19-0.76)。

男性過去喫煙者における禁煙期間と脂肪肝の重症度の関連
男性過去喫煙者における中等度から重度の脂肪肝の有病率は、禁煙期間が増加するにつれて有意に減少した(禁煙期間 5 年以内 117/345 [33.9%];6-10 年 129/424 [30.4%];10 年以上 227/897 [25.3%];P=0.006)。多変量解析でも、禁煙期間と中等度から重度の脂肪肝に有意な負の関連を認めた(禁煙 10 年以上 vs 5 年以内 OR 0.71、95%CI 0.53-0.96)。

考察
本研究では、過去喫煙だけでなく現在喫煙も NAFLD に関連する統計学的に有意な因子として同定された。さらに、喫煙歴は超音波で診断された脂肪肝の重症度と関連しており、これは喫煙歴が肝臓の線維化進行と関連しているとの過去の報告と一致していた。
本研究で認められた現在喫煙と NAFLD との有意な関連は、いくつかの横断研究や縦断研究でも報告されている。

また、過去喫煙と NAFLD の間の有意な関連は、最近のメタアナリシスでも示されており、過去喫煙者の禁煙後の体重増加の関与が推定されている。本研究における過去喫煙者の体重が禁煙後に増加したかどうかは不明だが、過去喫煙者の肥満の有病率は、非喫煙者よりも高かった。

喫煙と NAFLD の関連のメカニズムに関するいくつかの動物モデル研究がある。副流煙が AMPK と SREBP-1 を調節し、マウス肝臓の脂質蓄積を刺激することが報告されている。また、喫煙は酸化ストレスを引き起こし、肥満ラットの NAFLD の重症度を悪化させるとの報告がある。臨床データでも喫煙はインスリン抵抗性を引き起こし、内臓脂肪の増加に関連しており、それらがNAFLD の発生につながると考えられている。

女性の NAFLD 有病率は男性よりも低いことが多くの報告で示されており、本研究結果と一致している。女性のNAFLD の有病率が低い理由の 1 つは、エストロゲンが脂肪組織を調節し内臓脂肪の蓄積を抑制するためであり、これにより、NAFLD の発症が予防され得る。喫煙は閉経後の女性での高テストステロンや、若い女性でのアンドロゲン性プロファイルと関連していると報告されている。喫煙による性ホルモンレベルの変化が、女性における内臓脂肪の蓄積および NAFLD の発症に影響を与えるのかも知れない。

本研究の結果は喫煙状態と NAFLD との関連における性差が存在する可能性を示唆している。男性では、pack-year≥20.00 の過去喫煙者、pack-year10.00-19.99 の現在喫煙者、pack- year≥20.00 の現在喫煙者において多変量解析で有意な関連が認められた。しかし、女性では、pack-year0.01-9.99 の現在喫煙者は NAFLD と負の関連があった。女性の現在喫煙者における肥満の低い有病率(現喫煙 7.8% vs 非喫煙者 15.4%、P = 0.0359)が、負の関連に関与している可能性がある。喫煙による体重減少については、ニコチンが安静時代謝率を高め、食欲を抑制することにより体重を減らすことが報告されている。最近、韓国で大規模な縦断的コホート研究が実施され、男女ともに現在喫煙と NAFLD の発生率との間に正の相関があることが報告された。しかし、彼らの横断的な解析では、現在喫煙と NAFLD の有病率に、男性では正の関連が認められたが、女性では認められなかったと報告しており、我々の結果と一致していた。NAFLD は最近、総死亡率の増加と、女性の癌、心血管疾患、肝疾患による死亡の増加に関連していると報告されている。女性の NAFLD の原因としての喫煙については、さらなる研究が必要である。

男性過去喫煙者では、禁煙期間と中等度から重度の脂肪肝の有病率に有意な負の関連が観察された。最近、無症状の韓国人男性過去喫煙者において、禁煙の期間が長くなると、インスリン抵抗性が大幅に低下することが報告されており、禁煙が NAFLD の改善につながる可能性が示唆されている。

本研究の強みは、横断調査の 1 万人以上の被験者からの大規模データである。しかし、いくつかの限界もある。横断的な研究であるため、喫煙と NAFLD との因果関係を断定することはできない。また、本研究の女性被験者は 6,824 人であったが、現在喫煙者は 293 人(4.3%)、過去喫煙者は 352 人(5.2%)と比較的少なかったため、女性被験者の喫煙状況で層別化した多変量解析の結果に影響を与えた可能性がある。

結論
これまで報告のあった過去喫煙だけでなく、現在喫煙も NAFLD の重要な危険因子として同定できた。特に日本人男性では、喫煙状態と pack-year は NAFLD の有病率と重症度に強く関連しており、禁煙は NAFLD の重症度を改善する可能性が示された。
喫煙と NAFLD の因果関係、およびその関係の性差を明らかにするには、さらに前向き研究が必要である。

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